7 / 7
最終話、間違えた勇者
しおりを挟む
現れたのはいつものレアンドルさんではなかった。黒髪をすっきりと後ろに流して、顔が全て露わになっている。切れ長の金色の目が理知的な輝きを灯す、アランに勝るとも劣らない顔立ちの整った美丈夫だ。
「レアンドルさん……」
「お前っ……!」
レアンドルさんは無表情のまま淡々とアランに告げる。
「すみません、話は全て聞かせていただきました。アラン、貴方は間違えたのです。本当に愛しているなら、彼女に涙を流させてはいけなかった」
「レアンドル、お前には関係ない!」
「いいえ、あります。私はこれからローズさんに交際を申し込もうと思っています」
「えっ!?」
思いがけない告白に驚きの声をあげた。レアンドルさんが私に? 私は熱くなってくる頬を冷やすべく両手で抑える。
「……どういうことだ」
「言葉の通りです。私はローズさんが好きです。決して傷つけたりはしません。彼女をずっと守ります。アラン、貴方からもです」
「レアンドルさん……」
アランは言葉を失ったように黙って俯いてしまった。可哀想だと思う気持ちがないわけではないけど、男として最低なアランをずっと見てきたので、今さら恋人に戻りたいなんて欠片も思えない。
そんな私に、アランが振り絞るように告げる。
「ローズ、傷つけてごめん……。でもこれだけは信じてほしい。本当に愛してるんだ」
「アラン……。謝罪は受け入れるよ。でもあんたの愛は信じられない」
悲しそうに顔を歪めるアランを残して、レアンドルさんと一緒に王宮を出た。そして私は奉公先の商家へと戻った。
あれからしばらくして、意外と情熱的だったレアンドルさんの熱意に絆されて恋人同士になった。私もレアンドルさんのことが大好きになっていたから。
そして驚いたことにレアンドルさんはまだ十八才だった。落ち着いているからてっきり二十五才くらいかと思っていた。そう打ち明けたらレアンドルさんはとても落ち込んでいた。ごめんなさい。
アランはそのまま故郷へ帰った……と思っていたんだけど、王都にとどまって王宮の騎士団で騎士の職に就いた。勇者として魔王を倒した成果を上げたことで一躍英雄として有名人となったアランは、国王陛下から一生働かなくてもいいほどの報酬もいただいたはずなのだけど。
「ローズ、もう女の子たちとは完全に縁を切ったんだ。だからさ……」
「あら、彼女ができなくなっちゃうじゃん。そんな勿体ないことしちゃ駄目だよ」
「ローズっ!」
「今仕事中だから。お薬買わないなら帰ってくれる?」
「……上級回復薬十本くれ。ローズ、俺は絶対にあきらめないからね!」
アランはときどきお店に来て付き纏ってくる。これには私もレアンドルさんも頭を抱えているのだけど、気が済むまで好きなようにさせるしかないという結論に達した。
私の気持ちが変わることはない。突き放す言葉も言い尽くした。
それでもめげずに何度も立ち向かってくるアランを見て、あんな形でも愛してくれていたことだけは信じてあげてもいいかなと思い始めている。
――完
「レアンドルさん……」
「お前っ……!」
レアンドルさんは無表情のまま淡々とアランに告げる。
「すみません、話は全て聞かせていただきました。アラン、貴方は間違えたのです。本当に愛しているなら、彼女に涙を流させてはいけなかった」
「レアンドル、お前には関係ない!」
「いいえ、あります。私はこれからローズさんに交際を申し込もうと思っています」
「えっ!?」
思いがけない告白に驚きの声をあげた。レアンドルさんが私に? 私は熱くなってくる頬を冷やすべく両手で抑える。
「……どういうことだ」
「言葉の通りです。私はローズさんが好きです。決して傷つけたりはしません。彼女をずっと守ります。アラン、貴方からもです」
「レアンドルさん……」
アランは言葉を失ったように黙って俯いてしまった。可哀想だと思う気持ちがないわけではないけど、男として最低なアランをずっと見てきたので、今さら恋人に戻りたいなんて欠片も思えない。
そんな私に、アランが振り絞るように告げる。
「ローズ、傷つけてごめん……。でもこれだけは信じてほしい。本当に愛してるんだ」
「アラン……。謝罪は受け入れるよ。でもあんたの愛は信じられない」
悲しそうに顔を歪めるアランを残して、レアンドルさんと一緒に王宮を出た。そして私は奉公先の商家へと戻った。
あれからしばらくして、意外と情熱的だったレアンドルさんの熱意に絆されて恋人同士になった。私もレアンドルさんのことが大好きになっていたから。
そして驚いたことにレアンドルさんはまだ十八才だった。落ち着いているからてっきり二十五才くらいかと思っていた。そう打ち明けたらレアンドルさんはとても落ち込んでいた。ごめんなさい。
アランはそのまま故郷へ帰った……と思っていたんだけど、王都にとどまって王宮の騎士団で騎士の職に就いた。勇者として魔王を倒した成果を上げたことで一躍英雄として有名人となったアランは、国王陛下から一生働かなくてもいいほどの報酬もいただいたはずなのだけど。
「ローズ、もう女の子たちとは完全に縁を切ったんだ。だからさ……」
「あら、彼女ができなくなっちゃうじゃん。そんな勿体ないことしちゃ駄目だよ」
「ローズっ!」
「今仕事中だから。お薬買わないなら帰ってくれる?」
「……上級回復薬十本くれ。ローズ、俺は絶対にあきらめないからね!」
アランはときどきお店に来て付き纏ってくる。これには私もレアンドルさんも頭を抱えているのだけど、気が済むまで好きなようにさせるしかないという結論に達した。
私の気持ちが変わることはない。突き放す言葉も言い尽くした。
それでもめげずに何度も立ち向かってくるアランを見て、あんな形でも愛してくれていたことだけは信じてあげてもいいかなと思い始めている。
――完
74
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(15件)
あなたにおすすめの小説
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます!
アランはねぇ、もうほんとどうしようもない男ですね(笑)
アランは行動も斜め上を行きますが、執着心も斜め上行きそうなので、レアンドルさんは注意したほうがいいと思います。
下手すると結婚しても縋りついてきそうですね。
感想ありがとうございます!
あんな屑ですから、女の子たちも屑上等で遊んでいたでしょう、多分(笑)
アランちは金持ちだからいいお財布になりそうですな(´∇`)
感想ありがとうございます!
こちらこそ最後まで読んでいただけて大変嬉しいです。
ありがとうございました!
書き始めたときは昼ドラみたいな、もっとドロドロっとした鬱な展開になるかなーと思っていたのですが、作者の文章力では無理でした(笑)
実際にあったらとても笑えませんが、馬鹿ならしょうがないかーと思わなくもなかったり?
最後までお読みいただきありがとうございました(´∇`)