赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
138 / 303
14、巫子達の戦い

第136話 姫様の乱心

しおりを挟む
イネスの部屋につくと、サファイアが二人を迎え入れルシリアとイネスが小さなテーブルを挟み向かい合って座った。
二人は何度か会ったことはあるが、言葉を交わすのは初めてだ。
彼女はてっきりここにいるのはセレスだと思っていたらしく、イネスの姿を見て少々ガッカリして見せた。

「……そう、セレスはいないのね。残念だわ。」

「私も地の巫子です、どうぞご心配なく。」

ムッとしてイネスが腕を組む。
後ろでサファイアが、ゴツンとイネスの椅子を叩く。
小さくチッと舌打ちしてイネスが、ニッコリ優しく微笑んだ。

「残念です、きっと兄巫子もお会いしたかったと思いますよ。また滞在先にお帰りになられるのですか?」

「そうね、まだ考えてないわ。兄様次第かしらね。
ところでこちらに魔物憑きだった子が保護されてると聞いたのだけど。」

「ああ、あれは魔物じゃなくて魔導師らしき者に操られていたようです。
わ、た、く、しが払いましたので、今はもう大丈夫です。」

そこを強調して大きな声で話すと、控えていたカナンにメイスを連れてくるよう合図した。
ようやく元気を取り戻してきたメイスが、カナンに連れられおずおずと顔を見せる。
メイスは部屋の片隅にうつむいて、まともに顔を上げる事など出来ない様子で立ち尽くした。

「名は何というの?」

「メイスと……申します。」

「そう、今の状況は落ち着いているようね。
先日私の元にフレアゴート様がいらしたのよ、あの方は自ら城へ行きたくないと仰ってね。
メイス、こちらへいらっしゃい。」

「は、はい。」

「お前には、フレア様から言づてがあるの。」

恐る恐る前に出るメイスに、ルシリアが立ち上がり微笑みかける。

「あのね。」

ドッ!!

「あっ!」

そっと耳に唇を寄せるその時、彼女はいきなり腰の短剣を抜いて彼の胸を刺し貫いた。

「なっ!何をなされるか!」

「イネス様!」

驚いて立ち上がるイネスの前にサファイアが飛び出し、ルシリアに手を伸ばす。

「お待ちを!」

思わずレイトが割って入ろうとして、思うように動かない足がつまずきサファイアへ倒れかかった。

「あっつっ!」
「レイト!」

ルシリアはメイスの身体を抱き留めながら、彼にも手を伸ばすが届かない。
サファイアはとっさに判断してルシリアから手を引き、レイトの身体を抱き留めた。

廊下の兵が、驚いてなだれ込んでくる。

「姫様!巫子様!何ごとで?!」

「ああ、大丈夫よ。ごめんなさい、ちょっとビックリさせちゃったわ。」

ペロリと舌を出す姫に、がっくりと兵が肩を落とす。

「姫様、皆ピリピリしております。どうか……」

「わかった、わかってるわ。ご苦労様。」

大人しくしてろという訳らしい。
メイスを隠すように抱いて、兵を払う。
ヤレヤレと彼らが引き上げていくと、部屋にはまた、静粛が訪れた。

「メイス!メイス!」

驚いたカナンが泣きながら飛びつき、胸を貫かれ意識を失ったメイスの身体にすがりつく。
ルシリアは女勝りに鍛えているだけあって、メイスの身体を平気な顔で支えていた。

「大丈夫、これは術にかかっただけよ。ほら、血が出てないでしょう?任せていいかしら?」

「は、はい。」

カナンがその身体を受け取り、近くの椅子に横たえさせる。

「上手く行ったのなら……うん、きっと大丈夫よ。」

確認するルシリアに、カナンがうなずき流れる涙を拭いた。
確かにメイスの胸から血は流れず、切れた服の下の胸で、剣が火のように輝いていた。

「イネス様、確かに何か霊的な剣のようです。」

「姫様!つっ!」

「レイト、大丈夫よごめんなさい。ビックリさせちゃったわ、足は痛むの?」

「いえ、いつもの事ですから大丈夫です。あ……すいません。」

サファイアが手を貸してレイトを近くの小さな椅子に座らせる。
イネスも彼と目を合わせ、ホッと息をついて椅子にかけた。

「ルシリア姫、これはどう言うことでございますか?」

「ごめんなさい、まあ、見て頂いた通りよ。
先日突然フレアゴート殿が見えて、手を貸せって。
なんでも青の巫子を見つけたけど、力不足で良からぬ物に利用されてるから何とかしたいと仰って。
術をかけたこの剣で心臓を貫くと、異界へ精神が旅立つことが出来るのですって。
そこで修行させるからと言うことなのだけれど。
今から心臓に剣を刺していいかしら?と尋ねても、無駄に怖がらせるだけでしょう?」

「青の巫子?火の巫子も一人ではないと?青?じゃあリリスは……??
……異界……か。」

イネスがフッとため息をつく。

「あら、やっぱり問題なのかしら。私にだって勇気が必要だったのよ。」

「いえ、まあ場所が現世だろうが異界だろうが、彼には必要なことでしょうからお任せしましょう。」

「それと、彼の目が覚めたらこれを渡して欲しいの。」

ポケットからハンカチに包んだ物を取りだし、手の平の上で開いてみせる。
それは、繊細な彫刻が入り、青く澄んだ宝石の付いた銀の腕輪だった。

「これは、過去に青の巫子と呼ばれた者が代々身につけていた物らしいわ。この子の物だからって預かってきたの。
身を守る物らしいから、必ず着けさせて欲しいそうよ。」

「代々?それじゃそれはリリの方がいいんじゃないかな?」

「リリ?あの本城に行ったって言う子?
さあ、私はこれをこの子の物だからと預かってきただけだわ。」

イネスが受け取りながら、小さくため息をつく。どうしてリリスのことは気にかけて下さらないのか、腹立たしい。

「それで、フレアゴート様は本城には向かわれたんでしょうか?
本城へ行ったのは私の大切な友人で、本当の火の巫子なのです。」

ルシリアはため息をつき首を振る。
イネスの表情が、リリスの話に変わると一変して心配そうな顔になる。
確かに、巫子を認められないと言うことは、巫子でもないのに巫子を語ったとなって死罪だ。
地位が高く、影響力も大きいだけにそれは大変な重罪となる。

「さあ、それはわからないわ。でも、ベスレムへ帰られたのではないのかしら。
今はベスレムのおじ様の所に居を置かれているようだから。この子もこちらが落ち着いたら、ベスレムを頼ってくればよいと言われていたわ。」

「リリの事は……もう一人の巫子の事は何も仰っていなかったのでしょうか?」

「いいえなにも。元々巫子を迎える気はないけど、この子は不憫だからと。」


迎える気はない?!

それは、リリを見捨てるという事なのか?
まさか、まさか…………


イネスの心臓がドクンと鳴って、めまいに頭を抱えた。

「チュッ!チュン!」

部屋の隅に留まっていたヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まる。
白い顔がますます真っ白に色をなくし、小鳥が心配そうに髪をつつく。
イネスの頭の中では出発の時のリリスの顔が浮かび、自分に言い聞かせる言葉がぐるぐると巡っていた。

もし、フレア様が現れなかったら……
いや、それは覚悟の上でリリは本城へ行ったんだ。
あいつには、生きることを優先しろと何度も何度も言ったじゃないか。
大丈夫、大丈夫だ。きっと帰ってくる。
でも、もしかたりだと信じて貰えなかったら?
ああ、やっぱり自分も一緒に行けば良かった。
どうしよう、あいつが死んだらどうしよう。

あまりに落ち込む様子に、ルシリアが手をのばしイネスの手に重ねた。
驚いて顔を上げるイネスが、顔を赤くして思わずパッと手を引く。

「あら、ごめんなさい。ね?元気をお出しなさいな。
あなたのような友人がいて、そう簡単に人というのは死ぬものではなくてよ。
それに、騎士3人が護衛に付いてるんでしょう?大丈夫よ、レナントの騎士は守護する者を必ず守るわ。」

「わ、わかっております。私も友人を信じておりますので。
でも、フレア様がリリの元にいらしたら、それだけで何も心配はいらないのに……」

口惜しさで胸がいっぱいになる。
肝心な時に何もしてやれないなんて。
あの旅立った夜、リリスにかけた守りの呪が発動したことを感じ飛び起きた。
遠くから、一晩中瞑想して力を送り続けたのは、彼の力になったのだろうか、あれで上手く行ったのだろうか。

無事で。
どうか無事で。


イネスはヨーコ鳥を指に止め、優しく撫でながら祈ることしかできない自分を悔やんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...