恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第二章「刺客」・③

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 慌てて手に取ると・・・画面には、「星さん」の文字があった。

 ・・・アカネさんからではなかった事に、残念な気持ちと、安堵した気持ちが綯い交ぜになりつつ・・・

 副園長から電話がかかってくるなんて余程の事だ! と、急いで応答した。

「も、もしもし! ハヤトです!」

『お早う。ハヤトクン。休日の朝にごめんなさい』

 少しハスキーな声が、電話口から聴こえる。

 不在しがちな園長・・・父さんに代わって、「すかドリ」の実務全般を一手に担うスーパーウーマン──

 それが彼女、ほし 純子じゅんこさんだ。

『・・・申し訳ないのだけれど、少し外に出てみてほしいの』

「? わ、わかりました・・・」

 しかし今日は・・・そんな才女の声が、珍しく焦っているのがわかった。

 おまけに、その声に混じって、雑踏のような、たくさんの人の声が聴こえる。

 今日は星さん朝から出勤だったはずだけど、横浜駅あたりで電車の遅延でもあったんだろうか・・・?

 わけもわからず、言われるがまま外に出ると───

「・・・・・・えっ?」

 僕の家の隣──「すかドリ」の、その入り口に・・・黒山の人だかりが出来ているのが見えた。

 今日は目立つようなイベントもない、夏休み前の平日のはずなのに・・・なんで⁉

『ネットのニュース、見たかしら? 昨日の深夜、ここの観覧車に、例のジャガーノートとやらが乗ってる写真を地元民がアップしたみたいで・・・何やら、話題になってるのよ』

 人だかりを観察して見ると・・・確かに、皆揃って観覧車にスマートフォンのカメラを向けているのがわかった。

 マスコミと思しき人達もちらほら見える。

『・・・というかハヤトクン・・・あんなに巨大なモノが家のすぐ近くに来たのに・・・気付かなかったの?』

「あ、えと・・・あの・・・ね、ネムッテテ・・・ゼンゼンキヅカナカッタデス・・・・・・」

 「さっきまでそのジャガーノートと南の島に行ってました! ついでに今は人間の姿になってて、目の前にいます!」

 ・・・・・・なんて当然言えるわけもなく・・・ぎこちない上に苦し過ぎる言い訳を返すのが、今の僕に出来る精一杯だった。

『それで・・・申し訳ないのだけど、人手が足りなくて・・・手伝ってもらえないかしら?』

「す、すぐ行きます!」

 電話を切り・・・ふぅ、と息を吐いた。

 ・・・慌ただしくて気付かなかったけど・・・SNSのグループには、皆からの「大丈夫だった⁉」と言ったメッセージがずらりと並んでいる。

「ご、ごめんみんな! 急に仕事入っちゃった! ちょっと行ってくるね! 昼にはご飯作りに何とか戻ってくるから‼」

 スマートフォンに「大丈夫!」と急いで返事を打ちつつ、身支度を整える。

「ふふっ。美しさって・・・時に罪よね」

「・・・・・・?」

 ティータとクロのそんな会話を尻目に・・・「行ってきます!」と叫びながら、慌ただしく玄関の扉を開けて──職場へと走った。


       ※  ※  ※


「先程、男たちを引き渡しました。後はよろしくお願いします──ネイト大尉」

『任せておきなさいハウンド! ・・・ようやく手にした手がかりだもの。必ず結果を出してみせるわ! 「荊姫ソーン・プリンセス」の名にかけてね!』

 例の組織の男たちを確保してから──つまり、No.011ティターニアとの一件があってから、既に3日が経過していた。

 諸々の面倒な手続きを終え・・・ようやく、つい三十分前に、極東支局に出向いてくれたネイト大尉の部下たちに身柄を引き渡したところだった。

 「対人部隊」の性質上、大っぴらに行動するわけにもいかず、今回は本当に苦労した。

 今も、わざわざ自室で秘匿回線を使って通信をしているくらいだ。

 ・・・電話一つ満足に出来ない雁字搦がんじがらめっぷりは、

『・・・・・・・・・そ、それと・・・・・・』

「・・・? なんですか?」

 せっかちな彼女の事だから、用が済んだらすぐに通信を切られると思ったのだが・・・何やら、珍しく口ごもっている様子だ。

『・・・い、今・・・その・・・・・・あ、アツシって・・・・・・や、やっぱ何でもない! き、切るわね! また何かあったら追って連絡するから‼ それじゃっ‼』

「えっ? あのっ───」

 ・・・聞き返す間もなく、切られてしまった。

「この感じ・・・・・・もしやネイト大尉・・・私の考えてた以上に・・・・・・」

 ・・・・・・野暮にならない程度に手助けしよう。ひっそりと、そう心に決めた。

 と、そこで自室のインターホンが鳴る。

 壁についたモニターを見ると──マクスウェル中尉が立っていた。

「入ってくれ」

 ドアを開けると、敬礼しつつ、中尉が静々と部屋に入ってくる。

「お休みの所、申し訳ありません。少しお話させて頂いてもよろしいですか?」

「あぁ。ようやく身柄の引き渡しも終わったしな。ここ数日、負担をかけてすまなかった」

「滅相もない。・・・それで、話というのは・・・・・・例の件についてなのですが・・・」

「・・・あぁ。そうだろうなと思っていた」

 例の件・・・即ち、中尉の提案する「特定ジャガーノートとの協力関係構築案」──

 要するに、No.007ヴァニラス及びNo.009レイガノンとの共同戦線を張りたいという申し出だった。

「隊長もご存知かと思いますが・・・いま世間で、ジャガーノートの中にも・・・人類の味方に成り得る者がいるのではないか、という向きが出始めています」

「そのようだな。・・・大部分が、No.011の影響のようだが」

 ヤツが出現したその日の朝から───既に、世間はその話題で持ちきりだった。

 私には到底理解出来ないが、どうやら、あの姿を「神秘的」だと思う連中が多いらしく・・・

 ヤツが最初に観測された「よこすかドリームランド」の観覧車は、たった数日で横須賀の新たな名所と化し、連日遊園地は大盛況らしい。

 ・・・ハヤトの実家が潤うのは良い事なんだがな。

「サイクラーノ島での一件が、すぐに報道されたのも大きかったようですね」

「・・・三浦半島沖でのNo.002フェネストラとの交戦以来、作戦区域内におけるメディア介入を全世界的に制限するよう、上層部には提言しているんだがな・・・」

 存在そのものが秘匿されてきたジャガーノートは、今や、メディアにとって恰好のメシの種になりつつある。

 東秩父村にNo.005ガラムが出現した際にも野次馬が集まったように・・・ネットの投稿サイトでは、ジャガーノートを探しに危険な場所に足を踏み入れる動画やら、何の根拠もない低俗な解説動画やらが連日アップされているというのだ。

 世間の目が、ジャガーノートの危険性ではなく、「珍しくて巨大な動物」という大衆受けしそうな側面にばかり向いている事は・・・正直、かなり危機感を抱いている。

「それで・・・君も、その尻馬に乗ろうという算段か?」

「・・・意図せずして、そう思われるタイミングになってしまいましたが・・・私は真剣です」

 少し冗談めかしてみたが、中尉は真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
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