6 / 37
今日も会社で18時
しおりを挟む
バッティングセンターの無料券を手に入れた僕は、毎日父の仕事終わりに会社の前で待ち合わせ、バッティングセンターに通った。
「18時に会社まで来てくれ。」
父はそんなことを言っていたのだが、今思うと定時に帰れすぎじゃないか。その口実もあったのだろうか。今となっては定かではない。
井口モデルのバットを抱え父の会社へ。落ち合ったらトボトボと歩きながらバッティングセンターへ。道中何かを話していた気もするが、それが何だったのかはもう覚えていない。
バッティングセンターは父の会社から歩いて15分くらいのところにあった。地元では有名な商業施設の別館にあり、ゲームセンターの2階。入口の自動ドアを潜って、階段を駆け上がる。道中のウォーキングといい、階段といい丁度いいウォーミングアップだ。
店内にはバッティングブースの他、ピッチング(ストラックアウト)のブースもあった。その他にもエアホッケーや細かなゲームが所狭しと並べられていた。そして、受付の横の壁にはホワイトボードがあり、そこにネームマグネットが貼られていた。
「ホームラン打つとな、あそこに名前が張り出されるんだよ。」
「ホームラン?」
「そう。ホームラン。あとで行けばわかるけど、ホームランの的があってそこにボールを当てるとあそこに名前が載るんだよ。」
そう言われてホワイトボードを見てみると、知った名前がちらほら。同じチームの先輩と同級生達だった。
「あの上の数字は?」
「ホームラン数だな。」
知り合いの中でのトップは、同じチームでキャッチャーをしている先輩で4本だった。上回ればチーム内ホームランランキングトップ。5本打つくらい楽勝だろう。そんな軽い気持ちで考えていた。
いざバットを取り出してバッターボックスへ。
「あそこに赤い的があるだろ。あれに当たればホームランだ。」
父がバッティングセンターの屋根より少し低い所にある的を指差して言った。
「あれに当てればいいのね。」
僕の通っていたバッティングセンターはピッチングマシーンの前にディスプレイがあり、有名な選手の投球映像と共にボールが投げられる仕様だった。まるで本当に対戦しているかのように。また、球速や変化球の有無、コース選択も出来た。僕は対戦相手に松坂大輔を指名(選択)した。球速は手始めに1番遅い70km。
記念すべき1球目。バスッ。ど真ん中ストレート。
「ふぅ。」
「お前な。バッティングセンターで見送るな馬鹿がどこに居るんだ。」
「いや、ほら初球は様子を見ないと。」
「70kmのど真ん中ストレートしか来ないから。」
2球目。
「よし。構えるまでのルーティンを。」
バスッ。
「危なっ。」
「お前な。さっさと構えろ。」
「いや、ほら城島(健司)はこれやるじゃん。」
「試合ではな。」
1ゲーム12球しかないのに、もう2球を無駄にしてしまった。
3球目。漸くスウィング。カシュッという音を立て、ボールは勢いそのまま後方へ。バスッ。
結局この日はボールが前に飛ぶことは無かった。明日またリベンジだ。
こうして、僕と父のバッティングセンター通いは始まった。ここから数ヶ月後。僕はホームランランキングがチームトップになる。信じられない話だが実話である。
「18時に会社まで来てくれ。」
父はそんなことを言っていたのだが、今思うと定時に帰れすぎじゃないか。その口実もあったのだろうか。今となっては定かではない。
井口モデルのバットを抱え父の会社へ。落ち合ったらトボトボと歩きながらバッティングセンターへ。道中何かを話していた気もするが、それが何だったのかはもう覚えていない。
バッティングセンターは父の会社から歩いて15分くらいのところにあった。地元では有名な商業施設の別館にあり、ゲームセンターの2階。入口の自動ドアを潜って、階段を駆け上がる。道中のウォーキングといい、階段といい丁度いいウォーミングアップだ。
店内にはバッティングブースの他、ピッチング(ストラックアウト)のブースもあった。その他にもエアホッケーや細かなゲームが所狭しと並べられていた。そして、受付の横の壁にはホワイトボードがあり、そこにネームマグネットが貼られていた。
「ホームラン打つとな、あそこに名前が張り出されるんだよ。」
「ホームラン?」
「そう。ホームラン。あとで行けばわかるけど、ホームランの的があってそこにボールを当てるとあそこに名前が載るんだよ。」
そう言われてホワイトボードを見てみると、知った名前がちらほら。同じチームの先輩と同級生達だった。
「あの上の数字は?」
「ホームラン数だな。」
知り合いの中でのトップは、同じチームでキャッチャーをしている先輩で4本だった。上回ればチーム内ホームランランキングトップ。5本打つくらい楽勝だろう。そんな軽い気持ちで考えていた。
いざバットを取り出してバッターボックスへ。
「あそこに赤い的があるだろ。あれに当たればホームランだ。」
父がバッティングセンターの屋根より少し低い所にある的を指差して言った。
「あれに当てればいいのね。」
僕の通っていたバッティングセンターはピッチングマシーンの前にディスプレイがあり、有名な選手の投球映像と共にボールが投げられる仕様だった。まるで本当に対戦しているかのように。また、球速や変化球の有無、コース選択も出来た。僕は対戦相手に松坂大輔を指名(選択)した。球速は手始めに1番遅い70km。
記念すべき1球目。バスッ。ど真ん中ストレート。
「ふぅ。」
「お前な。バッティングセンターで見送るな馬鹿がどこに居るんだ。」
「いや、ほら初球は様子を見ないと。」
「70kmのど真ん中ストレートしか来ないから。」
2球目。
「よし。構えるまでのルーティンを。」
バスッ。
「危なっ。」
「お前な。さっさと構えろ。」
「いや、ほら城島(健司)はこれやるじゃん。」
「試合ではな。」
1ゲーム12球しかないのに、もう2球を無駄にしてしまった。
3球目。漸くスウィング。カシュッという音を立て、ボールは勢いそのまま後方へ。バスッ。
結局この日はボールが前に飛ぶことは無かった。明日またリベンジだ。
こうして、僕と父のバッティングセンター通いは始まった。ここから数ヶ月後。僕はホームランランキングがチームトップになる。信じられない話だが実話である。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる