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17、地底のイスカ村
第180話 地底の村
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ヒヤリとした空気が緩やかに流れる。
息を吸うと、肺が洗われるように気持ちがいい。
目をゆっくり開くと、そこには空は見えない。
遙か上に、地上にまで続くのだろう岩の裂け目が、まるで天地逆転した奈落のように続いている。
ここからある一定の時間、地下に光が差し込むのだ。
ただ今はその時間ではなく、闇に輝く妖精や精霊達の小さな輝きが、まるで火の粉のように地の底の森に沢山飛び交っていた。
「きれい……」
目を開けて、しばらくうっとりそれに見とれる。
すでに地の底の森の中、こうして地面に直接寝かされて3日たつ。
ここはミスリルの村イスカ。
地の精霊王が作った村だけあって、地上からどれだけ離れているのか知らないが地の底にある。
地底村だ。
それでも、いつも風がどこからか流れて、朝一時間ほど天井の岩の裂け目から日が差す。
それが岩に含まれる水晶のような澄んだ石に乱反射して、地底中に光を届けるのだ。
それでも、恐らくそれで植物は育たないだろう環境で、なぜか森があり多種多様な作物がある。
不思議な、ヴァシュラムの作り出した箱庭のようだ。
日の入らない時間は、横穴住居で焚いているかがり火の灯りを、天井一杯のヒカリゴケが反射して薄明るさで照らしている。
飛んできた精霊を、指に留まらせる。
最初の日は毒が回ってろくに言葉も出なかったが、ようやく手足も自由に動かせるようになった。
薄い毛布を上に着せられただけだが、寒さは感じずヒヤリとした清浄な心地よさがある。
「ここにいると、昼夜の区別が付かんな。」
ブルースが退屈そうに大きく伸びをする。
かたわらの袋に手を突っ込み、スモモのような果物を手にして一つほおばり、甘酸っぱさに顔を歪めた。
「ヒュー!なんて酸っぱさだ、こりゃ参った。
巫子殿も良くこんな物食えるな。まあしかし、目は覚める。」
リリスも一つもらってかじる。
確かに強烈な酸味だが、毒消しの薬らしい。食べるのにはもう慣れた。
「ええ、ほんっとに酸っぱい。でも薬だし、食べてるとなんかクセになるんですよ。もう一つ下さい。」
「もう一つだって?巫子殿、腹に子でもいるんじゃないのか?ほれ」
「私は男ですってば!もう。」
とは言え、まるで歯が溶けそうな酸っぱさだ。
でも、それが今は心地いい。
かじりながら身を起こして、座って息をつく。
「もう、お城には戻れませんね。」
「さあな、お主の力と状況次第か。まだ必要な物を返してもらってないではないか。」
「でもなんだか、とてつもなく無理な話だと思えてなりませんけど……
だって、一つは王位継承の証ですよ?
王子の旅に同行させて頂いた時も、たいそう気を使いました。お預け頂けた時は、名誉な事とたいそう気が引き締まったものです。
それを自称巫子が必要だからくれって言われても、気が狂ったとしか取られませんよ。」
「でもなあ、親なら子の願いはどんな事でも叶えてやりたいものだぜ?」
「え?」
「お?彼女だ。」
振り向くと、ガーラントともう1人の姿が近づいてくるのが見えた。
ミスリルのベネットだ。
彼女は医師のような魔術師で、人のオーラを感じて治療をするらしい。
感じるというのは、彼女の顔を見ればわかる。
目がないのだ。
ベネットはガーラントより先を歩いてくると、リリスのかたわらに膝をつき額に手を置いた。
まだ若く、20代だろうか。
目のない顔だが、透けるような白い髪で顔を隠しあまり違和感はない。
「命の火が安定して暖かく燃えています。
毒も抜けきったようです、もう大丈夫ですね。
さすが巫子殿、地の波動と合わせるのがお上手、回復がお早い。
素人ではなかなかそうは行きません。」
「イネス様に教わっていたのです。
ベネット様のおかげでラクになりました、ありがとうございます。」
「そうですか、地の神殿には私たちも大変良くして頂いています。
さ、長(おさ)の元に参りましょう。
今日はあなたをお連れするようにと言付かっております。
おや?
心がほんの少し揺れましたね?
大丈夫、お優しい方です、何も心配はありませんよ?
長老が、今のあなたに必要な事を教えてくれましょう。
あなたが会わねばならない方もお待ちです。」
「必要な事?会わねばならない?」
「ええ、ずっと、ずっと、あなたを、待っていらっしゃる方がいらっしゃるのです。
さあ、立てますか?一緒に参りましょう。」
「は、はい」
ベネットは立ち上がったリリスの手を取り、柔らかく握って手を引いて行く。
真っ白でシミ一つ無い、細く、華奢で美しい手だ。
ふわりと柔らかく、それでいてちゃんと手を繋いでいる。
そんな不思議な感じに思わずその手を見つめる。
「ヒヒ、惚れるなよ?」
ブルースが、それを見て茶化した。
「もう!」
憤慨しながら、繋いだ手の優しさが気恥ずかしいほどに心が安まる。
ニヤリと笑うガーラントと目が合うと、ポッと赤くなって目を伏せた。
息を吸うと、肺が洗われるように気持ちがいい。
目をゆっくり開くと、そこには空は見えない。
遙か上に、地上にまで続くのだろう岩の裂け目が、まるで天地逆転した奈落のように続いている。
ここからある一定の時間、地下に光が差し込むのだ。
ただ今はその時間ではなく、闇に輝く妖精や精霊達の小さな輝きが、まるで火の粉のように地の底の森に沢山飛び交っていた。
「きれい……」
目を開けて、しばらくうっとりそれに見とれる。
すでに地の底の森の中、こうして地面に直接寝かされて3日たつ。
ここはミスリルの村イスカ。
地の精霊王が作った村だけあって、地上からどれだけ離れているのか知らないが地の底にある。
地底村だ。
それでも、いつも風がどこからか流れて、朝一時間ほど天井の岩の裂け目から日が差す。
それが岩に含まれる水晶のような澄んだ石に乱反射して、地底中に光を届けるのだ。
それでも、恐らくそれで植物は育たないだろう環境で、なぜか森があり多種多様な作物がある。
不思議な、ヴァシュラムの作り出した箱庭のようだ。
日の入らない時間は、横穴住居で焚いているかがり火の灯りを、天井一杯のヒカリゴケが反射して薄明るさで照らしている。
飛んできた精霊を、指に留まらせる。
最初の日は毒が回ってろくに言葉も出なかったが、ようやく手足も自由に動かせるようになった。
薄い毛布を上に着せられただけだが、寒さは感じずヒヤリとした清浄な心地よさがある。
「ここにいると、昼夜の区別が付かんな。」
ブルースが退屈そうに大きく伸びをする。
かたわらの袋に手を突っ込み、スモモのような果物を手にして一つほおばり、甘酸っぱさに顔を歪めた。
「ヒュー!なんて酸っぱさだ、こりゃ参った。
巫子殿も良くこんな物食えるな。まあしかし、目は覚める。」
リリスも一つもらってかじる。
確かに強烈な酸味だが、毒消しの薬らしい。食べるのにはもう慣れた。
「ええ、ほんっとに酸っぱい。でも薬だし、食べてるとなんかクセになるんですよ。もう一つ下さい。」
「もう一つだって?巫子殿、腹に子でもいるんじゃないのか?ほれ」
「私は男ですってば!もう。」
とは言え、まるで歯が溶けそうな酸っぱさだ。
でも、それが今は心地いい。
かじりながら身を起こして、座って息をつく。
「もう、お城には戻れませんね。」
「さあな、お主の力と状況次第か。まだ必要な物を返してもらってないではないか。」
「でもなんだか、とてつもなく無理な話だと思えてなりませんけど……
だって、一つは王位継承の証ですよ?
王子の旅に同行させて頂いた時も、たいそう気を使いました。お預け頂けた時は、名誉な事とたいそう気が引き締まったものです。
それを自称巫子が必要だからくれって言われても、気が狂ったとしか取られませんよ。」
「でもなあ、親なら子の願いはどんな事でも叶えてやりたいものだぜ?」
「え?」
「お?彼女だ。」
振り向くと、ガーラントともう1人の姿が近づいてくるのが見えた。
ミスリルのベネットだ。
彼女は医師のような魔術師で、人のオーラを感じて治療をするらしい。
感じるというのは、彼女の顔を見ればわかる。
目がないのだ。
ベネットはガーラントより先を歩いてくると、リリスのかたわらに膝をつき額に手を置いた。
まだ若く、20代だろうか。
目のない顔だが、透けるような白い髪で顔を隠しあまり違和感はない。
「命の火が安定して暖かく燃えています。
毒も抜けきったようです、もう大丈夫ですね。
さすが巫子殿、地の波動と合わせるのがお上手、回復がお早い。
素人ではなかなかそうは行きません。」
「イネス様に教わっていたのです。
ベネット様のおかげでラクになりました、ありがとうございます。」
「そうですか、地の神殿には私たちも大変良くして頂いています。
さ、長(おさ)の元に参りましょう。
今日はあなたをお連れするようにと言付かっております。
おや?
心がほんの少し揺れましたね?
大丈夫、お優しい方です、何も心配はありませんよ?
長老が、今のあなたに必要な事を教えてくれましょう。
あなたが会わねばならない方もお待ちです。」
「必要な事?会わねばならない?」
「ええ、ずっと、ずっと、あなたを、待っていらっしゃる方がいらっしゃるのです。
さあ、立てますか?一緒に参りましょう。」
「は、はい」
ベネットは立ち上がったリリスの手を取り、柔らかく握って手を引いて行く。
真っ白でシミ一つ無い、細く、華奢で美しい手だ。
ふわりと柔らかく、それでいてちゃんと手を繋いでいる。
そんな不思議な感じに思わずその手を見つめる。
「ヒヒ、惚れるなよ?」
ブルースが、それを見て茶化した。
「もう!」
憤慨しながら、繋いだ手の優しさが気恥ずかしいほどに心が安まる。
ニヤリと笑うガーラントと目が合うと、ポッと赤くなって目を伏せた。
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