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Girl!Girl!Girl!
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彼女からメッセージが来たのは、あれから1ヶ月後のことだった。”お酒飲みたくない?”と猫のスタンプが押されたのだ。最初は送る相手を間違っているのかと思い、既読スルーをしていた。しかしながら、5分と経たず送られてきた二通目で間違いではないことを理解した。
「ねぇ徹飲みに行こうよ~。(パリパリ)」
そのラインを見て思わず吹き出してしまった。
「お店の名前を(笑)みたいに使うなよ。てか、もっと何か言うことあるんじゃないの? 急に居なくなったくせに。」
「会ったら話すよ。」
「まぁ、いいや。分かった。行こう。」
たかが1ヶ月、されど1ヶ月。この1ヶ月間、彼女のことを忘れたことなど一度もなかった。というより、街中の至る所に想い出が潜んでいて忘れさせてくれなかった。会いたくて会いたくて堪らなかったのに、いざ会うことが決まると急に会話がぎこちなくなる。”何を話そうかな?”なんて考え始める始末だ。これは男の性なのだろうか。それとも、僕が不慣れなだけなのだろうか。そんなことを考えていたら、待ち合わせに着なれないセミフォーマルのセットアップを選んでしまった。これは会ったら笑われるな。
いつも通り駅の改札前で待ち合わせ。時刻は夜の7時。気合いを入れたような格好をしている僕とは対照的に、パーカーにデニム姿の彼女がやってきた。
「あれ? 徹今日仕事だったの?」
「うーん。違うかな。」
「いつもこの時期はこんな感じなの?」
「うーん。それも違うかな。」
「じゃあなんでそんな格好してるのよ。」
案の定ゲラゲラ笑われてしまった。その笑い声で少し緊張の糸が緩んだ気がした。
パリパリには事前に予約を入れていた。暖簾を潜ると”いらっしゃいませー。”と威勢のいい声が響く。予約をしていたことを伝え、カウンター席に二人で腰掛ける。とりあえずのビールとハイボールを頼んだ。食べ物は飲み物が届いてから考えればいい。
「乾杯!!」
グラスを交わして夜が始まる。
「で、なんで急にいなくなったの?」
一番最初に僕の口から出てきたのは、ずっと聞きたかったあの夜からのことだった。
「いきなりそれかよ。」
彼女がケラケラ笑いだす。
「こっちはあまりに急なことで、、、」
「ごめん。ごめん。」
僕の声を遮るように、食い気味に彼女が語り出した。
「私ね、結婚してたんだ。」
「え。」
目の前の景色が、急に色褪せていくような錯覚に襲われる。僕のリアクションを無視して、彼女は話を進める。
「徹ごめんね。今から話すことは私の問題だからさ、悪く思わないでね。」
「うん。」
いつも以上にサバサバと話し出す。宛ら戦で言う切り込み隊長のように。足早に、いや、口早に。用意していた台詞を片付けていくように。
「相手はオーディションの担当者だったの。」
「え。それって。」
「そう。徹の会社の人。と言っても、あのオーディションの後に会社辞めてるから、もう部外者なんだけどね。」
「そうだったんだ。」
どんなリアクションをしていいのか分からず、当たり障りのない相槌を入れる。
「で、この前の車の人がその人。」
当時の担当者は中田課長ともう一人居たと聞いていた。まさかそれが彼女の旦那さんだったなんて。
「最初はね、私の一目惚れだった。あの頃はまだ若かったからさ、大人の余裕が魅力的に見えてね、それでいいかな?って思っちゃったの。最初は本当に良かったのよ。大切にして貰ってる気がしてさ。でもね、次第に私を所有物のように扱い始めて、それが耐えきれなくてさ。DVも始まって辛くて辛くて、書き置きと鍵をポストに投げ込んで逃げ出したんだ。で、逃げるようにこの街に来た。」
「親御さんは?」
「駆け落ちするようにあいつと一緒になったから、事実上の絶縁状態なんだ。だから、頼る宛が無くてさ。友達も居ないしね。今のアパートも連帯保証人無しで借りたんだ。」
明るく話す彼女とは対照的に、彼女の内面を支えていた柱が崩れそうになっている。なんとなくそんな気がした。
「そうだったのか。よく頑張ったな。」
僕は彼女の過去を飲むこむように、ハイボールを流し込んだ。
「徹引いた?」
「ううん。引かないかな。むしろ話してくれてありがとう。」
「うん。」
彼女の頭をそっと撫でてやった。お互いの心が落ち着くように。まさか、千夏がそんな過去を抱えていたなんて。中田課長とも面識があるのか。なんという運命。
「そのオーディションの時さ、もう一人担当者が居ただろう?その人は今回のこと知ってるのか?」
「知らないと思う。あいつが話してなければ。」
「そうか。」
僕らの沈んだムードを切り裂くかのように料理が運ばれてきた。
「はい。暗い話お終い! 徹食べよ! 食べて元気出そう!」
「なんで俺が失恋したみたいになってんだよ。」
「だってぇ。徹の愛しのあたしはバツイチになったんだよ?」
「だったらなんだよ。」
「だって、嫌でしょ? バツイチなんて。」
「千夏は千夏だろ。関係ないし。」
「あれ? ”愛しの”のところは否定しないの?」
「はい。食べるよー。」
「誤魔化すなし。」
運ばれてきた料理を全て平らげ、それなりにアルコールを摂取した僕らは店を後にした。帰り道、この1ヶ月、ずっと言いたかったことを彼女にぶつける。
「そういえばさ、花火やってないんだけど。俺の夏まだ終わってないんだけど。」
「は? 徹何言ってんの? 馬鹿じゃないの?」
冷たい視線が僕を襲う。
「千夏が言ってたんだろ。」
半笑いで反論する。すると彼女から一つの提案が届く。
「それならさ、クリスマスにやろうよ。」
「クリスマスに?」
「うん。冬の花火。街がイルミネーションで飾られでる中でさ、私達は私達の手でクリスマスを彩るの。」
「なんかお洒落じゃん。」
「でしょ?」
彼女がいつものポーズを取る。へへん。
「メインディッシュ線香花火だけどな。」
「あ。そうだった。あはは。」
そんなことを話しながら、僕らは家路に着いた。
「最後の花火に~今年も~なったな~、何年経っても~思い出してしまうな。」
「最後の花火までが長い。てか、この曲でいう花火は線香花火ではなくないか?」
「いいじゃん。別に。てか、フジファブリック良くない? NAGISAにてとかサボテンレコードとか!」
「茜色の夕日とか?」
「線香花火とか!!」
声が被った。二人して笑った。こうして笑い合えることが凄く幸せだった。ここで”笑ってサヨナラ”が出ないで良かったと心から思った。ほっとした。
「でも日本は惜しい人を亡くしたよね。初期から聴いてる身としては、ボーカルが途中で変わるなんて思ってもいなかったよ。」
そう言うと彼女は腕を組んでうんうんと頷いた。しかしながら、僕は最近になって総君がボーカルを務めるフジファブリックが、受け入れられるようになっていた。酔いに任せて、そのことを彼女に伝えてみる。
「俺は最近のも好きだけどな。総君頑張ってるし。」
「私も好きだよ! Girl!Girl!Girl!とかいいよね!」
「あれ? 志村の方しか好きじゃないのかと思ってたよ。」
「そんなことないよ。そもそも私、大ちゃん推しだもん。」
僕はまた一つ彼女を知った。
今はまだ知らないことの方が多いかもしれない。でもこうやって、少しずつ、一つずつ彼女を知っていくのも悪くない気がした。
To be continued.
Next story→『ひみつ』
「ねぇ徹飲みに行こうよ~。(パリパリ)」
そのラインを見て思わず吹き出してしまった。
「お店の名前を(笑)みたいに使うなよ。てか、もっと何か言うことあるんじゃないの? 急に居なくなったくせに。」
「会ったら話すよ。」
「まぁ、いいや。分かった。行こう。」
たかが1ヶ月、されど1ヶ月。この1ヶ月間、彼女のことを忘れたことなど一度もなかった。というより、街中の至る所に想い出が潜んでいて忘れさせてくれなかった。会いたくて会いたくて堪らなかったのに、いざ会うことが決まると急に会話がぎこちなくなる。”何を話そうかな?”なんて考え始める始末だ。これは男の性なのだろうか。それとも、僕が不慣れなだけなのだろうか。そんなことを考えていたら、待ち合わせに着なれないセミフォーマルのセットアップを選んでしまった。これは会ったら笑われるな。
いつも通り駅の改札前で待ち合わせ。時刻は夜の7時。気合いを入れたような格好をしている僕とは対照的に、パーカーにデニム姿の彼女がやってきた。
「あれ? 徹今日仕事だったの?」
「うーん。違うかな。」
「いつもこの時期はこんな感じなの?」
「うーん。それも違うかな。」
「じゃあなんでそんな格好してるのよ。」
案の定ゲラゲラ笑われてしまった。その笑い声で少し緊張の糸が緩んだ気がした。
パリパリには事前に予約を入れていた。暖簾を潜ると”いらっしゃいませー。”と威勢のいい声が響く。予約をしていたことを伝え、カウンター席に二人で腰掛ける。とりあえずのビールとハイボールを頼んだ。食べ物は飲み物が届いてから考えればいい。
「乾杯!!」
グラスを交わして夜が始まる。
「で、なんで急にいなくなったの?」
一番最初に僕の口から出てきたのは、ずっと聞きたかったあの夜からのことだった。
「いきなりそれかよ。」
彼女がケラケラ笑いだす。
「こっちはあまりに急なことで、、、」
「ごめん。ごめん。」
僕の声を遮るように、食い気味に彼女が語り出した。
「私ね、結婚してたんだ。」
「え。」
目の前の景色が、急に色褪せていくような錯覚に襲われる。僕のリアクションを無視して、彼女は話を進める。
「徹ごめんね。今から話すことは私の問題だからさ、悪く思わないでね。」
「うん。」
いつも以上にサバサバと話し出す。宛ら戦で言う切り込み隊長のように。足早に、いや、口早に。用意していた台詞を片付けていくように。
「相手はオーディションの担当者だったの。」
「え。それって。」
「そう。徹の会社の人。と言っても、あのオーディションの後に会社辞めてるから、もう部外者なんだけどね。」
「そうだったんだ。」
どんなリアクションをしていいのか分からず、当たり障りのない相槌を入れる。
「で、この前の車の人がその人。」
当時の担当者は中田課長ともう一人居たと聞いていた。まさかそれが彼女の旦那さんだったなんて。
「最初はね、私の一目惚れだった。あの頃はまだ若かったからさ、大人の余裕が魅力的に見えてね、それでいいかな?って思っちゃったの。最初は本当に良かったのよ。大切にして貰ってる気がしてさ。でもね、次第に私を所有物のように扱い始めて、それが耐えきれなくてさ。DVも始まって辛くて辛くて、書き置きと鍵をポストに投げ込んで逃げ出したんだ。で、逃げるようにこの街に来た。」
「親御さんは?」
「駆け落ちするようにあいつと一緒になったから、事実上の絶縁状態なんだ。だから、頼る宛が無くてさ。友達も居ないしね。今のアパートも連帯保証人無しで借りたんだ。」
明るく話す彼女とは対照的に、彼女の内面を支えていた柱が崩れそうになっている。なんとなくそんな気がした。
「そうだったのか。よく頑張ったな。」
僕は彼女の過去を飲むこむように、ハイボールを流し込んだ。
「徹引いた?」
「ううん。引かないかな。むしろ話してくれてありがとう。」
「うん。」
彼女の頭をそっと撫でてやった。お互いの心が落ち着くように。まさか、千夏がそんな過去を抱えていたなんて。中田課長とも面識があるのか。なんという運命。
「そのオーディションの時さ、もう一人担当者が居ただろう?その人は今回のこと知ってるのか?」
「知らないと思う。あいつが話してなければ。」
「そうか。」
僕らの沈んだムードを切り裂くかのように料理が運ばれてきた。
「はい。暗い話お終い! 徹食べよ! 食べて元気出そう!」
「なんで俺が失恋したみたいになってんだよ。」
「だってぇ。徹の愛しのあたしはバツイチになったんだよ?」
「だったらなんだよ。」
「だって、嫌でしょ? バツイチなんて。」
「千夏は千夏だろ。関係ないし。」
「あれ? ”愛しの”のところは否定しないの?」
「はい。食べるよー。」
「誤魔化すなし。」
運ばれてきた料理を全て平らげ、それなりにアルコールを摂取した僕らは店を後にした。帰り道、この1ヶ月、ずっと言いたかったことを彼女にぶつける。
「そういえばさ、花火やってないんだけど。俺の夏まだ終わってないんだけど。」
「は? 徹何言ってんの? 馬鹿じゃないの?」
冷たい視線が僕を襲う。
「千夏が言ってたんだろ。」
半笑いで反論する。すると彼女から一つの提案が届く。
「それならさ、クリスマスにやろうよ。」
「クリスマスに?」
「うん。冬の花火。街がイルミネーションで飾られでる中でさ、私達は私達の手でクリスマスを彩るの。」
「なんかお洒落じゃん。」
「でしょ?」
彼女がいつものポーズを取る。へへん。
「メインディッシュ線香花火だけどな。」
「あ。そうだった。あはは。」
そんなことを話しながら、僕らは家路に着いた。
「最後の花火に~今年も~なったな~、何年経っても~思い出してしまうな。」
「最後の花火までが長い。てか、この曲でいう花火は線香花火ではなくないか?」
「いいじゃん。別に。てか、フジファブリック良くない? NAGISAにてとかサボテンレコードとか!」
「茜色の夕日とか?」
「線香花火とか!!」
声が被った。二人して笑った。こうして笑い合えることが凄く幸せだった。ここで”笑ってサヨナラ”が出ないで良かったと心から思った。ほっとした。
「でも日本は惜しい人を亡くしたよね。初期から聴いてる身としては、ボーカルが途中で変わるなんて思ってもいなかったよ。」
そう言うと彼女は腕を組んでうんうんと頷いた。しかしながら、僕は最近になって総君がボーカルを務めるフジファブリックが、受け入れられるようになっていた。酔いに任せて、そのことを彼女に伝えてみる。
「俺は最近のも好きだけどな。総君頑張ってるし。」
「私も好きだよ! Girl!Girl!Girl!とかいいよね!」
「あれ? 志村の方しか好きじゃないのかと思ってたよ。」
「そんなことないよ。そもそも私、大ちゃん推しだもん。」
僕はまた一つ彼女を知った。
今はまだ知らないことの方が多いかもしれない。でもこうやって、少しずつ、一つずつ彼女を知っていくのも悪くない気がした。
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