7 / 37
キャッチャー
しおりを挟む
少年野球チームに加入して数年が経った。僕はレギュラー陣に帯同しては居るものの出番などほぼ無かった。そう。僕には致命的な欠点が見付かってしまったのだ。
「お前な。ボールを避けるな。」
極度のビビりで打球が飛んでくるのが怖かったのだ。キャッチボールであればある程度どのタイミングでどこに飛んでくるかは分かる。しかし、それが打球とあっては話が違う。いつ自分の元にボールが飛んでくるか分からない。その緊張感に耐えられなかったのもあるし、「エラーしたらどうしよう。」そんな考えばかりが頭にあったのもある。
しかしながら、チームとしては大変いただけない事態である。代走で途中出場させたものの、守備に就かず直ぐに交代という訳にはいかない。そのことを問題視して解決策を模索したのは、僕ではなく監督だった。
「当たっても痛くないから怖がるな。」
そんなことを言われていた。
「いや、痛いやろ。」
心では毎回そう呟いていた。
結局何度言われても打球が怖がる癖は治らなかった。そして、監督の中である一つの結論に至る。
「もう、お前あれだ。キャッチャーやってみろ。」
確かに打球はバンドとキャッチャーフライくらいしか飛んでこない。しかし、キャッチボールとは違い、全力で投げ込まれるボールが怖くないはずがない。
とりあえず、プロテクターとレガース、ヘルメットとマスクを着けてスタンバイ。バッターがバッターボックスへ。ミットを構えるとピッチャーがボールを投げ込んでくる。
「危なっ。」
バッターがバットを勢いよく振るものだから、上手く捕れずにボールを後ろに逸らしてしまった。バットで手を叩かれたらたまったもんじゃない。何を考えているんだ。迷惑な奴だ。(それがバッターだ。笑)
今度はバットが絶対に当たらないよう、バッターボックスからかなり離れた位置で構えてみた。
「おい。お前。」
監督が飛んできた。
「そんなところで構えるキャッチャーがどこにいるんだ。」
ちゃんと怒られた。
仕方がないので元の位置に戻り、構えたところで足に違和感を感じた。何かに捕まれたような感覚がある。金縛りにでもあったんじゃないか。違った。金縛りでは無かった。監督だった。監督がグラウンドにうつ伏せになり僕の足を掴んでいる。
「これでもう逃げられないだろう。」
なんとも間抜けな風景である。強豪チームを率いる監督がグラウンドに寝そべって何をしているんだ。ただ、大所帯のチームの中で僕一人にここまで労力を使ってくれる監督が居るということがちょっと嬉しくもあった。期待されるというのはこういうことなのか。となんとなく思った。(いや違うやろ。)
それからというもの、父と相談してキャッチャーのマスクを購入。チームの練習日以外でも特訓が始まった。キャッチャーボールから始まり、次にフライを捕る練習。瞬時にマスクが脱げるようにするための練習なんかもしていた。
しかしながら、結局僕のキャッチャーはものにならなかったし、向かってくるボールが怖いのも治らなかった。そもそも監督の中では、打球恐怖症を治す為のキャッチャー練習であって、本格的にコンバートする気はなかった。
この時の経験は今でも忘れない。何事も後ろに引かず逃げない。その大切さを教わったような気がした。
「お前な。ボールを避けるな。」
極度のビビりで打球が飛んでくるのが怖かったのだ。キャッチボールであればある程度どのタイミングでどこに飛んでくるかは分かる。しかし、それが打球とあっては話が違う。いつ自分の元にボールが飛んでくるか分からない。その緊張感に耐えられなかったのもあるし、「エラーしたらどうしよう。」そんな考えばかりが頭にあったのもある。
しかしながら、チームとしては大変いただけない事態である。代走で途中出場させたものの、守備に就かず直ぐに交代という訳にはいかない。そのことを問題視して解決策を模索したのは、僕ではなく監督だった。
「当たっても痛くないから怖がるな。」
そんなことを言われていた。
「いや、痛いやろ。」
心では毎回そう呟いていた。
結局何度言われても打球が怖がる癖は治らなかった。そして、監督の中である一つの結論に至る。
「もう、お前あれだ。キャッチャーやってみろ。」
確かに打球はバンドとキャッチャーフライくらいしか飛んでこない。しかし、キャッチボールとは違い、全力で投げ込まれるボールが怖くないはずがない。
とりあえず、プロテクターとレガース、ヘルメットとマスクを着けてスタンバイ。バッターがバッターボックスへ。ミットを構えるとピッチャーがボールを投げ込んでくる。
「危なっ。」
バッターがバットを勢いよく振るものだから、上手く捕れずにボールを後ろに逸らしてしまった。バットで手を叩かれたらたまったもんじゃない。何を考えているんだ。迷惑な奴だ。(それがバッターだ。笑)
今度はバットが絶対に当たらないよう、バッターボックスからかなり離れた位置で構えてみた。
「おい。お前。」
監督が飛んできた。
「そんなところで構えるキャッチャーがどこにいるんだ。」
ちゃんと怒られた。
仕方がないので元の位置に戻り、構えたところで足に違和感を感じた。何かに捕まれたような感覚がある。金縛りにでもあったんじゃないか。違った。金縛りでは無かった。監督だった。監督がグラウンドにうつ伏せになり僕の足を掴んでいる。
「これでもう逃げられないだろう。」
なんとも間抜けな風景である。強豪チームを率いる監督がグラウンドに寝そべって何をしているんだ。ただ、大所帯のチームの中で僕一人にここまで労力を使ってくれる監督が居るということがちょっと嬉しくもあった。期待されるというのはこういうことなのか。となんとなく思った。(いや違うやろ。)
それからというもの、父と相談してキャッチャーのマスクを購入。チームの練習日以外でも特訓が始まった。キャッチャーボールから始まり、次にフライを捕る練習。瞬時にマスクが脱げるようにするための練習なんかもしていた。
しかしながら、結局僕のキャッチャーはものにならなかったし、向かってくるボールが怖いのも治らなかった。そもそも監督の中では、打球恐怖症を治す為のキャッチャー練習であって、本格的にコンバートする気はなかった。
この時の経験は今でも忘れない。何事も後ろに引かず逃げない。その大切さを教わったような気がした。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる