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高気圧ガール
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カーステから山下達郎が流れている。それに合わせて君が歌う。
”2000マイル飛び越えて、迎えに来たのさ
Come With Me 連れて行っておくれよ”
夏も終わりに近付き、僕と淳の仕事は順風満帆だった。新作アプリゲームのデザイナーが無事に決まり、打ち合わせを重ねて、最終確認の段階まで来ていた。後は契約書を取り交わせば、僕らの手を離れることになる。
今回僕は資料作成とメールでのやり取りがメインで、営業や接待など先方と対面でのやり取りは淳が担っていた。ほとんど淳のお手柄だろう。
「いやー。さすが淳。でも良く通ったよな。」
「この前の会合の席で分かったんだけどさ、担当の中村さんが神楽坂マイの大ファンだったんだよ。」
「ほー。あの中村さんがね。人は見かけに寄らんね。」
「で、ウチで神楽坂マイのデザイナーの仲介したことを話したら、もう乗り気になっちゃってさ。こっちとしても助かったよ。他当たらなくて良くなったんだから。」
そう言うと、淳はねぎま串を口に運び、レモンサワーで流し込んだ。
「でも、月永先生さすがだよな。上手く神楽坂マイのテイストを残しつつ、全くの別物に仕上げるなんて。」
「そりゃ伊達に長くデザイナーやってないよ。」
「そうだよな。てか、あの人曲者って聞いたけど、淳よく上手く纏めたよね。」
「まだ油断は出来ないけどな。てかさ、徹の資料に結構助けられたよ。説明しなくても、資料見せれば一発なんだもん。出来る男は違うね。このこの。」
「へへん。」
「何それ。」
「なんでもない。」
8月26日。新橋にある焼き鳥屋 鳥藤で、僕らは初めて任されたプロジェクトの順調ぶりを祝して乾杯をした。この後待ち受ける苦難を知りもせずに。
「じゃあな。風邪引くなよ。」
「お前もな。」
散々飲んだ僕らは、山手線の上野駅で解散した。日比谷線の改札を潜りホームへ向かう。金曜日の夜ということもあり、顔を赤らめた人々が散見した。滑り込んだ日比谷線に乗り込む。すると、聴き慣れた声が背後から響いた。
「徹じゃーん。」
その声と同時に腰元に膝蹴りが入る。
「痛っ。あ。千夏。何すんだよ。てか、今帰りか?」
彼女の頬が薄ら赤く染まっている。酔っているのだろうか。
「そうそう。ちょっと飲み会があってさ。徹は?」
「俺もそんなとこ。」
「なんか飲んでる割に冷静だよね。」
「そうか?」
「そうだよ。あー。あたしと飲み直したいんでしょ?」
「それはそっちだろ。」
「あはは。バレたか。」
「バレバレだから。」
北千住に着き、バーという気分でもなかったので、僕らはコンビニで酒とつまみを買って彼女の家へ向かった。
「てかさ、帰りの電車で会うとか奇跡じゃない?」
「まぁ確かにな。なかなかレアだよな。」
「そうだよ。運命感じちゃうよ。」
「どんな運命だよ。」
「酔っ払い同士引きつけ合う運命だよ。」
「そんな運命要らんわ。」
笑い声の絶えない、いつも通りの帰り道だった。ここまでは。
ここから会話は予期せぬ方向へ走り出す。
「そういえばさ、今年まだ海見てないんだわ。連れてってよ。徹。」
この一言で事態は急変する。
「海って、お前なぁ。簡単に言うけど、そんなすぐ行ける距離に海無いぞ。」
「だーかーらー。徹免許くらい持ってるでしょ? レンタカーで連れてってよ。」
「まぁ持ってるけどさ。それはちょっと図々しすぎないか?」
「いいじゃん! いいじゃん! きっと楽しいよ。私と海。あーんなことやこーんなことが待ってるよ?」
そう言うと彼女は目配せした。
「どんなことだよ。」
「それは行ってからのお・た・の・し・み。」
「仕方ないなぁ。分かったよ。」
「じゃあ、来週の土曜日ね!」
「おい。ちょっと待っ、、、。空いてるわー。」
「おー! じゃあ決定ね!」
「はいよ。」
突然にしてすんなりと、千夏との初デートが決まった。
9月3日。快晴。僕らはレンタカーに乗り込み、湘南を目指した。カーステから山下達郎が流れている。それに合わせて君が歌っている。
「なぁ。湘南だから、普通はサザンかTUBEじゃないか?」
「いーの。達郎が好きなの。ふふふふ~ん♫」
Bメロ?サビ?以外は鼻歌だった。でも、そこがまた可愛かった。
助手席に高気圧ガールを乗せた乗用車は、夏の名残りを含んだ日差しをいっぱいに浴びながら、国道134号線を進んでいく。程なくして辿り着いたのは、片瀬海岸だ。
「海の家やってないじゃん。とうもろこし食べたかったのに。」
駄々を捏ねる子どものように彼女が言う。
「9月なんだから当たり前だろ。」
「海の家はさ、もうちょい頑張れよ。」
「無理言うなって。」
彼女は一瞬膨れて、弾けるように笑顔に戻った。
「海だー!!!」
両手を広げ、全身に潮風を浴びる彼女は、まるでタイタニックのそれを再現しているか、はたまたGLAYのTERUの真似しているかのように見えた。
「ねぇ。徹。海の匂いがするよ。」
「海なんだから、そりゃそうだ。」
「えへへへ。」
今思えば、夏の風と共に現れた彼女は、どんな時も輝いて見えた。水面を反射する光のように、キラキラ、キラキラ、キラキラと。
To be continued.
Next story→『サマーヌード』
”2000マイル飛び越えて、迎えに来たのさ
Come With Me 連れて行っておくれよ”
夏も終わりに近付き、僕と淳の仕事は順風満帆だった。新作アプリゲームのデザイナーが無事に決まり、打ち合わせを重ねて、最終確認の段階まで来ていた。後は契約書を取り交わせば、僕らの手を離れることになる。
今回僕は資料作成とメールでのやり取りがメインで、営業や接待など先方と対面でのやり取りは淳が担っていた。ほとんど淳のお手柄だろう。
「いやー。さすが淳。でも良く通ったよな。」
「この前の会合の席で分かったんだけどさ、担当の中村さんが神楽坂マイの大ファンだったんだよ。」
「ほー。あの中村さんがね。人は見かけに寄らんね。」
「で、ウチで神楽坂マイのデザイナーの仲介したことを話したら、もう乗り気になっちゃってさ。こっちとしても助かったよ。他当たらなくて良くなったんだから。」
そう言うと、淳はねぎま串を口に運び、レモンサワーで流し込んだ。
「でも、月永先生さすがだよな。上手く神楽坂マイのテイストを残しつつ、全くの別物に仕上げるなんて。」
「そりゃ伊達に長くデザイナーやってないよ。」
「そうだよな。てか、あの人曲者って聞いたけど、淳よく上手く纏めたよね。」
「まだ油断は出来ないけどな。てかさ、徹の資料に結構助けられたよ。説明しなくても、資料見せれば一発なんだもん。出来る男は違うね。このこの。」
「へへん。」
「何それ。」
「なんでもない。」
8月26日。新橋にある焼き鳥屋 鳥藤で、僕らは初めて任されたプロジェクトの順調ぶりを祝して乾杯をした。この後待ち受ける苦難を知りもせずに。
「じゃあな。風邪引くなよ。」
「お前もな。」
散々飲んだ僕らは、山手線の上野駅で解散した。日比谷線の改札を潜りホームへ向かう。金曜日の夜ということもあり、顔を赤らめた人々が散見した。滑り込んだ日比谷線に乗り込む。すると、聴き慣れた声が背後から響いた。
「徹じゃーん。」
その声と同時に腰元に膝蹴りが入る。
「痛っ。あ。千夏。何すんだよ。てか、今帰りか?」
彼女の頬が薄ら赤く染まっている。酔っているのだろうか。
「そうそう。ちょっと飲み会があってさ。徹は?」
「俺もそんなとこ。」
「なんか飲んでる割に冷静だよね。」
「そうか?」
「そうだよ。あー。あたしと飲み直したいんでしょ?」
「それはそっちだろ。」
「あはは。バレたか。」
「バレバレだから。」
北千住に着き、バーという気分でもなかったので、僕らはコンビニで酒とつまみを買って彼女の家へ向かった。
「てかさ、帰りの電車で会うとか奇跡じゃない?」
「まぁ確かにな。なかなかレアだよな。」
「そうだよ。運命感じちゃうよ。」
「どんな運命だよ。」
「酔っ払い同士引きつけ合う運命だよ。」
「そんな運命要らんわ。」
笑い声の絶えない、いつも通りの帰り道だった。ここまでは。
ここから会話は予期せぬ方向へ走り出す。
「そういえばさ、今年まだ海見てないんだわ。連れてってよ。徹。」
この一言で事態は急変する。
「海って、お前なぁ。簡単に言うけど、そんなすぐ行ける距離に海無いぞ。」
「だーかーらー。徹免許くらい持ってるでしょ? レンタカーで連れてってよ。」
「まぁ持ってるけどさ。それはちょっと図々しすぎないか?」
「いいじゃん! いいじゃん! きっと楽しいよ。私と海。あーんなことやこーんなことが待ってるよ?」
そう言うと彼女は目配せした。
「どんなことだよ。」
「それは行ってからのお・た・の・し・み。」
「仕方ないなぁ。分かったよ。」
「じゃあ、来週の土曜日ね!」
「おい。ちょっと待っ、、、。空いてるわー。」
「おー! じゃあ決定ね!」
「はいよ。」
突然にしてすんなりと、千夏との初デートが決まった。
9月3日。快晴。僕らはレンタカーに乗り込み、湘南を目指した。カーステから山下達郎が流れている。それに合わせて君が歌っている。
「なぁ。湘南だから、普通はサザンかTUBEじゃないか?」
「いーの。達郎が好きなの。ふふふふ~ん♫」
Bメロ?サビ?以外は鼻歌だった。でも、そこがまた可愛かった。
助手席に高気圧ガールを乗せた乗用車は、夏の名残りを含んだ日差しをいっぱいに浴びながら、国道134号線を進んでいく。程なくして辿り着いたのは、片瀬海岸だ。
「海の家やってないじゃん。とうもろこし食べたかったのに。」
駄々を捏ねる子どものように彼女が言う。
「9月なんだから当たり前だろ。」
「海の家はさ、もうちょい頑張れよ。」
「無理言うなって。」
彼女は一瞬膨れて、弾けるように笑顔に戻った。
「海だー!!!」
両手を広げ、全身に潮風を浴びる彼女は、まるでタイタニックのそれを再現しているか、はたまたGLAYのTERUの真似しているかのように見えた。
「ねぇ。徹。海の匂いがするよ。」
「海なんだから、そりゃそうだ。」
「えへへへ。」
今思えば、夏の風と共に現れた彼女は、どんな時も輝いて見えた。水面を反射する光のように、キラキラ、キラキラ、キラキラと。
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