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第1章
12.レーフェンへの護衛 前編
しおりを挟むセシルは皆と一緒にザイルの町を出発してレーフェンの町へ向かった。
初めての護衛依頼に少し緊張してしまう。失敗しないように頑張ろう。
しばらくしてアルマが一緒に荷台に乗っているセシルに話しかけてきた。
「ねえ、セシルの年はいくつ?」
「僕は12才です」
「そうなんだ、私の1つ下ね。お腹空いてない? パンがあるわよ」
「大丈夫です。ありがとうございます」
アルマはセシルと話していてなんだか楽しそうである。なんだか最初は気の強そうな女の子だなと思った。
だけど実際接してみるとお姉ちゃんみたいに世話を焼いてくる。彼女は優しい子なのかもしれない。
「私には兄弟もいないし近くに同じくらいの年の子もいなかったから、セシルと知り合いになれて嬉しいわ!」
「そうなんですか。僕も兄弟いないです」
自分と知り合いになって嬉しそうにしているアルマの気持ちがよく分かる。
おばあちゃんと一緒に暮らしていたとき寂しいと思ったことはなかった。だけどソフィーやケントと知り合って皆で楽しく食事をしたり買い物したりしてるうちに、ふと一人になったときとても寂しいと感じるようになっていた。
「わたしの弟分にしてあげてもいいわよ」
「弟分ですか……。友達がいいです」
「じゃあ友達になってあげるわ!」
アルマはそう言って耳を赤くしながらツンと横を向いた。
きっとそんな会話が聞こえていたのだろう。御者台にいるケントが振り返って笑いながら言った。
「お前ら仲がいいなー」
「あら、貴方もお友達になってあげるわ」
「光栄の至りです、お嬢様」
ケントが笑いながらそう言って、仰々しくアルマにお辞儀をした。アルマって何だか可愛い。
それから3時間ほど走って森へ入ったあとしばらく経ったあたりで異変に気づく。そして御者台にいるケントに身を乗り出して話しかける。
「ケント、左右後方100メートル程の離れた所で馬を走らせている人たちがいる。わざわざ道じゃなくて木々の間を走っているのが怪しい。多分この馬車を追跡していると思う」
そう言うとケントは驚いた様子もなく答えた。どうやら気づいていたようだ。
「ああ、多分様子を伺って隙あらばって感じだろうな。このまま森を抜けるまでしばらくペースを落とさずに走り切ったほうがいいな。人数は7~8人ってところか。恐らく盗賊だろう。セシルは後ろを気をつけておいてくれ」
「分かった」
ケントは魔法が使えないって言ってたけどどうやって把握したのかな? 数まで正確に把握してるし、気配を察知したり匂いを察知したりする能力でもあるのかな?
荷台の後方端に座って注意深く気づかない振りをしながら観察する。
奴らの姿は木々に隠れて見えないが8人ほど探知できる。
4人と荷物を載せた馬車は人を乗せた馬に比べるとそんなに早くは走れない。だが追いつくでもなく謎の集団はつかず離れずでついてきているようだ。
奴らの目的は何だろう。盗賊だろうか。この馬車の素材、お金、もしくは人……?
「おい、セシル。多分俺達が野営のために馬を止めたところを狙われるだろう。このままノンストップで明日まで走り続けたいところだがそれでは馬がもたない。野営中に夜陰に紛れて襲われるよりも明るいうちに迎え撃ったほうがいい。このままいけば明るいうちに森を抜けれるからそこで迎え撃とう」
「うん、分かった」
セシルはケントとの会話を聞き、緊張しているアルマに尋ねた。
「荷物はどんなものを乗せているんですか?」
「お父さんが作った薬と貴重な素材と、あと売上金ね……」
「ふむ」
やっぱり狙いはその辺なのかもしれない。人間の敵は初めてだ。
1時間ほど走ったところで馬車は森を抜けた。まだ空は明るい。ケントが声をかける。
「マルコさん、そろそろ止めてください」
「分かりました」
森から50メートルほど離れたところでマルコがスピードを落として馬車を止める。ここなら敵も襲いやすいだろう。休憩を取る振りをしながら馬車を降りる。
馬車の後ろにいるのは見た目少年のセシルと少女のアルマである。敵からすればたいして抵抗もできなさそうな獲物に見えるに違いない。
しばらくすると森から馬に乗った男たちが駆けてきた。
「アルマさん、離れないでください」
「うん……」
顔色が悪くなったアルマを背に庇い剣を抜く。
緊張する。硬くならないように、視野が狭くならないようにしないと。
人間を刃物で傷つけたことがないセシルは魔物に対するのと桁違いに緊張する。
「おいおい、こいつは可愛い獲物だな。護衛も一緒に掻っ攫うか」
「へへっ。大人しくしてれば怪我はさせないぜ?」
男たちは下卑た笑いを浮かべながら馬から降り、武器を抜いたままセシル達に近づく。
こんなに開けたところでは一度に寝かすことはできない。今のうちにこっそり自らに身体強化と防御強化をかけておく。
人間相手にはできれば剣を交えたくはない。でもマルコとアルマを絶対に守らなくては。
まず一番近くの男に火球を放つ。
「ぐああ!!」
火球を受けた男が燃えて転げ回る。火傷を負いながら転げ回る男の苦しそうな顔を見て怯んでしまう。
「このやろう!」
男たちが一斉に襲いかかってきた。
そのとき馬車の陰からケントが大剣を構えて素早く男達に斬りこんだ。
「セシル、援護を頼む!」
「うん、分かった」
アルマとマルコを背後に庇いつつ火球で援護する。
ケントは想像していたよりも遥かに強かった。あっという間に3人の男を大剣と体術で戦闘不能にする。
力が強いとは聞いていたが注目すべきはその速度だ。重そうな大剣を軽々と扱い次々と盗賊達を叩き斬っていく。人間技とは思えない。
瞬間きらっと視界の端で何かが光ったと思ったら突然マルコが蹲った。振り返って見ると彼の肩に矢が刺さっている。
「ううっ……」
「ああっ、お父さん!」
援護に気を取られている隙にマルコが手前の敵の陰から別の敵にボウガンで撃たれたのだ。動揺し慌ててマルコに駆け寄る。
「マルコさん!!」
「セシル! 敵に集中しろ!」
ケントが叫ぶ。
一瞬だった。マルコに気を取られた隙に盗賊の一人がアルマを後ろから羽交い絞めにする。
「いやぁっ!」
「おい、剣を捨てろ、さもなくば」
それを見て一瞬で頭に血がのぼる。
「うわああああ!!」
その男が言葉を言い終わることはできなかった。アルマを捕縛した男に瞬時に接近し抜いていた剣でその腕を斬り男の首の頸動脈を切った。
その返り血を浴びたセシルの目の前で、男は声を発することもないまま膝から崩れ落ちていく。
「あ……あ……。ああっ……!」
血溜まりの中で首を掻き切られた男の光を失った目がセシルをただじっと見つめている。それを見てぺたんと座り込み両手で顔を覆う。
残りの盗賊はすべてケントが片づけた。生きている盗賊たちを彼が次々に縄で縛りあげ、それが終わるとこちらへ近づいて声をかけられた。
彼の声が遠くに聞こえる。
「……おい、セシル、大丈夫か?」
「ケント……。人を、人間を……。殺してしまった……」
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