210 / 303
19、ヴァシュラムとガラリア
第208話 救いを求める声
しおりを挟む
ガラリアが、地龍サラシャの腕の中で見えなくなった目を見開く。
ヴァシュラムの中にいるのに、ここまで来てもヴァシュラムが手を差し伸べてくれない。
駄目だ、よくよく考えるとヴァシュラムは、るつぼに来たらこの身体で復活させてやるとは、ひと言も言わなかった。
しまった、また言葉遊びに引っかかったのかもしれない。
今すぐ泉へ……いや、もう引き返しても遅い。
自分は見放されたのだ、ああ、とうとうこの時が来てしまった。こんなタイミングで。
最悪だ。
ヴァシュラムは、子供のこともオモチャにしか思っていない。
私が消えたら、次はあの子で遊ぶつもりだろう。
意識が遠のく、私はどうなってしまうのか。
身体が死んで、取り出した霊体を好きなようにされるのか、何か違う物に作り替えられてしまうのか、もしかしたら永遠に石ころにでも封じられるのかもしれない。
自分はヴァシュラムとフレアゴートとの契約で、輪廻の輪からはずされている。
契約に応じたときは、子供のことがあったし、その頃のまま、その先も大切にされると思ったから安心して応じてしまった。
でも……それからそう感じることは、ほとんど無くなった。
これは罰だ、私を守って死んだ村人や家族が、私に与えた呪いだ。
ならば受けなくてはならない。
それはずっと覚悟してきた。
でも……本当は、終わりがないのは恐ろしい、怖い。
リュシエールのことが心残りでたまらない。
霊体で捨てられてもきっと、安らかに眠ることなど出来ないだろう。
自由を失い、安息とはほど遠く、苦しみ抜いて悪霊に変わるかもしれない。
若返りの施術の時も、不安が無かったわけじゃ無い。
でも、肉体を失うと霊体がどうなるのか、どうされてしまうのか、それはヴァシュラムの思うままだ。
言いようのない恐怖が、絶望が心を満たす。
あの時、盗賊達と共に土砂に埋もれて死んでしまえば良かったのだろうか。
お前は汚れてなどいないと、優しく抱いてくれた、あの頃が懐かしい。
飽きられ、弄ばれても、それでもあの言葉を支えに懸命に生きてきた。
でも、こうなったのは浅はかにも精霊の言葉を信じてきた、自分の過ち……あとは運を天に任せるしかない。
ああ……駄目だ……
リュシエール、私はまたお前を救うことが出来なかった。
また幸せに出来なかった。
私を、私だけを恨め。私だけを憎め。
他の誰にも罪は無い、私が、私の存在がすべて悪いのだ。
気が遠くなる、これが自分の意志を語れる最後の会話となるかもしれない。
せめてと、ガラリアは力を振り絞ってサラシャに口を開いた。
「サラシャ……地龍殿……」
「ここに、ここにおります」
「地龍殿……気高き、あなたが……汚され、汚れきった……身の私などに、ほんの一時でも頭を……垂れることになり、申し訳……なかった……」
「そのようなこと、言ってはなりませぬ……」
「私は……私は、これが最後かもしれぬ……
皆に……世話になったと…… 伝えて……… 欲しい……
う、うう……」
「何を……大丈夫でございますとも。御方様、しっかりなさいませ!」
ガラリアの身体からはすっかり生気が消えて、真っ白で色は抜け、肌はボロボロですでに希望が見えない。
サラシャが急いでいた足を止め、彼の身体を抱きしめた。
髪がハラハラと落ち、身体が崩れ始める。
「ああ、ああ、誰か、誰か!主様!」
流したことのない涙が彼の頬に落ち、流れて消える。
ここはすでに神域なのに、なぜ精霊王は助けて下さらないのか。
苦しむ彼を見るのが恐ろしい。
これほど思うようにならない命のもどかしさに、サラシャは生まれて初めて嗚咽を漏らす。
それでも、彼は最後の時まで詫びの言葉しか囁かなかった。
「……リュ… シエ… ル…… すまない……
イ……イネス、……私は……私は…………巫子じゃない……偽物で……
皆を……あざむいて……許し……て……
でも、……あ、あ……ヴァ……ヴァシュ……どうか……
怖い、 こわ……
あ… あ… サラ… シャ…… あ り…… が…… と…… 」
「御方様!御方さ……あっ、」
手の中でガクリと彼の身体から力が抜けた瞬間、神域が強烈な緑の光に包まれた。
るつぼに渦巻く力が一息に集中し、ガラリアの身体を包んで宙に浮く。
「おお、主ぬし様!間に合って良かった。もっと早う!早うお出でなされませ!」
ホッと息を吐き、力が抜けてサラシャの姿が崩れ全身蛇のような姿になった。
髪はするりと額でまとまって3本の角となり、口からぺろりと細い舌が覗く。
銀のウロコは更に固く固まり、岩に当たると鈴のようにシャンシャンと鳴った。
「主様、御方様の再生の儀を。」
緑の輝きはぼんやりと人の形となり、その中に取り込まれたガラリアが目を開けた。
「ああ……良かった……まだ、私の声が……まだ……良かった……」
彼がつぶやくと、愛しそうに見えない無数の手が彼の身体をかき抱く。
弱々しく震える手を合わせ、見上げるガラリアの緑色の瞳が輝き、涙がガラスのような玉となって光の中で輝いた。
「精霊王よ、朽ちかけた身の私に……ほんの少しでもお目を向けて下さるなら、これまでお仕えしてきた情けに、ほんの少しのお慈悲をお分け下さい……。
どうか……どうか……お慈悲を……もう少し、ほんの一時だけの時間を……どうか、お慈悲を……どうか……」
その力無く、今にも消え入りそうな言葉を遮るように、輝きが彼の唇に口づけを落とす。
ガラリアは救いを求めて両手を頭上に掲げ、不安に心さいなまれながらも目を閉じて、輝きに身を任せるしかなかった。
緑の輝きは、ガラリアを包み込んだままるつぼの更に奥へと向かう。
それを追って、サラシャもスルスルと奥へと消えていった。
ヴァシュラムの中にいるのに、ここまで来てもヴァシュラムが手を差し伸べてくれない。
駄目だ、よくよく考えるとヴァシュラムは、るつぼに来たらこの身体で復活させてやるとは、ひと言も言わなかった。
しまった、また言葉遊びに引っかかったのかもしれない。
今すぐ泉へ……いや、もう引き返しても遅い。
自分は見放されたのだ、ああ、とうとうこの時が来てしまった。こんなタイミングで。
最悪だ。
ヴァシュラムは、子供のこともオモチャにしか思っていない。
私が消えたら、次はあの子で遊ぶつもりだろう。
意識が遠のく、私はどうなってしまうのか。
身体が死んで、取り出した霊体を好きなようにされるのか、何か違う物に作り替えられてしまうのか、もしかしたら永遠に石ころにでも封じられるのかもしれない。
自分はヴァシュラムとフレアゴートとの契約で、輪廻の輪からはずされている。
契約に応じたときは、子供のことがあったし、その頃のまま、その先も大切にされると思ったから安心して応じてしまった。
でも……それからそう感じることは、ほとんど無くなった。
これは罰だ、私を守って死んだ村人や家族が、私に与えた呪いだ。
ならば受けなくてはならない。
それはずっと覚悟してきた。
でも……本当は、終わりがないのは恐ろしい、怖い。
リュシエールのことが心残りでたまらない。
霊体で捨てられてもきっと、安らかに眠ることなど出来ないだろう。
自由を失い、安息とはほど遠く、苦しみ抜いて悪霊に変わるかもしれない。
若返りの施術の時も、不安が無かったわけじゃ無い。
でも、肉体を失うと霊体がどうなるのか、どうされてしまうのか、それはヴァシュラムの思うままだ。
言いようのない恐怖が、絶望が心を満たす。
あの時、盗賊達と共に土砂に埋もれて死んでしまえば良かったのだろうか。
お前は汚れてなどいないと、優しく抱いてくれた、あの頃が懐かしい。
飽きられ、弄ばれても、それでもあの言葉を支えに懸命に生きてきた。
でも、こうなったのは浅はかにも精霊の言葉を信じてきた、自分の過ち……あとは運を天に任せるしかない。
ああ……駄目だ……
リュシエール、私はまたお前を救うことが出来なかった。
また幸せに出来なかった。
私を、私だけを恨め。私だけを憎め。
他の誰にも罪は無い、私が、私の存在がすべて悪いのだ。
気が遠くなる、これが自分の意志を語れる最後の会話となるかもしれない。
せめてと、ガラリアは力を振り絞ってサラシャに口を開いた。
「サラシャ……地龍殿……」
「ここに、ここにおります」
「地龍殿……気高き、あなたが……汚され、汚れきった……身の私などに、ほんの一時でも頭を……垂れることになり、申し訳……なかった……」
「そのようなこと、言ってはなりませぬ……」
「私は……私は、これが最後かもしれぬ……
皆に……世話になったと…… 伝えて……… 欲しい……
う、うう……」
「何を……大丈夫でございますとも。御方様、しっかりなさいませ!」
ガラリアの身体からはすっかり生気が消えて、真っ白で色は抜け、肌はボロボロですでに希望が見えない。
サラシャが急いでいた足を止め、彼の身体を抱きしめた。
髪がハラハラと落ち、身体が崩れ始める。
「ああ、ああ、誰か、誰か!主様!」
流したことのない涙が彼の頬に落ち、流れて消える。
ここはすでに神域なのに、なぜ精霊王は助けて下さらないのか。
苦しむ彼を見るのが恐ろしい。
これほど思うようにならない命のもどかしさに、サラシャは生まれて初めて嗚咽を漏らす。
それでも、彼は最後の時まで詫びの言葉しか囁かなかった。
「……リュ… シエ… ル…… すまない……
イ……イネス、……私は……私は…………巫子じゃない……偽物で……
皆を……あざむいて……許し……て……
でも、……あ、あ……ヴァ……ヴァシュ……どうか……
怖い、 こわ……
あ… あ… サラ… シャ…… あ り…… が…… と…… 」
「御方様!御方さ……あっ、」
手の中でガクリと彼の身体から力が抜けた瞬間、神域が強烈な緑の光に包まれた。
るつぼに渦巻く力が一息に集中し、ガラリアの身体を包んで宙に浮く。
「おお、主ぬし様!間に合って良かった。もっと早う!早うお出でなされませ!」
ホッと息を吐き、力が抜けてサラシャの姿が崩れ全身蛇のような姿になった。
髪はするりと額でまとまって3本の角となり、口からぺろりと細い舌が覗く。
銀のウロコは更に固く固まり、岩に当たると鈴のようにシャンシャンと鳴った。
「主様、御方様の再生の儀を。」
緑の輝きはぼんやりと人の形となり、その中に取り込まれたガラリアが目を開けた。
「ああ……良かった……まだ、私の声が……まだ……良かった……」
彼がつぶやくと、愛しそうに見えない無数の手が彼の身体をかき抱く。
弱々しく震える手を合わせ、見上げるガラリアの緑色の瞳が輝き、涙がガラスのような玉となって光の中で輝いた。
「精霊王よ、朽ちかけた身の私に……ほんの少しでもお目を向けて下さるなら、これまでお仕えしてきた情けに、ほんの少しのお慈悲をお分け下さい……。
どうか……どうか……お慈悲を……もう少し、ほんの一時だけの時間を……どうか、お慈悲を……どうか……」
その力無く、今にも消え入りそうな言葉を遮るように、輝きが彼の唇に口づけを落とす。
ガラリアは救いを求めて両手を頭上に掲げ、不安に心さいなまれながらも目を閉じて、輝きに身を任せるしかなかった。
緑の輝きは、ガラリアを包み込んだままるつぼの更に奥へと向かう。
それを追って、サラシャもスルスルと奥へと消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる