7 / 16
機嫌なおしておくれよ
しおりを挟む
もうどこにも花火は売っていなかった。もう9月。そりゃそうだ。
「花火売ってないねー。」
「まぁ9月だしなぁ。」
「なんでだよー。置いといてくれよー。気温的にはまだまだ夏なんだからさ~。」
「まぁ気温的にはな。」
僕らはポケットに手を突っ込んで、横並びでトボトボと北千住の街を歩いていた。少し俯いた君をチラッと見る。明らかにショックを受けて拗ねているようだ。暫く歩いて諦めたかに思えたところで、名案が思いついたかのようにこちらに視線を向けてくる。
「ねぇ徹。通販する? 通販なら買えるんじゃない?」
「通販で売ってるの? 一応爆発物じゃない?」
※実際には普通に通販で買えます。楽天やYahoo shoping等にも普通にあります。
「いや、あるんじゃないの? 無きゃ夏終われないよ?」
潤んだ瞳で見つめてくる。彼女の得意技なのだろうか。
「またその顔する~。」
「だって花火したいんだもん。」
「まぁ俺も話してたら、だんだんそんな気持ちにはなってきたなぁ。」
「でしょ? じゃあ、通販で調べてみよ! はい! 徹! スマホ出して!」
「自分の使えばいいじゃん。」
「残念。バッテリー切れなんだなこれが。トホホだよ。」
「お前はリカか。」
「サトミちゃんの方が良かった? はい! 出して! 出して!」
彼女に急かされ、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「うーん。でもさ、通販で買うってのもなんか味気無いよね。」
「味気?」
「雰囲気というかさ。店頭で見てけてさ、手に取ってレジに持っていくときのワクワク感みたいな。」
「あー。なんかちょっと分かるかも。味気がないねぇ~。」
「だろ。」
「どこかで奇跡的に売っててくれないかなぁ。」
「うーん。」
立ち止まり考え込む二人。腕を組み、頭を傾けて難しい顔をしている二人。続く沈黙。今思うと、なかなかシュールな絵面だったと思う。
考えに考えた結果、僕は一つ名案を思いついた。というより、思い出した。
「あ。ちょっと待って。俺売ってる所知ってるかも。」
「えー。どこどこ?」
「内緒。」
「そんな勿体振らずに教えてよー。ケチー。」
「行ってみれば分かるよ。」
「え。今から行けるの?」
腕時計をチラッと見る。時刻は土曜日の17時を回るところだった。
「うーん。今日はちょっと厳しいかも。明日行かない?」
「うー。分かった。」
ちょっと膨れたような顔をして、彼女は頷いた。
翌日は雨だった。小雨と大雨の丁度中間くらいの雨だった。言うまでもなく彼女のテンションはどん底だ。それでもなんとか連れ出して、僕らは浅草橋へ向かった。
浅草橋は昔から花火問屋が多く、一般客にも小売してくれることで有名なのだ。僕らは北千住から、乗り慣れないつくばエクスプレスに乗り込み秋葉原へ。そこから総武線に乗り換え浅草橋に向かった。
浅草橋の駅を降りると、雨は小雨に変わっていた。傘を差すか、差さないか迷ってギリ刺すくらいの雨だった。雲の色も幾分か明るくなった気がする。彼女のテンションも少し上がった気がする。僕らは駅を出て長谷川商店へ向かった。
※長谷川商店は浅草橋で有名な花火問屋の1つです。
「浅草橋で花火買えるの?」
「うん。買えるのよ~。これが。」
彼女が不思議そうにこちらを見つめてくる。
「浅草橋はね、手芸用品とか玩具問屋とかで有名なんだけどね、花火の街としても有名なのよ。花火問屋が沢山あるんだ。」
「わー!そうなんだぁ。」
たちまち彼女の顔に笑みが浮かぶ。傘の中を照らすお日様のように。夜空に咲いた花火のように。
「ねぇ徹。どんな花火売ってるかなぁ?」
「色んなのあると思うよ。花火問屋だし。」
「そっか。楽しみだなぁ。」
「だからといって、打ち上げ花火とかロケット花火はやめとけよ。やる所ないから。」
「まぁ確かにそうだよね。分かった。あ。私いいこと思い付いた!」
「いいことって?」
「内緒。へへへへ。」
悪戯な笑みが漏れる。いや、何かを企んでる風にも見える。いや、完全に何かを企んでいる。何が来るのか。怖い怖い。
長谷川商店は大通り沿いにあった為、迷わずすんなり辿り着けた。お店に入るや否や、思った通りのリアクションを彼女は見せる。
「わぁ。凄ーい。」
目がキラキラするというのは、こういう時の為にあるんじゃないかと思うほど、彼女は目を輝かせた。
「こんなに沢山の花火初めて見たよ。花火ってこんなに沢山の種類があるんだね。」
「そうだね。俺も知ってはいたけど、実際見ると違うね。圧巻の迫力だね。」
長谷川商店は一本からバラ売りで販売しているのだが、あまりの種類に選びきれず僕らは隅にあったファミリーパックを手に取った。
「あ。ねぇ徹。一つだけバラで買っていい?」
「うん。いいけど、何買うの?」
「じゃじゃーん!」
そう言って彼女が持ってきたのは、大量の線香花火だった。
「おー。マジか。」
「へへへ。」
企んでいたのはこれか。間違いない。
「てか、こんなに出来るの?」
「おっきいの作るの。」
「いやいや、無茶だろ。」
「いいの!作るの!」
ファミリーパックと大量の線香花火を購入し、お店を後にした。
帰りには雨は上がっていたのだが、じめっとした空気が嫌で、花火は翌週に持ち越しとなった。彼女の機嫌が再び急降下する。でも、ここは浅草橋。都営浅草線で2駅行けばそこは浅草。飲み屋が沢山ある浅草だ。そのことを彼女に伝えれば、きっと直ぐにでも機嫌は戻るだろう。でも、僕はもう少し彼女の膨れっ面を眺めて居たかった。″機嫌なおしておくれよ″なんて言いながら。
To be continued.
Next story→『サーカスナイト』
「花火売ってないねー。」
「まぁ9月だしなぁ。」
「なんでだよー。置いといてくれよー。気温的にはまだまだ夏なんだからさ~。」
「まぁ気温的にはな。」
僕らはポケットに手を突っ込んで、横並びでトボトボと北千住の街を歩いていた。少し俯いた君をチラッと見る。明らかにショックを受けて拗ねているようだ。暫く歩いて諦めたかに思えたところで、名案が思いついたかのようにこちらに視線を向けてくる。
「ねぇ徹。通販する? 通販なら買えるんじゃない?」
「通販で売ってるの? 一応爆発物じゃない?」
※実際には普通に通販で買えます。楽天やYahoo shoping等にも普通にあります。
「いや、あるんじゃないの? 無きゃ夏終われないよ?」
潤んだ瞳で見つめてくる。彼女の得意技なのだろうか。
「またその顔する~。」
「だって花火したいんだもん。」
「まぁ俺も話してたら、だんだんそんな気持ちにはなってきたなぁ。」
「でしょ? じゃあ、通販で調べてみよ! はい! 徹! スマホ出して!」
「自分の使えばいいじゃん。」
「残念。バッテリー切れなんだなこれが。トホホだよ。」
「お前はリカか。」
「サトミちゃんの方が良かった? はい! 出して! 出して!」
彼女に急かされ、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「うーん。でもさ、通販で買うってのもなんか味気無いよね。」
「味気?」
「雰囲気というかさ。店頭で見てけてさ、手に取ってレジに持っていくときのワクワク感みたいな。」
「あー。なんかちょっと分かるかも。味気がないねぇ~。」
「だろ。」
「どこかで奇跡的に売っててくれないかなぁ。」
「うーん。」
立ち止まり考え込む二人。腕を組み、頭を傾けて難しい顔をしている二人。続く沈黙。今思うと、なかなかシュールな絵面だったと思う。
考えに考えた結果、僕は一つ名案を思いついた。というより、思い出した。
「あ。ちょっと待って。俺売ってる所知ってるかも。」
「えー。どこどこ?」
「内緒。」
「そんな勿体振らずに教えてよー。ケチー。」
「行ってみれば分かるよ。」
「え。今から行けるの?」
腕時計をチラッと見る。時刻は土曜日の17時を回るところだった。
「うーん。今日はちょっと厳しいかも。明日行かない?」
「うー。分かった。」
ちょっと膨れたような顔をして、彼女は頷いた。
翌日は雨だった。小雨と大雨の丁度中間くらいの雨だった。言うまでもなく彼女のテンションはどん底だ。それでもなんとか連れ出して、僕らは浅草橋へ向かった。
浅草橋は昔から花火問屋が多く、一般客にも小売してくれることで有名なのだ。僕らは北千住から、乗り慣れないつくばエクスプレスに乗り込み秋葉原へ。そこから総武線に乗り換え浅草橋に向かった。
浅草橋の駅を降りると、雨は小雨に変わっていた。傘を差すか、差さないか迷ってギリ刺すくらいの雨だった。雲の色も幾分か明るくなった気がする。彼女のテンションも少し上がった気がする。僕らは駅を出て長谷川商店へ向かった。
※長谷川商店は浅草橋で有名な花火問屋の1つです。
「浅草橋で花火買えるの?」
「うん。買えるのよ~。これが。」
彼女が不思議そうにこちらを見つめてくる。
「浅草橋はね、手芸用品とか玩具問屋とかで有名なんだけどね、花火の街としても有名なのよ。花火問屋が沢山あるんだ。」
「わー!そうなんだぁ。」
たちまち彼女の顔に笑みが浮かぶ。傘の中を照らすお日様のように。夜空に咲いた花火のように。
「ねぇ徹。どんな花火売ってるかなぁ?」
「色んなのあると思うよ。花火問屋だし。」
「そっか。楽しみだなぁ。」
「だからといって、打ち上げ花火とかロケット花火はやめとけよ。やる所ないから。」
「まぁ確かにそうだよね。分かった。あ。私いいこと思い付いた!」
「いいことって?」
「内緒。へへへへ。」
悪戯な笑みが漏れる。いや、何かを企んでる風にも見える。いや、完全に何かを企んでいる。何が来るのか。怖い怖い。
長谷川商店は大通り沿いにあった為、迷わずすんなり辿り着けた。お店に入るや否や、思った通りのリアクションを彼女は見せる。
「わぁ。凄ーい。」
目がキラキラするというのは、こういう時の為にあるんじゃないかと思うほど、彼女は目を輝かせた。
「こんなに沢山の花火初めて見たよ。花火ってこんなに沢山の種類があるんだね。」
「そうだね。俺も知ってはいたけど、実際見ると違うね。圧巻の迫力だね。」
長谷川商店は一本からバラ売りで販売しているのだが、あまりの種類に選びきれず僕らは隅にあったファミリーパックを手に取った。
「あ。ねぇ徹。一つだけバラで買っていい?」
「うん。いいけど、何買うの?」
「じゃじゃーん!」
そう言って彼女が持ってきたのは、大量の線香花火だった。
「おー。マジか。」
「へへへ。」
企んでいたのはこれか。間違いない。
「てか、こんなに出来るの?」
「おっきいの作るの。」
「いやいや、無茶だろ。」
「いいの!作るの!」
ファミリーパックと大量の線香花火を購入し、お店を後にした。
帰りには雨は上がっていたのだが、じめっとした空気が嫌で、花火は翌週に持ち越しとなった。彼女の機嫌が再び急降下する。でも、ここは浅草橋。都営浅草線で2駅行けばそこは浅草。飲み屋が沢山ある浅草だ。そのことを彼女に伝えれば、きっと直ぐにでも機嫌は戻るだろう。でも、僕はもう少し彼女の膨れっ面を眺めて居たかった。″機嫌なおしておくれよ″なんて言いながら。
To be continued.
Next story→『サーカスナイト』
0
あなたにおすすめの小説
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。当時、実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がおり、結婚後に生まれた真由子は、異母妹にあたる。
稚子と話をしているうちに、庭の白椿の木は子どもの頃、真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
