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野球といえばミズノ
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そんなこんなで野球を始めることにした僕は、父と共に小学校の友達が所属していた少年野球チームの門を叩くことにした。
土曜日の昼過ぎ。家を出て自転車で練習場に向かう。えっちらおっちらペダルを漕ぎ、俗に言う「山谷」と呼ばれる辺りをふらふら走っていく。
「こんなところに練習場があるのか。」
そんな不安を感じ出したところで、少し先に全面をネットで囲まれた砂利の広場が見えた。近付くにつれオレンジ色のチームロゴが書かれた背中達が見え始めた。
「ここか。」
植え込みの端に自転車を停めて中へ。緑色のネットを潜る。真っ先に気付いたのは友達のお父さんだった。
「お。いらっしゃい。」
口の周りをぐるりと髭で囲んだ、友達のお父さんがにっこり笑った。
「今日は宜しくお願いします。」
友達のお父さんの後に続き監督とコーチの元へ。事前に連絡を入れていたということもあり、歓迎してくれた。
「こんちわ。よく来たね。」
「今日宜しくお願いします。」
父は緊張で立ち尽くす僕の頭を掴み、一緒にお辞儀をした。
まずは見学ということになっていたのに、気付いたらバットを持ってバッターボックスに立っていた。
「とりあえず、まずやってみようか。」
というコーチの提案により、いきなりバッティング練習をすることに。バットの持ち方を教えてもらいバッターボックスへ。
「ベース寄りに立ってみて。」
「うん。」
言われるがまま立ってみた。足を肩幅からいの幅で開き、高橋由伸のようにバットを肩に当ててから、バットを起こす。気持ちはもう高橋由伸だ。右バッターだけれど。
コーチがトスしたボールを打ってみてほしいとのことだったのだが、正直僕は心配だった。このまま撃ち抜いたらコーチの身が危ない。こっちはもう高橋由伸なのだ。コーチが怪我をしてしまうではないか。そんなことを考えている間に、コーチが投球モーションに入りボールを放った。
「もう知ったことか。」
放たれたボールを目掛けバットを振り抜く。
”ブンッ。ブンッ。”
五分くらい振り続けただろうか。当然のことながらバットがボールに当たることはなかった。何度やっても擦りもしない。そのことが悔しくて、帰りには入団手続きをしていた。
野球を始めるとなると、当然用具が必要になってくる。僕は父に連れられディスカウントショップのスポーツ用品コーナーへ。まずはグラブとボールを買うことにした。
ボールは少年野球ではC球と決まっていたのでそれを籠へ。
さて、問題はグラブである。グラブに関しては沢山の種類があった。投手用に内野手用に外野手用、キャッチャーミットにファーストミットとポジションによってグラブは違った。
しかしながら、まだキャッチボールすらしていない僕は、ポジションがどこになるかなど到底想像も出来なかった。なんとなく眺めていたら父が一つのグラブを持ってきた。
「これでいいんじゃないか?」
グラブに貼られたタグを見てみると、そこには”オールラウンダー用”と書かれていた。
「オールラウンダーって何。」
「どこのポジションでも使えるってことだ。」
そんな夢のような物があったのか。瞳が輝きだす。
「どこにあったの。」
「そこだよ。なんで。」
「いや、他のメーカーのもあるのかと思って。」
「お前な。野球と言えばミズノって決まってるんだよ。だから、これでいいだろう。」
有無を言わさずグラブが決まった。ミズノの黒いオールラウンダー用のグラブ。メーカーロゴはブルー。
帰り道、父の運転する車の中でグラブにボールをパチパチと打ちつけながら帰った。初めて手にした自分のグラブに、僕の心もパチパチと弾けるように弾んでいたような気がする。
土曜日の昼過ぎ。家を出て自転車で練習場に向かう。えっちらおっちらペダルを漕ぎ、俗に言う「山谷」と呼ばれる辺りをふらふら走っていく。
「こんなところに練習場があるのか。」
そんな不安を感じ出したところで、少し先に全面をネットで囲まれた砂利の広場が見えた。近付くにつれオレンジ色のチームロゴが書かれた背中達が見え始めた。
「ここか。」
植え込みの端に自転車を停めて中へ。緑色のネットを潜る。真っ先に気付いたのは友達のお父さんだった。
「お。いらっしゃい。」
口の周りをぐるりと髭で囲んだ、友達のお父さんがにっこり笑った。
「今日は宜しくお願いします。」
友達のお父さんの後に続き監督とコーチの元へ。事前に連絡を入れていたということもあり、歓迎してくれた。
「こんちわ。よく来たね。」
「今日宜しくお願いします。」
父は緊張で立ち尽くす僕の頭を掴み、一緒にお辞儀をした。
まずは見学ということになっていたのに、気付いたらバットを持ってバッターボックスに立っていた。
「とりあえず、まずやってみようか。」
というコーチの提案により、いきなりバッティング練習をすることに。バットの持ち方を教えてもらいバッターボックスへ。
「ベース寄りに立ってみて。」
「うん。」
言われるがまま立ってみた。足を肩幅からいの幅で開き、高橋由伸のようにバットを肩に当ててから、バットを起こす。気持ちはもう高橋由伸だ。右バッターだけれど。
コーチがトスしたボールを打ってみてほしいとのことだったのだが、正直僕は心配だった。このまま撃ち抜いたらコーチの身が危ない。こっちはもう高橋由伸なのだ。コーチが怪我をしてしまうではないか。そんなことを考えている間に、コーチが投球モーションに入りボールを放った。
「もう知ったことか。」
放たれたボールを目掛けバットを振り抜く。
”ブンッ。ブンッ。”
五分くらい振り続けただろうか。当然のことながらバットがボールに当たることはなかった。何度やっても擦りもしない。そのことが悔しくて、帰りには入団手続きをしていた。
野球を始めるとなると、当然用具が必要になってくる。僕は父に連れられディスカウントショップのスポーツ用品コーナーへ。まずはグラブとボールを買うことにした。
ボールは少年野球ではC球と決まっていたのでそれを籠へ。
さて、問題はグラブである。グラブに関しては沢山の種類があった。投手用に内野手用に外野手用、キャッチャーミットにファーストミットとポジションによってグラブは違った。
しかしながら、まだキャッチボールすらしていない僕は、ポジションがどこになるかなど到底想像も出来なかった。なんとなく眺めていたら父が一つのグラブを持ってきた。
「これでいいんじゃないか?」
グラブに貼られたタグを見てみると、そこには”オールラウンダー用”と書かれていた。
「オールラウンダーって何。」
「どこのポジションでも使えるってことだ。」
そんな夢のような物があったのか。瞳が輝きだす。
「どこにあったの。」
「そこだよ。なんで。」
「いや、他のメーカーのもあるのかと思って。」
「お前な。野球と言えばミズノって決まってるんだよ。だから、これでいいだろう。」
有無を言わさずグラブが決まった。ミズノの黒いオールラウンダー用のグラブ。メーカーロゴはブルー。
帰り道、父の運転する車の中でグラブにボールをパチパチと打ちつけながら帰った。初めて手にした自分のグラブに、僕の心もパチパチと弾けるように弾んでいたような気がする。
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