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14、巫子達の戦い
第136話 姫様の乱心
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イネスの部屋につくと、サファイアが二人を迎え入れルシリアとイネスが小さなテーブルを挟み向かい合って座った。
二人は何度か会ったことはあるが、言葉を交わすのは初めてだ。
彼女はてっきりここにいるのはセレスだと思っていたらしく、イネスの姿を見て少々ガッカリして見せた。
「……そう、セレスはいないのね。残念だわ。」
「私も地の巫子です、どうぞご心配なく。」
ムッとしてイネスが腕を組む。
後ろでサファイアが、ゴツンとイネスの椅子を叩く。
小さくチッと舌打ちしてイネスが、ニッコリ優しく微笑んだ。
「残念です、きっと兄巫子もお会いしたかったと思いますよ。また滞在先にお帰りになられるのですか?」
「そうね、まだ考えてないわ。兄様次第かしらね。
ところでこちらに魔物憑きだった子が保護されてると聞いたのだけど。」
「ああ、あれは魔物じゃなくて魔導師らしき者に操られていたようです。
わ、た、く、しが払いましたので、今はもう大丈夫です。」
そこを強調して大きな声で話すと、控えていたカナンにメイスを連れてくるよう合図した。
ようやく元気を取り戻してきたメイスが、カナンに連れられおずおずと顔を見せる。
メイスは部屋の片隅にうつむいて、まともに顔を上げる事など出来ない様子で立ち尽くした。
「名は何というの?」
「メイスと……申します。」
「そう、今の状況は落ち着いているようね。
先日私の元にフレアゴート様がいらしたのよ、あの方は自ら城へ行きたくないと仰ってね。
メイス、こちらへいらっしゃい。」
「は、はい。」
「お前には、フレア様から言づてがあるの。」
恐る恐る前に出るメイスに、ルシリアが立ち上がり微笑みかける。
「あのね。」
ドッ!!
「あっ!」
そっと耳に唇を寄せるその時、彼女はいきなり腰の短剣を抜いて彼の胸を刺し貫いた。
「なっ!何をなされるか!」
「イネス様!」
驚いて立ち上がるイネスの前にサファイアが飛び出し、ルシリアに手を伸ばす。
「お待ちを!」
思わずレイトが割って入ろうとして、思うように動かない足がつまずきサファイアへ倒れかかった。
「あっつっ!」
「レイト!」
ルシリアはメイスの身体を抱き留めながら、彼にも手を伸ばすが届かない。
サファイアはとっさに判断してルシリアから手を引き、レイトの身体を抱き留めた。
廊下の兵が、驚いてなだれ込んでくる。
「姫様!巫子様!何ごとで?!」
「ああ、大丈夫よ。ごめんなさい、ちょっとビックリさせちゃったわ。」
ペロリと舌を出す姫に、がっくりと兵が肩を落とす。
「姫様、皆ピリピリしております。どうか……」
「わかった、わかってるわ。ご苦労様。」
大人しくしてろという訳らしい。
メイスを隠すように抱いて、兵を払う。
ヤレヤレと彼らが引き上げていくと、部屋にはまた、静粛が訪れた。
「メイス!メイス!」
驚いたカナンが泣きながら飛びつき、胸を貫かれ意識を失ったメイスの身体にすがりつく。
ルシリアは女勝りに鍛えているだけあって、メイスの身体を平気な顔で支えていた。
「大丈夫、これは術にかかっただけよ。ほら、血が出てないでしょう?任せていいかしら?」
「は、はい。」
カナンがその身体を受け取り、近くの椅子に横たえさせる。
「上手く行ったのなら……うん、きっと大丈夫よ。」
確認するルシリアに、カナンがうなずき流れる涙を拭いた。
確かにメイスの胸から血は流れず、切れた服の下の胸で、剣が火のように輝いていた。
「イネス様、確かに何か霊的な剣のようです。」
「姫様!つっ!」
「レイト、大丈夫よごめんなさい。ビックリさせちゃったわ、足は痛むの?」
「いえ、いつもの事ですから大丈夫です。あ……すいません。」
サファイアが手を貸してレイトを近くの小さな椅子に座らせる。
イネスも彼と目を合わせ、ホッと息をついて椅子にかけた。
「ルシリア姫、これはどう言うことでございますか?」
「ごめんなさい、まあ、見て頂いた通りよ。
先日突然フレアゴート殿が見えて、手を貸せって。
なんでも青の巫子を見つけたけど、力不足で良からぬ物に利用されてるから何とかしたいと仰って。
術をかけたこの剣で心臓を貫くと、異界へ精神が旅立つことが出来るのですって。
そこで修行させるからと言うことなのだけれど。
今から心臓に剣を刺していいかしら?と尋ねても、無駄に怖がらせるだけでしょう?」
「青の巫子?火の巫子も一人ではないと?青?じゃあリリスは……??
……異界……か。」
イネスがフッとため息をつく。
「あら、やっぱり問題なのかしら。私にだって勇気が必要だったのよ。」
「いえ、まあ場所が現世だろうが異界だろうが、彼には必要なことでしょうからお任せしましょう。」
「それと、彼の目が覚めたらこれを渡して欲しいの。」
ポケットからハンカチに包んだ物を取りだし、手の平の上で開いてみせる。
それは、繊細な彫刻が入り、青く澄んだ宝石の付いた銀の腕輪だった。
「これは、過去に青の巫子と呼ばれた者が代々身につけていた物らしいわ。この子の物だからって預かってきたの。
身を守る物らしいから、必ず着けさせて欲しいそうよ。」
「代々?それじゃそれはリリの方がいいんじゃないかな?」
「リリ?あの本城に行ったって言う子?
さあ、私はこれをこの子の物だからと預かってきただけだわ。」
イネスが受け取りながら、小さくため息をつく。どうしてリリスのことは気にかけて下さらないのか、腹立たしい。
「それで、フレアゴート様は本城には向かわれたんでしょうか?
本城へ行ったのは私の大切な友人で、本当の火の巫子なのです。」
ルシリアはため息をつき首を振る。
イネスの表情が、リリスの話に変わると一変して心配そうな顔になる。
確かに、巫子を認められないと言うことは、巫子でもないのに巫子を語ったとなって死罪だ。
地位が高く、影響力も大きいだけにそれは大変な重罪となる。
「さあ、それはわからないわ。でも、ベスレムへ帰られたのではないのかしら。
今はベスレムのおじ様の所に居を置かれているようだから。この子もこちらが落ち着いたら、ベスレムを頼ってくればよいと言われていたわ。」
「リリの事は……もう一人の巫子の事は何も仰っていなかったのでしょうか?」
「いいえなにも。元々巫子を迎える気はないけど、この子は不憫だからと。」
迎える気はない?!
それは、リリを見捨てるという事なのか?
まさか、まさか…………
イネスの心臓がドクンと鳴って、めまいに頭を抱えた。
「チュッ!チュン!」
部屋の隅に留まっていたヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まる。
白い顔がますます真っ白に色をなくし、小鳥が心配そうに髪をつつく。
イネスの頭の中では出発の時のリリスの顔が浮かび、自分に言い聞かせる言葉がぐるぐると巡っていた。
もし、フレア様が現れなかったら……
いや、それは覚悟の上でリリは本城へ行ったんだ。
あいつには、生きることを優先しろと何度も何度も言ったじゃないか。
大丈夫、大丈夫だ。きっと帰ってくる。
でも、もしかたりだと信じて貰えなかったら?
ああ、やっぱり自分も一緒に行けば良かった。
どうしよう、あいつが死んだらどうしよう。
あまりに落ち込む様子に、ルシリアが手をのばしイネスの手に重ねた。
驚いて顔を上げるイネスが、顔を赤くして思わずパッと手を引く。
「あら、ごめんなさい。ね?元気をお出しなさいな。
あなたのような友人がいて、そう簡単に人というのは死ぬものではなくてよ。
それに、騎士3人が護衛に付いてるんでしょう?大丈夫よ、レナントの騎士は守護する者を必ず守るわ。」
「わ、わかっております。私も友人を信じておりますので。
でも、フレア様がリリの元にいらしたら、それだけで何も心配はいらないのに……」
口惜しさで胸がいっぱいになる。
肝心な時に何もしてやれないなんて。
あの旅立った夜、リリスにかけた守りの呪が発動したことを感じ飛び起きた。
遠くから、一晩中瞑想して力を送り続けたのは、彼の力になったのだろうか、あれで上手く行ったのだろうか。
無事で。
どうか無事で。
イネスはヨーコ鳥を指に止め、優しく撫でながら祈ることしかできない自分を悔やんだ。
二人は何度か会ったことはあるが、言葉を交わすのは初めてだ。
彼女はてっきりここにいるのはセレスだと思っていたらしく、イネスの姿を見て少々ガッカリして見せた。
「……そう、セレスはいないのね。残念だわ。」
「私も地の巫子です、どうぞご心配なく。」
ムッとしてイネスが腕を組む。
後ろでサファイアが、ゴツンとイネスの椅子を叩く。
小さくチッと舌打ちしてイネスが、ニッコリ優しく微笑んだ。
「残念です、きっと兄巫子もお会いしたかったと思いますよ。また滞在先にお帰りになられるのですか?」
「そうね、まだ考えてないわ。兄様次第かしらね。
ところでこちらに魔物憑きだった子が保護されてると聞いたのだけど。」
「ああ、あれは魔物じゃなくて魔導師らしき者に操られていたようです。
わ、た、く、しが払いましたので、今はもう大丈夫です。」
そこを強調して大きな声で話すと、控えていたカナンにメイスを連れてくるよう合図した。
ようやく元気を取り戻してきたメイスが、カナンに連れられおずおずと顔を見せる。
メイスは部屋の片隅にうつむいて、まともに顔を上げる事など出来ない様子で立ち尽くした。
「名は何というの?」
「メイスと……申します。」
「そう、今の状況は落ち着いているようね。
先日私の元にフレアゴート様がいらしたのよ、あの方は自ら城へ行きたくないと仰ってね。
メイス、こちらへいらっしゃい。」
「は、はい。」
「お前には、フレア様から言づてがあるの。」
恐る恐る前に出るメイスに、ルシリアが立ち上がり微笑みかける。
「あのね。」
ドッ!!
「あっ!」
そっと耳に唇を寄せるその時、彼女はいきなり腰の短剣を抜いて彼の胸を刺し貫いた。
「なっ!何をなされるか!」
「イネス様!」
驚いて立ち上がるイネスの前にサファイアが飛び出し、ルシリアに手を伸ばす。
「お待ちを!」
思わずレイトが割って入ろうとして、思うように動かない足がつまずきサファイアへ倒れかかった。
「あっつっ!」
「レイト!」
ルシリアはメイスの身体を抱き留めながら、彼にも手を伸ばすが届かない。
サファイアはとっさに判断してルシリアから手を引き、レイトの身体を抱き留めた。
廊下の兵が、驚いてなだれ込んでくる。
「姫様!巫子様!何ごとで?!」
「ああ、大丈夫よ。ごめんなさい、ちょっとビックリさせちゃったわ。」
ペロリと舌を出す姫に、がっくりと兵が肩を落とす。
「姫様、皆ピリピリしております。どうか……」
「わかった、わかってるわ。ご苦労様。」
大人しくしてろという訳らしい。
メイスを隠すように抱いて、兵を払う。
ヤレヤレと彼らが引き上げていくと、部屋にはまた、静粛が訪れた。
「メイス!メイス!」
驚いたカナンが泣きながら飛びつき、胸を貫かれ意識を失ったメイスの身体にすがりつく。
ルシリアは女勝りに鍛えているだけあって、メイスの身体を平気な顔で支えていた。
「大丈夫、これは術にかかっただけよ。ほら、血が出てないでしょう?任せていいかしら?」
「は、はい。」
カナンがその身体を受け取り、近くの椅子に横たえさせる。
「上手く行ったのなら……うん、きっと大丈夫よ。」
確認するルシリアに、カナンがうなずき流れる涙を拭いた。
確かにメイスの胸から血は流れず、切れた服の下の胸で、剣が火のように輝いていた。
「イネス様、確かに何か霊的な剣のようです。」
「姫様!つっ!」
「レイト、大丈夫よごめんなさい。ビックリさせちゃったわ、足は痛むの?」
「いえ、いつもの事ですから大丈夫です。あ……すいません。」
サファイアが手を貸してレイトを近くの小さな椅子に座らせる。
イネスも彼と目を合わせ、ホッと息をついて椅子にかけた。
「ルシリア姫、これはどう言うことでございますか?」
「ごめんなさい、まあ、見て頂いた通りよ。
先日突然フレアゴート殿が見えて、手を貸せって。
なんでも青の巫子を見つけたけど、力不足で良からぬ物に利用されてるから何とかしたいと仰って。
術をかけたこの剣で心臓を貫くと、異界へ精神が旅立つことが出来るのですって。
そこで修行させるからと言うことなのだけれど。
今から心臓に剣を刺していいかしら?と尋ねても、無駄に怖がらせるだけでしょう?」
「青の巫子?火の巫子も一人ではないと?青?じゃあリリスは……??
……異界……か。」
イネスがフッとため息をつく。
「あら、やっぱり問題なのかしら。私にだって勇気が必要だったのよ。」
「いえ、まあ場所が現世だろうが異界だろうが、彼には必要なことでしょうからお任せしましょう。」
「それと、彼の目が覚めたらこれを渡して欲しいの。」
ポケットからハンカチに包んだ物を取りだし、手の平の上で開いてみせる。
それは、繊細な彫刻が入り、青く澄んだ宝石の付いた銀の腕輪だった。
「これは、過去に青の巫子と呼ばれた者が代々身につけていた物らしいわ。この子の物だからって預かってきたの。
身を守る物らしいから、必ず着けさせて欲しいそうよ。」
「代々?それじゃそれはリリの方がいいんじゃないかな?」
「リリ?あの本城に行ったって言う子?
さあ、私はこれをこの子の物だからと預かってきただけだわ。」
イネスが受け取りながら、小さくため息をつく。どうしてリリスのことは気にかけて下さらないのか、腹立たしい。
「それで、フレアゴート様は本城には向かわれたんでしょうか?
本城へ行ったのは私の大切な友人で、本当の火の巫子なのです。」
ルシリアはため息をつき首を振る。
イネスの表情が、リリスの話に変わると一変して心配そうな顔になる。
確かに、巫子を認められないと言うことは、巫子でもないのに巫子を語ったとなって死罪だ。
地位が高く、影響力も大きいだけにそれは大変な重罪となる。
「さあ、それはわからないわ。でも、ベスレムへ帰られたのではないのかしら。
今はベスレムのおじ様の所に居を置かれているようだから。この子もこちらが落ち着いたら、ベスレムを頼ってくればよいと言われていたわ。」
「リリの事は……もう一人の巫子の事は何も仰っていなかったのでしょうか?」
「いいえなにも。元々巫子を迎える気はないけど、この子は不憫だからと。」
迎える気はない?!
それは、リリを見捨てるという事なのか?
まさか、まさか…………
イネスの心臓がドクンと鳴って、めまいに頭を抱えた。
「チュッ!チュン!」
部屋の隅に留まっていたヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まる。
白い顔がますます真っ白に色をなくし、小鳥が心配そうに髪をつつく。
イネスの頭の中では出発の時のリリスの顔が浮かび、自分に言い聞かせる言葉がぐるぐると巡っていた。
もし、フレア様が現れなかったら……
いや、それは覚悟の上でリリは本城へ行ったんだ。
あいつには、生きることを優先しろと何度も何度も言ったじゃないか。
大丈夫、大丈夫だ。きっと帰ってくる。
でも、もしかたりだと信じて貰えなかったら?
ああ、やっぱり自分も一緒に行けば良かった。
どうしよう、あいつが死んだらどうしよう。
あまりに落ち込む様子に、ルシリアが手をのばしイネスの手に重ねた。
驚いて顔を上げるイネスが、顔を赤くして思わずパッと手を引く。
「あら、ごめんなさい。ね?元気をお出しなさいな。
あなたのような友人がいて、そう簡単に人というのは死ぬものではなくてよ。
それに、騎士3人が護衛に付いてるんでしょう?大丈夫よ、レナントの騎士は守護する者を必ず守るわ。」
「わ、わかっております。私も友人を信じておりますので。
でも、フレア様がリリの元にいらしたら、それだけで何も心配はいらないのに……」
口惜しさで胸がいっぱいになる。
肝心な時に何もしてやれないなんて。
あの旅立った夜、リリスにかけた守りの呪が発動したことを感じ飛び起きた。
遠くから、一晩中瞑想して力を送り続けたのは、彼の力になったのだろうか、あれで上手く行ったのだろうか。
無事で。
どうか無事で。
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