婚約破棄のその先は

フジ

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婚約してからの私たち

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あの日から私はあの人のそばに居て微笑みかけられるだけでいいと思ってたし、まさか婚約が出来るだなんて思ってもいなかった。


あの夜から人々の間で私達のことは噂になり、それがお父様の耳に入ったのだ。


お父様からあの人への気持ちを聞かれ、あの方は知らないことですが、お慕いしております。と伝えた時はドキドキしすぎて、涙さえ出てきた。そうか…とお父様が悲しそうにしていたのが気になったけれど、その後に、あちらと話しをしてみようか?と言ってくれました。


そして2回目にあの人と会った時に、泣いてしまった。
あの日から夢に出ない日がなく、何をしててもあの方のことを考えるようになっていたから。
私の人生はあの人でいっぱいになってしまっていた。

突然泣いてしまった私にあの人は、少し狼狽えながら大丈夫ですか?とハンカチで目元を抑えてくれた。
その優しさにまた涙が出てきて、思わず、掠れた声で好きです、あなたが好きなのです…と伝えた。
この告白であの人が困っても仕方ないことで、もう2度と会えなくても構わないとまで思った。

申し訳ございません、と言う言葉は、あの人が私を抱き締めたことでさえぎられた。
私も貴女が好きです、と耳元で囁かれ、強く、強く抱かれ、私は涙を止めることをやめた。



婚約してからの私は見事に浮かれていた。
朝起きてあの人も起きたのかしらと考え、家庭教師と勉強した後のお茶の最中でもあの人は今お家で休んでいますわね後で伺うのは失礼かしら、と思う。
他の令嬢からお茶会に誘われたときに家の近くを通っただけでも、そわそわして髪の毛を無駄に整えたり、なんて話しかけようか、などと不毛なことを考えた。

会える日はあの人好みのドレスを着て、あの人が好きだと言った装飾品を身につけ、殿方が好みそうな話題を頭に入れる。
あの優しくてそれでいてスマートなあの方の横にあるためには生半可な令嬢ではいられないと思い身のこなし方や話し方を練習した。
今では社交界の華だと言われ、女性からは羨望の眼差しで見られ、男性からは秘密裏に手紙やプレゼントが届く。

でも、そんなことはささいなことで。

あの人が私を美味しいと有名なお菓子屋さんに連れていってくれた時や庭の素敵な花を帰りに包んで渡してくれたことも。


全てが輝いていて私をドキドキさせた。

私のことを大切に思っているよ、愛していると仰ってくれた時はもう天にも上る気持ちで。


大好きなあの人が私の旦那様になるだなんて、と毎日が幸せだった。
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