Baseball Side Story

榊 海獺(さかき らっこ)

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部長

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 中学に入り、数ヶ月が経ったある日。部活の休憩時間に、隣で練習をしていた野球部の友人とキャッチボールをしていた。(休み時間とは。笑) 陸上部なので当然グラブを持ち歩いておらず、グラブは友人のサブのグラブを借りていた。何か適当な話をしながらゆるーくキャッチボールをしていた。肩をほぐすストレッチのような、そんなリラックスしたキャッチボールだった気がする。

 土汚れのついた白球が僕と友人の間を何往復かしたその時だった。その姿を見つけた野球部の部長が一目散に飛んできた。そう。わがGBBを瞬殺した彼だ。
 野球部でもない人間がキャッチボールをしていたことに腹を立てて怒られるのかと戦々恐々としていたのだが、何やら様子が可笑しい。目を輝かせている。
「ねぇ。」
「は、はい。」
 背筋を伸ばす。
「野球好きなんだろ。」
「まぁ、好きですね。」
 あまりに唐突なことで、この質問の意味深く考えずそう返した。
「野球部入んなよ。」
「はぁ。」
 そうきたか。確かに野球経験者で、自分で野球チームを作るくらい野球好きで、野球部の友人とも仲が良いとなると、かなりの適材だ。それでこんなに目を輝かせているのか。身長180cmを優に超える部長のその姿はなんとも可愛らしく見えた。
 今まで野球部にそんなに興味がなく、深く知らなかったのだが、部長はマシンガンのようなで勢いで説明してくれた。個人部活紹介だな。

 一通り説明が終わったが、まだ部長の目の輝きは治らない。何をこんなに目を輝かせているのかと、不思議に思っていたところで答え合わせ。
「サウスポー(左投げ)だったんだな。」
 それか。
 たまたま左利きの友人のグローブを借りてキャッチボールをしていた所為で、サウスポーだと勘違いされていた。(当時は何故か右でも左でも投げられたという。)
 サウスポーのピッチャーというのは意外と重宝されたりする。右バッターからすると腕のストロークが見え辛く、ましてやクロスファイヤー(ピッチングプレートの利き腕側の1番端から投げる投球)なんてされた日には、いきなりボールが飛んでくる感覚に襲われるので、かなり打ちづらくなる。そんなんなんぼ居っても困らんかんね。サウスポーのピッチャーなんて。
「考えときます。」
 この日はそう告げて陸上部の練習に戻った。

 結局、僕が野球部に入ることはなかった。陸上部の友人達も気に入っていたしね。
 あの日部長が僕に駆け寄ってきたのは、単に野球好きというだけではなかったのかもしれない。実を言うと、GBBとの試合をする前から何故か気に入られていたみたいだった。児童館で遊戯王カード貰ったこともあったし。まぁじゃなきゃ試合とかも受けてもらえなかっただろうしね。
 ちなみにこれは完全な余談だが、僕が生まれて初めて付き合った彼女は、部長の元カノだったりする。もしかすると気が合ったのかもしれないね。
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