赤い髪のリリス 戦いの風

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14、巫子達の戦い

第141話 力不足に苛立つ

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「サテ、ワシモ気ガ短イ。めいす様ヲ、早ウオ返シネガエヌカ?
ソレトモ、コヤツラハ見捨テルカ?」

「見捨てるなどと、ほざくな卑怯者め!」

「イネス、落ち着いて。チュチュッ」

いらだつイネスに、ヨーコが耳元にささやく。
攻撃しようと思っても、イネスの剣を恐れてか魔導師は人質を盾にして最初のように身を乗り出してこない。
隙あらばと、イネスがギュッと剣の柄を握りしめる。
その時、戻って来たサファイアが、イネスの背後で声をかけた。

「今は引き渡しのご決断を。」

「何を馬鹿なことを!」

「もう、お連れしました。」

驚いて振り向くと、メイスがおどおどとしてサファイアに手を引かれている。
そして背を押され、前に出てゼルに向け顔を上げた。

「オオ!確カニめいす様!サア、コチラヘ。りゅーず様モ、ゴ心配シテオイデデゴザイマス。」

カエルがヒュルヒュルと手を地上に伸ばし、メイスの身体を優しく手の平に載せて引き寄せた。
不気味な魔導師の姿におびえる様子を見て、軽くうなずき舌をトンと杖で突く。
カエルの腹から再び人々の入った袋を降ろし、人々を放り出してようやく解放すると、カエルが結界から頭を上げた。

「デハ、サラバ」

カエルはまたドラゴンに姿を変え、夜空の暗闇に消えて行く。
皆が息をついて捕らえられていた人々に駆け寄るなか、イネスがサファイアに詰め寄った。

「貴様!誰の許しを得て……!」

「また、恐らく来ます。」

「なに?!」

「ヴァシュラム様から頂いた、身代わり石を使いました。
メイス殿の血を吸わせたのでしばらくは持つと思いますが、今度は怒り狂って来るかもしれません。」

イネスがあんぐりサファイアを見る。
どっと力が抜けて、膝に手を付いた。

「わかっていれば、あいつごと切り捨ててやったのに……」

「いえ、あの場はあれで良かったのです。
戦いへの備えが十分ではございませんでした。」

確かに、あの不気味な魔導師が、イネスの刃で果たして死ぬのかわからない。

「身代わり石って爺様の作るあの土人形みたいなの?
あたし達の家族も全然気がつかないのよ。
あれって凄いわよ、チュンチュッ」

「そうだ、ヴァシュラム様のお得意の技。
何度木偶相手にだまされたか……でも、それが役にたったんだな。」

「先ほどは、あれしかございませんでした。
メイス殿が仮死の状態である以上は引き渡すことも出来ません。」

「良い、助かった。これからの事は考えよう。
リリが帰るまで、俺も全力で戦う。」

ふと屋敷を見上げると、ガルシアの部屋の近く、ランプを手にバルコニーから部屋に入って行く人影が見えた。
恐らくガルシアだ。
メイスが取り憑かれて襲ってきた時、初めて彼の力を目にすると、当てにしていると言ってくれた。

だが……安易に使いたくない力だ……この力はやもすると、魔物だけでなく人も切ってしまう。
本当は、当てにされるのは恐ろしい。

「イネス様、神殿から応援を呼び寄せましょう。」

ハッと、イネスが顔を上げて息をのむ。

「なにを馬鹿なことを!この国境に3の巫子と4の巫子は呼べぬ!あれらはまだ小さい。」

「お一人では無理です。次に魔物が単独で来るという保証はありません。
正式な巫子で無くとも、巫子護法(ふしごほう)でもよいではありませんか。
護法なれば5人のうち3人神殿におります。」

サファイアの言葉が、胸にズシンと重い。
呼び寄せるのは簡単だ。
しかし、神殿の守りが薄くなる。
水の神殿が出た話を聞かない以上、本城からも要請が来ているかもしれない。

「まだだ、まだ……がんばれる。」

「リリス殿が帰ってこられる保証もありません。」

サファイアからは絶対に聞きたくなかった言葉に、イネスがカッとして手を上げ、ギュッと握って手を降ろした。

「リリは、帰ってくる!俺は信じている!
……ガルシア殿に、報告に行く。」

くるりときびすを返し、歩き出すイネスから飛び立ち、ヨーコがサファイアの肩に留まった。

「護法のエイルを呼びます!」

「好きにしろ!」

振り返りもせず言い捨てるイネスに、サファイアが深く頭を下げた。
まるでそれは、謝罪しているように神妙で、申し訳なさに満ちている。

イネスが、ではない。
本当は、自分一人では彼をお守りできないかもしれないと思ったのだ。
セレスにとってのルビーと同じ、自分もイネスを守るためなら誰を犠牲にしてもと思う。
彼に代わりは無いのだ。
命を賭してもお守りしなくてはならない。

「あたしも、リリスは帰ってくると信じてる。」

サファイアは無言でイネスの姿を見つめる。
ヨーコはまた静けさを取り戻した星空を見上げ、ため息をつくようにチュンと一鳴きした。

「そう言えば、刃の巫子って……どうしてあんな凄い力持ってて、今まで使わなかったの?
リリスは見たことがないから知らないって言ってたわ。」

手元で剣を一降りしただけで、遠く離れた黒いカエルが両断された。メイスの時は、剣も使わず雲まで破断した。
恐らく誰もが初めて目にした物だろう。
不思議そうに問うヨーコにサファイアが、イネスの背を追いながらつぶやくように言った。

「イネス様は……すべてを断つこの力がお嫌いなのです。
あれは、失敗すると魔物だけでなく人も断ちます。一つ間違えれば人の命さえも奪うもの。
鋭い刃の巫子でありながら、自らなまくら刀であろうとされる。
リリス殿にも決して見せたことのない力。
どうか……どうか、リリス様にはご内密に。いずれご自分から語られるまで……」

なにか、あの力にはイネスにとって大きな確執があるに違いない。
しかし、目にした兵士は、さすがは巫子といくぶん安心感があるようだ。
イネスは、持っている力を鼓舞することなく、ひっそりとセレスの影に隠れている。
そんな印象さえ受ける。

もっと堂々と、力を使ってみんなを安心させればいいのに。
ヨーコはイネスの痩せた背中を見つめ、その重責はきっと彼には重すぎるのだと思っていた。
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