赤い髪のリリス 戦いの風

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16、トラン動乱

第170話 疎まれる王

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夜の闇の中、風の音が城の中庭でヒューヒューと甲高く鳴り響く。
見回りの兵達が白い魔導師を避けて通る。
まるで幽鬼のような、魔導師達を。

中庭に立つ狭い塔の上の部屋で、王女ダリアが退屈そうに小さな窓から空を見た。
空はすでに暗く、雲の間から星が瞬いている。
ドアの鍵を開ける音がして、兵を後ろに連れ、侍女のリナが息を切らし桶に湯を持って入ってきた。

「はあ、はあ、はあ、お待たせ、しました。
足湯を、準備致します。」

「ねえ、リナが一番大変じゃない?
私いつまでこの部屋にいればいいのかしら。」

「さあ、私に申されましても。」

「ねえ、エリウスは謹慎きんしん解けた?」

エリウスとは、王女がよからぬ話を持ちかけた兵隊長だ。
王女は彼が普段から魔導師に反感を持っていることを聞きつけ、密かに呼び出して利用した。
リューズの誘拐、国外追放を指示したのだ。
まだ13才の王女らしい単純すぎる計画を練ったのだが、それは結局不満を抱えていたエリウスの背を押すことになってしまい、いくぶん手を加えて練り上げた計画も、実行する前に捕らえられてしまった。

「エリウスは……東の国境に移動になりましたわ。
もうお会いすることもないでしょうから、王女様には遠くからお祈りいたしますと。」

ダリアがため息をつき、腹立たしそうにベッドにボスンと座った。

「やっぱり!あの魔導師、本当に腹立たしい!
リナ、町に出たらエリウスの母親にいくらかお金を渡してちょうだい。
私がここを出たら、きっと城の勤めに戻しますからと伝えてね。」

「は……い……
それより王女様、湯が冷めぬうちにおみ足を温めなさいませ。
きっと身体が温まって、良い夢が見られますわ。」

王女は、昼間は勉学で時間が過ぎていて、特に余計なことをせぬようにと懲らしめる意味で監禁されている状態だ。
無邪気に昼の勉強のことをリナに話し、ようやくベッドに入った王女に挨拶をして、リナが桶を手に塔を降りてゆく。

「どうしよう……」

エリウスは、捕らえられた後は厳しい調べを受けた後に監獄へ繋がれ、死罪が決まっている。
王女が思う以上に重い罪となったが、すぐに手打ちにされなかっただけ運が良かったのだろう。
だが、刑の執行は3日後だ。
他の同じような政治犯たちと共に、公開処刑される。

「エリウス……ああ、誰か助けて……」

どんなに止めても聞かなかった彼の、あれは正義感だと思う。
どんどん変わっていく王と王子に、耐えられなかったのだ。
塔を出て水場に行き、井戸から水を汲みながら、涙があふれて止まらない。


『……すまぬ……』


耳元に、囁く声が聞こえて振り向いた。
月明かりに照らされるそこに、他に人影はない。
リナは、星空を見上げ手を合わせ、冷たい風に身を震わせた。


その……声の主セレスは、地下の牢で瞑想して意識を飛ばし、城の人々の様子を見て回っていた。
精神体で空に留まり目を閉じると、人々の声が満ちあふれて心を押しつぶしそうになる。
若い頃から民衆に愛され、恐れられたあの王が、悲しいほどにうとまれている。
魔導師達への不満が満ちあふれ、それでも口にすると容赦なく捕らえられる。
口を閉ざす人々の不満は爆発寸前だ。


あなたは知っていて、それでも動かないんだね。ヴァシュラム……
あの仮面の魔導師からは、あなたの匂いが立ちこめていたよ。
なんてひどい人、知っていたのに私に隠している。
私がどんなに探していたか、知っていてあなたって方は。
たとえあなたが邪魔をしても、私はやるべき事をやるよ。
私は、その為にここまで来たのだから。


目を閉じ、腕輪のある手首をさする。
肉体のない状態で、目を閉じても意味はない。
眼下では闇の中白い魔導師達が、中庭や回廊をうごめくように歩き回っている。
セレスを封じるためか、地下牢のある建物の外には念入りに何度も結界を張っている様子が見えた。

可愛いことよ、無駄な事を。
目障りな……

手を伸ばし、すべてを灰にしてしまおうかと冷たく微笑む。
その時、身体が誰かに揺り動かされる気配に顔を上げた。

メディアスか

すとん、と、心を肉体に戻した。
目を開くと、王子が鉄格子の向こうに膝をつき、手を伸ばしてセレスの腕を握っている。

「セレス、眠っていたのか?」

「いいえ、瞑想をしておりました。
このような所に自らおいでとは、申し訳ありません。」

「よいのだ、それより巫子殿をこんな所に……その方が問題だよ。
民衆に知れたら、大変な騒ぎとなろう。
寒くはないか?もっと敷物を持ってこさせよう。
リューズがここにしか駄目だと申すので、それに従うしかなかったのだ、すまぬ。」

申し訳なさそうな複雑な表情で、王子が手を離してうなだれる。
しかしすでに、セレスは牢獄とは言え慌てて看守や兵たちが敷いた何枚ものラグの上に座り、さほど硬さや冷たさは感じていない。
看守たちは、せめてと暖かい食事と飲み物を夕刻は用意してくれたし、先ほどは貴族の1人が牢の独特の匂いに申し訳ないと、こっそりやってきて香まで焚いてくれた。
ただ、牢獄にいると言うだけで、特別不自由を感じない状態だ。

「いえ、私はどこでも構いません。
修行で野宿をすることも良くあるのですよ。
かえってここは地の精霊に守られ、私にとっては好条件というもの。
あなたとは話がしたかったので、丁度いい。
どうぞ手を、話をしましょう。」

「手を?」

王子が不思議な顔でセレスに手を伸ばす。
セレスがその手を握り、目を閉じる。
王子も習って目を閉じると、次の瞬間2人は上も下もわからない暗闇に立っていた。
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