Baseball Side Story

榊 海獺(さかき らっこ)

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ジャイロボールを投げたい

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 野球少年がみんな一度は憧れるものがある。そう。それはジャイロボールだ。
 ジャイロボールとは、縦回転をする通常のストレートとは違い、銃口から放たれた弾丸のようにスパイラル回転で投げられるボールのことである。

 僕はこのジャイロボールについて、高校生の頃から独自の研究を進めていた。といっても野球部でもなければ、草野球をしているわけでもなく、かといって知り合いにキャッチャーを務めてくれる人間も居なかった。(たとえ居たとしても、実験的試みで怪我をさせてしまう可能性がある為、頼めなかったと思う。)
 では、どうやって研究したのか。それは、ベッドに仰向けで横たわり、天井に向かって軽く軟式のボールを投げて、捕ってを繰り返したのだ。ギリ天井に届かないくらいの高さを狙って軽ーくね。肉眼で回転方向が見えるように軽ーくね。

 この実験を始めてすぐに気付いたことがあった。それは、力加減の難しさ。強すぎると天井に当たってしまうし、弱すぎると上手く捕れない。そして、何より危ない。(そりゃそうだ。笑) 捕球を失敗すれば、顔面にボールが落ちてくる。
 そこで、一先ずボールを軟式ボールから軟式ボールを模したゴムボールに変更した。これで当たっても大丈夫。軟式ボールを模しているだけあって、縫い目を模した模様(以降、縫い目)も同じで指に掛かる。問題なく実験を続けられそうだ。ひたすら投げて、捕ってを繰り返した。握り方や投げ方を変えながら、何十回、何百回、何千回と繰り返して投げて、捕って、投げて、捕って。

 どれくらいの月日が経ったかは忘れてしまったが、とうとうその時がやってきた。放ったボールがジャイロ回転に。慌てて握りを確認する。親指、人差し指、中指の三本と薬指の脇でボールを握って、且つボールに触れる箇所は全て縫い目の上。握りはこれだった。
 次に投げ方。腕の振りはオーバースローとスリークウォーターの間。親指が真上を向く角度でボールを放つ。そうするとジャイロボールになることが分かった。
 何度と何度も繰り返し投げ、慣れてきたところで、軟球ボールに持ち替えて試す。大丈夫。ちゃんとジャイロボールになる。これで完璧だ。こうなると考えることは一つ。「思いっきり投げてみたい。」

 野球好きの友達をキャッチボールの体で呼び出し、その流れからお願いしてみる。
「ちょっとさ、ピッチングもしてみたいからキャッチャーやってくれない?」
「うん。いいよ。」
 しゃがんでグラブを構える友達に向かい、ジャイロボールを放つ。

 シュッ。ストン。

 僕の放ったボールは確かにジャイロボールだった。しかし、何故かキャッチャーの手元でフォークボールのようにストンと落ちた。どういうことだろう。驚きを隠しきれない。しかし、そんな僕よりも驚いたのは友達の方だった。
「あぶねーよ。なんで落とすんだよ。」
「ごめん。ごめん。握りがいけなかったのかもしれない。」
「気を付けてくれよ。」
 実際に投げてみて分かったことがある。それは、通常のストレートと違って球が伸びない為、ジャイロボールを投げるには相当な力が要るということ。その力が足りないと推進力が回転に負け、変化球になる。そして何より、僕の投げ方では手首にとんでもなく負荷が掛かる。これを投げ続けるのは厳しいだろう。僕には難しいことが分かった。
 こうして僕のジャイロボールへの憧れは終わりを告げた。

 ちなみに、今回僕が書いた投げ方は絶対に真似しないで欲しい。僕は人より手首が柔らかく、可動域が広い。そこを利用しての投げ方なので、真似をしたら一球で手首を痛める可能性があります。
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