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Christmas Night
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今月も半分が終わり、街中がネオンで飾り付けられている。
「ネオンはシャンパンゴールドのが一番好き。」
幸子はネオンを見ながら、そんなことを言っている。
11月21日金曜日。僕らは表参道のメインストリートを歩き、青山方面に向かっていた。
「今日は沢山買い物しちゃったな。」
両腕にブランド品のショッパーをぶらさげた幸子が呟く。
「いいんじゃない。もうすぐ誕生日なんだし。」
「そうだよね。こういう時くらいいいよね。」
幸子が幸せそうな顔をしている。僕の一番好きな顔だ。本当は”僕が荷物を持とうか?”と言ったのだが、あっさりと却下された。幸子の華奢な身体に、大きなショッパーは実にアンバランスでちょっと面白かったから、それはそれでいいか。
この日は幸子の誕生日の前祝いだった。幸子の誕生日は12月25日。クリスマスだった。クリスマスは予定があるらしく、少し早いけど前祝いをすることになった。
「私、誕生日がクリスマスだから子どもの頃から、誕生日のお祝いとクリスマスが一緒なの。ちょっと損した気しない?」
「じゃあ、次は幸子の誕生日の前祝いしよう。」
そんな流れで青山でディナーをすることになり、せっかくだからと表参道散策をしてからレストランに向かうプランを立てた。
待ち合わせは明治神宮前。TOMMY HILFIGERSの前。ジーパンにボーダーのニット、モッズコートにadidasのスニーカー姿の僕の前に現れた幸子は、白のニットに黒のフレアスカート、ベージュのコートに足元は黒のショートブーツといった装いだった。明らかに釣り合っていない自分の格好が嫌になったのは言うまでもない。せめてジャケットで来るべきだったな。
「雄也君お待たせ。行こ。」
幸子がそう言ってにっこりと笑いかける。その笑顔は、些細な憂鬱など吹き飛んでしまうくらい眩しかった。徐に繋いだ手が無性に嬉しかった。周りの女性達とは明らかに違った輝きを放つ幸子。”可憐”という言葉が良く似合うような気がした。綺麗な幸子の隣を歩いていることが、こそばゆくて、嬉しくて。
「雄也君。こっちばっかり見てないで。転んじゃうよ?」
「ああ。ごめん。ごめん。」
いつの間にか見惚れてしまっていたらしい。
まずは表参道で幸子の買い物のお供をした。高級ブランド品店に臆することなく入っていく幸子。その姿はまるで現代に舞い降りたジャンヌダルクのようだった。いや、これはちょっと言いすぎだな。CHANELにDior、HERMESなどなど名前は聞いたことがあるけれど、今までの人生で縁がなかったような高級ブランド店を回った。幸子はCHANELで香水(No.5)を、Diorでルージュ(525シェリーメタリック)を、HERMESでバッグ(エルメス・カバセリエ46)を買った。途中でPRADAにも寄った。コート(シングルブレスト バタヴィア コート)を試着して「ねぇねぇ。見て。PRADAを着た悪魔よ~。」なんて戯けてたっけ。結局そのまま購入したので、ショッパーが凄い数になった。
その後は一旦幸子のBMWに荷物を置きに行き、身軽になった身体で表参道の街を歩いた。クリスマスムード一色の表参道を歩いてレストランに向かった。
「イタリアンだもの、ワインで乾杯したいわよね。」
「うん。そうだね。今日はワインにしよう。」
なんて会話をしながら。
今回予約したレストランは、北青山にあるイタリアンレストランだ。幾つかのコースの中から、僕らはお店の名前が付いたコースを選んだ。旬の食材にこだわったシェフのお任せコースとのことだった。料理が運ばれてくるまで、僕らは予定通り赤ワインで乾杯をした。差し出されたワインリストから幸子がチョイスしたので、銘柄はよくわからないが、口当たりが優しくて飲みやすいワインだった。料理はというと、前菜からデザート、コーヒーまで全9品のフルコースだった。旬の食材にこだわったシェフのお任せコースの名の通り、日本の食材を使用したイタリア料理。見たことのない料理の数々に目を丸くしてる僕とは対照的に、幸子は余裕たっぷりの大人の振る舞いで食を進める。その姿は実に優雅で、気を抜けばまた見惚れてしまいそうなくらい美しかった。デザートまで食べ終えたところで、幸子がこちらを見てニヤッと笑った。
「普段あまり食べないでしょう。こういう料理。」
「うん。全くの無縁だよね。」
「あはは。そうよね。どう?美味しかった?」
「勿論。今まで食べた料理の中で一番。」
「そんな大袈裟な。ふふふ。まぁいいわ。雄也君が喜んでくれたのなら。」
食後のコーヒーを飲み終えた僕らは、お会計を済ませてお店を後にした。
店を出た僕らは、冷たい風に打たれながら駅までの道を歩いた。来た道を巻き戻すように。時折今日の出来事がフラッシュバックするように頭に浮かんで来た。それだけ楽しかったのだろう。こんなことは久し振りだ。そんなことを考えていた時だった。不意に幸子が僕の手を強く握った。ゆっくり視線をこちらに向けて、小さく口を開いた。
「ねぇ。また会えるよね?」
そのどこか寂しそうな表情は、僕の心を揺さぶった。ワインの所為かその表情は艶かしさを増していた。艶っぽく。色っぽく。
「はい。いつでも。」
僕はそう言って幸子に微笑んだ。100点の回答だろう。”お店からのレクチャー通りだ。”
楽しい時間は足早に過ぎていく。気付いた時には、もう駅に着いていた。
「今日はありがとうね。」
「お疲れ様でした。」
「あれ。いくらだっけ。」
「今日は25,000円になります。」
幸子が財布の中をゴソゴソと漁っている。
「はい。丁度ね。今日は手握っちゃった。旦那にこんな姿見せたら叱られちゃうわね。しかも、相手がレンタル彼氏なんて。」
「はは。それ言われちゃうとこっちも上がったりなんですが。まぁでも、リアル不倫よりいいんじゃないですか?」
「まぁ確かにそうね。今日は楽しかったわ。」
「こちらこそ。」
「これお土産。」
「え。」
幸子が僕の手に包み紙を渡す。中身はDiorのリップスティックだった。いつの間に買ったのか。男でも使えるよう無色のリップというのがまたセンスが良い。
「雄也君は今年のクリスマス誰と過ごすの?」
「僕は多分バイトですわ。掛け持ちで他でもバイトしてるので。」
「お。何してるの?」
「スーパーで揚げ物揚げてます。」
「はは。そりゃ間違いなくバイトだわ。」
「幸子さんは家族と過ごすんですか?」
「そうね。旦那と娘達とクリスマスパーティかな?娘達が産まれてからは、なかなかお洒落なクリスマスは過ごせないからさ、そう言った意味でも今日は有り難かったわ。雄也君素敵なクリスマスをね。」
「はい。ありがとうございます。」
皆さんは今年のクリスマスを誰と過ごしますか?といっても、まだ6月なんだけどね。でも、今から考えとかないとひとりぼっちなんてこともあるのでね。善は急げ。頑張りましょう。余計なお世話だって。すんませんね。僕は去年ケンタッキーを鱈腹食べたのでね。今年はモスバーガーにしようかな。
『Christmas Night』
作:榊 海獺(さかき らっこ)
〈Profile〉
榊 海獺(さかき らっこ)
一九九○年生まれ、東京都出身。
会社員、作家志望、エッセイスト。
二○二一年よりアルファポリス内でエッセイ『なんでもいい』投稿中。同サイト内にて小説『さよならPretender』投稿中。
「ネオンはシャンパンゴールドのが一番好き。」
幸子はネオンを見ながら、そんなことを言っている。
11月21日金曜日。僕らは表参道のメインストリートを歩き、青山方面に向かっていた。
「今日は沢山買い物しちゃったな。」
両腕にブランド品のショッパーをぶらさげた幸子が呟く。
「いいんじゃない。もうすぐ誕生日なんだし。」
「そうだよね。こういう時くらいいいよね。」
幸子が幸せそうな顔をしている。僕の一番好きな顔だ。本当は”僕が荷物を持とうか?”と言ったのだが、あっさりと却下された。幸子の華奢な身体に、大きなショッパーは実にアンバランスでちょっと面白かったから、それはそれでいいか。
この日は幸子の誕生日の前祝いだった。幸子の誕生日は12月25日。クリスマスだった。クリスマスは予定があるらしく、少し早いけど前祝いをすることになった。
「私、誕生日がクリスマスだから子どもの頃から、誕生日のお祝いとクリスマスが一緒なの。ちょっと損した気しない?」
「じゃあ、次は幸子の誕生日の前祝いしよう。」
そんな流れで青山でディナーをすることになり、せっかくだからと表参道散策をしてからレストランに向かうプランを立てた。
待ち合わせは明治神宮前。TOMMY HILFIGERSの前。ジーパンにボーダーのニット、モッズコートにadidasのスニーカー姿の僕の前に現れた幸子は、白のニットに黒のフレアスカート、ベージュのコートに足元は黒のショートブーツといった装いだった。明らかに釣り合っていない自分の格好が嫌になったのは言うまでもない。せめてジャケットで来るべきだったな。
「雄也君お待たせ。行こ。」
幸子がそう言ってにっこりと笑いかける。その笑顔は、些細な憂鬱など吹き飛んでしまうくらい眩しかった。徐に繋いだ手が無性に嬉しかった。周りの女性達とは明らかに違った輝きを放つ幸子。”可憐”という言葉が良く似合うような気がした。綺麗な幸子の隣を歩いていることが、こそばゆくて、嬉しくて。
「雄也君。こっちばっかり見てないで。転んじゃうよ?」
「ああ。ごめん。ごめん。」
いつの間にか見惚れてしまっていたらしい。
まずは表参道で幸子の買い物のお供をした。高級ブランド品店に臆することなく入っていく幸子。その姿はまるで現代に舞い降りたジャンヌダルクのようだった。いや、これはちょっと言いすぎだな。CHANELにDior、HERMESなどなど名前は聞いたことがあるけれど、今までの人生で縁がなかったような高級ブランド店を回った。幸子はCHANELで香水(No.5)を、Diorでルージュ(525シェリーメタリック)を、HERMESでバッグ(エルメス・カバセリエ46)を買った。途中でPRADAにも寄った。コート(シングルブレスト バタヴィア コート)を試着して「ねぇねぇ。見て。PRADAを着た悪魔よ~。」なんて戯けてたっけ。結局そのまま購入したので、ショッパーが凄い数になった。
その後は一旦幸子のBMWに荷物を置きに行き、身軽になった身体で表参道の街を歩いた。クリスマスムード一色の表参道を歩いてレストランに向かった。
「イタリアンだもの、ワインで乾杯したいわよね。」
「うん。そうだね。今日はワインにしよう。」
なんて会話をしながら。
今回予約したレストランは、北青山にあるイタリアンレストランだ。幾つかのコースの中から、僕らはお店の名前が付いたコースを選んだ。旬の食材にこだわったシェフのお任せコースとのことだった。料理が運ばれてくるまで、僕らは予定通り赤ワインで乾杯をした。差し出されたワインリストから幸子がチョイスしたので、銘柄はよくわからないが、口当たりが優しくて飲みやすいワインだった。料理はというと、前菜からデザート、コーヒーまで全9品のフルコースだった。旬の食材にこだわったシェフのお任せコースの名の通り、日本の食材を使用したイタリア料理。見たことのない料理の数々に目を丸くしてる僕とは対照的に、幸子は余裕たっぷりの大人の振る舞いで食を進める。その姿は実に優雅で、気を抜けばまた見惚れてしまいそうなくらい美しかった。デザートまで食べ終えたところで、幸子がこちらを見てニヤッと笑った。
「普段あまり食べないでしょう。こういう料理。」
「うん。全くの無縁だよね。」
「あはは。そうよね。どう?美味しかった?」
「勿論。今まで食べた料理の中で一番。」
「そんな大袈裟な。ふふふ。まぁいいわ。雄也君が喜んでくれたのなら。」
食後のコーヒーを飲み終えた僕らは、お会計を済ませてお店を後にした。
店を出た僕らは、冷たい風に打たれながら駅までの道を歩いた。来た道を巻き戻すように。時折今日の出来事がフラッシュバックするように頭に浮かんで来た。それだけ楽しかったのだろう。こんなことは久し振りだ。そんなことを考えていた時だった。不意に幸子が僕の手を強く握った。ゆっくり視線をこちらに向けて、小さく口を開いた。
「ねぇ。また会えるよね?」
そのどこか寂しそうな表情は、僕の心を揺さぶった。ワインの所為かその表情は艶かしさを増していた。艶っぽく。色っぽく。
「はい。いつでも。」
僕はそう言って幸子に微笑んだ。100点の回答だろう。”お店からのレクチャー通りだ。”
楽しい時間は足早に過ぎていく。気付いた時には、もう駅に着いていた。
「今日はありがとうね。」
「お疲れ様でした。」
「あれ。いくらだっけ。」
「今日は25,000円になります。」
幸子が財布の中をゴソゴソと漁っている。
「はい。丁度ね。今日は手握っちゃった。旦那にこんな姿見せたら叱られちゃうわね。しかも、相手がレンタル彼氏なんて。」
「はは。それ言われちゃうとこっちも上がったりなんですが。まぁでも、リアル不倫よりいいんじゃないですか?」
「まぁ確かにそうね。今日は楽しかったわ。」
「こちらこそ。」
「これお土産。」
「え。」
幸子が僕の手に包み紙を渡す。中身はDiorのリップスティックだった。いつの間に買ったのか。男でも使えるよう無色のリップというのがまたセンスが良い。
「雄也君は今年のクリスマス誰と過ごすの?」
「僕は多分バイトですわ。掛け持ちで他でもバイトしてるので。」
「お。何してるの?」
「スーパーで揚げ物揚げてます。」
「はは。そりゃ間違いなくバイトだわ。」
「幸子さんは家族と過ごすんですか?」
「そうね。旦那と娘達とクリスマスパーティかな?娘達が産まれてからは、なかなかお洒落なクリスマスは過ごせないからさ、そう言った意味でも今日は有り難かったわ。雄也君素敵なクリスマスをね。」
「はい。ありがとうございます。」
皆さんは今年のクリスマスを誰と過ごしますか?といっても、まだ6月なんだけどね。でも、今から考えとかないとひとりぼっちなんてこともあるのでね。善は急げ。頑張りましょう。余計なお世話だって。すんませんね。僕は去年ケンタッキーを鱈腹食べたのでね。今年はモスバーガーにしようかな。
『Christmas Night』
作:榊 海獺(さかき らっこ)
〈Profile〉
榊 海獺(さかき らっこ)
一九九○年生まれ、東京都出身。
会社員、作家志望、エッセイスト。
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