Baseball Side Story

榊 海獺(さかき らっこ)

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としまえん

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 打球よりも怖いものがそこにあった。

 少年野球チームに加入してから二年が経ったある日、監督に手招きで呼ばれた。
「お前もとしまえん行ってみるか。」

 僕の所属していたチームでは、夏になると選抜メンバーでとしまえんに行くことが恒例行事となっていた。とうとう僕も呼ばれる日が来たことが嬉しくて堪らなかった。ワクワクした気持ちを抱き、その日を待ち望みながら日々の練習に励んでいた。

「としまえん(のプール)には飛び込み台があってな、全員一回そこから飛び込むことになってるんだよ。」
 数日後、また監督に手招きで呼ばれ何事かと思ったらそう告げられた。寝耳に水だった。そもそも水泳は大の苦手で、学校の授業の飛び込みスタートすらやったことがないのに、いきなり飛び込み台から飛ぶなど出来るはずがない。しかしながら、せっかくとしまえん選抜メンバーに選ばれたのにここで引くのも癪に触る。とりあえずふんわりと承諾し、その日が来るのをビクビクしながら待った。寧ろ雨でも降ってくれとすら思っていた。

 当日。天気良好。気分曇り空。これで飛び込みは逃れられなくなった。不安いっぱいで電車に揺られ、としまえんへ。着替えを済ませプールの方へ。その時だった。
 ちらっと飛び込み台が目に入った。思ったより小じんまりとしている。これは行ける。行けるぞ。
 全然ダメだった。近付いたら普通にそこそこの高さがあった。飛び込み台は3mと5mの二つがあったのだけれど、3mですらダメだった。恐る恐る飛び込み台のに立ってはみたものの、結局最後まで飛べなかった。この時初めて自分は高所恐怖症なのだと悟った。
 これはきっと「ビビり」の烙印が押されてしまう。なんてブルーな気持ちでいっぱいだったのだけれど、途中で吹っ切れて「ビビり」の烙印すら華麗に着こなしてやる。くらいに思っていた。しかしながら、これには続きがあった。

 プールで一通り遊び尽くした僕らは、としまえんの遊園地の方に行くことになった。そう。ジェットコースターだ。
 みんなは意気揚々とジェットコースターの列に飛び込んでいく。僕はその輪に入ることは出来なかった。これで「ビビり」の烙印はまたレベルアップしてしまう。再びブルーな気持ちに襲われそうになる。そんな僕を救ってくれたのは監督だった。
「なぁ。あっちにゲームコーナーあるから行ってみよう。」
 としまえんには遊園地の脇にアーケードゲームが出来るコーナーがあった。その中で僕が目を付けたのは、パクパクと口を動かしている動物の口にゴムボールを投げ込むゲームだった。野球をやっている身としては送球のコントロールが試される良い機会だ。くらいに思っていた。監督に話すと、監督が1ゲーム分のお金を出してくれた。
 いざゲームスタート。これまた全然ダメだった。「いかに上手く口の中にボールを入れられるか」ならそこそこ良い感じに出来たと思う。しかしながらこのゲームで試されるのは「いかに多くのボールを口に入れられるか」だった。周りを見渡すと、海で水飛沫を上げ楽しむレディー達のように、バシャバシャと沢山のボールを動物目掛けて放つ人達が居た。きっとこのゲームではあれが正解なのだ。途中から監督の力も借り思いっきりバシャバシャやってみた。結果は大したことなかったのだが、凄く楽しかったのを覚えている。

 ゲームコーナーを出ると、すぐ目の前にボートに乗ってコースを回るアトラクションがあった。
「あれなら乗れるんじゃないか。船に乗って回ってくだけだ。」
 監督がにっこり笑って提案してくれたので、笑って頷いた。
 実際に乗ってみると、確かに船に乗りゆったり流れていくだけだった。隣に監督を乗せ、ゆったりと流れていく。それもそれでなんだか少し恥ずかしかった。ちょっとした坂を上がったり、ちょっとした坂を上がったりもした。ん? 何かがおかしい。ひたすら船が坂を上がり続けている。そのことに気付いた時にはもう遅かった。

 ストン。

スプラッシュマウンテン並みに落ちた。(気がした。) 隣を見ると、監督が悪い顔をしてケラケラと笑っている。これはやりやがったな。
 僕がとしまえんに行ったのはこの日が最初で最後。打球よりも怖いものがそこにはあった。でも、エッセイに出来るくらい印象的で、良い想い出で良かったと思う。この日の出来事はいつまでも大切に持っていようと思う。

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