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キャッチャー
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少年野球チームに加入して数年が経った。僕はレギュラー陣に帯同しては居るものの出番などほぼ無かった。そう。僕には致命的な欠点が見付かってしまったのだ。
「お前な。ボールを避けるな。」
極度のビビりで打球が飛んでくるのが怖かったのだ。キャッチボールであればある程度どのタイミングでどこに飛んでくるかは分かる。しかし、それが打球とあっては話が違う。いつ自分の元にボールが飛んでくるか分からない。その緊張感に耐えられなかったのもあるし、「エラーしたらどうしよう。」そんな考えばかりが頭にあったのもある。
しかしながら、チームとしては大変いただけない事態である。代走で途中出場させたものの、守備に就かず直ぐに交代という訳にはいかない。そのことを問題視して解決策を模索したのは、僕ではなく監督だった。
「当たっても痛くないから怖がるな。」
そんなことを言われていた。
「いや、痛いやろ。」
心では毎回そう呟いていた。
結局何度言われても打球が怖がる癖は治らなかった。そして、監督の中である一つの結論に至る。
「もう、お前あれだ。キャッチャーやってみろ。」
確かに打球はバンドとキャッチャーフライくらいしか飛んでこない。しかし、キャッチボールとは違い、全力で投げ込まれるボールが怖くないはずがない。
とりあえず、プロテクターとレガース、ヘルメットとマスクを着けてスタンバイ。バッターがバッターボックスへ。ミットを構えるとピッチャーがボールを投げ込んでくる。
「危なっ。」
バッターがバットを勢いよく振るものだから、上手く捕れずにボールを後ろに逸らしてしまった。バットで手を叩かれたらたまったもんじゃない。何を考えているんだ。迷惑な奴だ。(それがバッターだ。笑)
今度はバットが絶対に当たらないよう、バッターボックスからかなり離れた位置で構えてみた。
「おい。お前。」
監督が飛んできた。
「そんなところで構えるキャッチャーがどこにいるんだ。」
ちゃんと怒られた。
仕方がないので元の位置に戻り、構えたところで足に違和感を感じた。何かに捕まれたような感覚がある。金縛りにでもあったんじゃないか。違った。金縛りでは無かった。監督だった。監督がグラウンドにうつ伏せになり僕の足を掴んでいる。
「これでもう逃げられないだろう。」
なんとも間抜けな風景である。強豪チームを率いる監督がグラウンドに寝そべって何をしているんだ。ただ、大所帯のチームの中で僕一人にここまで労力を使ってくれる監督が居るということがちょっと嬉しくもあった。期待されるというのはこういうことなのか。となんとなく思った。(いや違うやろ。)
それからというもの、父と相談してキャッチャーのマスクを購入。チームの練習日以外でも特訓が始まった。キャッチャーボールから始まり、次にフライを捕る練習。瞬時にマスクが脱げるようにするための練習なんかもしていた。
しかしながら、結局僕のキャッチャーはものにならなかったし、向かってくるボールが怖いのも治らなかった。そもそも監督の中では、打球恐怖症を治す為のキャッチャー練習であって、本格的にコンバートする気はなかった。
この時の経験は今でも忘れない。何事も後ろに引かず逃げない。その大切さを教わったような気がした。
「お前な。ボールを避けるな。」
極度のビビりで打球が飛んでくるのが怖かったのだ。キャッチボールであればある程度どのタイミングでどこに飛んでくるかは分かる。しかし、それが打球とあっては話が違う。いつ自分の元にボールが飛んでくるか分からない。その緊張感に耐えられなかったのもあるし、「エラーしたらどうしよう。」そんな考えばかりが頭にあったのもある。
しかしながら、チームとしては大変いただけない事態である。代走で途中出場させたものの、守備に就かず直ぐに交代という訳にはいかない。そのことを問題視して解決策を模索したのは、僕ではなく監督だった。
「当たっても痛くないから怖がるな。」
そんなことを言われていた。
「いや、痛いやろ。」
心では毎回そう呟いていた。
結局何度言われても打球が怖がる癖は治らなかった。そして、監督の中である一つの結論に至る。
「もう、お前あれだ。キャッチャーやってみろ。」
確かに打球はバンドとキャッチャーフライくらいしか飛んでこない。しかし、キャッチボールとは違い、全力で投げ込まれるボールが怖くないはずがない。
とりあえず、プロテクターとレガース、ヘルメットとマスクを着けてスタンバイ。バッターがバッターボックスへ。ミットを構えるとピッチャーがボールを投げ込んでくる。
「危なっ。」
バッターがバットを勢いよく振るものだから、上手く捕れずにボールを後ろに逸らしてしまった。バットで手を叩かれたらたまったもんじゃない。何を考えているんだ。迷惑な奴だ。(それがバッターだ。笑)
今度はバットが絶対に当たらないよう、バッターボックスからかなり離れた位置で構えてみた。
「おい。お前。」
監督が飛んできた。
「そんなところで構えるキャッチャーがどこにいるんだ。」
ちゃんと怒られた。
仕方がないので元の位置に戻り、構えたところで足に違和感を感じた。何かに捕まれたような感覚がある。金縛りにでもあったんじゃないか。違った。金縛りでは無かった。監督だった。監督がグラウンドにうつ伏せになり僕の足を掴んでいる。
「これでもう逃げられないだろう。」
なんとも間抜けな風景である。強豪チームを率いる監督がグラウンドに寝そべって何をしているんだ。ただ、大所帯のチームの中で僕一人にここまで労力を使ってくれる監督が居るということがちょっと嬉しくもあった。期待されるというのはこういうことなのか。となんとなく思った。(いや違うやろ。)
それからというもの、父と相談してキャッチャーのマスクを購入。チームの練習日以外でも特訓が始まった。キャッチャーボールから始まり、次にフライを捕る練習。瞬時にマスクが脱げるようにするための練習なんかもしていた。
しかしながら、結局僕のキャッチャーはものにならなかったし、向かってくるボールが怖いのも治らなかった。そもそも監督の中では、打球恐怖症を治す為のキャッチャー練習であって、本格的にコンバートする気はなかった。
この時の経験は今でも忘れない。何事も後ろに引かず逃げない。その大切さを教わったような気がした。
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