婚約破棄のその先は

フジ

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これからのわたしは

これで最後

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「フィーン先生、フィーーン!」

後ろから5歳くらいの小さな男の子が走ってくる。

背中に突進してくるのが、最近のこの男の子のブームだが、いかんせんもう先生は歳で、この間ぶつかられたら腰が痛んで、あいつには迷惑がかかった。

ーまぁそん時はこいつの母親がめちゃくちゃ怒って、謝りにきたっけな

フィンはすい、と避けると、バランスを崩した男の子の首根っこを掴んだ。

「もう俺も歳だからやめろ、また母さんに尻ペンペンされて怒られんぞ」

「~っ!言うなよ!ムカつく!フィン先生が弱いのがわりーんだよ!」

「生意気いうな、この」

そのまま手を離してやる。男の子はべちゃ、と地面にぶつかった。

いってぇぇぇぇ!
自業自得だ、と会話する2人に周りはまたか、とクスクス笑っている。

「アンジーもなんでこんなヤツと…」

「おい、アンジーって呼んでいいのは俺だけだ。お前はアンジェさんって呼べ。クソガキ」


ほれ、飴やるよ、と差し出した。

去年長年吸ってたタバコをやめた。その代わりに飴を舐めるようになった。
それをあいつは微笑んで、わたしもください、と笑ってくれる。


「母ちゃんが、もうすぐだっ「それを先に言えよ!」

おい、背中にこい、おぶるぞ!と先生は言うも、男の子はいや腰がいてーんだろ、と妙に遠慮する。
そんな男の子を無理やり、背中にぶん投げしがみつかせると、家に走り出した。





ゴチーーン!と男の子はゲンコツを落とされて、またいてえええええ!と叫んだ。

呼びに行かせたのはもっと前だよね、早く帰ってこなかった理由を聞かせてもらおうか、と金髪美女ーシルフィは笑いながら息子を見た。その目は笑ってなくて、男の子も母ちゃん怖え…とつぶやき、生気をなくし、逃げようとしたのを捕まえられた。

「先生もどこまで行ってたの。もうとっくに産まれたよ」
「わ、わりぃ。治療が長引いてーこれ、買いに行ってた」

と医療バックから取り出したのは、ファンシーな産着とおくるみ。

ぶふぅ!とシルフィと男の子は噴き出して、お腹をかかえて笑った。
こんな強面の先生がこれを買ってくるとか、ほんと面白すぎる

「あははっ、それは可愛らしいね。…よかったね、おめでとう。さ、中に早く入ってやってよ」


あたしらはちょっと片付けてくるから。と出産の際に使ったシーツなどを持つ。

ありがとうな、と先生は部屋に入ぅた。


さ、片付け手伝ってくれる?とシルフィは息子に聞くと、母ちゃんはお腹をいたわれ!と男の子にシーツをひったくられた。
キョトンとすると、父ちゃんにまた怒られんぞ!とプンプンと先に歩く息子に笑ってしまう。

こんなに大きくなったのか。とじんわり心が温かくなるのが分かる。

ふふ、なーまいき、でもありがとう、と大きなお腹をさすり、シーツの重さでふらふらしている息子に笑った。




ーーパタン。


目の前に座って、小さなおくるみを抱えているあいつがいる。廊下での会話が聞こえていたのだろう。
クスクスと笑って、走ってきてくださったのね、と言った。

「ぁあ、近くに寄ってもいい、のか」

窓からサンサンとお日様が入り、アンジェと産まれたばかりの赤子を照らす。

キラキラと銀色の髪が広がって、赤子を抱き、その表情は愛しさと慈しみがあふれていた。


ー神々しい光景に、呑まれた。
そんなたじろぐフィンにクスクスとアンジェは笑った

「近寄ってくださいー。私達の子ですよ」

すぐに鞄を下ろし、汚い白衣を脱いで、手もゴシゴシ洗う。

「これ、買ってきた…女の子だと、なんか感じて」

ベットの近くにより、ひらひらの産着とおくるみを見せる。ありがとうございます、手にとって見たいので、この子を抱っこしてくれませんか?と微笑んだ。

「な、俺がか、?」
「他に誰がいますの?」
「俺はー」

こんな弱々しくて、小さくて、頼りない存在。怖くて抱けない、と力なく言うも、アンジェは何を仰いますか、それは私も同じです。
と、フィンに抱っこの仕方を見せて、抱かせた

「軽いー」

「そうですね」

「温かいー」

「そうですね」

「すごい、」

「そうですね」

「本当に、すごい、すごい」



これまで2人は何十人もの死を診てきた。死は虚しくて、何かを擦り減らして次の死と向き合っていた。

それがー。

生の誕生は、こんなにも尊いことで、満たされるのか。


「ありがとう、産んでくれて、ありがとう、産まれてきてくれて、ありがとうー」


ポツリと先生は呟きポタポタと水滴が溢れる
それを、アンジェは心地よく聞いて、そして涙が流れた。


「私こそー…本当にありがとうございます。貴方と、それからこの子のこと…心から愛しています」



赤子をアンジェに戻し、2人は目を合わし、2人とも泣いてることに笑って、少しだけ唇を合わせた。




そして、どちらともなくー





愛してる、と囁いた。






ーーfinーー
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