最低な恋の終わり、最高の恋の始まり

榊 海獺(さかき らっこ)

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Chapter1 : 序開

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<♥>
 またフラれてしまった。あんなに愛していたのに。あれほど″愛してる″と言ってくれたのに。



 翔太とは2年前の3月から付き合っていた。出逢いは恵比寿にあるbar clam。当時付き合っていた裕也と別れ、1人で飲みに行ったところで出逢った。恋愛経験が同世代より多い(と思う)私は、付き合ったり、別れたりは日常茶飯事だったが、この時は柄にもなく落ち込んでいた。
 1番端のスツールに腰掛けて、裕也が好きだったモヒートを飲んで、感傷に浸っていたそんな時に声を掛けてきたのが翔太だった。
「お1人ですか?」
 なーんてドラマや映画で言うナンパの台詞のような言葉で声を掛けてきたっけ。
 
 最初はただのナンパだと思って(まぁ結果ナンパだったんだけど。)適当に遇おうとしたんだけど、傷付いた時に掛けられる甘い言葉ほど効果的なものは無かった。気付いたらグラスを交わして、話が盛り上がりを見せていた。
 話してみて分かったこと。翔太は私より2つ年上だった。仕事は外資系コンサルティング会社で働いていた。落ち着いた雰囲気で大人な男性だった。
 その日から翔太とは時々に会うようになった。翔太は優しく、私の悲しみを包み込んでくれた。心に空いた穴を埋めてくれた。私はそんな翔太の優しさに甘えた。左手の指輪に気付きながらも。こうして、私達は交際を始めた。不倫という不純な関係で。

 交際を初めて1年が過ぎた頃、私は酔った勢いで今後の関係について話を切り出してしまった。
「翔太にとって私はなんなの?どうしたいの?」
 なんて。不倫という関係を認めた上で、交際を開始したにも関わらず、もうそれだけでは満足が出来なくなっていた。どうしても翔太が、翔太との未来が欲しくてたまらなかった。その時翔太は
「妻とは別れようと思う。」
 と確かに言っていた。
「小都子《さとこ》と一緒になりたいと思ってる。」
 とも言っていた。
 私はその時の翔太を信じた。信じて待った。その日が来るのを。しかしながら、そんな日が来ることはなかった。

 私達は何度も愛し合った。時にナチュラルに、時に情熱的に愛し合った。でも、翔太の子どもに私のDNAは無かった。
「子どもが出来たんだ。妻が妊娠した。」
 そう話されたのはつい先月の事だ。事実上の交際終了宣言だ。そして、恐れていた言葉が私を襲った。 
「小都子。もう終わりにしよう。」
 続け様に言われてしまった。私は上手く受け止められないまま、宙を見上げた。夢なら覚めて欲しかった。






<♠>
 小中高と恋愛とは程遠い生活を送り、大学に上がればドラマ『オレンジデイズ』や『プロポーズ大作戦』のような、淡い青春ライフが繰り広げられるのを期待していたものの、結局微塵もなく終わってしまった。

「航《こう》は優しすぎるからいけない。」 
 淳に毎回言われる。
 別に恋をしない訳じゃないのだ。好きになって想いを寄せるも、ライバルが自分の身内から現れると、譲って応援する側に回ってしまう。その結果、皆から″良い人″のラベルが貼れてしまう。僕の悪い癖なのだと思う。

仕事もお昼休みに差し掛かった頃、スマートフォンが通知を知らせる。ロックを解除し、LINEを立ち上げる。
「今日合コンあってさ、人数足りないから力貸してくんね?」
 また淳から合コンの誘いだ。

 淳は僕の大学からの親友で、見た目が派手で女受けが良く、一見チャラ男で実際もチャラ男なのだが、世間一般のチャラ男よりはましな気がする。そんな男だ。チャラ男な反面、面倒見が良いという長所もある。
「早紀が居るのによく合コンなんて行けるな。俺が彼女だったら、、、」
 淳には付き合って4年になる彼女が居る。
「まあまあ。バレなきゃいいのよ。バレなきゃ。」
 僕の声を遮るように淳が言った。まぁ確かにバレなければいいんだろうが、というよりバレても飲み会だけなのだから、そんなに問題ではないのかもしれない。でもそれと同時に、もし自分に彼女が居たらそんなことはしないだろうなとも思った。

 結局僕は”予定がある”というテンプレートのような言葉を身繕い、淳の誘いを断った。結局というより、僕は1度もその手の話に乗ったことがない。そろそろ諦めて欲しいものである。
 僕は元々、淳の彼女で僕の幼馴染みの早紀が好きだった。僕らの地元は保育園、小学校、中学校、高校が1つずつしか無く、その他の学校に通うとなるとバスと電車を乗り継いで行かなければならず、自ずと保育園から高校まで同じルートを辿るのがベターだった。早紀とは保育園から高校まで同じ学校に通い、大学進学と共に揃って上京した事もあって、その後も食事に行ったりする仲だった。まぁ今思うとデートとは程遠い、愚痴り合いの飲み会だったけれど。完全なる一方通行の恋だったのだと思う。

 早紀は大学に通いながら、僕が通う大学の側にある”SNS映えするコーヒーフロート″で有名な喫茶店でアルバイトをしていた。よく淳と一緒に飲みに行ったものだ。その流れで、バイト終わりの早紀と待ち合わせて3人で飲みに行ったりもしていた。

 早紀が淳を好きなことが分かったのは、僕らが大学2年生に上がった辺りのことだった。
 いつものように3人で飲みに行った帰り道、僕と早紀が2人になったタイミングで突如カミングアウトされた。言葉無く勝手にフラれた感じだ。そして、事実上キューピッドだ。頭が真っ白になって、その後暫くは抜け殻のように過ごしたものだ。今思うと懐かしい。
 それだから、淳が早紀以外の女の子と仲睦まじくするのはあまり見たくなかった。

 淳の誘いを断った僕は家で小説を読んでいた。今度映画化されるという、最近なにかと話題の恋愛小説だ。駅前の書店に立ち寄った際に大々的に展開されていた作品で″恋愛下手なあなたに贈る″と帯に書かれていたので買ってみたのだ。僕はきっと、この″あなた″に該当すると思ったからだ。
 内容的にも読みやすく、あっという間に半分位まで読んでいた。これを読んだら恋愛上手になれるのかは別として、ベタでドラマチックな展開で、大衆ウケする理由もなんとなく分かる気がした。これを読んだ読者、映画を観た若者達はきっと″こんな恋愛に憧れる″なんて言うんだろうな。
 そんなことを考えていたら、スマートフォンに着信が来た。早紀からだった。
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