Baseball Side Story

榊 海獺(さかき らっこ)

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ホームラン

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 バッティングセンターに通い出して1ヶ月と少しが過ぎたある日。待望のその日はやってきた。

 通い初めて1ヶ月も経つともう慣れたもので、入店し無料券を店員さんに渡し(まだ無料券あったのか。) 、流れるようなスムーズさで松坂大輔の待つブースに入っていた。店員さんがセッティングをしてくれている間に、井口モデルをケースから出してバッターボックスに立つ。目の前のディスプレイに松坂大輔が映し出されゲームスタート。
 松坂大輔より放たれたボール目掛けてスウィング。この頃になると、もうバットにボールが当たるようになっており、空振りする方が稀だった。ボテボテのゴロが多い中、ヒット性の当たりもちらほら。そして残すところあと数球という時だった。

 カキーン。ドンッ。

 ボールがバットの芯にクリーンヒット。ボールは矢のように飛んでいき、ホームランの的を撃ち抜いた。実に三十数打席目にして初アーチ。もう気分はダイヤモンド(塁)を回りたいくらいだった。
 残りの数球を凡打しゲームが終わったところで、ブースの外で待つ父に報告。
「お父。ホームラン当たったよ。」
「見てたよ。やったな。」
「うん。」
「店員さんに報告に行こう。」
 僕の通っていたバッティングセンターではホームランを打つと店員さんに報告することになっていた。店員さんにホームランを打ったことを報告すると、名簿のようなものとマグネットを渡された。
「こちらの二つにホームランを打たれた方のお名前をご記入ください。」
 名簿は記録の為の物で、マグネットはホームランランキングのホワイトボードに掲示されるマグネット。その二つを父に渡す。
「はい。お父書いてよ。」
「自分で書けるだろ。」
「俺字汚いから代わりに書いてよ。」
「もう。しょうがないな。」
 口ではそう言っていたものの、父はなんだかちょっと嬉しそうだった。

「ホームランの名前掲示は半年までとなっております。更新されなかった場合、半年でマグネットを外させていただきます。」
 記念すべき第一号ホームランを打って浮かれていたら、店員さんに説明を受け、我に帰る。
「そうか。半年以内にまた打たないといけないのか。」
 ここまで1ヶ月と少し。そう難しいことではないように思えた。

 その後僕は約半年で5本のホームランを打ち、チームの最高記録を更新した。バッティングセンターのホワイトボードの5本のところに自分の名前が貼られた時は、なんとも嬉しい気分だった。
「次は6号を目指すか。」
 そんなことを考えてホワイトボードを見ると6本のところには一人だけ名前が書かれていた。次は彼がライバルである。そんなことを考えた時だった。
「あ。もう無料券ないわ。」
「え。」
 始まりが突然なら、終わりも突然やってくる。僕のホームランダービーは最も簡単に終わりを迎えた。実に7ヶ月弱。平日の晴れた日はほぼバッティングセンターに来ていた。思い出が頭を過ぎる。始めてきた日のこと。ホームランを打った日のこと。1ゲームでは足りず父に延長をお願いした日のこと。どれもいい思い出である。てか、無料券どんだけ貰ってたんだよ。

 

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