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第八話「記憶の淵に潜むもの」
第二章「鏡像」・②
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※ ※ ※
『ごめんハヤト! この距離に来るまで気付けないなんて・・・!』
真っ白になりかけた頭に、声が響く。
一瞬、それがシルフィの声だと気付かなかったほど、彼女は動揺し、同時に、怒っていた。
・・・おそらく、怒りの対象は、シルフィ自身なんだろう。
『安心して。アレが何者でも、キミの事は絶対に守る。まず、ここから離れて──』
「ダメだっ!」
僕を落ち着かせようと必死なシルフィに向かって、マスク越しに小さな声で叫ぶ。
「いま僕が逃げたら・・・子どもたちはヒーローを信じられなくなる!」
そんな事を言ってる場合じゃないのは判ってる。
それでも──今の僕は、ライズマンだ。
このスーツを着て、此処に立っている以上、逃げる事は出来ない・・・いや、しない‼
目の前にいるのが一体何者なのか判らないけど・・・それでも! と、震える両の拳にグッと力を込めて、ファイティングポーズをとった。
『っ! ・・・・・・大変だよみんな! ルナーンの手先の怪獣だ!』
振り向くと、狭い視界でも、みーちゃんと目が合ったのが判った。
さすがはみーちゃんだ。僕の意図を汲み取ってくれたらしい。
そして、彼女の声が引き金になったんだろう。
想定し得ないアクシデントで止まっていた空気が、急速に動き出す──このショーを、続行させるために。
『この怪獣は私が倒す! ここは私に任せて逃げるんだ!』
突然、ライズマンの声がスピーカーから流れた。条件反射でセリフに体の動きを合わせる。
今日のショーにこんなセリフはなかったはず・・・きっと、裏でハルが直接喋っているんだ!
『うん! わかったよ! 気をつけてね、ライズマン!』
「この場はお願い! 何とか繋ぐから!」・・・と、みーちゃんからアイコンタクトで言われた気がした。
2つの意味を込めて頷いて、銀色の「怪獣」に向かって構え直す。
同時に、勇猛なBGMが流れ始める。
サキが絶妙なタイミングで仕事をしてくれたようだ。
とんでもない状況なのに──ひとりじゃないと、そう思えて、自然と笑みが溢れた。
『・・・判ったよ。守ってあげる。ほんと、妖精遣いが荒いんだから・・・』
ありがとう、と小声で呟いて──力強く駆け出す!
『ハァッ‼』
いつもとは逆に、僕の動きに合わせてハルが声を当ててくれた。
怪獣の目の前で跳び上がり、鼻先にキックをお見舞いする。
<ラララララッ!>
歌うような鳴き声が聴こえ、怪獣が数歩下がった。
近くまで来てようやくはっきりと姿が見えたけど・・・この形は・・・ティラノサウルス・・・か・・・?
『みんな! ライズマンを応援してー! せーのっ!』
下手の袖近くまで下がったミハルお姉さんが、会場へ呼びかける。
すると、こだまのように「がんばれー!」と、子どもたちの声が返ってきた。
耳朶に届いた声援に、どこからともなく勇気と力が湧いてくる。
・・・シルフィがいなければ、きっと反撃された瞬間に僕は吹っ飛ばされ、無事では済まないだろう。
正直、怖くてたまらない・・・
けど、それでも・・・一歩前へ──!
顎下へ滑り込み、膝のバネを使って飛び上がりながらアッパーを食らわせる。
普段は当てるふりだけど、今は違う。
いつも近くで見ているように──クロたちがそうしているように、本気で相手を倒す気概を拳に乗せる。
<ララララララ!>
よろけた怪獣が、体勢を戻しながらブン!と頭を振って反撃してくる。
上体を反らして躱すと、浮ついてた足下がもつれて背中から倒れ込みそうになる。
咄嗟に両腕を伸ばして勢いをつけ、無理やり体をバク転させた。
『・・・意外と余裕だね、ハヤト』
客席からの拍手と共にシルフィからからかいが飛んでくるが・・・内心は全く穏やかではない。
どうにかヒーローっぽく決まった事への安堵を忘れるくらい、今のは間一髪だった。
<ハヤト! 大丈夫⁉>
そこで、マスク越しにティータの「声」が聴こえた。
・・・正直、今は涙が出るほど心強い。
<その銀の塊、あらゆる波を吸収してしまうみたいで・・・観客席から呼びかけても届かなかったから、ステージの裏にまで来たの! ようやく聴こえたみたいね!>
心強いよティータ! もしわがままが許されるなら、このままショーを中断させずに対処できたりしないかな・・・?
と、ダメ元で心の中で呼びかけてみる。
<最初からそのつもりよ。あなた達のチームワーク、しっかり視えていたもの>
姿は見えなくとも、言いながら彼女が微笑んだのが判った。
言葉にならない感謝を思考に乗せつつ、再び銀の怪獣に向かって構え、「それで、どうしたらいいかな?」と頭に思い浮かべる。
<私が合わせてあげるから──例の必殺技、かましてやりなさい>
粋な言葉に、思わず体が武者震いした。
なら、遠慮なく──!
握った拳を解いて、両腕を左右に払うように開く。・・・これは、予備動作だ。
『・・・っ! 会場のみんな! 右手をグーにして、空に向かって高く上げてみて!』
いち早く気付いたみーちゃんが、子どもたちを促す。
サキがそれに続いて、力が溜まっていくような効果音を流してくれる。
背中を支えてくれる皆の存在を感じながら、僕もまた拳を高く掲げた。
『いくぞッ! ライジング・・・フィストォッッ‼』
そして、ハルの迫真の演技に合わせて跳び上がり、銀の怪獣の頭に拳を振り下ろす。
衝撃の瞬間──赤い光が弾けて、怪獣は鳴き声を上げながら上手側に吹っ飛ばされた。
<・・・よし、捕らえたわ。タイミングバッチリ♪ さすが私ね♪>
怪獣がステージの袖に引っ込んだ後・・・
赤い光は、まるで風船の空気を抜くかのように銀色の体を圧迫し、瞬く間に縮小させてしまった。
よく見えないけど・・・ちょっとえぐい・・・・・・
<コレの事は私に任せて。ハヤトは自分の仕事を頑張りなさい>
心の中で全力の「ありがとう」を伝えてから──客席へ向き直り、大きく頷いてみせる。
『やっ・・・やったぁっ! 怪獣を倒したよっ‼』
若干素のリアクションを交えつつ、ミハルお姉さんが全身で喜びを表す。
同時に観客席から届いた万雷の拍手と子どもたちの声を聴いて・・・ようやく、内心でほっと胸を撫で下ろした。
『みんな! 私に力を与えてくれてありがとう! お陰で助かったよ!』
ほんの少しの間を置いて、ハルの声がスピーカーから響き、セリフに合わせて体を動かす。
『今のは、ルナーンの手先の怪獣だ。もしかしたら、ルナーンはこの会場のどこかに潜んでいるかも知れない! 私の仲間たちと一緒に、今から会場をパトロールさせて欲しい!』
従来通りの流れへ繋げる事の出来るセリフだ。
・・・きっと、記録係をしていた山田さんが客席から戻ってきて、必死にアイデアを絞り出してくれたに違いない。
『・・・ほんとにすごいね、ライズマンチーム』
ヒーローたちが登場し、順番に自己紹介を始めたところで、シルフィの声が頭に響いた。
「・・・でも、今回ばかりはチームだけじゃダメだったよ。最後もティータのお陰だし・・・それに、シルフィが守るって言ってくれたから、怖くても立ち向かえたんだ」
「だから、ありがとう」と、小声で返事をする。
『・・・・・・そっか。じゃあ・・・どういたしまして』
そう言ったきり、シルフィの気配が消える。
最後の一言は・・・少し、照れていたようにも聴こえた。
相棒の意外な一面に、マスクの下で顔を綻ばせつつ──
どうにか続行出来たショーを最後までやり切るため、しっかりと気合いを入れ直した。
『ごめんハヤト! この距離に来るまで気付けないなんて・・・!』
真っ白になりかけた頭に、声が響く。
一瞬、それがシルフィの声だと気付かなかったほど、彼女は動揺し、同時に、怒っていた。
・・・おそらく、怒りの対象は、シルフィ自身なんだろう。
『安心して。アレが何者でも、キミの事は絶対に守る。まず、ここから離れて──』
「ダメだっ!」
僕を落ち着かせようと必死なシルフィに向かって、マスク越しに小さな声で叫ぶ。
「いま僕が逃げたら・・・子どもたちはヒーローを信じられなくなる!」
そんな事を言ってる場合じゃないのは判ってる。
それでも──今の僕は、ライズマンだ。
このスーツを着て、此処に立っている以上、逃げる事は出来ない・・・いや、しない‼
目の前にいるのが一体何者なのか判らないけど・・・それでも! と、震える両の拳にグッと力を込めて、ファイティングポーズをとった。
『っ! ・・・・・・大変だよみんな! ルナーンの手先の怪獣だ!』
振り向くと、狭い視界でも、みーちゃんと目が合ったのが判った。
さすがはみーちゃんだ。僕の意図を汲み取ってくれたらしい。
そして、彼女の声が引き金になったんだろう。
想定し得ないアクシデントで止まっていた空気が、急速に動き出す──このショーを、続行させるために。
『この怪獣は私が倒す! ここは私に任せて逃げるんだ!』
突然、ライズマンの声がスピーカーから流れた。条件反射でセリフに体の動きを合わせる。
今日のショーにこんなセリフはなかったはず・・・きっと、裏でハルが直接喋っているんだ!
『うん! わかったよ! 気をつけてね、ライズマン!』
「この場はお願い! 何とか繋ぐから!」・・・と、みーちゃんからアイコンタクトで言われた気がした。
2つの意味を込めて頷いて、銀色の「怪獣」に向かって構え直す。
同時に、勇猛なBGMが流れ始める。
サキが絶妙なタイミングで仕事をしてくれたようだ。
とんでもない状況なのに──ひとりじゃないと、そう思えて、自然と笑みが溢れた。
『・・・判ったよ。守ってあげる。ほんと、妖精遣いが荒いんだから・・・』
ありがとう、と小声で呟いて──力強く駆け出す!
『ハァッ‼』
いつもとは逆に、僕の動きに合わせてハルが声を当ててくれた。
怪獣の目の前で跳び上がり、鼻先にキックをお見舞いする。
<ラララララッ!>
歌うような鳴き声が聴こえ、怪獣が数歩下がった。
近くまで来てようやくはっきりと姿が見えたけど・・・この形は・・・ティラノサウルス・・・か・・・?
『みんな! ライズマンを応援してー! せーのっ!』
下手の袖近くまで下がったミハルお姉さんが、会場へ呼びかける。
すると、こだまのように「がんばれー!」と、子どもたちの声が返ってきた。
耳朶に届いた声援に、どこからともなく勇気と力が湧いてくる。
・・・シルフィがいなければ、きっと反撃された瞬間に僕は吹っ飛ばされ、無事では済まないだろう。
正直、怖くてたまらない・・・
けど、それでも・・・一歩前へ──!
顎下へ滑り込み、膝のバネを使って飛び上がりながらアッパーを食らわせる。
普段は当てるふりだけど、今は違う。
いつも近くで見ているように──クロたちがそうしているように、本気で相手を倒す気概を拳に乗せる。
<ララララララ!>
よろけた怪獣が、体勢を戻しながらブン!と頭を振って反撃してくる。
上体を反らして躱すと、浮ついてた足下がもつれて背中から倒れ込みそうになる。
咄嗟に両腕を伸ばして勢いをつけ、無理やり体をバク転させた。
『・・・意外と余裕だね、ハヤト』
客席からの拍手と共にシルフィからからかいが飛んでくるが・・・内心は全く穏やかではない。
どうにかヒーローっぽく決まった事への安堵を忘れるくらい、今のは間一髪だった。
<ハヤト! 大丈夫⁉>
そこで、マスク越しにティータの「声」が聴こえた。
・・・正直、今は涙が出るほど心強い。
<その銀の塊、あらゆる波を吸収してしまうみたいで・・・観客席から呼びかけても届かなかったから、ステージの裏にまで来たの! ようやく聴こえたみたいね!>
心強いよティータ! もしわがままが許されるなら、このままショーを中断させずに対処できたりしないかな・・・?
と、ダメ元で心の中で呼びかけてみる。
<最初からそのつもりよ。あなた達のチームワーク、しっかり視えていたもの>
姿は見えなくとも、言いながら彼女が微笑んだのが判った。
言葉にならない感謝を思考に乗せつつ、再び銀の怪獣に向かって構え、「それで、どうしたらいいかな?」と頭に思い浮かべる。
<私が合わせてあげるから──例の必殺技、かましてやりなさい>
粋な言葉に、思わず体が武者震いした。
なら、遠慮なく──!
握った拳を解いて、両腕を左右に払うように開く。・・・これは、予備動作だ。
『・・・っ! 会場のみんな! 右手をグーにして、空に向かって高く上げてみて!』
いち早く気付いたみーちゃんが、子どもたちを促す。
サキがそれに続いて、力が溜まっていくような効果音を流してくれる。
背中を支えてくれる皆の存在を感じながら、僕もまた拳を高く掲げた。
『いくぞッ! ライジング・・・フィストォッッ‼』
そして、ハルの迫真の演技に合わせて跳び上がり、銀の怪獣の頭に拳を振り下ろす。
衝撃の瞬間──赤い光が弾けて、怪獣は鳴き声を上げながら上手側に吹っ飛ばされた。
<・・・よし、捕らえたわ。タイミングバッチリ♪ さすが私ね♪>
怪獣がステージの袖に引っ込んだ後・・・
赤い光は、まるで風船の空気を抜くかのように銀色の体を圧迫し、瞬く間に縮小させてしまった。
よく見えないけど・・・ちょっとえぐい・・・・・・
<コレの事は私に任せて。ハヤトは自分の仕事を頑張りなさい>
心の中で全力の「ありがとう」を伝えてから──客席へ向き直り、大きく頷いてみせる。
『やっ・・・やったぁっ! 怪獣を倒したよっ‼』
若干素のリアクションを交えつつ、ミハルお姉さんが全身で喜びを表す。
同時に観客席から届いた万雷の拍手と子どもたちの声を聴いて・・・ようやく、内心でほっと胸を撫で下ろした。
『みんな! 私に力を与えてくれてありがとう! お陰で助かったよ!』
ほんの少しの間を置いて、ハルの声がスピーカーから響き、セリフに合わせて体を動かす。
『今のは、ルナーンの手先の怪獣だ。もしかしたら、ルナーンはこの会場のどこかに潜んでいるかも知れない! 私の仲間たちと一緒に、今から会場をパトロールさせて欲しい!』
従来通りの流れへ繋げる事の出来るセリフだ。
・・・きっと、記録係をしていた山田さんが客席から戻ってきて、必死にアイデアを絞り出してくれたに違いない。
『・・・ほんとにすごいね、ライズマンチーム』
ヒーローたちが登場し、順番に自己紹介を始めたところで、シルフィの声が頭に響いた。
「・・・でも、今回ばかりはチームだけじゃダメだったよ。最後もティータのお陰だし・・・それに、シルフィが守るって言ってくれたから、怖くても立ち向かえたんだ」
「だから、ありがとう」と、小声で返事をする。
『・・・・・・そっか。じゃあ・・・どういたしまして』
そう言ったきり、シルフィの気配が消える。
最後の一言は・・・少し、照れていたようにも聴こえた。
相棒の意外な一面に、マスクの下で顔を綻ばせつつ──
どうにか続行出来たショーを最後までやり切るため、しっかりと気合いを入れ直した。
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