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第2章
24.昇級試験と不穏な足音
しおりを挟む◆◆◆<ケント視点>
俺の目の前にはギルドマスターのケヴィンがいる。銀色の金属の鎧を全身に装着し、腰には長剣を携えている。やる気満々だ。
それを見て思わず叫んでしまった。
「もしかしてケヴィンさんが試験官!?」
「ああ、よろしく頼むよ」
俺の身長は180センチ程だがケヴィンと並ぶと彼のほうが頭一つ分はでかい。彼は一見強そうだが俺は加護持ちだ。大丈夫だろうか。ギルドマスターって戦闘職じゃないよな?
「おいおい、まじかよ……。怪我しても知りませんよ」
「まあお手柔らかに頼むよ」
そう言ってにこりと笑うケヴィンと握手をしてお互いに距離をとる。
彼は腰の剣を抜いて構える。ごく普通の長剣だがその体格のせいで短く見える。
背中の大剣を抜く。お互いに武器を構えたまましばし見合う。
ケヴィンの身長からすると射程距離も長いと思っていいだろう。その間合いを計算する。
だが俺の大剣のほうが間合いは大きいだろう。懐に入られると面倒臭いことになるな。
大剣を両手で持って切っ先を前に傾け、少し手前に引くように構えたままケヴィンの方へ勢いよく踏み込む。彼は俺の動きの速さに一瞬度肝を抜かれたようだがすぐに表情を戻し、俺の突きを右方向に躱し低い体勢から俺の胴を狙ってくる。懐に入られた。
「ふんっっ!」
「おっと!」
即座に後ろに飛び退きケヴィンの間合いから出て、大剣を右手のみで持ち助動作なしで横方向に薙ぎ払う。彼はそれを後ろに飛び退いて躱す。体がでかい割にかなり俊敏な動きだ。
だがさっきの攻撃で俺の大剣が掠り彼の金属の鎧が切れている。すげえな、ツヴァイハンダー。
ケヴィンは自らの鎧の切れた部分をちらりと見て触ると、顔を上げて再び俺の間合いに飛び込もうと詰め寄る。
彼が間合いに入ったと同時に大剣を袈裟掛けに振り下ろすが、彼はそれを俺の右側に回り込むように躱す。そしてさらに踏み込みそのまま屈み込んで俺の足を踵で蹴り払う。この人体も柔らかいな! 人は見かけによらん。
「うおっ。」
それを避けるのが間に合わずバランスを崩し後ろに倒れ込んでしまった。
やばい! そう思った瞬間、すかさずケヴィンが覆いかぶさってきて彼の体と一緒にその剣身が降ってきた。
ガキーンと金属と金属のぶつかった音が場内に響く。大剣の剣身で上半身を覆うようにそれを防ぐ。俺は彼を見上げ、彼は俺を見下ろし、お互いに剣を交えて力で押しあいながらしばし見合う。視界の端でセシルが心配そうにこちらを見ているのが分かった。
ケヴィンの胴を足で蹴り上げるとその衝撃で彼は後ろに後ずさった。その隙に立ち上がりすぐさま追って間合いを詰め、彼の胴を狙って一突きしようと大剣を突き出す。そのとき即座に彼が声を上げる。
「そこまで!」
大剣の切っ先がケヴィンの胴の一寸手前でぴたりと止まる。
「ストップだ、ケントくん。君の実力は分かった。Cランク試験は合格だ」
「ありがとうございます。……もういいんですか?」
不完全燃焼で舌打ちとかしない。絶対。
「ああ、君の実力は恐らく私よりももっと上だろう。これ以上やると私の命が危険なのでね。ちなみに私は引退前はAランクだった」
「……なるほど、そうだったんですね。お手合わせ、ありがとうございました」
ケヴィンに手合わせの礼をする。彼は「楽しかったよ。ありがとう」と言って修練場から出ていった。
修練場の柵から出るとセシルが走り寄ってくる。俺のことを心配してくれたのか?
「無事でよかったよ………ケヴィンさんが」
「あの人はお前が言うほど弱くないぞ。実力を全て出していた訳じゃなかったようだし」
「そうなんだ?」
「ああ」
「ふぅん」と言って嬉しそうな顔でセシルがついてくる。そのまま訓練場を出た。
訓練場を出てレーナのいる受付カウンターで試験の結果を伝えた。
「ギルドマスターから聞いております。Cランク昇級おめでとうございます。それではカードをお預かりしますね」
レーナは俺のカードを預かるとCランクに書き換えて渡してくれた。よっしゃ、これでCランクだ! 結構嬉しいもんだな。
セシルも喜んでくれてるようだ。
「ケント、おめでとう!」
「ああ、ありがとう!」
セシルがにぱっと笑って祝ってくれたので嬉しくなってそう答えた。
しばらくして「あっ」と何かを思いだしたようにセシルが俺に尋ねてくる。
「そういえばさ、ケント。オークロードを倒した後、ドロップ品拾ってた?」
セシルに尋ねられてはっと思い出す。そういやそんなのがあったな。ダンジョンから戻っていろいろあったからすっかり忘れてたわ。
「ああ、そうだ! すっかり忘れてたわ。オークロードが落としたのは上ポーションだよ。ダンジョンで拾った魔石とドロップ品のこと忘れてた。換金しないと」
「んー、それじゃさ、ポーションはケントが持ってて。私はマジックポーションを預かっとくよ」
「それじゃ、魔石だけ換金しとくか」
そう言って再びカウンターに行きレーナさんに魔石を鑑定してもらい売却する。全部で大銀貨2枚になった。
セシルに半分渡すと「ありがとう」とにっこり笑って受け取ってくれた。
そう言えばこの世界の金銭価値ってどのくらいなんだろう? 普通に買い物はしているが、言い値で支払ったりして買い取り額の価値もよく分からない。
「セシル、俺は未だにこの世界の金の価値がよく分からないんだが、教えてくれないか?」
「……僕にそれを聞く? お金なんてザイルに来てからしか使ったことないんだけど。あ、だけどソフィーが、兵士さんの給料に比べるとベンノさんの給料は安いってぼやいてた。兵士さんが月に大銀貨15枚くらいで、ベンノさんが10枚くらいだって」
「へえ、そうなんだ。それ結構分かりやすいな。ありがとう、セシル」
なるほど。大銀貨1枚が大体日本円で1万円くらいなんだな。大分理解できたぞ。
冒険者ギルドを出たあと俺たちは別れ、俺は宿へ、セシルはソフィーの家へ帰っていった。
◆◆◆<第三者視点>
ちょうどその頃、ヘルスフェルトの町にて。
その青年は黒い髪に緋色の瞳で、女性と見紛うほどの中性的な整った顔立ちに、優しそうな笑顔を浮かべている。年のころが20才前後といった感じのその青年は、宿屋『黒猫亭』のカウンターに向かい、宿屋の主人に人懐っこい笑顔で尋ねる。
「おじさん、僕の友達がここに泊まってたって聞いてね。ケントっていうんだけど知らないかなあ?」
宿屋の主人は一瞬怪訝そうに青年を見るが、青年の人懐こい笑顔に警戒を緩める。
「ケント……? ああ、ずいぶん前に泊まってたよ。1か月、いや、2か月くらい前だったかな……」
「あ、そうなんだ! よかった~、見つかって。それで、どこに向かったか知らない? 後で追いつくって約束してたんだけどさ、間に合わなかったみたい」
「ああ、そうかい、それは残念だったね。行先はそうだなー、はっきりとは聞いてないが、魔の森がどんなところかとか聞かれたな」
青年はその答えを聞いて、それはもうにっこりと妖艶な笑みを浮かべる。宿屋の主人は思わず赤くなってしまう。
「……魔の森、ねえ。ケントはそこに行ったのかな?」
「そこまでは分からないな、すまないが」
「そ、分かったよ、おじさん。ありがとうね」
青年は話を聞き終わると、宿屋の主人に大銀貨1枚を渡し、その場を去った。
宿屋を出た青年はしばらく歩き、町はずれのひと気のないところまで来ると独りごとのように呟いた。
「魔の森だって~。あんなところに何の用があるんだろ? でも東に向かった可能性は高いねぇ。」
青年が肩を竦めながらそう言うと、一人だと思われていた青年の周囲から声がする。
「ってことは、魔の森への道を辿るように足取りを追えばいいってことか? ヌル」
「冒険者ギルドに行っても情報はなかったし、これが唯一の情報なんだから行くしかないよね~」
ヌルと呼ばれた青年がその声に答えると、また周りから別の声がする。
「そうねえ、見つからなかったら見つからなかったでいいんじゃない? あたしあの神官嫌いなのよねえ」
「フィーア、ノイン、君たちは部下を連れて、魔の森への経路を辿ってくれる? 僕は魔の森までの経路の町で聞き込みをしながら向かうから少し遅れる」
「了解」
「りょ~かい」
ヌルが声に向かってそう言うと、彼の命令を受けてフィーアとノインと呼ばれたその声は消えた。
「冒険者ギルドでもう少し話を聞いてみるか……。待っててね、カブラギケントくん」
そう呟いてヌルは再び妖艶な笑みを浮かべた。
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