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番外編
地下牢の門番は
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元ルーブル家の坊っちゃん達がくるから粗相のないようにと上司から言われた。その時は、クソ面倒くせーなーしか思わなかった。
長男のゲイツはソツなく何でもこなし優秀でかつ冷静だと聞いていた。次男のマイクは優しいがおとなしく社交界には向いていないとも。
それが2人に会って、印象がガラリとかわった。
まず、マイクの頼りなさにため息をつきたくなる。いちいち収監されている犯罪者の声にビビり、俺の近くに寄ってくるのは正直言って面倒くさい。血だ、血だぁ、と顔色を悪くするのも便乗して勘に触る。
チラリ、と横を見ると、視線に気付いたゲイツはなんだ、と低い声を出す。
マイクみたいにいちいちビビられるのも面倒だけど、ゲイツみたいに顔色ひとつ変えないのは、それはそれで可愛げのないガキだなー、って思う。
表情に出さないのか、それとも、慣れているのかー。
ま、オレには関係ないか。
父親の柵を着くと、マイクはすっ飛んで行ったが、ゲイツは近寄りもしなかった。
ふーん、と思っただけで、特になんとも思わない。貴族なんて家族らしい感情が伴ってない方が多いし。逆にマイクの方が珍しい感じがする。なんだか、家族っぽい演技をしているような薄気味悪さがある。
それよか、あのやべー女に会わせろって言われた方がビビったし。
あの女はもう気が狂ってる、聴取でも話にならなかった。誰を見てもユーリ、と呼ぶからだ。舌足らずで擦り寄ってくる幼い喋り方に、ゾッとする。
こんな女に狙われたユーリって奴も可哀想だなーと思うけど、なんせ第三者だ。関わらないでおこう、と思うくらいで、処刑を待つのみ。
そんな女に元婚約者が会いたいと言う。
ーこれは報告しねーと…いけねーんだろーなー
上司から言われたのは案内と報告。どちらかが怪しい真似、もしくはそのような発言をしたら即刻上に報告すると命令されている。
うーん、会わせていいのは父親だけって聞いてたけど…金貨3枚ってことは口止めと案内だな…ま、金もらったしなぁ。しゃーねーか。
一際奥に行くと手元の明かりしかなく、徐々に気味が悪くなってくる。
ついた途端に、忠告しておく。この坊っちゃんなら、油断するこたないと思うけど、何があるかわかんねーからな。
「…坊ちゃん、念のため言っときますけど…気をつけてくださいよ、元婚約者とは言えど、この者は殺人を犯しー」
オレの言葉をぶった切って、2人にしろ、と言われた。
いやそれは無理でしょ。なんかあったらオレの首も飛ぶ。解雇って意味じゃなく物理的に。
くそ、金貨飛ばすなよ、金は欲しいから逆らえねえ。しゃーねぇ、陰から見るか。
ランプを下に置き、退散するフリして物陰に潜む。仮にも兵士だ、気配を消すぐらいはおてのもん。
にしても、元婚約者だからって普通会いに行くか?婚約破棄したんだろ?もう関係ねーじゃん。
それに頭の良くないオレでも分かる、こんなことしてヤバいだろ。殺人を犯した婚約者を見舞いにくるなんて前代未聞だ。世間にバレたら恥。それをサンライス家が許すはずもねーだろ。バカか。
案内しろ、と言った時の年相応の切羽詰まった眼を思い出す。
はは、オレも焼きが回った。
ーアイツはきっと分かってる。こんなことして、ヤバいってこと。恋だの愛だのに振り回されるような奴にも見えなかった…だったらどうしー…
ゆーり?とあの女が首をかしげるのが見える。
それにアイツは柵に拳を叩きつけて俯いてしまった。
ー言わんこっちゃねぇ…。
アイツが何を言っても、ゆーり、ゆーり、と繰り返すだけの女。
そんな女が、坊っちゃんに手を伸ばしたので、物陰から飛び出そうとしたが寸でのところで止めれた。
出て行っちゃならない。そんな気がした。
女は頭を撫でて、そしてー。
アイツが酷く泣いたからだ。
※
「おーい、シバ!飲んでるか~」
酒臭い大柄の男が肩を組んできた。
その赤ら顔にため息をついて、酒瓶をあおる。
飲んでるか~と陽気に聞きたかっただけのようで、すぐにソイツは違うテーブルに移った。
正直今は明るく誰かと騒げるテンションではなかった。
昼間に聞いたあの声が耳に残っている。
頭を撫でられてからのアイツは、それはもう泣きに泣いた。初めて泣くのか?ってくらい無残な泣き顔と声だった。
初めて会った時からは考えられないくらい哀愁が漂っていて、ダチでもないのに聞いてるだけで胸が締め付けられた。
ーなんだ、アイツもあんな顔できたのか
父親が処刑されるってのに、一言で別れを済ませ、飄々とこの地下牢を歩くヤツは、誰かを愛したことなんてない、と思っていた。
そんなやつがあそこまで泣くなんて。
時間だと呼びに行くと、泣いてたなんて嘘みたいにケロッとして、また来る、と立ち去った。
その手は強く強く握りしめていて。
「しょーがねーなー…」
報告は、しない。
首を切られてもしゃーねー。
※
あれから連日あの坊っちゃんがくる。今日も来るのかな、と道の先をぼんやりと見たりしてる。
明後日に処刑が決まって今どんな気持ちなんだろーか。と、取り留めのないことを考えるも、自分が興味があるのかないのか分からない。
オレは、あの2人を見て、何がしてーんだろ。なんの得もねーじゃん。
「おい」
あの女は相変わらずユーリだと思って喋ってるし、
「おい、」
アイツもそれを否定したりせず、朗らかに話をしながら、今度は足の治療などをしていた。
オレはと言えば、それを止めもせずに遠いところから見守った。
「おい!」
「うわぁ!」
いつのまにかゲイツが目の前にいた。
オレより少し背の低いヤツは真正面からオレを見て、睨み付けている。
「今日も、ですか…」
律儀に金貨を渡して来る。
いつも治療に使っているカゴにこっそり返してるの知らねーのか?
と鍵を開けながら見ると、やつの目の下は真っ黒だった。
「あんた目の下真っ黒じゃん、寝てるの?」
「…寝てるさ」
「…ふーん」
ほんとかよ、今にでもぶっ倒れそうなんだけど。
てかなんでオレこんなやつの体調なんか気にしてんだろ。こいつが倒れよんが、ましては死のーがオレには関係ねーじゃん。
なんか変に狂うわ。こいつはきっと今日もユーリになってくるんだろう。健気だねぇ…。
漆黒のマントをまとった華奢な背中を見送った。
※
オレは今日も門番。シフト制なんだけど、どーなってんだよ。はー、明日かー。なんかオレが緊張してきたわ。
今日も来るんだろーなー。なんか…
「嫌だな」
「何がだ」
うぁお!!
1人だと思っていたのに、いつからいたんだよこいつ!ってか嫌だってなんだ、オレは何が嫌だってんだー。はぁー。もー嫌。
「ほら、鍵開けといたから」
ランプ忘れずに持ってけよ、あと今日は暑いからマント置いてけ預かっててやるとかなんとか言ったら、お前は母親か、って言われた。
その親しみを含めた物言いに、驚いてアイツを見る。
「…なんだよ」
いつもの仏頂面に戻る。
「いや…こっちのセリフだわ」
なんだよ、それ。なんだよ~なんか力抜けるわ。
ハハ、と笑う。
「最後に、呼んでくれたらいいな」
その言葉にアイツは少しだけ目元を和らげた気がした。
「それは…ないな」
まぁ、そーか。あんなこんな数日で良くなるわけねーか。
死刑が無くなったら、とかは思わない。殺人は殺人だ。クソヤローがすることだ。自分がしたことの報いは自分で受けないといけない。
でも、名前くらい…奇跡が起きたらいいな、と思うほど、オレはこいつらに入れ込んでいた。
※
「ほら、昼メシ」
アイツが帰って、囚人たちにご飯を配る。1番奥にいるあの女にも渡す。
柵の前に置き、いつもはすぐに帰るが、今日は少しだけ柵の中を見てしまった。あの女がこっちを見てニコニコしている。オレのこともユーリだと思ってんのかな。
「なんで、奇跡っておこんねーんだろーな」
ついつい、ボソッと呟いてしまう。ここ6日間、あいつは自分の身の危険を顧みず通い続けた。その想いに応えてやろーとは思わねーのかよ。
はぁ。なんか疲れたなー。
これが終わったらどうなるんだろ、ちよっとまったり仕事したいわー
帰ろ、と立ち上がった時。
「これを、ヴェルファン家のお嬢様に渡してほしいの」
空耳かと思った。落ち着いた、凛とした声が地下牢に響く。いたも怒鳴り声ばかり聞いているので、柵の中からそのような声を聞くのは滅多になかった。
しかも、この牢から。
から目の前に差し出された紙を見て困惑する。
「は、え、ちょ、」
貴方しか頼れる人がいないの、ごめんなさいと謝る目の前の女は、一体誰だというのか。
待て待て待て待て、え、意味わかんねー、喋れるじゃん、は、いつから?
ーおかしい振りしてたのか?
なんだよ、それ、じゃあちょっとくれーアイツのために笑ってやんねーんだ…アイツがどんな想いでここに通ったんだと思ってんだよ
弄ぶなよ!
「…なんで!」
ぎりっと、歯が合わさる音がする。
その一言だけなのに、女は顔を伏せた。
「また都合が悪くなったらそうやって逃げんのかよ。アイツはなぁ、アイツは…!」
2人に何があったのか、何もしらねー、何もしらねー、けど!
この6日間のアイツは、そこまで報われねーことしたってのかよ。
「…これしかダメなの」
ごめんなさい、とあの女は涙を流していた。
それはなんの涙なのか。
オレは結局わからなかった。
※
「ほんっとくっだらねーことに神経そそいじまったよなー」
人生棒に振ってまで、するようなことじゃなかったかもなーと今でも時々思う。
まずあの時のオレはどうかしてた。
ザ傍観者スタイルのオレがなぜ渦中に巻き込まれたのか。
あれから、どこからか圧力がかかり、左遷か死ぬかを選ばされた。もちろん左遷だ。バカか。
今は辺境の地で雑用係だ。
前みたいに、サボったりできないけど、今の生活もまぁまぁいいんじゃねーか。
あの時、これしかダメ、と言ったあの女の気持ちなんかわかんねー。
あそこまで想われておいて、違う男の名前を呼び続けるなんて、なんて女だ、って今でも思う。
けど、
いつからまともだったのか分かんねーけど、処刑前日でさえ、アイツは自分の名前を呼ばれたら、それこそ柵を壊そうと必死になったんじゃねーかな。そうなったら即刻死刑だ。それを避けようとした…
前日のアイツも、無いなって断言してた。なんでアイツあんなにはっきり言えたんだ?もしかして狂ってねーの分かってた、り…?
「ってのは、考えすぎ、か」
オレはもう牢屋の門番じゃねえ。
でも、それでも。
1週間通い詰めたアイツに。
あの世で、奇跡が起きてたらいーな
と願わずにはいられなかった。
長男のゲイツはソツなく何でもこなし優秀でかつ冷静だと聞いていた。次男のマイクは優しいがおとなしく社交界には向いていないとも。
それが2人に会って、印象がガラリとかわった。
まず、マイクの頼りなさにため息をつきたくなる。いちいち収監されている犯罪者の声にビビり、俺の近くに寄ってくるのは正直言って面倒くさい。血だ、血だぁ、と顔色を悪くするのも便乗して勘に触る。
チラリ、と横を見ると、視線に気付いたゲイツはなんだ、と低い声を出す。
マイクみたいにいちいちビビられるのも面倒だけど、ゲイツみたいに顔色ひとつ変えないのは、それはそれで可愛げのないガキだなー、って思う。
表情に出さないのか、それとも、慣れているのかー。
ま、オレには関係ないか。
父親の柵を着くと、マイクはすっ飛んで行ったが、ゲイツは近寄りもしなかった。
ふーん、と思っただけで、特になんとも思わない。貴族なんて家族らしい感情が伴ってない方が多いし。逆にマイクの方が珍しい感じがする。なんだか、家族っぽい演技をしているような薄気味悪さがある。
それよか、あのやべー女に会わせろって言われた方がビビったし。
あの女はもう気が狂ってる、聴取でも話にならなかった。誰を見てもユーリ、と呼ぶからだ。舌足らずで擦り寄ってくる幼い喋り方に、ゾッとする。
こんな女に狙われたユーリって奴も可哀想だなーと思うけど、なんせ第三者だ。関わらないでおこう、と思うくらいで、処刑を待つのみ。
そんな女に元婚約者が会いたいと言う。
ーこれは報告しねーと…いけねーんだろーなー
上司から言われたのは案内と報告。どちらかが怪しい真似、もしくはそのような発言をしたら即刻上に報告すると命令されている。
うーん、会わせていいのは父親だけって聞いてたけど…金貨3枚ってことは口止めと案内だな…ま、金もらったしなぁ。しゃーねーか。
一際奥に行くと手元の明かりしかなく、徐々に気味が悪くなってくる。
ついた途端に、忠告しておく。この坊っちゃんなら、油断するこたないと思うけど、何があるかわかんねーからな。
「…坊ちゃん、念のため言っときますけど…気をつけてくださいよ、元婚約者とは言えど、この者は殺人を犯しー」
オレの言葉をぶった切って、2人にしろ、と言われた。
いやそれは無理でしょ。なんかあったらオレの首も飛ぶ。解雇って意味じゃなく物理的に。
くそ、金貨飛ばすなよ、金は欲しいから逆らえねえ。しゃーねぇ、陰から見るか。
ランプを下に置き、退散するフリして物陰に潜む。仮にも兵士だ、気配を消すぐらいはおてのもん。
にしても、元婚約者だからって普通会いに行くか?婚約破棄したんだろ?もう関係ねーじゃん。
それに頭の良くないオレでも分かる、こんなことしてヤバいだろ。殺人を犯した婚約者を見舞いにくるなんて前代未聞だ。世間にバレたら恥。それをサンライス家が許すはずもねーだろ。バカか。
案内しろ、と言った時の年相応の切羽詰まった眼を思い出す。
はは、オレも焼きが回った。
ーアイツはきっと分かってる。こんなことして、ヤバいってこと。恋だの愛だのに振り回されるような奴にも見えなかった…だったらどうしー…
ゆーり?とあの女が首をかしげるのが見える。
それにアイツは柵に拳を叩きつけて俯いてしまった。
ー言わんこっちゃねぇ…。
アイツが何を言っても、ゆーり、ゆーり、と繰り返すだけの女。
そんな女が、坊っちゃんに手を伸ばしたので、物陰から飛び出そうとしたが寸でのところで止めれた。
出て行っちゃならない。そんな気がした。
女は頭を撫でて、そしてー。
アイツが酷く泣いたからだ。
※
「おーい、シバ!飲んでるか~」
酒臭い大柄の男が肩を組んできた。
その赤ら顔にため息をついて、酒瓶をあおる。
飲んでるか~と陽気に聞きたかっただけのようで、すぐにソイツは違うテーブルに移った。
正直今は明るく誰かと騒げるテンションではなかった。
昼間に聞いたあの声が耳に残っている。
頭を撫でられてからのアイツは、それはもう泣きに泣いた。初めて泣くのか?ってくらい無残な泣き顔と声だった。
初めて会った時からは考えられないくらい哀愁が漂っていて、ダチでもないのに聞いてるだけで胸が締め付けられた。
ーなんだ、アイツもあんな顔できたのか
父親が処刑されるってのに、一言で別れを済ませ、飄々とこの地下牢を歩くヤツは、誰かを愛したことなんてない、と思っていた。
そんなやつがあそこまで泣くなんて。
時間だと呼びに行くと、泣いてたなんて嘘みたいにケロッとして、また来る、と立ち去った。
その手は強く強く握りしめていて。
「しょーがねーなー…」
報告は、しない。
首を切られてもしゃーねー。
※
あれから連日あの坊っちゃんがくる。今日も来るのかな、と道の先をぼんやりと見たりしてる。
明後日に処刑が決まって今どんな気持ちなんだろーか。と、取り留めのないことを考えるも、自分が興味があるのかないのか分からない。
オレは、あの2人を見て、何がしてーんだろ。なんの得もねーじゃん。
「おい」
あの女は相変わらずユーリだと思って喋ってるし、
「おい、」
アイツもそれを否定したりせず、朗らかに話をしながら、今度は足の治療などをしていた。
オレはと言えば、それを止めもせずに遠いところから見守った。
「おい!」
「うわぁ!」
いつのまにかゲイツが目の前にいた。
オレより少し背の低いヤツは真正面からオレを見て、睨み付けている。
「今日も、ですか…」
律儀に金貨を渡して来る。
いつも治療に使っているカゴにこっそり返してるの知らねーのか?
と鍵を開けながら見ると、やつの目の下は真っ黒だった。
「あんた目の下真っ黒じゃん、寝てるの?」
「…寝てるさ」
「…ふーん」
ほんとかよ、今にでもぶっ倒れそうなんだけど。
てかなんでオレこんなやつの体調なんか気にしてんだろ。こいつが倒れよんが、ましては死のーがオレには関係ねーじゃん。
なんか変に狂うわ。こいつはきっと今日もユーリになってくるんだろう。健気だねぇ…。
漆黒のマントをまとった華奢な背中を見送った。
※
オレは今日も門番。シフト制なんだけど、どーなってんだよ。はー、明日かー。なんかオレが緊張してきたわ。
今日も来るんだろーなー。なんか…
「嫌だな」
「何がだ」
うぁお!!
1人だと思っていたのに、いつからいたんだよこいつ!ってか嫌だってなんだ、オレは何が嫌だってんだー。はぁー。もー嫌。
「ほら、鍵開けといたから」
ランプ忘れずに持ってけよ、あと今日は暑いからマント置いてけ預かっててやるとかなんとか言ったら、お前は母親か、って言われた。
その親しみを含めた物言いに、驚いてアイツを見る。
「…なんだよ」
いつもの仏頂面に戻る。
「いや…こっちのセリフだわ」
なんだよ、それ。なんだよ~なんか力抜けるわ。
ハハ、と笑う。
「最後に、呼んでくれたらいいな」
その言葉にアイツは少しだけ目元を和らげた気がした。
「それは…ないな」
まぁ、そーか。あんなこんな数日で良くなるわけねーか。
死刑が無くなったら、とかは思わない。殺人は殺人だ。クソヤローがすることだ。自分がしたことの報いは自分で受けないといけない。
でも、名前くらい…奇跡が起きたらいいな、と思うほど、オレはこいつらに入れ込んでいた。
※
「ほら、昼メシ」
アイツが帰って、囚人たちにご飯を配る。1番奥にいるあの女にも渡す。
柵の前に置き、いつもはすぐに帰るが、今日は少しだけ柵の中を見てしまった。あの女がこっちを見てニコニコしている。オレのこともユーリだと思ってんのかな。
「なんで、奇跡っておこんねーんだろーな」
ついつい、ボソッと呟いてしまう。ここ6日間、あいつは自分の身の危険を顧みず通い続けた。その想いに応えてやろーとは思わねーのかよ。
はぁ。なんか疲れたなー。
これが終わったらどうなるんだろ、ちよっとまったり仕事したいわー
帰ろ、と立ち上がった時。
「これを、ヴェルファン家のお嬢様に渡してほしいの」
空耳かと思った。落ち着いた、凛とした声が地下牢に響く。いたも怒鳴り声ばかり聞いているので、柵の中からそのような声を聞くのは滅多になかった。
しかも、この牢から。
から目の前に差し出された紙を見て困惑する。
「は、え、ちょ、」
貴方しか頼れる人がいないの、ごめんなさいと謝る目の前の女は、一体誰だというのか。
待て待て待て待て、え、意味わかんねー、喋れるじゃん、は、いつから?
ーおかしい振りしてたのか?
なんだよ、それ、じゃあちょっとくれーアイツのために笑ってやんねーんだ…アイツがどんな想いでここに通ったんだと思ってんだよ
弄ぶなよ!
「…なんで!」
ぎりっと、歯が合わさる音がする。
その一言だけなのに、女は顔を伏せた。
「また都合が悪くなったらそうやって逃げんのかよ。アイツはなぁ、アイツは…!」
2人に何があったのか、何もしらねー、何もしらねー、けど!
この6日間のアイツは、そこまで報われねーことしたってのかよ。
「…これしかダメなの」
ごめんなさい、とあの女は涙を流していた。
それはなんの涙なのか。
オレは結局わからなかった。
※
「ほんっとくっだらねーことに神経そそいじまったよなー」
人生棒に振ってまで、するようなことじゃなかったかもなーと今でも時々思う。
まずあの時のオレはどうかしてた。
ザ傍観者スタイルのオレがなぜ渦中に巻き込まれたのか。
あれから、どこからか圧力がかかり、左遷か死ぬかを選ばされた。もちろん左遷だ。バカか。
今は辺境の地で雑用係だ。
前みたいに、サボったりできないけど、今の生活もまぁまぁいいんじゃねーか。
あの時、これしかダメ、と言ったあの女の気持ちなんかわかんねー。
あそこまで想われておいて、違う男の名前を呼び続けるなんて、なんて女だ、って今でも思う。
けど、
いつからまともだったのか分かんねーけど、処刑前日でさえ、アイツは自分の名前を呼ばれたら、それこそ柵を壊そうと必死になったんじゃねーかな。そうなったら即刻死刑だ。それを避けようとした…
前日のアイツも、無いなって断言してた。なんでアイツあんなにはっきり言えたんだ?もしかして狂ってねーの分かってた、り…?
「ってのは、考えすぎ、か」
オレはもう牢屋の門番じゃねえ。
でも、それでも。
1週間通い詰めたアイツに。
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