聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

文字の大きさ
72 / 96
第6章

70.湧き上がる闇

しおりを挟む


「ハイノさん、大丈夫ですか?」

 セシルはディアボロスによってザックリと肩を斬られたハイノに駆け寄る。
 先ほどの戦いの間に上回復薬ポーション魔力回復薬マジックポーションを服用し多少は回復することができた。
 ワタルのほうはエリーゼが治癒魔法を施している。やはり単なる外傷ではなく体力をも奪われているようで回復が捗らないようだ。

「『生命力回復ヒール』。」

 掌をハイノの肩の傷に当てる。温かい光が彼の傷を覆う。傷は塞がるがやはりかなり魔力と体力が奪われているようだ。

「う、すまないな……セシル。」

「えっ?」

 ぐったりとしながらハイノがセシルに礼を言う。
 自分は彼に名前を言っただろうか? エリーゼに告げたのを聞いていたということ?

「ハイノさんはもしかして……。」

 彼はセシルの言葉を聞いてにっこりと笑った。もっと話したい。きっと彼は……。
 もっと話を聞きたかったが今はそんな場合ではない。この戦いが終わったら彼とたくさん話したい。だけど今は地上へ出てしまったディアボロスを追わなければ。

「奴を追おう。ワタル、ケント、動けるか?」

「僕は何とか……。だけどケントさんは……。」

 ワタルが痛ましげにケントを見る。彼の傷は2人よりも深かった。ポーションで傷口は塞がったものの奪われた体力も相当なものだったのだろう。

「俺も、行く……。」

 ケントは大剣を床に突き立て杖代わりに立ち上がるが満身創痍で足取りもふらついている。すぐに戦闘に加わるのは無理だ。しばらく休むべきだ。
 とはいえハイノとワタルもまだかなり弱っている。だが追うしかない。街には祭典の翌日のためいつもよりも多くの人たちがいる。このままではディアボロスによる大量虐殺が始まってしまう。

「ケントさんは私が看てます。どうぞお先に行ってください。」

 エリーゼがそう言ってケントに肩を貸した。ケントが「すまない。」と言って彼女に寄りかかる。取りあえず彼のことはエリーゼに任せよう。

「私が援護します。皆さん、行きましょう。」

 セシルはそう言って、ハイノとワタルと大きく頷きあい急いで地上を目指す。





 ディアボロスは神殿をぶち抜いて飛び上がったあと、空中に浮かび上がり街を見下ろす。

「さあ、私を楽しませてくれ。いでよ、我が眷属たち。」

 ほくそ笑みながら両手を広げそう言うと、街中の地面から次々と黒い液体が湧き上がりその姿を小さな悪鬼に変える。無数の悪鬼が街中に現れた。まるで漆黒のゴブリンのようだ。

『ギャー、ギャー!』

「きゃあぁーー!」「うわっ、なんだっ!」「ひぃっ、く、来るなっ!」

 街のあちこちから悲鳴が沸き起こっている。それを聞きながら悪魔は嬉しそうに笑う。どうやらそのまま高みの見物を決め込むようだ。

 ハイノとワタルとともに神殿から出たセシルが見たのはその地獄のような光景だった。

「何ということだ……。」

 ハイノが呟く。ワタルはあまりにも凄惨な光景に愕然としてしまう。
 周りは阿鼻叫喚の渦だ。悪鬼に追われ襲われる人々。こと切れて既に動かなくなった人。隠れて震える人。勇敢にも立ち向かおうとする人。彼らを助けなければ!

「私は兵を動かすよう奴に頼んでくる。お前たちはなるべくたくさんの人々を避難させてくれ!」

 そう言ってハイノは城へ向かった。奴……誰だろう?
 ワタルは目の前で女性を追いかけていた悪鬼を背中から斬り払う。そこからは目についた悪鬼を片っ端から斬って斬って斬りまくる。

 セシルは重症の人を優先して治療しながら、魔法で悪鬼を駆逐していく。

「大丈夫ですか!? 『生命力回復ヒール』。」

「あ、あぁ……ありがとう……。」

 女性の傷の手当てをする。悪鬼の攻撃には体力を奪う効果はないようだ。普通に回復できる。だがこの数の多さは……。

「『風刃ウィンドエッジ』!」

『ギャアアァッ!』

 こちらへ襲いかかってきた悪鬼を風刃で撃退する。だがいくら倒しても埒が明かない。なぜなら……。

――コポコポ……

『ギャアッ!』『ギャッ、ギャッ』

 今もあちこちから湧き上がる黒い液体。そして次々と生まれてくる漆黒の悪鬼。このままでは本当に王都が悪魔に占領されてしまう。
 ワタルは剣と魔法で悪鬼を駆逐し続けている。とりあえず今はセシルも目の前に横たわるなるべく多くの怪我人を救い、次々と湧いてくる悪鬼を倒すことしかできなかった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...