恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第二章「刺客」・②

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「私はこの世界の全てを、「波」として視ているの。それ自体はミクロレベルではおかしな事ではないのだけれど・・・私が特別なのは、生命体の思考や感情も、固有の波として観測出来るというところなの」

 さらっと凄い事を言われてしまい、思わず目をぱちくりさせてしまう。

 光で世界を認識している僕たちとは、ものの見え方が全く違う・・・という事だろうか。

「なるほど・・・だから思考を「読んだ」じゃなくて、「視た」って言ってたんだね」

「そういう事♪ ハヤトは勘がいいわね」

 ニコニコしながら褒められる。

 ・・・悪気はないんだろうけど、子供扱いされてるみたいでちょっとフクザツだ。

 ちなみに、クロは早速目をぐるぐるさせて頭から白煙を上げていた。

「うふふ。クロにはまだちょっと早かったかしらね」

 僕の方に顔を向けて、ティータは補足するように話を続けた。

「昔立ち寄った星の言葉を借りて、私は、自分が視る思考の波を「精神域クオリア」と呼んでいるわ。鼓膜じゃなく、精神域を直接震わせる事で、言葉を持たない怪獣とも対話できるの。ちなみに、ハヤトに最初に話しかけた時もこの手法を使ったのよ」

「そうか・・・それで、夢の中なのにティータの声が聴こえてたんだね」

 解説を聞けば、起きている事の常識外れさはともかく、原理は何となく理解できる。

 ・・・徹底して「妖精さんのヒミツ」で通すシルフィとでは、得られない感覚だ。

『なぁにその目?』

「・・・べつにぃ」

 知らずの知らずのうちに、当の妖精ほんにんに視線がいってしまっていたらしい。

 「ナマイキ!」と文句を言われながら、いつもより強く頬を引っ張られた。

「地球にも、少し違った意味で「クオリア」という言葉があるみたいね。まぁ、宇宙ではままある事よ。同じような概念を表す単語は、全く別の生命体同士でも、示し合わせたかのように似る事があるの。なかなか面白いでしょう?」

ほへはふほひはそれはすごいなぁ・・・」

「っと、話が逸れたわね。詰まるところ、怪獣とお話するのは、私以外では難しいというのがさっきの質問に対する答えよ。お役に立てずにごめんなさいね、クロ」

「い、いえっ! わ、私の方こそ・・・全然わからなくて・・・! す、すみません・・・‼」

 わからない話が続いてあたふたしていたクロは、謝られて余計にあたふたしてしまっている。

 ・・・さすがに、そう上手くは行かないか・・・。

 こっそり独りで肩を落としていると、クロが落ち着きを取り戻しつつ・・・ぽつりと呟いた。

「・・・でも・・・ティータちゃんは、やっぱりすごいです・・・。私は・・・自分の力についても、よくわかってないですから・・・」

「? どういう事かしら?」

 呟きに違和感を覚えて、ティータが聞き返す。

「・・・クロは、記憶喪失なんだ。2ヶ月前、海岸に漂流してた所を偶然見つけたんだけど・・・彼女には、僕と出会う以前の記憶がほとんどなかったんだ」

「覚えてたのは・・・こ、怖い記憶ばっかりで・・・クロって言う名前も、ハヤトさんが付けてくれたんです・・・」

 ティータのまなじりが、少し下がったのがわかった。

「あっ、で、でも! 今は、素敵な思い出ばっかりなんですっ! ハヤトさんがいるから、私・・・「ひとりじゃない」ですし、ヒーローになるっていう目標もあるんです・・・!」

 クロは、腕をぶんぶんと振って暗くなりかけた雰囲気を掻き消そうとする。

「だ、だから・・・えと・・・ティータちゃんみたいに、自分の力について詳しくて・・・それを使いこなせてるのは・・・凄いなって・・・思います・・・!」

 言いながら、クロが再びぐっと拳を握って椅子から起ち上がる。

「・・・クロ、こっちへいらっしゃい」

 すると、テーブルの向かい側でティータが手招きした。

 疑問符を浮かべながら、クロが招かれるままその側へ行くと・・・ティータはクロの頭を優しく導いて、椅子に座ったまま、膝枕をした。

「えっ⁉ あ、あのぉ・・・!」

 クロはちょうど立ち膝をついている恰好だ。

 こちらから見るとテーブルの下に隠れてしまっていて、クロの顔は見えないけど・・・声色からして、恥ずかしがっているのは明白だろう。

 さっきの二の舞だ! そう思って、僕も立ち上がるが──

「──ハヤト。平気よ」

 助けようとした本人に、諌められてしまう。

「あ、えと・・・その・・・あ、熱くないんですか・・・?」

「もちろん熱いわ。折角のドレスが燃えちゃいそうなくらい」

 隠さずに、ピシャリと言い切った。

 クロが途端に「ごめんなさい!」と叫びながら、頭を離そうとするが──

 彼女の髪を優しく撫ぜるティータの手が、それを許さない。

「・・・でも・・・それでも今は、貴女にこうしてあげたいのよ」

 そう言って、ティータが目を細める。

 幼い見た目とはアンバランスとさえ感じる、深い愛情をたたえるその瞳が、クロをやすらぎの中へといざない、あっと言う間に虜にしてしまった。

「は・・・はい・・・・・・」

 白い煙を立てながら・・・潤んだ瞳で、クロはティータのドレスをぎゅっと握る。

『・・・ハヤト、いてる?』

「・・・・・・まさか」

 答えながら───今だけは、誰にも心を視られたくないなと・・・そう思った。

「? ・・・アイツら、なに熱苦しい事やってんだ?」

 と、そこで、リビングのソファに寝転がっていたカノンが、二人の様子に気付く。

「あ、あはは・・・まぁまぁ、今はそっとしといてあげてよ」

 言いながら、カノンの方に近づいた。

「・・・ケッ。まぁ、どうでもいーけどよ」

 数秒と経たずに興味を失くし、カノンは再びソファにごろんと寝転がった。

「カノンは・・・ティータの事、苦手?」

 ソファの反対側に腰掛けて、距離をとったまま話しかける。

「ニガテ・・・? あのハネムシの事なら、いけすかねーってだけだ」

 未だにカノンは僕にもクロにもツンケンしているけれど・・・

 出会ってから1ヶ月が経っているのもあって、少しずつだけど仲は進展している・・・と思いたい。

 今みたいに、カノンが満腹かつ、こうして距離を保った状態なら、普通に会話はしてくれるくらいにはなったし。

「いけすかない・・・って言うと、どうして? 角を折られそうになったから?」

「違ぇよ。アタシの角はあれしきの事じゃ折れねぇ。・・・そうじゃなくて・・・ただ・・・」

 カノンが寝転がったまま、ちらりと後ろを見遣った。

「・・・・・・ハネムシの言葉が全部・・・なのが、いけすかねぇだけだ」

 ペラペラって・・・と、言葉の意味を問おうとしたところで、話は終わりだとばかりにぷいと顔を背けられてしまう。

 ・・・仲良く喋れるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 いよいよ完全に手持ち無沙汰になってしまって・・・何気なく時計を見る。時刻は朝9時前。

 いつもなら出勤してミーティングの準備をしている時間帯だけど、今日は休みだ。

 寝不足だし、惰眠を貪ろうかな・・・と考えた所で、ふと思い出す。

「・・・・・・アカネさんへの連絡・・・どうしよう・・・」

 今日の昼に連絡してみよう!

 と夢の中で固く決意してからすぐ・・・本人が忙しそうにしている所を生で見てしまったわけで・・・。何とも間が悪い。

 頭の後ろを掻きつつ・・・アカネさんの方から連絡してくれたりしないかな・・・なんて、甘えた考えが浮かんだ──その直後。

 ズボンのポケットの中で、スマートフォンが震えた。

「えっ⁉」
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