恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十一話「キノコ奇想曲」

 第一章「あるいはキノコでいっぱいの日」・③

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 直後、地揺れを伴って、背にした森の方角から大きな音が上がる。

 振り向いた視線の先──木々と土砂とを撒き散らしながら、地中より現れたのは───

「・・・きょっ、巨大・・・キノコぉっ⁉」

<ピムムウウウゥゥゥウン‼>

 奇怪な鳴き声の主は・・・まさに、巨大なキノコの怪獣としか形容出来ない何かだった。

 シイタケに似た茶色い傘から、クリーム色のが伸びていて・・・その途中途中から三対さんつい、別の長い柄が生えている。

 本来なら木に繋がっているはずのの部分にもまた別の傘が付いており、ともすれば尻尾のように見えなくもない。

 体高50メートルほどの巨体からは、様々な種類のキノコが無秩序に生え、まさに歩くキノコ博物館とでも言うべき姿だ。

<グルアアァァァァッッ‼>

 呆気に取られていると・・・雷鳴に似た鳴き声が、空気を震わせる。

 突然現れたキノコの怪獣を早々に「敵だ」と認識したのであろうカノンは、二本の角を前へ突き出して、低く唸りを上げ始めた。

<ピムムムムムゥ・・・!>

 すると、それに呼応するように──キノコの怪獣が、カノンの方へ振り向く。

 やはりと言うべきか・・・計六本の長い柄は「脚」に相当するものらしく、それらを器用に使って巨体を運んでいる。

 つぶさに観察すれば、背中からは規則的に大きなキノコが並んで生えていて、中南米あたりに棲んでいそうな爬虫類の背ビレのようにも見えた。

 ・・・そして、何よりびっくりさせられたのは───

「め、目玉・・・?」

 頭頂の部分──茶色い傘の上の部分で、ぎょろりと動いた白い眼球の存在だった。

 しかも不思議な事に、怪獣の頭には・・・

 その容貌は、子供の頃に妖怪図鑑で見た「一本だたら」や「からかさ小僧」を彷彿とさせた。

<ピムムムムムウゥンッ‼>

 全身に点在するゼリーのような質感の部位と同じ紫色をした瞳が、相対するカノンの姿を捉える。

 すると・・・視線を受けて立ったカノンの甲羅が、にわかに水色に発光し始めた。

<グルアアアアァァァァ───>

 みるみるうちに、水色の光はその輝きを増し──

 それが極限に達した瞬間、甲羅から放たれた幾筋もの稲妻が、キノコの怪獣へと殺到した!

<ピムゥゥゥウウウウゥゥンッ⁉>

 そして、稲妻が巨体の各所でスパークすると・・・キノコの怪獣の体はあちらこちらが弾け飛び、そのシルエットを穴だらけにされ・・・地面に倒れてしまった。 

「・・・カノンが突進以外の攻撃をするなんて、驚いたわね・・・」

 勝敗があっという間についた事に唖然としていると、隣にいたティータは全く別の事にびっくりしてから・・・はたと我に返った。

「あっ! カノン! 私がまだ話してないのに倒しちゃダメじゃない!」

<・・・・・・グルアァッ‼>

 カノンは、「知るかよンなコト!」とでも言いたそうな様子だ。

 ・・・と、そこで不意に疑問が湧き上がる。

「え、えと・・・ティータ、今の怪獣・・・話が出来そうだったの・・・?」

 これまで見てきた怪獣たちは──ザムルアトラや、ティータが戦ったというオリカガミは別として──どこか地球上の既存の動物に似通った部分があったけど・・・

 たった今、地面に倒れた怪獣は、キノコ・・・「菌類」だ。

 いや、もしかしたら表面に見えているのがキノコなだけで、中には一回り小さい怪獣が隠れている・・・とか・・・・・・?

「残念ながらそれはないわ。正真正銘・・・あれは、中身まで全部「キノコの怪獣」よ」

 思いついた仮説は、口にする前にティータに否定されてしまった。

「でも、微弱だけど思考の「波」が視えたのよ。とは言え、もう・・・・・・えっ?」

 彼女が何かを言いかけて、言葉を詰まらせた・・・直後───

<ピィィィイイムゥゥゥゥウウウッッ‼>

 奇怪な声が、再び鼓膜を震わせる。

 しかも・・・驚くべき事に───

<ピムゥゥゥウウウウン!>
<ピイイイィィムムムム!>
<ピムウウゥウウンンッ!>

 鳴り響いた声は、

 確かに一度は体の大半を失ったはずの怪獣が、1分と経たずに再生したばかりか・・・

 森の各所から、全く同じ姿の怪獣が3体、新たに出現したのだ。

「まさか・・・破片から再生して増殖したって言うのか・・・⁉」

 到底予想できなかった事態に、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

<グルルアアァ・・・!>

 突然蘇った上に数を増やした怪獣たちを前にして、カノンは再び臨戦態勢を取った。

 先程と同じように、甲羅からバチバチ!と水色の火花を散らし始めて──

「・・・!」

 そこで僕の脳裏に、薄ぼんやりと残っていた記憶が蘇ってくる。

 ネットで面白そうな話題を見つけると、やたらと共有したがるハルが送りつけてくる記事の中に・・・以前、「雷が落ちるとシイタケの収穫量が増える」というものがあった・・・!

 あの時は話半分に聞いてたけど・・・・・・

 この状況を見るに、万が一という事も有り得る。 

「カノン! その怪獣は電気を浴びせると元気になっちゃうんだ! 一度戻って!」

 これ以上怪獣が増えたら大変だ!と思って、咄嗟に声をかけた。

<・・・! ・・・グルアァァ・・・・・・>

 戦ってる最中だし、話を聞いてくれないかな?と不安だったけど・・・カノンは素直に甲羅からの発光を止めてくれる。

 直後、その巨体がオレンジ色の粒子となって解けた。

 内心ほっとしていると、またしてもティータが衝撃を受けていた。

「・・・あのカノンが、ねぇ・・・・・・」

「──あん? 何がだよ?」

 再び擬人態の姿となったカノンが、戻るや否やティータへしかめ面を向けた。

「いえ・・・何でもないわ。ふふふっ♪」

 ティータはすこぶる機嫌が良さそうだけど・・・僕としては微妙にむず痒い気持ちだ。

<ピムゥ?>
<ピムムム?>
<ピイィ~?>

 他方、相対するカノンが突然消えてしまった事に、怪獣たちは困惑していた。

 よくよく見れば、人間が遠くを見る時そうするように、一つしかない目玉を凝らす仕草をしている個体もいる。

 ・・・確かにティータの言う通り、思考も知性も有りそうだ。

<グオオォォォッッ‼>

 と、そこで、選手交代とばかりに、クロが怪獣たちに向かって歩き出す。

 すると4つの巨大キノコは危機を察知したのか、一斉にクロの方へと振り向いた。

「・・・・・・成程ね」

 一対多数の状況に焦燥感を募らせていると、ティータが何かに気づいた素振りを見せる。

「あの怪獣たちは・・・実際には1体の怪獣なんだわ」

「ど、どういう事⁉」

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