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14、巫子達の戦い
第142話 セレスの微笑み
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国境を越えてトランに入った、セレスが同伴する一行は、山深い山中で夜を過ごしていた。
トランは山と森に囲まれ、レナントから城のある中心部までは結構な距離がある。
途中、リューズの配下に襲われるのではと肝を冷やしていたトランの兵も、特に襲われることなく順調な旅でホッと一息ついている。
皆と少し離れた場所で、たき火を囲んで休んでいたセレスがふと目を覚まして身を起こし、星空を見上げた。
「セレス様、いかがなされましたか?」
ルビーがたき火に木をくべて声をかけてくる。
「いや、イネスもようやく本気を出すことにしたようだよ。」
「本気……と申されますと、またあの凄まじいお力でございますか……」
「そうだね、あの子はあの力をたいそう恐れていたから。
あの子は賢い子だ、自分の力も良く知っている。きっと大丈夫だよ。」
「はい」
「………ルビー」
「はい」
「お前は地の神殿に行ってレナントに加勢を呼んでおいで。」
「……それは、私の仕事ではありません。」
ルビーが、主の突然の命に眉をひそめて返した。
そのことばが何を意味するか、彼には容易にわかるからだ。
「私は、ルビーは地の巫子セレス様の従者です。ヴァシュラム様は『共にあれ』とおっしゃいました。
私はお側を離れません。」
セレスが困ったように、そして少し嬉しいのか微笑みながら火を見つめる。
「融通の利かぬ奴。私は死なぬがお前は死ぬ。」
「存じております。
しかし、あなた様の復活には必ずその、お身体が必要だと言う事も。」
「ヴァシュラムか、困った精霊よ。私に隠れてコソコソと。」
「腕一本でも構わぬ、必ず持ち帰れと厳命されました。
でも、私はこの命に替えても、今のあなた様をお守りするのが役目です。」
「精霊のわがままに付き合うのも酷だね。
まあ、それがあの方との契約だけれども。
危ない時だって来ないくせに、ただ私の存在だけは守ろうとする。」
「愛されておいででございます。」
「そう見えるのかい?フフ……残念ながら違うよ、それが契約なんだ。
ただの契約、それ以上もそれ以下もない。
……私は巫子という言葉を隠れ蓑に、自分の目的のために彼に寄生して生きながらえてるのさ。
ルビー、2代前のルビーは私のために命を落とした。お前はお逃げ、私とあの方の事にこれ以上犠牲はいらぬ。」
「いいえ、私は私の意志でお側にいたいのです。どうかお許し下さい。
そして、どうか私の事はお気になさらず、セレス様の目的をお果たし下さい。」
足下にひざまずくルビーに、セレスが大きくため息をつく。
「私は、城まで彼らに同行するだけだよ。」
「いいえ、同行とは別に目的があるのはわかっておりました。
これでも長いお付き合いでございますので。」
「……好きに、するがいい……
でも、お前は死んではならぬ。」
「はい」
セレスがヴァシュラムに付けられた腕輪をもてあそぶ。
転生を繰り返すうち、彼はヴァシュラムの影響が強く出て精霊に近くなり、人間としての存在が時折あやふやになって、いつしか身についた力はどんどん強くなっていった。
あれは何度目の転生だったか、慌てるヴァシュラムに気がつくと、力が暴走し始めて自分の身体さえ無に帰そうとしていた。
あのまま消えていたらどんなにラクだっただろう。
ヴァシュラムの力で事なきを得たが、その事でひどくヴァシュラムは機嫌を損ねたのか、腕輪をセレスに与えると神殿にはほとんど姿を現さなくなってしまった。
あの……地の精霊王は……
こんなちっぽけな人間一人の命に、契約とは言えずっと関わることが、すでに苦痛でたまらないのだろうね……
腕輪は力をセーブし、セレスを守るために、監視のために外せないよう呪をかけて付けられている。
これをはずして力を最大限に使えば、一体この世はどうなるのだろう。
自分と共にすべて灰燼に帰すのか、それも面白いとさえ思う自分は慈悲や哀愁を感じることもなくなったのか。
物思いにふけるセレスを、ルビーがじっと見つめる。
たき火に照らされるその美しい顔には、精霊が離そうとしない……執着する気持ちもわかる。
確かに、この方は他の巫子様とは違う……ヴァシュラム様に、愛されている。
自分はそれがよくわかるのに、あまりにも長い年月はこの方にその感情さえ気がつかせない。
セレス様……セレス様はもしや御身共々敵の魔導師を葬るおつもりでは……
ルビーの表情が、緊張に変わる。
セレスの視線がチラリと向いて、クッと笑いながら彼を見下ろした。
「なんだい?心配性だなルビーは。
私はこのために生きてきた……いや、生かされてきたのだよ、ルビー。
事が終わればすべては終わる。
そう、全部終わるんだ……」
セレスが燃える火に目を移し、力なく笑う。
ルビーが愕然と彼の横顔を見つめた。
なんという……顔をなさるのです……
この方のこんな表情……初めて見る。
彼が自分のことを言葉に発する時、それは吐き捨てるようで酷く乱暴だ。
いつも自信に満ちてミステリアスでさえもある微笑みとは、打って変わったこの残酷なほどに寂しい微笑み。
ルビーにはそれが自嘲めいて、「死なない」と言いながらもただ死だけを見つめているような危うさを秘めているように感じて、心に大きな不安が生まれた。
トランは山と森に囲まれ、レナントから城のある中心部までは結構な距離がある。
途中、リューズの配下に襲われるのではと肝を冷やしていたトランの兵も、特に襲われることなく順調な旅でホッと一息ついている。
皆と少し離れた場所で、たき火を囲んで休んでいたセレスがふと目を覚まして身を起こし、星空を見上げた。
「セレス様、いかがなされましたか?」
ルビーがたき火に木をくべて声をかけてくる。
「いや、イネスもようやく本気を出すことにしたようだよ。」
「本気……と申されますと、またあの凄まじいお力でございますか……」
「そうだね、あの子はあの力をたいそう恐れていたから。
あの子は賢い子だ、自分の力も良く知っている。きっと大丈夫だよ。」
「はい」
「………ルビー」
「はい」
「お前は地の神殿に行ってレナントに加勢を呼んでおいで。」
「……それは、私の仕事ではありません。」
ルビーが、主の突然の命に眉をひそめて返した。
そのことばが何を意味するか、彼には容易にわかるからだ。
「私は、ルビーは地の巫子セレス様の従者です。ヴァシュラム様は『共にあれ』とおっしゃいました。
私はお側を離れません。」
セレスが困ったように、そして少し嬉しいのか微笑みながら火を見つめる。
「融通の利かぬ奴。私は死なぬがお前は死ぬ。」
「存じております。
しかし、あなた様の復活には必ずその、お身体が必要だと言う事も。」
「ヴァシュラムか、困った精霊よ。私に隠れてコソコソと。」
「腕一本でも構わぬ、必ず持ち帰れと厳命されました。
でも、私はこの命に替えても、今のあなた様をお守りするのが役目です。」
「精霊のわがままに付き合うのも酷だね。
まあ、それがあの方との契約だけれども。
危ない時だって来ないくせに、ただ私の存在だけは守ろうとする。」
「愛されておいででございます。」
「そう見えるのかい?フフ……残念ながら違うよ、それが契約なんだ。
ただの契約、それ以上もそれ以下もない。
……私は巫子という言葉を隠れ蓑に、自分の目的のために彼に寄生して生きながらえてるのさ。
ルビー、2代前のルビーは私のために命を落とした。お前はお逃げ、私とあの方の事にこれ以上犠牲はいらぬ。」
「いいえ、私は私の意志でお側にいたいのです。どうかお許し下さい。
そして、どうか私の事はお気になさらず、セレス様の目的をお果たし下さい。」
足下にひざまずくルビーに、セレスが大きくため息をつく。
「私は、城まで彼らに同行するだけだよ。」
「いいえ、同行とは別に目的があるのはわかっておりました。
これでも長いお付き合いでございますので。」
「……好きに、するがいい……
でも、お前は死んではならぬ。」
「はい」
セレスがヴァシュラムに付けられた腕輪をもてあそぶ。
転生を繰り返すうち、彼はヴァシュラムの影響が強く出て精霊に近くなり、人間としての存在が時折あやふやになって、いつしか身についた力はどんどん強くなっていった。
あれは何度目の転生だったか、慌てるヴァシュラムに気がつくと、力が暴走し始めて自分の身体さえ無に帰そうとしていた。
あのまま消えていたらどんなにラクだっただろう。
ヴァシュラムの力で事なきを得たが、その事でひどくヴァシュラムは機嫌を損ねたのか、腕輪をセレスに与えると神殿にはほとんど姿を現さなくなってしまった。
あの……地の精霊王は……
こんなちっぽけな人間一人の命に、契約とは言えずっと関わることが、すでに苦痛でたまらないのだろうね……
腕輪は力をセーブし、セレスを守るために、監視のために外せないよう呪をかけて付けられている。
これをはずして力を最大限に使えば、一体この世はどうなるのだろう。
自分と共にすべて灰燼に帰すのか、それも面白いとさえ思う自分は慈悲や哀愁を感じることもなくなったのか。
物思いにふけるセレスを、ルビーがじっと見つめる。
たき火に照らされるその美しい顔には、精霊が離そうとしない……執着する気持ちもわかる。
確かに、この方は他の巫子様とは違う……ヴァシュラム様に、愛されている。
自分はそれがよくわかるのに、あまりにも長い年月はこの方にその感情さえ気がつかせない。
セレス様……セレス様はもしや御身共々敵の魔導師を葬るおつもりでは……
ルビーの表情が、緊張に変わる。
セレスの視線がチラリと向いて、クッと笑いながら彼を見下ろした。
「なんだい?心配性だなルビーは。
私はこのために生きてきた……いや、生かされてきたのだよ、ルビー。
事が終わればすべては終わる。
そう、全部終わるんだ……」
セレスが燃える火に目を移し、力なく笑う。
ルビーが愕然と彼の横顔を見つめた。
なんという……顔をなさるのです……
この方のこんな表情……初めて見る。
彼が自分のことを言葉に発する時、それは吐き捨てるようで酷く乱暴だ。
いつも自信に満ちてミステリアスでさえもある微笑みとは、打って変わったこの残酷なほどに寂しい微笑み。
ルビーにはそれが自嘲めいて、「死なない」と言いながらもただ死だけを見つめているような危うさを秘めているように感じて、心に大きな不安が生まれた。
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