赤い髪のリリス 戦いの風

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14、巫子達の戦い

第135話 男装の姫君

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レナントの城は壊れた場所の修復も始まり、メイスが来た時より後は魔物の襲撃もなく静かな時が過ぎていた。
人々の不安も落ち着いてはいるものの、根本解決にはなっておらず祈るような日々が続いている。
しかもガルシアの元には、別荘で静養する父の元へ避難していた妹姫のルシリアが、勝手に戻って来て彼の頭を痛めていた。

「ねえレイト、聞いた話だと巫子の元に魔物に取り憑かれた子が保護されているって話じゃない?
私会ってみたいわ、案内して。」

ガルシアの部屋のろうそくを換えに行く途中、歩くのが遅いレイトをルシリアがさっそく廊下で捕まえ袖をグイと引いた。

「それは、御館様のお許しを頂きませぬと……姫様、どうぞお許し下さいませ。」

レイトが困って逃げ腰で先を急ごうとする。
しかしそれを許す彼女ではない。
サッと前に出て立ちはだかり、腰に手を当て睨み付けた。
ルシリアは王家でも変わった女性で、いつもドレスではなくズボンの乗馬服を着ている。
だからと言って馬が好きと言うわけでもなく、動きやすいからであり腰には剣をぶら下げて、男勝りでその腕はたいそう強い。
しかも、もうすぐ19歳と普通ならとうに嫁入りを済ませているはずの年齢だが、見合いの相手はすべて却下と嫁に行く気もないらしい。
政略結婚などさせる気もないガルシアは、「勝手にするがいいさ」と人ごとだ。
まあ、その本人も未だ相手を見つける暇もないのだが。

「まあ!レイトは私の行動をいちいち兄様に言いつけるつもりなのね?!
ひどいわ、私には自由がないのよ。」

しくしく嘘泣きをしてみせる。
レイトが呆れて大きくため息をつき、首を振って頭を下げた。

「どうか、私を困らせないで下さいませ。
側近のメリーメア様はいかがしました?」

「ああ、あの子にはしばらく暇を出したわ。だって母親が病気だというのよ。
それでね、兄様ったらひどいのよ!私が持たせた土産が気に入らないって言うの!
病気の時は物じゃなくて金だって、お前は何もわかってないですって、酷い言いようじゃない?」

ああ……それで御館様が怒ってらしたのか。
まあ、あの方も急いで金貨を使いに持たせてやったのを見ると、帰したことには怒っておられないのだろうけど。
こうして一人でフラフラされるのが、一番困ったことなのだろう。

「ねえ、レイトが私の側近になってくれたら私、部屋でじっとしててもいいわ。」

「えっ!」

「駄目だ!!」

突然ドアが開き、ガルシアが廊下に飛び出してきた。
呆気にとられる警備兵をよそに、ガルシアが急いで駆け寄り、レイトの腕を引く。

「お前がレイトを狙ってるのはわかってるんだ。このじゃじゃ馬!
だいたい女に男の側近なんて聞いたことがない!さっさと嫁にいけ!」

「あら、失礼ね。だって私に付いてこれる女の子なんているわけないじゃない。
女同士で世間話と楚々として毎日刺繍やお茶でも飲んで、なんてまっぴらよ。
でも、レイトならすっごく癒やされると思うの。
見目もいいし、物腰も優しいし、お茶も美味しいし、気が効くし、その辺のがさつな騎士よりうんとステキ。
兄様、レイトを譲ってよ。」

「却下する!部屋に戻るぞ、俺は忙しい。」

ガルシアがレイトの腕を引き、急いで部屋に戻ろうとする。
しかし後ろから、ルシリアがレイトの上着を引いて引っ張り合いになった。

「だったらせめて、魔物付きの子の所に連れてってよ!そのくらいいいでしょ!」

「何しに行くんだ、面白半分なら……」

「あら、それは秘密よ。さ、レイト行きましょ。」

妹の、いたずらっ子のようにキュッと笑う顔には、何かわけを感じる。
ガルシアはレイトと目を合わせ、渋々頷くと妹にレイトを託した。
ルシリアはレイトからろうそくを取り上げ、兄に渡して嬉しそうに彼の腕をしっかり抱きしめ、並んで歩き出す。
一人残されたガルシアが、歪めた顔で妹の背を見送りながらあごをさすった。

「クリスはいるか?」

「は、ここに。」

先ほどから呆れて兄弟げんかを見ていたクリスが、慌てて横に控えると頭を下げた。

「あいつがあのような顔をする時は、何か良からぬ事があるんだ。
あれほど父を気にかけていたくせに、このタイミングで帰って来たことも気になるな。」

「実はその事でお話が……フレアゴート様が……」

クリスがガルシアの耳元にささやきかける。
ガルシアはやはりとニヤリと笑って、彼にろうそくを渡し自室に戻っていった。



最近足の具合が悪く、歩くのが遅いレイトに歩幅を合わせ、ルシリアが彼と手を繋いで歩く。
レイトは困った様子で顔を伏せ、懸命に痛い足を引きずり歩いていた。

「足、具合悪そうね。この騒ぎが終わったら、しばらく湯治に行ってらっしゃい。
兄様は気が効かないだろうから、私から言って置いて上げるわ。」

「申し訳ありません、ありがとうございます。でも、大丈夫です。」

「いいのよ、別に気にすることはないわ。
お前は兄様の大切な片腕なんだから、末永く勤めて貰うためにも身体を大事にして貰わないとね。
ベスレムのセルクルは小さな町だけど、良い湯が出るのよ。
実はお父様と行ってきたんだけど、腰の痛みがたいそうラクになったのですって。
うちの別荘を使っていいから行ってらっしゃいな。」

驚いた顔を上げ、レイトがルシリアの横顔を見る。
まさか、そう思われているなど、考えてもみたことがなかった。
嬉しくて、足からスッと痛みが引いて行くような気がする。
レイトは素直に満面に笑顔をたたえ、彼女に礼を言った。

「ありがとうございます。身に余る光栄でございます。」

「足が悪くても、何も引け目に感じることはないわ。
兄様やクリスはもう、あなた無しじゃやっていけないほど生活で依存してるんですもの。
ホホ、兄様には私がセルクルに行ったことはナイショよ。」

指を立て、パチンとウインクする。
本当に、少しもじっとしていらっしゃらない、困った姫様だ。

「承知しました。秘密は厳守いたします。」

クスクス笑って、うなずいた。
すっかり暗くなった廊下で、ろうそくに火を点けて回る少女が二人に頭を下げる。
レイトが前を通る時、その頭を軽く撫でて声をかけた。

「足下にお気をつけなさい、お疲れ様です。」

「は、はい!姫様、レイト様、良い夜をお過ごし下さいませ。」

「ありがとう、良い夜を。」

真っ赤な顔で下がって行く少女に、ルシリアがククッと笑う。

「女殺しだな、もてるだろう?」

「ご冗談を、怒りますよ。」

姫とも思えない言葉に、レイトはため息をついて巫子の部屋に向かった。
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