復縁マニュアル

シルビア

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2人の世界

全力疾走

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 その日は講義があったので、大学へ行った。午前中は、希に返信するのを、すっかり忘れていた。
 午前の講義が終わり、大学の先輩と食堂に向かっていたところだった。

 希からメールが届いた。

 (ばいばい)

 虫の知らせというやつだろうか、いやもう文面から、嫌な予感しかしない。胸が苦しくなる。
 急いで希に電話をかける。

(プルルルルル、プルルルルル)

 「ん…」

 希が電話に出た。

 「もしもし、メールどうした!ってか返信してなくてごめん!」

 「……んん?…ん…」

 希の様子が、おかしい。

 「寝起き?」

 健は、怪訝そうに尋ねた。

 「す…すい…すいみんやく…の…んだ」

 「ええ!?おい!どれだけ飲んだ!どこで手に入れたの!?」

 「…ひ…とは…こ」

 背中が冷える、首が重い、まじか…まじか…

 「どこで買ったんだ!?」

 「や…きょ…」

 先輩が、戸惑った様な驚いた顔で、こっちを凝視している。
 周りの人も、こっちを見ている。
 健は、意外にも冷静だった。

 「自宅の電話番号!教えて!電話番号!しっかりしろ!」

 「0X…X……XX…X……#%…」

 「0XX-XXXの次は!?頑張れ!起きろ!で・ん・わ・ば・ん・ご・う!」

 「X……ん…X……」

 「頑張れ!続けろッ!つ・づ・け・て!!!」

 「…X……ん…X……う…ん」

 「0XX-XXX-XXXXやな!?合ってる!?頑張れ!住所は!?」

 「…う…ん…Y町………」

 「Y町の次!次はなんや!頑張れ!頼むから…」

 「2の…14…」

 「2-14!合ってるか!」

 「3…」

 「2-14-3やな?合ってるか?合ってる?」

 「…ん…」

 「待ってろ!」

 健は、すぐさまメモを取りながら、電話を切った。
 間髪入れずに、希の自宅に電話を掛ける。

 (プルルルルル…プルルルルル…プルルルルル…プルルルルル…)

 だめだ、何度鳴らしても出ない。たしか希のお母さんは、パートをしてたっけ。
 くそ、パートで不在なのか…

 すぐに気持ちを切り替え、119番に通報する。

 「もしもし。事件ですか?事故ですか?」

 落ち着いたトーンで、電話先の職員の声が聞こえた。

 「事故です!友人なんですが、今睡眠薬を大量に飲んだと電話を受けましてッ!」

 「なんの薬を飲んだのか、どれくらいの量を飲んだのか分かりますか?」

 「恐らく市販の薬を飲んだと言っていたと思います!一箱と言っていました!」

 「ご友人とのことですが、ご友人のお名前、ご友人の連絡を取れるご家族の方はいらっしゃいますか?又、ご友人のご家族の連絡先等分かりますか?」

 「友人は山下希です。自宅の電話番号が0XX-XXX-XXXXで!自宅の住所がZ市中区Y町の2-14-3です!電話はコール音だけで…繋がりませんでした…」

 「分かりました。救急車の手配をします。念のため、あなたのお名前と連絡先を教えてください。」

 健は、自分の名前と連絡先を伝え、電話を切った。

 「先輩!すいません!彼女が…昨日彼女と昨日喧嘩して…睡眠薬飲んだって…だから…」

 先輩が、察した様に言ってくれた。
 
 「おお…彼女のところに早く行ってあげな。こっちのことは気にすんなよ」

 健は、走った。
 大学の最寄り駅に。全力疾走で。
 息が上がる。でも関係ない。

 電車に飛び乗る。
 まだか…早く早く…少しでも早く…希の所へ…
 しかし、希の家に行くにも足がない事に気がつく。
 行けないわけではないが、15分以上かかってしまう。
 どうしよう、どうしよう。誰かいないか。
 ふと、バイト先のとても仲のいい先輩の顔が浮かぶ。かおりさんだ。
 いつも2人のことを、笑顔で応援してくれる。
 かおりさんに電話をする。

 「健くんどーしたん?」

 かおりさんが電話に出てくれた。
 若干慌てながらも、必死に事の顛末を説明する。

 「救急車呼んだんですけど、足がなくて…助けてくれませんか!?」

 「わかった!車ですぐ行くな!どこ行ったらいいん?」

 「Y駅です!ありがとうございます!」

 ああ…かおりさん本当に助かった…
 あと最寄り駅まで数分となったところだった。健の携帯に電話があった。

 「こちらY町消防の者ですが、川添健さんですか?」

 「はい、そうです!」

 「山下希さんのご自宅に伺ったのですが、ご家族の方…希さんのお母様ですね。お母様の方からお断りされてしまいまして…一度署の方に戻ることになりました。」

 「ええ…?睡眠薬を一箱も飲んだんですよ?早くしないと…」

 周りの乗客が、半笑いで、でも怪訝そうな顔でこちらを見ている。
 事件があった時の、野次馬ってこんな顔をしているんだろうか。

 「こちらも、今回の様なケースですと、ご家族の同意が無いと緊急搬送致しかねまして…」

 なんでやねん…なんでやねん…希が死んでしまうかもしれない…健はもう何も考えられなかった。
 
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