赤い髪のリリス 戦いの風

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14、巫子達の戦い

第139話 雷鳴の轟く空

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夜空にそびえる高台のガルシアの館は、夜中でも真っ暗になる事はない。
襲われることが頻繁だった館は警戒も強く、結界もあり普通魔物は近づけない状態だ。
だがそれでも万全を期して、松明が至る所に燃えていて夜通し兵が交替しながら巡回して警備している。
襲ってくるのは館ばかりだった現状で、魔物はピンポイントでガルシアを狙っていると考えられたからだろう。
夜半、床に入っていたガルシアは、側近のクリスからの知らせに起き出した。
すでにイネスからは城下に仕掛けた小さな結界は破られ、魔物が町に侵入したらしいとは聞いている。
レイトが急いで上着を持ち駆け付け、ガルシアの着付けを手際よく整えた。

「城下に騒ぎだと?けが人は出ているのか?」

「数人が食われたあと、魔物がこちらへ向かっているとの情報です。
魔導師によりますれば、城の結界を破るかどうかは敵の魔物の器次第でありましょうと。」

「食われただと?!どういう事だ?これで結界を破られたのは何度目だ?一体何人隣国には大物がいるんだ。」

「結界と申しましても、城全体の防御にはやはりどうしても死角ができると魔導師ルネイ殿の仰ることもわかります。
しかし今は地の巫子殿の結界もございますので、少々話が変わるかと。」

「イネス殿は?」

「すでに兵を率いて外に。御館様は安全なところで待機なさって下さいますようにと。」

「はっ、魔物相手に安全なところなど無かろうて。このガルシアに余計な気遣いは無用だと言っておけ。」

その時、大きな鳥が羽ばたく音が何度も聞こえ、窓から雷のような光が部屋を照らした。
外は星が瞬いている。
雷とは考えにくい。

「なんだ?あれは。」

クリスがサッと窓に向かう。
彼は空を向いて舌打ち、思わず腰の剣に手が行った。

「何か黒く巨大な鳥が!結界に阻まれているようでございます。」

「ほう、結界が効いているとはさすが巫子殿だな。
行くぞ。」

「どちらへ?!奥へ避難なさって下さい!」

「人が食われたというのが気になる。相手によっては兵を引かせることも考えねばならぬ。
あの結界を破ってくるならば、相手も相応の奴だろう。
上から様子を見る。」

ガルシアの言葉に、クリスの顔から血の気が引いた。
冗談ではない、魔物相手に自分たちでは守りきれるかさえ自信がない。
だが、ガルシアはさっさと部屋を出て見渡せる部屋の方へと歩き出す。
外では雷鳴のように、結界が音を立てて魔物を拒み攻撃していた。



イネスが結界に阻まれている魔物を前に、目を閉じ深呼吸する。
ヨーコ鳥が飛んできて、彼の肩に留まりまぶしい結界の放つ光から目をそらした。

「何をしている。お前はどこかに隠れろ。」

「チュン!何言ってんのよ、あたしはリリスからあんたのことを頼まれてるの!
あたしがいれば無茶は出来ないでしょ?チュッチュン!」

「馬鹿なことを、俺は死ぬ気なぞ更々無いぞ。」

「そ、ならいいわ。あたしのことは気にしないで。あたしだって死ぬ気はないから。」

「好きにしろ。」

フフッと微笑み、少し肩から力が抜けた気がする。
魔物相手に戦えるのは自分一人だ。
ここの魔導師達に、戦うスキルのないことは十分わかっている。
今はリリスも、兄巫子もいない。

回廊を出て、立ち木の並ぶ庭に出る。
一番立派な木は、死にかけたリリスに気を与えて半分が葉を落とした。
イネスがその前でリリスのフィーネの音を聞きながら剣舞をしたのも懐かしい。

バシッ!ゴオオオオ……

バサッ!バサ、バサッ!

巨大な真っ黒いドラゴンが、羽根を羽ばたかせ結界の攻撃を物ともせず何度も向かってくる。
その頭にある角の先端に、小さく人物が見えた。

「危のうございます!巫子様!」
「どうかお下がりを!」

兵がばらばらと集まり、イネスの前に出て震える手で剣を構える。
遅れて息を切らし、魔導師達も駆けつけイネスの後ろに控えた。

「巫子殿!」

「さすが巫子殿の結界!しかし、あれでは時間の問題でございましょう。
人が数人飲まれたとの情報もあります。いかがなさいます?我らもお手伝いを……ああっ!」

ルネイが身を乗り出した時、頭上のドラゴンが形を変え、巨大なカエルとなって結界を引き裂くように破って隙間から顔を出した。
頭に乗った魔導師と角が頭にめり込み、口を開けるとべろりと舌をこちらに伸ばす。
その舌の先には先ほどまで頭にいた、黒いローブを着て長い杖を突いた魔導師らしき人影が、ゆるりと頭を下げた。

「今宵ハ、ナント素晴ラシキ夜。
覚エ高キ地ノ巫子殿、オ初ニオ目ニカカル。
我ガ名ハ魔導師ぜる、コノヨウナ夜分ニ恐レ入リマスル。」

「何の用か!ここをレナント領主ガルシア殿の居城と知っての無礼か?!」

「オオ、オ怒リモゴモットモ。
我ラハ、めいす様ヲオ迎エニ参上シタ次第。
コチラヘ保護サレテオラレルノハ承知シテオリマス。ドウカオ引キ渡シヲ。」

イネスが心の中で舌打ちする。
今彼は仮死状態、殺したと勘違いでもされたら面倒だ。

「メイス殿はもうお帰りにならぬ!
ようやく心身共に落ち着きを取り戻したのだ。このまま我らの元で静養して貰う!
早々に立ち去れ!無礼者!」

ゼルが、ぴくりと顔を上げる。
ローブの中の双眸が青く光り、杖でとんと舌を突いた。
漆黒のカエルの腹が見る間に膨らみ、水滴のように腹から風船がイネス達の前にぶら下がってくる。
中には数人の町の人々が、暴れる様子もなく詰め込まれていた。
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