聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

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第3章

43.ミアの記憶

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 セシルたちは鉱山の町ジーゲルを、朝日が昇る前に出発する。このまま走り続ければ深夜にはヘルスフェルトに到着できる。
 いよいよミアを助けることができる。セシルにとっては顔も知らない人だが、ケントが助けたいと思う人ならセシルにとっても大切な人だ。

 ときどき食事のために休憩を取りながらひたすら西へ進む。時刻が真夜中にさしかかった頃、遠くに町の明かりが見える。

「セシル、あれがヘルスフェルトの町の灯りだ。やっとだな……。」

 ケントが感無量といった感じで町の灯りを見つめる。セシルは灯りを見つめながらミアのことを考える。自分の治癒魔法でちゃんと元通りに回復させてあげられたらいいなと。

 逸る気持ちを抑えつつ30分ほど馬を走らせたところでヘルスフェルトの町に到着する。馬を引きながらケントが話す。

「俺が泊まっていた『黒猫亭』って宿屋へ行ってみる。もしかしたらギードたちから何か連絡が入っているかもしれない。」

「うん。」

 ケントについて『黒猫亭』へ向かう。もう真夜中を過ぎ人通りはかなり少なくなっているが、町の規模が今までに見た町よりも大きい。昼間はさぞかし人も多いだろう。
 『黒猫亭』に到着し、ケントが宿屋の主人に尋ねる。

「俺はケントといって以前この宿屋に宿泊させてもらったんだが、俺宛てに誰かからか連絡は入ってないか?」

 すると宿屋の主人はケントに封筒を渡しながら答える。

「ああ、覚えてるよ。確かにあんた宛てにギードって冒険者から手紙を預かってる。どうぞ。」

「ありがとう。」

 ケントは手紙らしきものを受け取ると、その場で開き文面を見て瞠目する。

「まじかよ……。」

「ケント、どうしたの?」

「……いや、ギードっていうミアの仲間からの手紙だが、ミアは彼らと一緒にいるらしい。今からだと時間も遅いし、今日はここに泊まっていこう。」

 そう言ってケントはこの宿屋に部屋を取り、セシル達は一晩泊まることにした。


 翌朝、宿屋の食堂で朝食を取ったあと、ケントとともに宿を出る。

「ギードはこの町に家を買ったらしい。そこにビアンカと住んでいると。そしてミアを引き取って二人で面倒を見ているそうだ。」

「それって……。」

 ケントに連れられ手紙の住所の場所を訪ねると、中からとてもがっちりとした人が出てきた。すごく大きな人でセシルは少し驚く。なんだか、ザイルの冒険者ギルドマスターのケヴィンみたいだ。
 ギードはとても嬉しそうにケントとセシルを歓迎してくれた。

「おお、よく来てくれたな、ケント! 久しぶりだな! それに、連れの方もよく来てくれた。ビアンカは今買い物に行っていていないんだ。」

「久しぶりだな、ギード。この子はセシル。俺の仲間だ。それにしてもお前らがそういう関係だったとはな。」

 ケントがニヤニヤしながらギードに話す。するとギードは照れくさそうに頭を掻く。

「ああ、よろしくな、セシル。いやあ、ミアを引き取るのには家があったほうがいいと思って買ったんだが、ビアンカも世話するって言うし、まあ、なんとなくそうなってしまってな。」

「初めまして、ギードさん。……ギードさんとビアンカさんは夫婦なんですか?」

 セシルが訪ねるとギードが赤くなって答える。

「ああ……まあ……。式はまだだがミアがよくなったら挙げようって話してる。」

「本当に羨ましいぜ……。どいつもこいつも……。」

 ケントが腐ると、ギードが小さな声でセシルに尋ねる。

「ケント、何かあったのか……?」

「あーうん、まあ大丈夫です。気にしないでください。」

 あはは、とセシルは笑って小さな声で答える。

「それで、ミアはどんな具合だ?」

 気を取り直してケントが尋ねる。

「ああ、相変わらずだ。ときどき散歩させたりして運動はしてるし、食事もちゃんと取っているから、身体的には何の問題もない。ただ、やはり誰かが世話をしないと普通に生活するのは無理だな。」

「聖女は? 会いに行ったのか?」

「ああ、王国に行って聖女に会わせてもらえるよう頼んだんだが、神殿では門前払いで取りつく島もなかったよ。」

 ギードが肩を竦めて溜息を吐く。ケントは想定内だったのだろう。対して驚きもせずに話す。

「……そうか、残念だったな。だが、この子、セシルが特別な治癒魔法を使えるからもう大丈夫だ。」

「は? なんでまた……。」

 ギードは驚いたようにセシルを見る。ここで聖女の血筋とは言わないほうがいいだろうとセシルは考える。

「ぼ、わたしは魔女の孫なんです!」

「へ? 魔女?」

 セシルの言葉にギードが目を見開いて驚く。そしてケントはなぜかくつくつと笑っている。

「だからわたしにミアさんを診せてください。」

 セシルとケントはミアの私室に案内される。ミアは椅子に座って窓の外を見ていた。ケントはそんなミアの姿が目に入ると痛ましげに彼女を見つめる。

 その時、玄関の方で女性の声がした。誰かが来たようだ。

「ただいまー。ギード?」

 ビアンカさんという人だろうか。一緒にミアの私室に入っていたギードが一度部屋を出て、声の主を迎えに行く。

「おかえり、ビアンカ。今ケントが来てくれててな、魔女のお孫さんを連れてきてくれたんだよ。それで今ミアを診てもらうところだったんだ。」

「なんですって!?」

 声の主、ビアンカさんはギードと一緒にすぐにミアの部屋へ駆けつけてくる。そして部屋へ入った途端、ケントとセシルの姿を見て驚いたように口を開く。

「ああ、ケント、本当に久しぶりね。魔女のお孫さんはそちらの子?」

「ああ、名前はセシルだ。」

「はじめまして、ビアンカさん、ですよね。セシルです。その……魔女の孫です。」

「よろしくね、わたしはビアンカよ。魔女ってお孫さんがいたのね……。」

 ビアンカは優しそうで美しい女性だった。その眼差しから見た目通りの優しい人であることが分かる。

「それじゃ、早速ミアさんを診させてもらいますね。」

 そう言ってセシルは早速椅子に座るミアの目の前にしゃがみ込み、見上げながらなるべく優しい声でミアに話しかける。

「ミアさん、わたしセシルっていいます。少し触れますけど許してくださいね。」

 セシルはまずミアに目隠しをする。脳が正常に戻る過程で、多くの情報を一気に与えないためだ。まずは視覚からの情報を遮断する。正常に戻る途中で目に入る情報は最低限のほうがよい。

 ミアはそんなセシルの方に視線を向けるが確かに見ているようで見えてはいないようだ。セシルがミアの前で立ち上がり、ミアの頭部へ右手を近づける。少し怯えるようにミアの肩がピクリと動く。
 セシルは意識を集中させ、ミアの頭部の状態を見る。もし記憶が失われていたら失われた記憶まで戻すことはできない。だが、脳の損傷を本来の正常な状態にすることはできる。

「『生命力回復ヒール』。」

 セシルは手を当てながらその異常を見つける。そしてそれを元の状態へ、ゆっくりとゆっくりと戻し、最後に正常に血液が巡っていることを確かめて手を離す。
 セシルはビアンカに、ミアに話しかけるよう促す。

「ミア、わたしよ。ビアンカよ、分かる?」

「ビア……ンカ……?」

「ああっ、ミア、ミアっ!」

 ビアンカが感激のあまり両手で口を覆い、その目に涙を浮かべる。

「どうしたの? なんで私目隠しされてるの?」

 セシルが目隠しを外したあとミアがゆっくりと目を開ける。彼女の目には明るい光が戻っている。

「あれ、ここはどこ? ビアンカ、どうして泣いてるの?」

「ミア、ああ! 何から話していいのかしら……! 貴女はヘルスフェルトのダンジョンで転移魔法陣に巻き込まれて……。」

 ミアは少しずつ記憶を取り戻しているようで、その表情はその時の状況を思い出したかのように徐々に険しくなっていく。

「思い出したにゃ。巻き込まれてドラゴンの巣窟に転移したんだけど、もうその時は戦いでぼろぼろになってたから、ドラゴンに追われて逃げるのに必死だったにゃ……。それからでかい奴が目の前に現れて。でもその後のことをよく覚えていないのにゃ……。」

「貴女は長い間眠っていたような状態だったの。でもケントがセシルさんを連れてきてくれて、セシルさんが貴女を治してくれたのよ……。」

「ケント……。セシル……。」

 そう呟くと、ミアはまず視界に入ったケントににこりと微笑む。そして部屋を見渡し、自分の後ろにいた女の子、セシルを見て微笑んで話しかける。

「君が治してくれたのかにゃ? セシル……ありがとう!」

「ミアさん……。」

 ああ、うまくいって本当によかった。自信はあったけど実際に彼女の健康な姿を目にするまでは不安だった。
 ケントがミアの姿を見て安心したように口を開く。

「ミア、俺のこと、覚えてるか?」

「当り前にゃん! ところで二人はどういう関係?」

「俺たちはチームだ。な、セシル。」

「うん、仲間です。あの、ミアさん、頭痛とかないですか? どこか痛いところは?」

「うん、頭痛はちょっとする。寝すぎたた後のような、偏頭痛みたいな……。あっ!」

 ミアは何かを思い出したように瞠目する。一体どうしたのだろう。

「うち、遺跡でローブの男を見たにゃ……。転移してすぐぐらぐらして気持ち悪くなったからしばらく蹲ってたら、何か視線を感じてそっちを見たら人がいたのにゃ。助けてもらおうと思って声をかけようとしたらふっといなくなったにゃ。」

「ローブの男……。」

 セシルはなんだかその男が転移魔法陣と無関係ではない気がする。ミアの言葉を聞いてケントが口を開く。

「ふむ……。ザイルのギルドマスターが他のギルドに連絡するって言ってたから、それについて進展がないか探ってみるか。セシル、あとで冒険者ギルドへ行ってみよう。」

「うん。」

 セシルはフランツたちのことを思い出し、嫌な予感に胸がざわついた。



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