婚約破棄のその先は

フジ

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そして私たちは

ごめんなさい、でも私はもうー

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「アンジー!!」

友人のお茶会に参加しようと、馬車で門を通過しようとした時にあの人の声がした。

離れなさい!という我が家の門番と執事の声がする。
アンジェ、アンジー!と喉が千切れそうなほどの声量で、あの人は叫んでいる。
その愛していた人の悲痛な声に、思わず唇を噛んでしまって、隣に座っていたお母様がそれに気付いて肩を抱いてくれた

「大丈夫よ、母が居ますからね」

ありがとう、とも、私は大丈夫です、とも言えずに、ただ涙が溢れないように目に力を入れる。


私が望んだことなのに。

お母様の痛ましげな視線に少しだけ居心地が悪くて。

もう聞こえなくなったはずのあの人の声がまだ耳に届いている気がして、耳を塞ぎたくなる。



ユーリ様、本当にごめんなさい。








「では、婚約は破棄なされたのですか?」

少し集団から離れたところで、友人のスーザンに婚約を破棄したことを伝える。

「ええ、少し事情がかわってしまって」

淑女として完璧に微笑むけれど、この友人には通じない。口元が笑えてませんよ、と逆に微笑まれた。

「いいんじゃありませんの?正直、わたくしはホッとしております」

スーザンは私の友人であり、お兄様の婚約者だ。2人は政略結婚だと聞いているが仲睦まじく、妹の私から見てもすごく良い関係だ。時々ものすごい喧嘩をするけれどー。

ーお兄様から私のことを聞いていたのかしらー。

お母様の気遣いでも感じた、意味のわからない気持ち悪さが絡みついた。でもそれをどのような気持ちかと言われたら分からない。
でも、自分のいないところで自分の話をされることに少し居心地が悪かった。
これまでそのようなこと気にしたことなかったはずなのにー。

そのような気持ちを見透かしたのか、スーザンは持っていた扇子を広げた。
レース越しに彼女の悲しく歪んだ口元が透けて見えた。

「わたくしは何も知らないのですがアンジェ様が何かを悩み苦しんでいるのは分かります。…何年の付き合いだと思っておりますの」

「…そうですわね、ごめんなさい」

静かな怒りを感じて、素直に謝る。
確かにこの友人は、陰でコソコソと聞くことはしない。何かあれば直接聞いてくるだろう。

ーここまで人のことを信じられなくなっていますのね。


友人に気を使わせてしまったことに申し訳なく思いながら、また、ごめんなさいと謝った。


「それに、周りで噂されているようなことは信じておりませんのであしからず」



その言葉に自嘲気味に笑ってしまう。



これまで完璧な淑女として生きてきた。
それがこんなに脆く崩れ去ってしまうなんて。


ヴェルファン家のお嬢様はとんだ我が儘でルーブル家の三男を弄びこっぴどく振った
婚約をもちかけてきたのに、勝手な都合で破棄されてしまった。


主にこのような噂が立ってしまった。
1つ目はあり得ないとばかりに家族が猛反発した。
でも2つ目は事実無根でないところが、反論を弱らせてしまう。
ヴェルファン家は噂に後手後手に回ってしまい、2人の婚約を認めた王家の面目を潰してしまう形になってしまった。それによってヴェルファン家の立場が危うくなっていた。しかも、のだ。ヴェルファン家の当主もその妻も娘の心情を汲んで水面下で動こうとしたのがまずかった。
そのような情報操作はルーブル家が上手だったー。
気付いた時にはもう貴族中に広がっていて、王宮にも噂が届いていた。
明らかにルーブル家がかんでいたが証拠が無いため公には攻められないのが歯がゆかった。

何せ噂というのは、人から人に伝わるもので誰が最初に話したかなんて分からない。しかもそれは悪意によるものだ、誰も私は知らないとばかり言う。
そしていつも悪意にさらされているアンジェは格好の餌食だったー。



私は、軽率だったわー。

あの人は私のことも大切に扱っていたのに耐えれなくなってしまって、逃げ出してしまった。

こんなに家族が責められて、迷惑かけるなら、破棄なんてするのではなかっーーー



「自分を責めてはダメよ」


思わず目を伏せてしまうスーザンの言葉に、顔をあげる。その真っ直ぐな視線に今の不安定な気持ちを見透かされそうだった。

「貴方は悪くないわ」

その力強さに涙がこみ上げてくる。

「貴方の家族は誰も後悔はしておりません、アラン様も心配されてましたよ」

その言葉にハッとする
そうだしっかりしなければ。
婚約破棄する前もした後も家族から一度も責められなかった。いつもいつも私のことを心配してくれたー。

この目の前の友人も私のことを案じている。
このお茶会でも私を1人にせず、周りが何かヒソヒソと言い始めたらさりげなくそこから離れさせてくれた。




大切な人達。
その人達のために、私はー。








正直まだユーリ様のことは辛い。



あの人に好かれたくて悩んで、でも会うだけで楽しくて、笑って、心地よくて全てが輝いていた。



その時に戻ってほしいと、時々思うし今でも夢見る。





ーでも、




あれだけ心を痛めて、毎日泣いて傷ついて。




その度に家族や周囲を心配させてきた。







私はヴェルファン家の長女。





ー周りが見えなくなるのは、これでおしまい





引きずるのはもうやめだ





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