2 / 21
第一章 団地に来ちゃった見習い管理人②
しおりを挟む
乗り換えを経て、終点近くの駅で降りる。改札を抜けると、すでに空気が変わっていた。少し古い商店街と、懐かしいタイプの看板。昭和の匂いがする電気屋、手書きの値札が並ぶ八百屋。駅前ロータリーの時計は、どう見ても昭和から動いていない。針は三時を指したまま、永遠に止まっているかのようだ。
「えーっと……裂苦楽ヶ丘第一団地……」
おばさんが送ってきたメッセージの住所を確認しながら歩くと、視界の向こうに、それは現れた。
異様に巨大な建物群。
凛は思わず立ち止まった。息を呑む。
同じような五階建ての棟が、ずらりと並んでいる。外壁はくすんだクリーム色で、ところどころにヒビが走っていた。時間の経過が、そのまま建物の表情になっている。中庭には鉄棒と、塗装のはげた動物型遊具。かつて誰かが喜んで乗っていたであろう遊具は、今では色あせて、寂しげにたたずんでいる。ベランダには、色とりどりの洗濯物が風にはためいていた。
その光景は、凛の記憶にある「あの団地」と、びっくりするほどよく似ていた。
胸の奥が、きゅうっと締め付けられる。記憶の蓋が、少しだけ開きかける。
(……いやいや、世の中の団地ってだいたいこんな感じでしょ。そうに決まってる)
強引に自分を説得しつつ、キャリーケースを引いて敷地内に入る。車輪がガタガタと音を立てる。アスファルトの小道には、子どもの落書きの跡が残っている。自転車がずらっと並ぶ駐輪場。錆びた自転車と、ピカピカの新しい自転車が入り混じっている。どこからか聞こえる子どもの笑い声。ボールを追いかける足音。
足元から、じわじわと懐かしさと恐怖が同時にせり上がってくるのを、凛は全力でスルーした。無視する。考えない。思い出さない。
「管理人棟……管理人棟……」
おばさんからのメッセージには、「団地の端っこの平屋よ。和洋折衷って感じの」とだけ書いてある。和洋折衷とは何だ。畳にソファでも置いてあるのだろうか。それとも、障子の向こうにシャンデリアでもあるのか。
案内板を見つけて確認し、A棟とB棟の間の小道を抜ける。薄暗い通路。壁には「ゴミ出しは朝八時まで」と書かれた色あせた貼り紙。
通路を抜けると中庭だった。ちょっとした公園がある。公園の横の道路を進むと、鉄棒で遊んでいる小学生たちが、一斉にこちらを見た。
凛は、反射的に視線をそらす。心臓がドクンと跳ねる。
(見ない見ない見ない……)
そうしないと、「団地の子どもたち」と目が合ってしまう気がして。あの頃の冷たい視線を思い出してしまう気がして。
そのときだった。
「えーっと……裂苦楽ヶ丘第一団地……」
おばさんが送ってきたメッセージの住所を確認しながら歩くと、視界の向こうに、それは現れた。
異様に巨大な建物群。
凛は思わず立ち止まった。息を呑む。
同じような五階建ての棟が、ずらりと並んでいる。外壁はくすんだクリーム色で、ところどころにヒビが走っていた。時間の経過が、そのまま建物の表情になっている。中庭には鉄棒と、塗装のはげた動物型遊具。かつて誰かが喜んで乗っていたであろう遊具は、今では色あせて、寂しげにたたずんでいる。ベランダには、色とりどりの洗濯物が風にはためいていた。
その光景は、凛の記憶にある「あの団地」と、びっくりするほどよく似ていた。
胸の奥が、きゅうっと締め付けられる。記憶の蓋が、少しだけ開きかける。
(……いやいや、世の中の団地ってだいたいこんな感じでしょ。そうに決まってる)
強引に自分を説得しつつ、キャリーケースを引いて敷地内に入る。車輪がガタガタと音を立てる。アスファルトの小道には、子どもの落書きの跡が残っている。自転車がずらっと並ぶ駐輪場。錆びた自転車と、ピカピカの新しい自転車が入り混じっている。どこからか聞こえる子どもの笑い声。ボールを追いかける足音。
足元から、じわじわと懐かしさと恐怖が同時にせり上がってくるのを、凛は全力でスルーした。無視する。考えない。思い出さない。
「管理人棟……管理人棟……」
おばさんからのメッセージには、「団地の端っこの平屋よ。和洋折衷って感じの」とだけ書いてある。和洋折衷とは何だ。畳にソファでも置いてあるのだろうか。それとも、障子の向こうにシャンデリアでもあるのか。
案内板を見つけて確認し、A棟とB棟の間の小道を抜ける。薄暗い通路。壁には「ゴミ出しは朝八時まで」と書かれた色あせた貼り紙。
通路を抜けると中庭だった。ちょっとした公園がある。公園の横の道路を進むと、鉄棒で遊んでいる小学生たちが、一斉にこちらを見た。
凛は、反射的に視線をそらす。心臓がドクンと跳ねる。
(見ない見ない見ない……)
そうしないと、「団地の子どもたち」と目が合ってしまう気がして。あの頃の冷たい視線を思い出してしまう気がして。
そのときだった。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる