聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

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第2章

23.ケントの体 <ケント視点>

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 俺はフランツたちの話を聞きながら、ヘルスフェルトの町での出来事を思い出していた。
 光の魔法陣から現れたというドラゴン。転移の瞬間を見たわけではないが龍神の遺跡でそこに棲まうドラゴンと対峙した。あんなのが初心者向けの浅い階層に現れ出会ってしまったら、それはもう『死』を意味するんじゃないか。

 今回だってもし石花のダンジョンでドラゴンと出会っていたら……。
 セシルは今のところ直接敵に手を下すことはできない。ドラゴン相手じゃ俺だけではきっと倒しきれず彼女の命を、そして自分の命をも失っていたかもしれない。

 ダンジョンに突然現れた魔法陣……。どう考えてもフランツたちと状況が似すぎている。今もどこかで同じようなことが起こっているのかもしれない。
 そしてあのミアの虚ろな瞳を思い出す。彼女は今でも自分を失ったままなのだろうか……。
 そう考えてケヴィンにこの危機的状況を訴えかける。

「ケヴィンさん、以前ここから遥か西の町ヘルスフェルトの近くのダンジョンでこれと同じような現象が起こりました。3人の冒険者がダンジョンの10層で床が光って現れたドラゴンに襲われたのです。俺はその場には居ませんでしたが、後から聞いたら彼らがドラゴンを何とか倒したあと彼らの仲間の一人が再び現れた光る魔法陣に吸い込まれて消えたと」
「……なんだって? 魔法陣か……。今回の事件と似ているな……」

 ケヴィンが低く唸る。セシルも俺の話にかなり驚いているようだ。
 彼の言葉に頷いてさらに話を続ける。

「はい……。そしてその場にいたパーティの一人である魔法使いが街に戻ってから、ダンジョンで仲間が消えた直後に龍神の遺跡の魔力の残滓が感じられたと言いました。ドラゴンはそこから来たのではないかと推測していました。そこで俺は彼らに協力してその仲間を救出すべく遺跡へ向かいました。するとそこにはドラゴンがいてその時は仲間と一緒になんとか倒しました。だけどあんなのがダンジョンの浅い階層に出るのは危険すぎると思います」
「確かにそれは危険だな……」

 ギードとやったあのドラゴンの強さを思い出す。3人がかりでやっと倒せるほどの強さだ。もっと強い魔物もいるかもしれない。

「それにしてもケントくんはドラゴンと対峙したのか……!? そして倒したとは! Dランク冒険者とは思えないな……」
「……仲間と一緒でしたから。そしてダンジョンから転移してしまった仲間を龍神の遺跡で見つけました。その時に救出に同行していた治癒士が言っていたのですが、龍神の遺跡は魔力の歪みが酷いと言っていました。恐らく遺跡で過去に使われた転移陣が魔素の歪みのせいで暴走したんじゃないかと。だから遺跡のドラゴンが巻き込まれてダンジョンに転移し、ダンジョンにいた仲間が遺跡に転移させられたんじゃないかと推測していました」

 はっきりと原因が分からないのがもどかしい。原因が分かればそれを取り除くなり行動することができるのに。
 セシルも何やら神妙な面持ちで考え込んでいる。

「なるほど……。魔力の歪みによる転移陣の暴走か。初めて聞く現象だ。そして今回のこととも無関係ではないだろうな。自然に起こったものなのか人為的に起こされたものなのか分からないが、これはもはや災害級だ。早速他の街の冒険者ギルドと連携を取って対策を練るとしよう。原因が究明されるまでダンジョンは封鎖したほうがいいな……」

 ケヴィンは顎を指で触りながら俺の話を聞いて深く考え込み今後の対策を約束してくれた。もうミアやハンスのような不幸な者を目にしたくはない。
 俺たちに労いの言葉をかけたあと彼は救護室を出ていった。




 セシルと受付カウンターへ向かう。
 レーナさんは俺達に「お疲れ様でした」と言って大銀貨10枚を救出依頼完了報酬として支払ってくれた。
 どうやら聞いた話によると、そのお金は救出が成功した場合救出された冒険者がギルドに返済しないといけないらしい。その生き残りの冒険者の代わりにギルドが肩代わりしたという形になるそうだ。
 日本でも海や山で遭難したときに民間の業者が捜索に加わると遭難者本人に費用がかかるっていうしな。金は命には代えられないってことだな。

 そういえば今のうちに昇級試験を受けておくか。すぐに受けれるならさっさと済ませておきたい。ランクが上がれば受けられる依頼の幅が広がるからな。

「レーナさん、Cランクの昇級試験を受けたいんですが今日できますか?」
「はい、ケントさんがダンジョンから戻ったら試験を受けるとのことでしたので、30分ほど準備にお時間をいただければ大丈夫です」
「分かりました。では後でまた来ます」

 どうやらすぐに受けられるらしい。よかった。
 試験の手筈を整えセシルと一緒にギルドを後にする。




「ねえ、ケント、ちょっと話がある」

 ギルドを出てしばらく歩いてからセシルが俺の外套の袖を詰まんで引き留める。

「ん? なんだ?」

 ちょうどその時街の広場を通りかかっていたのでセシルと広場のベンチに並んで腰かける。

「……『防御強化プロテクション』」

 突然セシルは俺に対して防御力を強化する魔法をかける。

「……やっぱり」
「なんだなんだ?」

 セシルが浮かない顔をするのでその顔を覗き込むように体を屈める。
 彼女は何やら深く考え込んでいるようだ。そしてぱっとこちらを見て口を開く。

「今僕はケントに防御力強化の魔法をかけたけど、まったく効果がないでしょ」
「うん……? ああ、そうだな」
「ケント、ダンジョンでオークロードの火球を被弾したことを覚えてる?」
「ああ、あれはお前が魔法で打ち消したんじゃないのか?」
「ううん、僕は何もしてないよ。ケントには魔法が効かないんだ。効かないというか吸収してしまうというか……」
「まじか」

 顎に手を当てて少し俯いて思い出す。
 確かに俺の傍で火球が消えた。あれはそういうことだったのか。今まで魔法攻撃を受けたことがなかったから気づかなかったのか。
 セシルはさらに話を続ける。

「ケントは単に魔力がないだけじゃない。普通の人が体内で魔力を内包している部分に、ケントは黒い靄のようなものがある感じなんだ。全てを飲み込むような」
「何……? 俺は……体の中に闇を抱えている……ということか?」

 ……なんてね。別に大したことじゃない。
 そう考えてにぱっとセシルに笑いかけて話を続ける。

「そういえば俺が王国で召喚されたとき魔力を計る水晶玉みたいなのを持たされたんだけどさ。そのとき奴らには気づかれなかったが玉が一瞬黒く染まったのを見たんだ。紫がかった黒というか」
「……きっとそれがケントの内包している魔力に代わる特性だったんだね。魔力無効化、もしくは吸収? ケントが異世界人だからなのかな?」
「そうかもしれない。でも皆というわけじゃない。俺と一緒に召喚された勇者になった奴は玉が虹色に光ってて全属性の素養があるとか言われてたしな。『虹の祝福』とか言ってたっけ」
「それじゃ、ケントはさしずめ闇、もしくは無の祝福ってとこだね」

 セシルは少し笑うがすぐに真剣な表情に戻って話を続ける。

「魔法無効化はメリットもあるかもしれないけど、ケントにとってはデメリットの方が大きいかも」
「デメリット?」
「うん、ケントにはたぶん生命力回復ヒール状態回復キュアとかの治癒魔法や、防御強化プロテクションなんかの強化魔法をかけても無効化されると思う。それってどういうことか分かるよね?」
「ああ、気軽に怪我もできないな」

 魔法で回復ができないとなるとポーション頼みか。まあでもやられなきゃいいだけだ。

「……うん、まあそういうこと。そして僕がケントにしてあげられることがあまりなくなると思う。だけど地面やケント以外の人や物を対象にした防御結界シールドプロテクトの中にいるなら恩恵を受けられる。ダンジョンから脱出するときにケントの武器にシールドプロテクトをかけたのは、ケント自身にはかけられないと思ったからなんだ」
「そうだったのか。……まあ俺がいた世界なんか怪我したら医者に薬とかで治療してもらうしかなかったわけだし、こっちには回復薬ポーションもあるからヒールができなくても大丈夫だよ。なるべく怪我しないように気をつけるさ。俺も痛いのは嫌だしな」

 そう言ってにかっと笑いセシルを安心させるように彼女の頭をわしわしと撫でる。彼女はそんな俺をじっと見上げながら「わたしが守るから」と言って何か重大な決意をしているようだった。
 正直俺はそんなに重大なことだとは思っていない。俺は魔法なんてないのが当たり前の世界に住んでいたからな。

「そろそろ試験の準備が終わるころだ。俺はギルドに戻るがセシルはどうする?」

 心配そうにじっと俺を見ているセシルに尋ねる。

「僕も行くよ。ケントが戦うところを見てみたい」

 セシルがにこりと笑って答えたので「それじゃあ行くか。」とベンチから立ち上がった。さーて、さっさと試験を終わらせるか。




 冒険者ギルドに到着したあとレーナに試験のことを尋ねる。

「ケントさん、お待たせしました。昇級試験の準備が整いましたのでこちらへどうぞ」

 セシルと一緒にギルドの奥の修練場に案内される。そこは50メートル四方はあると思われる四角い中庭のような所だ。中にこんな広いところがあったなんて知らなかったぞ。
 周りに柵が張ってありその外には長椅子が設置されている。日本でいうところのスケートリンクに近いな。地面は土だが。
 救護室が完備されているのにも驚いたがこんな設備まであるとは。冒険者ギルドってすごいな。

 セシルは柵の外の長椅子に座って待機している。そこで見学できるようになっているようだ。
 促されるまま柵の中に入り試験官を待つ。
 しばらく待っていると柵の外から見知った顔が入ってくる。ギルドマスターのケヴィンだ。見ると銀色の金属の鎧を全身に装着し腰には長剣を携えている。やる気満々だ。
 それを見て思わず叫んでしまった。

「もしかしてケヴィンさんが試験官!?」



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