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19、ヴァシュラムとガラリア
第207話 全ては子を救う為に
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るつぼに入ると、サラシャのガラリアを抱く手が、そして首まで次第に銀のウロコに覆われて行く。
人の姿を維持することだけで、サラシャの表情は厳しくなって行った。
「御方様、私は神域では本来の姿に戻ってしまいますが、ずっとお側に控えておりますゆえご安心下さい。
どうかご無事で、お気をしっかりお持ちになって……」
「ありがとう、サラシャ……あなたのおかげだ。でも、もう一つ。
地ノ物を統べる地龍よ、あなたのお力が借りたい。」
「私の?もちろん御方様のためなら、何色に輝く石でもお持ちしましょう。
燃える石でも、燃える水でもいかほどにも用意しましょう。」
「フフ……いいや、そうではないよ。
私に必要な物は、金でも銀でも宝玉でも無いんだ。
そんな物、私には、なんの価値も無いんだよ……」
サラシャには、もちろんわかっている。
そんな簡単な物ならいいのに、と心から思う。
これまでどれだけの人間と、地脈にある金や光る石を巡って戦ってきたことか。
地にある力のある物を、統べるのも自分だ。
だからガラリアに会うまで、欲にまみれた人間は大嫌いだった。
でもガラリアは金を目にしても、光る石を見せつけても、そんな物一切欲しがらなかった。
初めて会った時を思い出す。
昔、泥に汚れ、剣で切られて血だらけの少年を抱いたヴァシュラムに突然呼び寄せられ、この泉に留まってミスリル達と少年の面倒を見るよう言いつかった時は、怒りさえ覚えた。
ミスリルは地下生活でひどく貧しく、乏しい食料に困っており、自分も人間には触れるのも嫌だった。
少年は男を相手に性を売る、花売りと呼ばれる仕事をしていたのか、おぞましく汚れた女の格好で、意識を取り戻しても放心状態なのかいつもボンヤリしていた。
やがて時がたち傷が癒えると、少年は人恋しいのか、神殿を出てミスリルの村にも出て行くようになった。
しかしここにいるミスリルは異形の者が多い。
魔物とそしられ人間に追われ、疲れ果ててここに逃げてきた者ばかりだ。
当然、当初は彼を拒絶する者ばかりだった。
だが少年は何度はね付けられようと、彼らに根気強く接し、異形のミスリル達を助け、共に畑を耕し、子の守をして、まるで家族のように彼らを慈しみ手をさしのべた。
彼は金や銀よりも、何より心から家族を欲していたのだ。
そして彼は地底のやせた畑に泉から力のある神水を引くことを考え、ヴァシュラムに何度も許しを請うて、とうとう水路を引かせた。
それは、地下の畑に飢えを忘れさせるほどの効果をもたらし、ミスリル達をたいそう喜ばせることとなった。
人間を嫌うはずのミスリルは彼を次第に敬うようになり、自分たちからヴァシュラムの許しを得、泉の淵にガラリアのために社を建て、彼は村人に請われてそこに住まいした。
それは、彼らがガラリアを地の精霊王と並ぶ者として認めた瞬間。
皆、社に住み始めた彼を地の御方、御方様と呼び、大切に崇めるようになった。
自分は、いや、自分も、ガラリアにどんどん惹かれるのを感じていた。
彼は純粋にミスリルの幸せを願い、ただひたすら死んだ縁者の鎮魂を祈っていた。
彼は偽物だと言うが、これほど地の巫子に相応しい者がいようか。
これほど、幸せになって欲しいと思った人間はいない。
でも、自分の願いに反して、精霊王の彼に対する仕打ちは冷たい。
精霊王は気まぐれだが、地の精霊は皆彼を愛している。
それをわかって欲しい。
力になりたい、自分も彼を失いたくない。
何度でも、永遠に寄り添いたい。
ガラリアを抱きしめる手に力がこもる。
「サラシャ、私は……道が欲しいのだ。
あの子を救う道を。
ああリュシエール、私は一息に殺せなかった。
ここに来て迷うなど、なんという愚かな……私の心の弱さが、ヴァシュラムに邪魔を許したのだ……
サラシャ、この無力で愚かな私に最後のお力添えを……
ヴァシュラムにこの身を再生して頂いたら、すぐにあの子の元へ連れて行って欲しいのだ。
無理な願いだとわかっている、でも時間が惜しい。」
「もちろんですとも、あなた様のお望みのままに。
最後などとそのような事仰いますな、どうかこれからもお仕えさせて下さいませ。
あなた様のお優しさを責める者などおりませぬ、御子を救う道を共に探しましょうぞ。」
「すまぬ……すまぬ……うう………」
ガラリアが小さくうめいて身をよじった。
ハッとサラシャがガラリアを見ると、彼の身体からはまた、トロトロと力が澱となって流れ抜けて行く。
「なんと言うこと、やはり!御方様!お気をしっかり、すぐにるつぼでございます!
ああ、何故主様は来て下さらぬのか。
御方様!」
なんてことだ、また強烈なほどに力が抜ける。
命が抜けてゆく。
身体が砂になって消えそうだ。
暗く、闇に飲まれてサラシャの顔が見えない。
覚悟して泉を出た物の、ここまで自分の身体に限界が来ていたことにガラリアは絶望した。
それでも、ここまで来ても、ヴァシュラムは手をさしのべてくれない。
この腕輪がある限り、見られているはずなのに。
まして、ここはヴァシュラムの中。気がつかないはずも無い。
ああ……駄目だ…………
すでに救う気など無いのだろうか、この肉体の存在など、どうでもいいのだろうか。
もう少し、自分は大事な方の玩具だと思っていたのに、ここまで飽きられていたとは。
まさか……自分は、この賭けに失敗したのかもしれない。
考えが……甘かった!
リュシエール!
ガラリアの心が、絶望に満たされる。
ヴァシュラムの、出会った頃の優しい顔は、すでに思い出せないほど遠かった。
人の姿を維持することだけで、サラシャの表情は厳しくなって行った。
「御方様、私は神域では本来の姿に戻ってしまいますが、ずっとお側に控えておりますゆえご安心下さい。
どうかご無事で、お気をしっかりお持ちになって……」
「ありがとう、サラシャ……あなたのおかげだ。でも、もう一つ。
地ノ物を統べる地龍よ、あなたのお力が借りたい。」
「私の?もちろん御方様のためなら、何色に輝く石でもお持ちしましょう。
燃える石でも、燃える水でもいかほどにも用意しましょう。」
「フフ……いいや、そうではないよ。
私に必要な物は、金でも銀でも宝玉でも無いんだ。
そんな物、私には、なんの価値も無いんだよ……」
サラシャには、もちろんわかっている。
そんな簡単な物ならいいのに、と心から思う。
これまでどれだけの人間と、地脈にある金や光る石を巡って戦ってきたことか。
地にある力のある物を、統べるのも自分だ。
だからガラリアに会うまで、欲にまみれた人間は大嫌いだった。
でもガラリアは金を目にしても、光る石を見せつけても、そんな物一切欲しがらなかった。
初めて会った時を思い出す。
昔、泥に汚れ、剣で切られて血だらけの少年を抱いたヴァシュラムに突然呼び寄せられ、この泉に留まってミスリル達と少年の面倒を見るよう言いつかった時は、怒りさえ覚えた。
ミスリルは地下生活でひどく貧しく、乏しい食料に困っており、自分も人間には触れるのも嫌だった。
少年は男を相手に性を売る、花売りと呼ばれる仕事をしていたのか、おぞましく汚れた女の格好で、意識を取り戻しても放心状態なのかいつもボンヤリしていた。
やがて時がたち傷が癒えると、少年は人恋しいのか、神殿を出てミスリルの村にも出て行くようになった。
しかしここにいるミスリルは異形の者が多い。
魔物とそしられ人間に追われ、疲れ果ててここに逃げてきた者ばかりだ。
当然、当初は彼を拒絶する者ばかりだった。
だが少年は何度はね付けられようと、彼らに根気強く接し、異形のミスリル達を助け、共に畑を耕し、子の守をして、まるで家族のように彼らを慈しみ手をさしのべた。
彼は金や銀よりも、何より心から家族を欲していたのだ。
そして彼は地底のやせた畑に泉から力のある神水を引くことを考え、ヴァシュラムに何度も許しを請うて、とうとう水路を引かせた。
それは、地下の畑に飢えを忘れさせるほどの効果をもたらし、ミスリル達をたいそう喜ばせることとなった。
人間を嫌うはずのミスリルは彼を次第に敬うようになり、自分たちからヴァシュラムの許しを得、泉の淵にガラリアのために社を建て、彼は村人に請われてそこに住まいした。
それは、彼らがガラリアを地の精霊王と並ぶ者として認めた瞬間。
皆、社に住み始めた彼を地の御方、御方様と呼び、大切に崇めるようになった。
自分は、いや、自分も、ガラリアにどんどん惹かれるのを感じていた。
彼は純粋にミスリルの幸せを願い、ただひたすら死んだ縁者の鎮魂を祈っていた。
彼は偽物だと言うが、これほど地の巫子に相応しい者がいようか。
これほど、幸せになって欲しいと思った人間はいない。
でも、自分の願いに反して、精霊王の彼に対する仕打ちは冷たい。
精霊王は気まぐれだが、地の精霊は皆彼を愛している。
それをわかって欲しい。
力になりたい、自分も彼を失いたくない。
何度でも、永遠に寄り添いたい。
ガラリアを抱きしめる手に力がこもる。
「サラシャ、私は……道が欲しいのだ。
あの子を救う道を。
ああリュシエール、私は一息に殺せなかった。
ここに来て迷うなど、なんという愚かな……私の心の弱さが、ヴァシュラムに邪魔を許したのだ……
サラシャ、この無力で愚かな私に最後のお力添えを……
ヴァシュラムにこの身を再生して頂いたら、すぐにあの子の元へ連れて行って欲しいのだ。
無理な願いだとわかっている、でも時間が惜しい。」
「もちろんですとも、あなた様のお望みのままに。
最後などとそのような事仰いますな、どうかこれからもお仕えさせて下さいませ。
あなた様のお優しさを責める者などおりませぬ、御子を救う道を共に探しましょうぞ。」
「すまぬ……すまぬ……うう………」
ガラリアが小さくうめいて身をよじった。
ハッとサラシャがガラリアを見ると、彼の身体からはまた、トロトロと力が澱となって流れ抜けて行く。
「なんと言うこと、やはり!御方様!お気をしっかり、すぐにるつぼでございます!
ああ、何故主様は来て下さらぬのか。
御方様!」
なんてことだ、また強烈なほどに力が抜ける。
命が抜けてゆく。
身体が砂になって消えそうだ。
暗く、闇に飲まれてサラシャの顔が見えない。
覚悟して泉を出た物の、ここまで自分の身体に限界が来ていたことにガラリアは絶望した。
それでも、ここまで来ても、ヴァシュラムは手をさしのべてくれない。
この腕輪がある限り、見られているはずなのに。
まして、ここはヴァシュラムの中。気がつかないはずも無い。
ああ……駄目だ…………
すでに救う気など無いのだろうか、この肉体の存在など、どうでもいいのだろうか。
もう少し、自分は大事な方の玩具だと思っていたのに、ここまで飽きられていたとは。
まさか……自分は、この賭けに失敗したのかもしれない。
考えが……甘かった!
リュシエール!
ガラリアの心が、絶望に満たされる。
ヴァシュラムの、出会った頃の優しい顔は、すでに思い出せないほど遠かった。
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