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16、トラン動乱
第172話 探し、探して、探し尽くして
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王子が決意し、顔を上げる。
だが、その前には大きな障害が立ちはだかる。
リューズはきっとそれを阻むだろう。
「わかった。
私にできる事はすべてやろう。
だが、その前にリューズを排除せねばならぬ。」
「それはお任せを。
ですが、王は深く心酔しておいでのようです。
彼を失ったときの喪失感は大きいと思います。
どうか、ご家族で助け合って下さいませ。」
「それは……わかっている。
だが、お前にあれが追い出せるのか?
まさか……命かけるようなことを考えてくれるな。私は生涯後悔することになる。」
泣きそうな顔でセレスの手を握る王子の手が、痛いほどに力を入れてくる。
だが、王子の期待する言葉はセレスの口からこぼれることはなかった。
「王子、お覚悟召されませ。
私も、覚悟を持ってあれに向かいます。
それだけの力を持つ物なのです。」
「あれは一体……教えてくれ、私は知る権利がある。」
王子が強く語りかける。
セレスはすべてを抱え込む覚悟を決めた彼に、ごまかしなど言うべきではないと悟った。
いや、もしかしたら、最初からそれを言う覚悟でこの狭間に誘い出したのかもしれない。
悲しく微笑み、王子の手を握り返す。
その手が微かに震えているのを感じて、王子は思わず顔を引いた。
「申し訳、ありません。どうか………」
その言葉の後に何が続くのか。
初めて聞く、彼の消え入るような声に背筋が寒くなる。
聞いてもいいのだろうか?
いいや、だからこそ聞かなければ。
「セレス、お前は一体何を悲しんでいるのだ。
セレス、あれがアトラーナから来た者であろう事はわかっている。
杖の話から、地の神殿に縁がある者だと言う事も、私にはわかる。
一体リューズの正体は……ただの魔導師ではないのか?」
セレスが目を閉じ、一つ大きく息を吐く。
しかし次に目を開いた時は、いつものセレスの顔に戻っていた。
「あれは、私がずっと探していた物なのです。
ずっとずっと……苦汁を飲みながら探して探して探し尽くして……
私の願いも、これで成就できるか否か。
どうぞ王子はトランの民のことだけをお考え下さい。」
「教えてはくれぬのだな、寂しいことだ。」
「話してしまえば、私の心が乱れましょう。
どうかお察し下さい。」
「……わかった、これ以上聞くまい。
だが……いや、なんでもない。」
「そうして下さいませ。地の神殿は、トランの永劫の繁栄をお祈りしております。それでは」
厳しい顔で微笑んで、セレスが一礼する。
次の瞬間、2人は元の地下牢で目を開けた。
それはほんの一瞬の出来事だったのか、2人が目で挨拶を交わして王子が地下を出ると、側近たちが不思議な顔でついてくる。
「王子、お話は出来ましたのでしょうか?」
「ここで話すことではない。」
「は、はっ」
「良い夜だ。巫子殿のおかげでトランにも良い風が吹く。」
「はい、今宵おもてなしできないのが大変残念でございます。」
自室に戻る王子のあとを、白いローブの魔導師が1人ついて行く。
何気なく振り向き、不気味で不安な気持ちに覆われていたのがウソのようだと、ふと思った。
コトコトコト……
リューズの杖が、小さく震えてその先にある水晶を鳴らす。
この奇妙な感情はなんだ?
あの、牢のある方向から感じる圧迫感。
これが恐怖という物か?
たかが巫子ごときに、どうしてこうまで心乱れるのか見当がつかない。
あの、一瞬で配下を二人も消した恐怖なのか。
それとも初めて人間から感じる圧迫感からなのか、目覚めて怒り以外の感情で初めての強烈な心の動きだった。
早く、あの巫子を始末せねば。
「リューズ様、怖いの?」
メイスの姿の人形が杖を持つ手をそっと包む。
リューズは彼の肩を抱いて引き寄せ、ホッと息を吐いた。
「いいや、相手はたかが人間だ。害をなすなら燃やし尽くしてやろうぞ。
お前は心配せずともよい、この部屋にじっとしておいで。
お前はいずれは消える人形だが、今はただ存在してくれるだけで良い。」
「はい。」
この人形を抱いていると、手の震えが収まり、心が強くなっていく気がする。
初めて見たとき、なぜかひどく懐かしく、偽物と知っていて消し去る気がしなかった。
暖かいものに包まれたい。
自分は母の体内に帰りたいのだとさえ思う。
ふと、セレスの自分を見つめる顔が思い出された。
あれは、面白いほど自分を憎む人間たちの顔とは違う。
なにか自分の知らない感情が詰まった、形容しがたい……
あの……
あの……
あの…… 顔………
リューズの体が動きを止めた。
ぼんやりとした表情で空を見つめ、その顔からはらりと仮面が落ちて音を立てる。
その醜い傷があるという顔半分には、真っ黒な、どこかの空間と繋がっているような空洞が空いていた。
そこからは、時々青い炎がちょろちょろと漏れる。
「……ガー…… ラ…………」
惚けた表情で、微かにつぶやいた。
人形のメイスが落ちた仮面を手に取り、そっとリューズの顔に付ける。
それに気付かない様子でボウッと宙を見つめる彼に、メイスの人形がクスッと微笑み、髪を撫でてキスをした。
だが、その前には大きな障害が立ちはだかる。
リューズはきっとそれを阻むだろう。
「わかった。
私にできる事はすべてやろう。
だが、その前にリューズを排除せねばならぬ。」
「それはお任せを。
ですが、王は深く心酔しておいでのようです。
彼を失ったときの喪失感は大きいと思います。
どうか、ご家族で助け合って下さいませ。」
「それは……わかっている。
だが、お前にあれが追い出せるのか?
まさか……命かけるようなことを考えてくれるな。私は生涯後悔することになる。」
泣きそうな顔でセレスの手を握る王子の手が、痛いほどに力を入れてくる。
だが、王子の期待する言葉はセレスの口からこぼれることはなかった。
「王子、お覚悟召されませ。
私も、覚悟を持ってあれに向かいます。
それだけの力を持つ物なのです。」
「あれは一体……教えてくれ、私は知る権利がある。」
王子が強く語りかける。
セレスはすべてを抱え込む覚悟を決めた彼に、ごまかしなど言うべきではないと悟った。
いや、もしかしたら、最初からそれを言う覚悟でこの狭間に誘い出したのかもしれない。
悲しく微笑み、王子の手を握り返す。
その手が微かに震えているのを感じて、王子は思わず顔を引いた。
「申し訳、ありません。どうか………」
その言葉の後に何が続くのか。
初めて聞く、彼の消え入るような声に背筋が寒くなる。
聞いてもいいのだろうか?
いいや、だからこそ聞かなければ。
「セレス、お前は一体何を悲しんでいるのだ。
セレス、あれがアトラーナから来た者であろう事はわかっている。
杖の話から、地の神殿に縁がある者だと言う事も、私にはわかる。
一体リューズの正体は……ただの魔導師ではないのか?」
セレスが目を閉じ、一つ大きく息を吐く。
しかし次に目を開いた時は、いつものセレスの顔に戻っていた。
「あれは、私がずっと探していた物なのです。
ずっとずっと……苦汁を飲みながら探して探して探し尽くして……
私の願いも、これで成就できるか否か。
どうぞ王子はトランの民のことだけをお考え下さい。」
「教えてはくれぬのだな、寂しいことだ。」
「話してしまえば、私の心が乱れましょう。
どうかお察し下さい。」
「……わかった、これ以上聞くまい。
だが……いや、なんでもない。」
「そうして下さいませ。地の神殿は、トランの永劫の繁栄をお祈りしております。それでは」
厳しい顔で微笑んで、セレスが一礼する。
次の瞬間、2人は元の地下牢で目を開けた。
それはほんの一瞬の出来事だったのか、2人が目で挨拶を交わして王子が地下を出ると、側近たちが不思議な顔でついてくる。
「王子、お話は出来ましたのでしょうか?」
「ここで話すことではない。」
「は、はっ」
「良い夜だ。巫子殿のおかげでトランにも良い風が吹く。」
「はい、今宵おもてなしできないのが大変残念でございます。」
自室に戻る王子のあとを、白いローブの魔導師が1人ついて行く。
何気なく振り向き、不気味で不安な気持ちに覆われていたのがウソのようだと、ふと思った。
コトコトコト……
リューズの杖が、小さく震えてその先にある水晶を鳴らす。
この奇妙な感情はなんだ?
あの、牢のある方向から感じる圧迫感。
これが恐怖という物か?
たかが巫子ごときに、どうしてこうまで心乱れるのか見当がつかない。
あの、一瞬で配下を二人も消した恐怖なのか。
それとも初めて人間から感じる圧迫感からなのか、目覚めて怒り以外の感情で初めての強烈な心の動きだった。
早く、あの巫子を始末せねば。
「リューズ様、怖いの?」
メイスの姿の人形が杖を持つ手をそっと包む。
リューズは彼の肩を抱いて引き寄せ、ホッと息を吐いた。
「いいや、相手はたかが人間だ。害をなすなら燃やし尽くしてやろうぞ。
お前は心配せずともよい、この部屋にじっとしておいで。
お前はいずれは消える人形だが、今はただ存在してくれるだけで良い。」
「はい。」
この人形を抱いていると、手の震えが収まり、心が強くなっていく気がする。
初めて見たとき、なぜかひどく懐かしく、偽物と知っていて消し去る気がしなかった。
暖かいものに包まれたい。
自分は母の体内に帰りたいのだとさえ思う。
ふと、セレスの自分を見つめる顔が思い出された。
あれは、面白いほど自分を憎む人間たちの顔とは違う。
なにか自分の知らない感情が詰まった、形容しがたい……
あの……
あの……
あの…… 顔………
リューズの体が動きを止めた。
ぼんやりとした表情で空を見つめ、その顔からはらりと仮面が落ちて音を立てる。
その醜い傷があるという顔半分には、真っ黒な、どこかの空間と繋がっているような空洞が空いていた。
そこからは、時々青い炎がちょろちょろと漏れる。
「……ガー…… ラ…………」
惚けた表情で、微かにつぶやいた。
人形のメイスが落ちた仮面を手に取り、そっとリューズの顔に付ける。
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