恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第二章「刺客」・④

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「協力体制・・・とまでは言わないまでも、No.007とNo.009・・・そして、No.011・・・この三体に関しては、他のジャガーノートと同列に扱うのは少し乱暴なのではないかと思っています」

 中尉が挙げた三体に共通するのは──突然光の粒子になって消える・・・という点だ。

 ・・・そしておそらく・・・次にNo.011が観測される時には、No.007とNo.009と同様、突然何処からか現れるに違いないと、私は考えている。

 あの三体の陰には、ジャガーノートを操る──そんな気がしてならない。

「隊長は・・・どのようにお考えでしょうか・・・?」

 中尉が、おそるおそると行った様子で問いかけてくる。

 だから私は──用意していた答えを、口にした。

「あぁ・・・私も、その三体に関しては特別に思っている。、とな」

「し、しかし・・・! 今までにも、ヴァニラスとレイガノンは人間を守るような素振りを見せていますし、現にNo.010ヴォルキッドとの戦いの時には、実際にこの目で──」

「その話はもう何度も聞いた。そして私は何度も言った。見間違いだ、とな」

 中尉と、今一度目を合わせる。彼の眼差しは、本人の言う通り真剣そのものだ。

 ・・・・・・が、それでも。私は中尉の提案に首を縦に振るわけにはいかない。

「いいか中尉。忘れたわけではあるまい。No.007は初めて出現した時、この地下施設ごと、横須賀基地を吹き飛ばしかけたんだぞ? 相手は、言葉の通じない歩く巨大爆弾だ。そんなモノとどうして仲良く出来る?」

 口ではそう言いつつ・・・中尉の言いたい事が理解できてしまう自分もいる。

「こ、言葉が通じるという事であれば、No.011なら──」

「JAGDにとって有益だったとはいえ、ヤツはいとも簡単に人間を2人攫ってみせたんだぞ? ヤツの気が変わって、次に攫う2人がうちの総局長と副総局長になったらどうなる」

 No.011についても、上手くコミュニケーションを取り、ヤツが持つ超能力のメカニズムの片鱗だけでも知る事が出来れば、それだけで我々JAGDの戦力は飛躍的に進化するだろう。

 ・・・・・・だが、それでも・・・「ジャガーノートを味方として、こちらの戦力として扱う」事を、私は、否定し続けなければならない。


 ────その選択は、「劇薬」だからだ。


 一度選んだが最後、

 <アルミラージ>のように、ジャガーノートの能力を科学的に解明し、兵器として利用するのとはわけが違う。
 人類が他者の存在に頼り、自分自身の力でジャガーノートに打ち勝とうとしなくなった時───それは即ち、進化し続ける歩みを止めた時に他ならないからだ。

 今までは、偶然起こった「神風」に助けられただけだ。

 ジャガーノートの出現頻度は、過去に例を見ない程に増え続けている。

 今後も毎回「神風」が吹く保証など、何処にもない。

 ───奇跡は、起きる事を前提としないからこそ、奇跡足り得るのだ。

「爆弾にキスして喜ぶのは爆弾魔だけ・・・昆虫やトカゲとお話しするのは、子供の特権だ。分別ある我々にそんな事をしている暇はない。・・・・・・この話は、終わりだ」

 だからこそ、私は中尉の提案を唾棄し、却下し続けなければならない。

 優しすぎる彼には、酷な仕打ちだと判っていても、だ。

「・・・イエス・・・マム・・・」

 私の気持ちの片鱗でも伝わってくれたのか、中尉が押し黙り、退室する。

 優秀な部下の信頼を失うのは、辛い。だが・・・これは、私にしか出来ない仕事だ。

「全く・・・隊長という役職は損ばかりだな・・・」 

 溜め息を付きながら・・・に取り掛かるため、ニュースサイトにアクセスする。

 ・・・しかし・・・わかってはいるつもりだったが、見出しのインパクトの割に中身のない記事ばかりで、げんなりしてしまう。日本だけでなくアメリカのサイトにもアクセスしてみるが、どちらもレベルはそう変わらない。

「「昨夜未明、コロラド州で牧場から家畜が大量に消失」・・・「犯人は、今話題のジャガーノートか、はたまたUFOか」・・・フン・・・馬鹿馬鹿しい」

 余計に溜め息が増えてしまう。
 ・・・しかし、下らないとは思いつつ、隅まで目を通していく。

 ・・・かなりこまめにチェックしてみたが・・・やはり、No.011が出現した後に起こったという、米露中の「衛星消失事件」については、何処にも書かれていないようだ。

 私もつい先程、ネイト大尉の部下から聞いて初めて知ったわけだが──

「報道管制が敷かれているのは明白・・・となると、逆説的に事実だろうな」

 タイミング的にNo.011の仕業でない事は確かという話だったが・・・どうにもきな臭い。

 松戸少尉に少し情報を集めてもらおうか──

 そんな考えが浮かんだところで、見透かしたようなタイミングで本人から通信が入った。

 ・・・思わず面食らいながら、応答する。

「・・・私だ。どうした?」

『お休みの所すみません。一応、報告で・・・またジャガーノートが出現したようです』

「やれやれ・・・ここ最近、とどまるところを知らないな・・・場所は何処だ?」

『チリのアタカマ砂漠です。報告によると、No.004メイザの亜種のようですね』

「ほう・・・砂漠にも親戚がいたのか」

 No.004が初めて発見されたのは、アマゾンの奥地だ。

 生息地に自生していた「ダラサンガイ」という植物の実に含まれる成分を苦手としていて、肌に触れるだけで麻痺に似た症状を起こし、動けなくなるという弱点がある。

 確かブラジル支局には、再出現に備えて「ダラサンガイ」のエキスが貯蔵されているはずだ。

 今頃、対応に当たっているアルゼンチン支局へ特急便を出している事だろう。

「・・・何事もなければいいんだが」

 No.004の体長は、先日サイクラーノ島に出現したNo.012──名前は「オラティオン」に決まったんだったか──と同程度の30メートル。

 他の巨大ジャガーノートと比べると二回りほど小さい上に、弱点も判明しており、対応策もある。

 ・・・大きな被害は出ないとは思うのだが・・・・・・。

「・・・・・・さすがに、私の考えすぎか」

 不安を拭い去るように独り言ちながらも・・・何か・・・言語化出来ない漠然とした嫌な予感が、首の後ろをチリチリと焼いていた。
 
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