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機嫌なおしておくれよ
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もうどこにも花火は売っていなかった。もう9月。そりゃそうだ。
「花火売ってないねー。」
「まぁ9月だしなぁ。」
「なんでだよー。置いといてくれよー。気温的にはまだまだ夏なんだからさ~。」
「まぁ気温的にはな。」
僕らはポケットに手を突っ込んで、横並びでトボトボと北千住の街を歩いていた。少し俯いた君をチラッと見る。明らかにショックを受けて拗ねているようだ。暫く歩いて諦めたかに思えたところで、名案が思いついたかのようにこちらに視線を向けてくる。
「ねぇ徹。通販する? 通販なら買えるんじゃない?」
「通販で売ってるの? 一応爆発物じゃない?」
※実際には普通に通販で買えます。楽天やYahoo shoping等にも普通にあります。
「いや、あるんじゃないの? 無きゃ夏終われないよ?」
潤んだ瞳で見つめてくる。彼女の得意技なのだろうか。
「またその顔する~。」
「だって花火したいんだもん。」
「まぁ俺も話してたら、だんだんそんな気持ちにはなってきたなぁ。」
「でしょ? じゃあ、通販で調べてみよ! はい! 徹! スマホ出して!」
「自分の使えばいいじゃん。」
「残念。バッテリー切れなんだなこれが。トホホだよ。」
「お前はリカか。」
「サトミちゃんの方が良かった? はい! 出して! 出して!」
彼女に急かされ、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「うーん。でもさ、通販で買うってのもなんか味気無いよね。」
「味気?」
「雰囲気というかさ。店頭で見てけてさ、手に取ってレジに持っていくときのワクワク感みたいな。」
「あー。なんかちょっと分かるかも。味気がないねぇ~。」
「だろ。」
「どこかで奇跡的に売っててくれないかなぁ。」
「うーん。」
立ち止まり考え込む二人。腕を組み、頭を傾けて難しい顔をしている二人。続く沈黙。今思うと、なかなかシュールな絵面だったと思う。
考えに考えた結果、僕は一つ名案を思いついた。というより、思い出した。
「あ。ちょっと待って。俺売ってる所知ってるかも。」
「えー。どこどこ?」
「内緒。」
「そんな勿体振らずに教えてよー。ケチー。」
「行ってみれば分かるよ。」
「え。今から行けるの?」
腕時計をチラッと見る。時刻は土曜日の17時を回るところだった。
「うーん。今日はちょっと厳しいかも。明日行かない?」
「うー。分かった。」
ちょっと膨れたような顔をして、彼女は頷いた。
翌日は雨だった。小雨と大雨の丁度中間くらいの雨だった。言うまでもなく彼女のテンションはどん底だ。それでもなんとか連れ出して、僕らは浅草橋へ向かった。
浅草橋は昔から花火問屋が多く、一般客にも小売してくれることで有名なのだ。僕らは北千住から、乗り慣れないつくばエクスプレスに乗り込み秋葉原へ。そこから総武線に乗り換え浅草橋に向かった。
浅草橋の駅を降りると、雨は小雨に変わっていた。傘を差すか、差さないか迷ってギリ刺すくらいの雨だった。雲の色も幾分か明るくなった気がする。彼女のテンションも少し上がった気がする。僕らは駅を出て長谷川商店へ向かった。
※長谷川商店は浅草橋で有名な花火問屋の1つです。
「浅草橋で花火買えるの?」
「うん。買えるのよ~。これが。」
彼女が不思議そうにこちらを見つめてくる。
「浅草橋はね、手芸用品とか玩具問屋とかで有名なんだけどね、花火の街としても有名なのよ。花火問屋が沢山あるんだ。」
「わー!そうなんだぁ。」
たちまち彼女の顔に笑みが浮かぶ。傘の中を照らすお日様のように。夜空に咲いた花火のように。
「ねぇ徹。どんな花火売ってるかなぁ?」
「色んなのあると思うよ。花火問屋だし。」
「そっか。楽しみだなぁ。」
「だからといって、打ち上げ花火とかロケット花火はやめとけよ。やる所ないから。」
「まぁ確かにそうだよね。分かった。あ。私いいこと思い付いた!」
「いいことって?」
「内緒。へへへへ。」
悪戯な笑みが漏れる。いや、何かを企んでる風にも見える。いや、完全に何かを企んでいる。何が来るのか。怖い怖い。
長谷川商店は大通り沿いにあった為、迷わずすんなり辿り着けた。お店に入るや否や、思った通りのリアクションを彼女は見せる。
「わぁ。凄ーい。」
目がキラキラするというのは、こういう時の為にあるんじゃないかと思うほど、彼女は目を輝かせた。
「こんなに沢山の花火初めて見たよ。花火ってこんなに沢山の種類があるんだね。」
「そうだね。俺も知ってはいたけど、実際見ると違うね。圧巻の迫力だね。」
長谷川商店は一本からバラ売りで販売しているのだが、あまりの種類に選びきれず僕らは隅にあったファミリーパックを手に取った。
「あ。ねぇ徹。一つだけバラで買っていい?」
「うん。いいけど、何買うの?」
「じゃじゃーん!」
そう言って彼女が持ってきたのは、大量の線香花火だった。
「おー。マジか。」
「へへへ。」
企んでいたのはこれか。間違いない。
「てか、こんなに出来るの?」
「おっきいの作るの。」
「いやいや、無茶だろ。」
「いいの!作るの!」
ファミリーパックと大量の線香花火を購入し、お店を後にした。
帰りには雨は上がっていたのだが、じめっとした空気が嫌で、花火は翌週に持ち越しとなった。彼女の機嫌が再び急降下する。でも、ここは浅草橋。都営浅草線で2駅行けばそこは浅草。飲み屋が沢山ある浅草だ。そのことを彼女に伝えれば、きっと直ぐにでも機嫌は戻るだろう。でも、僕はもう少し彼女の膨れっ面を眺めて居たかった。″機嫌なおしておくれよ″なんて言いながら。
To be continued.
Next story→『サーカスナイト』
「花火売ってないねー。」
「まぁ9月だしなぁ。」
「なんでだよー。置いといてくれよー。気温的にはまだまだ夏なんだからさ~。」
「まぁ気温的にはな。」
僕らはポケットに手を突っ込んで、横並びでトボトボと北千住の街を歩いていた。少し俯いた君をチラッと見る。明らかにショックを受けて拗ねているようだ。暫く歩いて諦めたかに思えたところで、名案が思いついたかのようにこちらに視線を向けてくる。
「ねぇ徹。通販する? 通販なら買えるんじゃない?」
「通販で売ってるの? 一応爆発物じゃない?」
※実際には普通に通販で買えます。楽天やYahoo shoping等にも普通にあります。
「いや、あるんじゃないの? 無きゃ夏終われないよ?」
潤んだ瞳で見つめてくる。彼女の得意技なのだろうか。
「またその顔する~。」
「だって花火したいんだもん。」
「まぁ俺も話してたら、だんだんそんな気持ちにはなってきたなぁ。」
「でしょ? じゃあ、通販で調べてみよ! はい! 徹! スマホ出して!」
「自分の使えばいいじゃん。」
「残念。バッテリー切れなんだなこれが。トホホだよ。」
「お前はリカか。」
「サトミちゃんの方が良かった? はい! 出して! 出して!」
彼女に急かされ、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「うーん。でもさ、通販で買うってのもなんか味気無いよね。」
「味気?」
「雰囲気というかさ。店頭で見てけてさ、手に取ってレジに持っていくときのワクワク感みたいな。」
「あー。なんかちょっと分かるかも。味気がないねぇ~。」
「だろ。」
「どこかで奇跡的に売っててくれないかなぁ。」
「うーん。」
立ち止まり考え込む二人。腕を組み、頭を傾けて難しい顔をしている二人。続く沈黙。今思うと、なかなかシュールな絵面だったと思う。
考えに考えた結果、僕は一つ名案を思いついた。というより、思い出した。
「あ。ちょっと待って。俺売ってる所知ってるかも。」
「えー。どこどこ?」
「内緒。」
「そんな勿体振らずに教えてよー。ケチー。」
「行ってみれば分かるよ。」
「え。今から行けるの?」
腕時計をチラッと見る。時刻は土曜日の17時を回るところだった。
「うーん。今日はちょっと厳しいかも。明日行かない?」
「うー。分かった。」
ちょっと膨れたような顔をして、彼女は頷いた。
翌日は雨だった。小雨と大雨の丁度中間くらいの雨だった。言うまでもなく彼女のテンションはどん底だ。それでもなんとか連れ出して、僕らは浅草橋へ向かった。
浅草橋は昔から花火問屋が多く、一般客にも小売してくれることで有名なのだ。僕らは北千住から、乗り慣れないつくばエクスプレスに乗り込み秋葉原へ。そこから総武線に乗り換え浅草橋に向かった。
浅草橋の駅を降りると、雨は小雨に変わっていた。傘を差すか、差さないか迷ってギリ刺すくらいの雨だった。雲の色も幾分か明るくなった気がする。彼女のテンションも少し上がった気がする。僕らは駅を出て長谷川商店へ向かった。
※長谷川商店は浅草橋で有名な花火問屋の1つです。
「浅草橋で花火買えるの?」
「うん。買えるのよ~。これが。」
彼女が不思議そうにこちらを見つめてくる。
「浅草橋はね、手芸用品とか玩具問屋とかで有名なんだけどね、花火の街としても有名なのよ。花火問屋が沢山あるんだ。」
「わー!そうなんだぁ。」
たちまち彼女の顔に笑みが浮かぶ。傘の中を照らすお日様のように。夜空に咲いた花火のように。
「ねぇ徹。どんな花火売ってるかなぁ?」
「色んなのあると思うよ。花火問屋だし。」
「そっか。楽しみだなぁ。」
「だからといって、打ち上げ花火とかロケット花火はやめとけよ。やる所ないから。」
「まぁ確かにそうだよね。分かった。あ。私いいこと思い付いた!」
「いいことって?」
「内緒。へへへへ。」
悪戯な笑みが漏れる。いや、何かを企んでる風にも見える。いや、完全に何かを企んでいる。何が来るのか。怖い怖い。
長谷川商店は大通り沿いにあった為、迷わずすんなり辿り着けた。お店に入るや否や、思った通りのリアクションを彼女は見せる。
「わぁ。凄ーい。」
目がキラキラするというのは、こういう時の為にあるんじゃないかと思うほど、彼女は目を輝かせた。
「こんなに沢山の花火初めて見たよ。花火ってこんなに沢山の種類があるんだね。」
「そうだね。俺も知ってはいたけど、実際見ると違うね。圧巻の迫力だね。」
長谷川商店は一本からバラ売りで販売しているのだが、あまりの種類に選びきれず僕らは隅にあったファミリーパックを手に取った。
「あ。ねぇ徹。一つだけバラで買っていい?」
「うん。いいけど、何買うの?」
「じゃじゃーん!」
そう言って彼女が持ってきたのは、大量の線香花火だった。
「おー。マジか。」
「へへへ。」
企んでいたのはこれか。間違いない。
「てか、こんなに出来るの?」
「おっきいの作るの。」
「いやいや、無茶だろ。」
「いいの!作るの!」
ファミリーパックと大量の線香花火を購入し、お店を後にした。
帰りには雨は上がっていたのだが、じめっとした空気が嫌で、花火は翌週に持ち越しとなった。彼女の機嫌が再び急降下する。でも、ここは浅草橋。都営浅草線で2駅行けばそこは浅草。飲み屋が沢山ある浅草だ。そのことを彼女に伝えれば、きっと直ぐにでも機嫌は戻るだろう。でも、僕はもう少し彼女の膨れっ面を眺めて居たかった。″機嫌なおしておくれよ″なんて言いながら。
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