さよならPretender

榊 海獺(さかき らっこ)

文字の大きさ
10 / 16

ばらの花

しおりを挟む
「徹はどの季節が好き?」
 いつだったか彼女に聞かれたことがあった。
「うーん? 冬かな?」
「なにそれ。なんで冬なのよ。」
「なにそれって、好きなんだからいいだろ。イルミネーション綺麗だし、クリスマスあるし。だから、冬。」
「なるほどね。確かに冬もありか。」
 彼女は首を傾げ、考える素振りをする。
「そういう千夏はどうなんだよ。」
「私? 私は秋! 金木犀の良い匂いがするじゃない?」
「珍しいこと言うのな。こりゃ明日は雪だな。」
 思わず吹き出すように笑ってしまった。
「なんでよ。」
 いつもの膨れっ面だ。僕の好きな膨れっ面。
「千夏のキャラからして、”食欲の秋”か”お酒の秋”とか言い出すのかと思ってたからさ。”秋味のビール美味しいよね~”とかさ。」
「まぁそれもあるんだけどさ。」
 あるんかい。
「私、花の香りで金木犀の香りが1番好きなの。どことなく寂しいような切ないような気持ちになるじゃない?」
「なぜか無駄に胸が騒いでしまう帰り道みたいな?」
「そうそう。残りの月にすることを決めて、歩くスピードをあげるみたいな。」
「でもさ、秋と冬の境目って分かりづらいよな。」
「うん。確かに。調べれば基準があるんだろうけど、調べるほどでもないし。気付くと、いつのまにか冬になってるよね。」
「なんかさ、秋味とか冬味とか、そういうのに踊らされてる感あるよな。」
「あー。それあるかも。」
「だから、どっちが好きかってのは、明確には難しい。」
「じゃあ私は二番目を冬にするわ。で、秋と冬が好きな女になるわ。」
「秋と冬が好きな女って。言い方よ。」
「それが一番間違いがないじゃない。」
「じゃあ俺は二番目を秋にして、冬と秋が好きな男になるわ。」
 最終的にそんなことを言い合って、ゲラゲラ笑った。翌年、僕の好きな季節は冬でも秋でもなくなるのだが、それはまた別の話。



「うーん。難しいところだな。たかだか2週間じゃなんとも言えないよな。戻ってくる可能性もあるだろうし、戻ってこない可能性もあるだろうし。」
 串カツを口に放り込みながら淳が言った。
「やっぱりそうかぁ。」
「まぁ今はあんまり考え込まない方がいいんじゃない?流れに身を任せてさ。さぁ飲もうぜ。」
 淳が残りのビールを口に流し込み、手を挙げ店員さんを呼ぶ。
「追加で生ニつ。」
「はい。喜んで。」

 一人で抱え込むのが辛くなった僕は、淳を飲みに誘った。女好きの淳の見解が聞きたかったのだ。場所は上野にある『串カツ 田中』。僕らが良く足を運ぶ、串カツのチェーン店だ。
 運ばれてきたビールを片手に、串カツを頬張る。見た目は完全に海賊だ。気を大きくして淳が言った。
「なぁ。なんでもっと早く言ってくんなかったんだよ。」
「言ってたらどうにかなったのかよ。」
「うーん。まぁ、見てみたかったよね。徹がそこまで熱くなるなんて珍しいし。」
「そうか?」
 ビールを喉を鳴らして飲む。
「そうだよ。寧ろ徹から恋愛相談が来る時点でレアケースなんだよ。いつも事後報告だから。」
「うーん。確かにそうかもな。」
「でも、話を聞く限り、徹に原因があって居なくなった訳じゃないんだろ。」
「うん。」
「なら、大丈夫じゃないか?
ことが済めば戻ってくるって。」
「そうかなぁ。」
「まぁ、その子に何らかの事情が無ければな。」
「お前なぁ。怖いこと言うなよ。」
「ははは。」
 後にわかる話だが、この時の淳の読みは正しかった。

 串カツをソースに浸しながら、今度はこちらから聞いてみる。
「淳の方は早紀ちゃんとどうなんだよ。」
「あー。来週向こうに挨拶行くよ。」
「ん? 向こうって?」
「向こうの両親。」
「わ! マジか!!」
 淳の口から、思ってもいなかったセリフが飛び出したので、思わず大袈裟なリアクションが出てしまった。一瞬だけ周囲の注目の的となるが、直ぐにそれは解除される。
「両親に挨拶ってことは、結婚するの?」
「まぁね。」
「プロポーズしたの?」
「まぁね。」
「淳こそ言えよ~。」

 散々飲んで、語り尽くした僕らは上野駅で解散した。淳に話したことで少し楽になった気がした。一人で背負った肩の荷が降りたような。
 帰り道、コンビニで缶ビールとつまみとアイスクリームを買った。気付いたらどれも彼女の好きなものばかりだった。どこまで僕の日々は彼女に染まっていたのだろう。また思い出してしまったな。徐にイヤホンを取り出して、乱暴に耳に放り込む。プレイヤーのスイッチを入れ、プレイリストをシャッフル再生する。聴き慣れたイントロが流れ始めた。くるりの『ばらの花』だった。
 彼女が居なくなって気付いたこと。僕は彼女との日々に、どこか安心感のようなものを感じていたのかもしれない。連絡をすればいつものようなテンションで連絡が返ってきて、会いたくなればいつでも会える。そんな安心感を。きっと彼女もそんな風に思ってくれていたのではないか? なんて、酔いに任せて都合のいい想像をした。
 安心な僕らはきっと旅に出たのだ。思いっきり泣いたり、笑ったりしながら。ただ一つ違うことは、僕らの出た旅は各々別々の旅だった。たまたま近くを通っていただけ。僕らの行く旅路がいつか交わることはあるのだろうか。

 家に着くと、隣の家の朝顔が支柱絡み始めていた。僕らの運命が朝顔と支柱のように再び絡み合うということを、この時の僕はまだ知らなかった。



To be continued.
Next story→『Girl!Girl!Girl!』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...