赤い髪のリリス 戦いの風

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14、巫子達の戦い

第138話 酒場の魔導師

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レナントの夜の酒場は、最近城下の町に兵が増えたこともあって遅くまで賑わっていた。
レナント各地から兵が集められて人が増えたこともあって、宿屋や酒場が繁盛し、思わぬ景気を上げている。
兵達も魔物の恐怖と言うより、国境の町の民らしく国の危機に意気揚々として沸き立っていた。

酒場に、巡回中の兵が顔を出し主人に何かを告げる。
酒を飲んでいた一人の男が、それを見ながらつぶやいた。

「夜なのに表、兵隊が多いな。」

「なんでも巫子さんがおっしゃるに、町に魔物が入った気配がするんだとよ。
いつも1小隊なのに、昨日から夜は2小隊に増やされてんだ。」

「へえ、巫子様ってこんな事でもなけりゃ、見ることも出来ない方だろ?」

「祭りの時に地の神殿には行ったことあるが、神事でもなけりゃ見ることも出来ねえさ。
なんでも男ばかりの巫子さんらしいけど、若い子は随分綺麗だったぜ。
特に1の巫子様は見る価値あるぜ、その辺の女よりすげえ美人だ。」

友人の情報にふうんとつぶやき、男が酒をあおった。
魔物と聞いても、襲われるのは城ばかりだ。
なんとなく、ここは関係がないような気がして気がゆるんでいた。


ガヤガヤと騒がしい酒場の中で、頭からすっぽり覆ったフードも取らず黒く長いローブを羽織った者が一人、壁際の席に無言で酒を飲んでいた。
体つきから小柄の男で杖を持っていることから魔導師のようだが、のそのそとして不気味な雰囲気をかもしている。
隣のテーブルの男が、立ち上がろうとしたはずみに肩にぶつかった。

「あっ……すまん……」

詫びつつ、男が思わず一歩引いてぶつかった場所をさする。
ブヨブヨとした奇妙な感覚が、何かわからずふと手を伸ばした時だった。

「無礼者メ」

ローブの男がフイに立ち上がった。
曲がった背中がボコボコ盛り上がる。
それはローブを引き裂き、そこから大量の黒いカエルが跳びだしてきた。

「うわあっ!」
「ひいっ!カ、カエル??」

悲鳴を上げ一斉に逃げ惑う中、たかがカエルかと立ち止まる者もいたが、見る間にそれは部屋を押しつぶす勢いであふれ出てくる。
暗い町中に慌てて逃げ出た人々が振り返ると、道にあふれ出たカエルは次第に溶け合って一つの固まりとなり、やがて巨大な黒い大きなボールになった。

「なんだ?一体なんだってんだ?」

呆然と見上げる人々の前に、黒いボールがぐにゃりと形を変えながら動き出す。
杖を突き、酒場からあのローブの人物がゆっくりと姿を現し、人々に向かって杖でぐるりと指した。

「捕ラエヨ」

黒いボールは、突然ぼよんと大きくバウンドし、まるで伸したように大きく広がり人々の頭上に広がる。

「ひっ!」
「ひえっ!」

悲鳴を上げる間もなく、大きく広がった黒い膜は十数人を飲み込み、くるんと丸め込んでまたボールに戻って地に落ち、ぼよんと跳ねて近くの建物を上から押しつぶし半壊させた。

「の、飲み込まれた!」
「人が!飲まれた!!」
「うわあああああ!!!逃げろ!」

物音の大きさに、道に沢山の人が様子を見にでてくる。
一体何があったのか、呆然とする人々も逃げる人と共に慌てて近くの物陰へと逃げ込んだ。

「家から出ろ!あいつから離れるんだ!」

さすがに兵が多いらしく、巡回中だった兵達が町中の人を即座に逃がし、休みだった者も酒臭い息を吐きながら剣を構えて皆でカエルに立ち向かう。

「きええええい!」

駆け寄りながら振り上げた剣を、黒いボールに向けて渾身の力で振り下ろした。
だが、その剣はまるで泥水に飲まれるように、刺さった瞬間ドボンと勢いを無くし、黒くドロドロとした球体に飲み込まれていく。

「な!なんだこれは!駄目だ!城から魔導師を呼べ!
うわっうわあっ!」

叫んだ兵士の前に大きな黒いボールが転がってくる。
それは、またぐにゃりと形を変えて巨大なカエルの形を成し、立ち上がって空へ大きく口を開けた。
口の中から舌が伸び、その先端に先ほどのローブの男が長い杖を持って立っている。
逃げ惑う人々を見下ろし小さく笑うと、ガルシアの館を見上げた。

「サテ、行クカ」

「ゼルよ、リューズ様のお言いつけを破るのか?彼の方は動くなと仰った。仰った。」

「ろーヨ、めいす様ハりゅーず様ニトッテ大切ナオ方、ソレモ知ラズ小枝ガ余計ナ事ヲシテシモウタ。
コノ、愚カナ小枝の失態。
めいす様ヲ、我ラガ救ワズナントスル。」

「しかし、村や町に手を出してはならぬと仰せだったはず。城だけを狙えと。狙えと。
それはリューズ様にお考えあってのこと、意味があるに違いない。違いない。」

「ワカッテオルワ、殺シハセヌ。コノ者達ヲ人質ニ、めいす様ヲ渡セト言エバ速ヤカニ事ハ終ワロウテ。」

「見よ、騒ぎを大きくしてしもうたではないか。リューズ様もお怒りになろう。なろう。
お前が酒を飲みたいと申したから付き合ったのに、こんな事なら許すのではなかった。なかった。」

「ウルサイ奴ヨ。デハ城ニ行ケバイイノデアロウ。めいす様ヲ迎エニ行クゾ。」

なぜか、男の中から二人の声が漏れる。
男は手の杖で、トンとカエルの舌の表面を突いた。
高く伸ばしたカエルの舌が引っ込んで、男を乗せたままにゅっと頭から伸びて角に代わり、カエルの身体がやや細長く長いしっぽが生えてきた。
そして背の肉が両側に盛り上がって、それがバサリと広がり大きな翼に変わる。
カエルは巨大なドラゴンへと変身すると、風を巻き上げて羽ばたき、ガルシアの館に向かって飛び立った。
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