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はじまりはいつも雨
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気付けば、始まりはいつも雨だった気がする。小中高の入学式は全て雨だったし、校外学習や宿泊行事は決まって初日に雨が降る。ただ単に雨男なだけかもしれないが、それにしても降りすぎである。
出逢いこそ最悪だったが、僕達の運命はここから交わりを見せる。
彼女の家は、僕の家から徒歩10分程の距離にあった。そして、僕の家から北千住の駅までが徒歩15分。そう。彼女の家は、僕の家から駅までの道のりにあった。今までは赤の他人だ、すれ違ったって気付きはしない。しかしながら、一度接点を持った二人はもう赤の他人ではない。お互いの存在に気付いている。彼女が僕を覚えていればの話だが。
夏の天気は移ろいやすい。日中はあれほどにいい天気だったのに、仕事を終え日比谷線に揺られていると、南千住を過ぎた辺りで強めの雨が降り出した。
「天気予報また外れたなぁ。」
すぐ側で吊革に掴まっていたサラリーマンが呟いた。確かに今日の天気予報は晴れで、且つ降水確率は0%だったはずだ。最近の天気予報は本当に当てにならない。なんとか北千住に着くまでに止んで欲しかったが、その希望はあっさりと断ち切られた。そもそも、そんな数分で止む訳がないのだ。
北千住に着き、傘を持っていない僕は、雨空を見上げて途方に暮れていた。傘を買うのも勿体ない気がした。散々悩んだ挙句、とりあえず暫く時間を潰し、様子を見ることにした。北千住は飲食店が多い。学生街でもあることから、ファストフード店も多い。
夕飯の時間でもあったので、僕は北口を出たところにある、富士そばで冷やし肉富士そばを食べることにした。店に入ると外国人の店員さんが来客時のテンプレートを発する。
「イラッシャイマセー。オスキナセキドウゾ」
僕は軽く会釈をし、食券を買って外国人店員に渡す。日本食を代表する一つである蕎麦を、外国の方が作るというのは何とも感慨深いなぁと思いながら、スマートフォンで天気予報を開く。あたかも当たり前かのように、天気予報は雨模様に変わっていた。
「これじゃ天気予報じゃなく、実況じゃないか。」
ボソッと呟いたタイミングで外国人店員に呼ばれた。冷やし肉富士そばが出来たようだ。
冷やし肉富士そばを食べ、お冷やを啜りながらスマートフォンをダラダラ眺めた。Twitterを開くと”雨最悪~”だとか”傘持ってねー”と呟く同志を沢山見付けた。一先ず片っ端から”いいね!”だ。
結局時間を潰しても雨は止まなかった。仕方がないので、富士そばの向かいにある、デイリーストアでビニール傘を買った。最初からこうするべきだったかもなと少し後悔した。地下道を通り西口へ向かう。夏の雨特有の香りがした。
地下道を抜けると、バス停でバスを待つ人や、真新しい傘でそそくさと帰って行く人、仕方ないと頭の上に鞄を乗せ走って行く高校生など様々な人が居た。
「なんで雨なんだよ。聞いてねぇよ。」
「どうしよう。濡れちゃうなぁ。」
「あ。もしもし、傘持ってきてくれない。」
様々な声も飛び交っていた。そんな中、僕のすぐ隣でも同様のことを呟く女性が居た。
「やだぁ。雨じゃん。」
ん。この声はどこかで聞いたことがある。そう思い、彼女の方へ目を向ける。そこには、先日酔い潰れて家まで送り届けた彼女が立っていた。オーバーサイズのTシャツとデニムのショートパンツを身に纏って。足元はアディダスのスタンスミスだろうか。まぁいい。
向こうが僕のことを覚えている保証はないので、そのまま立ち去ろうとしたその時だった。
「あれ?この間のお兄さん!」
そう言って呼び止められた。もうここからは禁断症状の発症だ。だめだ。放っておけない。そんなことを思っていたら、フェデラーのサーブのように予想通りの言葉が飛んでくる。
「ちょうど良かった。傘入れてってくれません?」
条件反射でこちらも打ち返す。
「まぁ、いいけど。」
「やったー。」
リアクションまで予想通りだった。実に軽快なラリーだ。
「この間はあんなに酔っ払ってたけど、よく俺のこと覚えてたね。」
「物覚え良いタイプだからさ。」
そういうと、彼女は鼻の下に人差し指を当てた。まるで、褒められた後の子どものようだった。それならまず、お酒の飲み方を覚えたらいいのに。心の中で呟いた。そんな矢先。
「ねぇ。帰る前にコンビニでお酒買っていい?飲みながら帰りたい。」
ここでまさかの提案があった。
「まぁいいけど。いつも飲みながら帰ってるの?」
「いつもな訳ないでしょ。たまにだよ。たまに。」
「そうなのか。」
「それに今日は1人じゃないしね。」
「あれ。待ち合わせでもしてるの?」
「違うよ。お兄さんが居るでしょ。て言うか、待ち合わせしてたらさ、傘入れてって!なんて言わないでしょ。」
「確かにそうだね。ごめん。」
「じゃあ、お兄さんも付き合ってね。」
彼女の口車に乗せられて、僕たちはマルイの脇にあるコンビニで、500mlの缶ビールを2本買った。彼女はそれ以外も買っていたけど。
コンビニを出て傘を差すと、彼女からプルタブを開けた缶ビールを渡される。その彼女は、プルタブを開けた缶ビール片手に傘の中へ入ってくる。
「かんぱ~い。」
間の抜けた声が傘の中で響く。
「ぷは~。仕事帰りのビールは染みるねぇ~」
「おっさんみたいなこと言うなよ。あれ?今日仕事帰りなの?」
「そう。仕事帰りなのだよ。」
「お疲れ様です。」
「ありがとうございます。」
今回はちゃんと言えていた。まだ酔いは回っていないようだ。(当たり前だ。)
「じゃあ、そろそろ行きますか。」
「おし。帰ろー。」
「仕事終わりのテンションじゃねーな。おい。」
「へへへ。」
彼女は戯けて笑った。
僕たちは1つの傘の中、星を避けて家路を急いだ。
その時の僕たちは、この先あんなことになるなんて想像もしていなかった。なぜいつもこうなのだろうか。はじまりはいつも雨だ。
To be continued.
Next story→『接吻-kiss-』
出逢いこそ最悪だったが、僕達の運命はここから交わりを見せる。
彼女の家は、僕の家から徒歩10分程の距離にあった。そして、僕の家から北千住の駅までが徒歩15分。そう。彼女の家は、僕の家から駅までの道のりにあった。今までは赤の他人だ、すれ違ったって気付きはしない。しかしながら、一度接点を持った二人はもう赤の他人ではない。お互いの存在に気付いている。彼女が僕を覚えていればの話だが。
夏の天気は移ろいやすい。日中はあれほどにいい天気だったのに、仕事を終え日比谷線に揺られていると、南千住を過ぎた辺りで強めの雨が降り出した。
「天気予報また外れたなぁ。」
すぐ側で吊革に掴まっていたサラリーマンが呟いた。確かに今日の天気予報は晴れで、且つ降水確率は0%だったはずだ。最近の天気予報は本当に当てにならない。なんとか北千住に着くまでに止んで欲しかったが、その希望はあっさりと断ち切られた。そもそも、そんな数分で止む訳がないのだ。
北千住に着き、傘を持っていない僕は、雨空を見上げて途方に暮れていた。傘を買うのも勿体ない気がした。散々悩んだ挙句、とりあえず暫く時間を潰し、様子を見ることにした。北千住は飲食店が多い。学生街でもあることから、ファストフード店も多い。
夕飯の時間でもあったので、僕は北口を出たところにある、富士そばで冷やし肉富士そばを食べることにした。店に入ると外国人の店員さんが来客時のテンプレートを発する。
「イラッシャイマセー。オスキナセキドウゾ」
僕は軽く会釈をし、食券を買って外国人店員に渡す。日本食を代表する一つである蕎麦を、外国の方が作るというのは何とも感慨深いなぁと思いながら、スマートフォンで天気予報を開く。あたかも当たり前かのように、天気予報は雨模様に変わっていた。
「これじゃ天気予報じゃなく、実況じゃないか。」
ボソッと呟いたタイミングで外国人店員に呼ばれた。冷やし肉富士そばが出来たようだ。
冷やし肉富士そばを食べ、お冷やを啜りながらスマートフォンをダラダラ眺めた。Twitterを開くと”雨最悪~”だとか”傘持ってねー”と呟く同志を沢山見付けた。一先ず片っ端から”いいね!”だ。
結局時間を潰しても雨は止まなかった。仕方がないので、富士そばの向かいにある、デイリーストアでビニール傘を買った。最初からこうするべきだったかもなと少し後悔した。地下道を通り西口へ向かう。夏の雨特有の香りがした。
地下道を抜けると、バス停でバスを待つ人や、真新しい傘でそそくさと帰って行く人、仕方ないと頭の上に鞄を乗せ走って行く高校生など様々な人が居た。
「なんで雨なんだよ。聞いてねぇよ。」
「どうしよう。濡れちゃうなぁ。」
「あ。もしもし、傘持ってきてくれない。」
様々な声も飛び交っていた。そんな中、僕のすぐ隣でも同様のことを呟く女性が居た。
「やだぁ。雨じゃん。」
ん。この声はどこかで聞いたことがある。そう思い、彼女の方へ目を向ける。そこには、先日酔い潰れて家まで送り届けた彼女が立っていた。オーバーサイズのTシャツとデニムのショートパンツを身に纏って。足元はアディダスのスタンスミスだろうか。まぁいい。
向こうが僕のことを覚えている保証はないので、そのまま立ち去ろうとしたその時だった。
「あれ?この間のお兄さん!」
そう言って呼び止められた。もうここからは禁断症状の発症だ。だめだ。放っておけない。そんなことを思っていたら、フェデラーのサーブのように予想通りの言葉が飛んでくる。
「ちょうど良かった。傘入れてってくれません?」
条件反射でこちらも打ち返す。
「まぁ、いいけど。」
「やったー。」
リアクションまで予想通りだった。実に軽快なラリーだ。
「この間はあんなに酔っ払ってたけど、よく俺のこと覚えてたね。」
「物覚え良いタイプだからさ。」
そういうと、彼女は鼻の下に人差し指を当てた。まるで、褒められた後の子どものようだった。それならまず、お酒の飲み方を覚えたらいいのに。心の中で呟いた。そんな矢先。
「ねぇ。帰る前にコンビニでお酒買っていい?飲みながら帰りたい。」
ここでまさかの提案があった。
「まぁいいけど。いつも飲みながら帰ってるの?」
「いつもな訳ないでしょ。たまにだよ。たまに。」
「そうなのか。」
「それに今日は1人じゃないしね。」
「あれ。待ち合わせでもしてるの?」
「違うよ。お兄さんが居るでしょ。て言うか、待ち合わせしてたらさ、傘入れてって!なんて言わないでしょ。」
「確かにそうだね。ごめん。」
「じゃあ、お兄さんも付き合ってね。」
彼女の口車に乗せられて、僕たちはマルイの脇にあるコンビニで、500mlの缶ビールを2本買った。彼女はそれ以外も買っていたけど。
コンビニを出て傘を差すと、彼女からプルタブを開けた缶ビールを渡される。その彼女は、プルタブを開けた缶ビール片手に傘の中へ入ってくる。
「かんぱ~い。」
間の抜けた声が傘の中で響く。
「ぷは~。仕事帰りのビールは染みるねぇ~」
「おっさんみたいなこと言うなよ。あれ?今日仕事帰りなの?」
「そう。仕事帰りなのだよ。」
「お疲れ様です。」
「ありがとうございます。」
今回はちゃんと言えていた。まだ酔いは回っていないようだ。(当たり前だ。)
「じゃあ、そろそろ行きますか。」
「おし。帰ろー。」
「仕事終わりのテンションじゃねーな。おい。」
「へへへ。」
彼女は戯けて笑った。
僕たちは1つの傘の中、星を避けて家路を急いだ。
その時の僕たちは、この先あんなことになるなんて想像もしていなかった。なぜいつもこうなのだろうか。はじまりはいつも雨だ。
To be continued.
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