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20、風の丘への帰還
第213話 ただいま!
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びょうびょうと風が耳をかすめ、壁の岩肌が薄暗闇の中、グルクの羽根をかすめるように走る。
どこまで続くのか、それは底なしにも見える地のひび割れ。
その狭い隙間をひたすら飛ぶ。
それは聖域の場所を特定されないための掟ではあるが、かなり危険な行為だ。
だが、ミスリル達は慣れているのか難なくこなす。
衝突しないかヒヤヒヤと背中を冷たい物が走り、そのスリルと肌に当たる冷たい風が寒いほどだ。
後ろからは、時折ブルース達の悲鳴が聞こえる。
「上へ出ます!」
エリンの声が風に流れ、彼の操るグルクが地の裂け目をくぐり抜け、青く澄み渡る空へと舞い上がった。
「わあっ!まぶしい!」
朝日に照らされ、リリスが彼の後ろで感嘆の声を上げる。
グルクはすぐに高度を落とし、森の木の上ギリギリを飛び始めた。
「死ぬかと思った!」
「うるさい!俺だって死ぬかと思ったんだ!」
ガーラントが珍しく声を上げ、騎手のブルースが気恥ずかしそうに怒鳴り返す。
その後ろには、ゴウカが姿を変えたグルクが付いてくる。
彼のグルクには、ホムラとグレンが乗っているはずだが姿が見えない。
本当に二人は来てくれているのか少し心配だが、リリスはニッコリ笑ってガーラントより痩身のエリンの背に身体をあずけた。
「怖かったですか?」
エリンの問いかけに、リリスは明るく笑う。
なぜか、久しぶりの青空に思いのほか開放感が大きくて、声が明るくなった。
「いいえ!あなたはまるでグルクの身体の一部のよう、あなたの後ろ以上に安心できるところがありましょうか!」
「ふふっ、褒め言葉がお上手ですね。
でも、あなたにそう言われたことは私の誇りになるでしょう。
さて、今日はいい風が吹いているので昼過ぎには城下には戻れましょう。
本当にセフィーリア様のお屋敷に良いのですか」
「ええ、私は逃げたわけではありませんし、父や母が心配していると思います。
もしかしたら誰もいないかもしれませんが、一旦家に帰ることに支障は無いでしょう。」
「では。
しかし本当に我が兄にも伝えて良かったので?
今のところ、私はあなたに仕えよと命じられています。
それは兄が受けたレスラカーン様の命ですが、兄は事実上はサラカーン様にお仕えする者。
あなたの不利益になる事なら兄に伝える必要はありませんよ。」
「大丈夫、ご心配に及びません。
だって、私はもう一人ではありませんもの。だから大丈夫。
あなたの兄上様に伝えるとことは、レスラカーン様に無事を知らせることです。」
「なるほど、レスラカーン様のことまで考えが及びませんでした。」
「うふふ、ああ……あの城を出てレナントに向かうときは、あんなに心細かったのに。
本当に、僕はなんて幸せ者でしょう。」
胸が一杯になる。
自分の志を聞いて、信じて付いてきてくれる人が増えることの喜び。
神官達も来てくれた。それで十分だ。
「私には、守ってくれる仲間がいるんです。だからもう、何も怖くない。」
そう思うだけで、心がフッと軽くなった。
セフィーリアの家に近づくと、風の精霊がどんどん増えてゆく。
リリスに気がついて戯れに来る精霊達が、喜び一杯で暖かな風で迎えてくれる。
リリスは大空に両手を広げ、精霊達に声を上げた。
「ただいま!仲間を連れて帰ってきたよ!」
グルクが、暖かな上昇気流に乗ってふわりと高度を上げた。
まるで、すべての精霊に歓迎されているような、そんな錯覚を覚える。
エリンは手綱を引いて、大きくグルクを旋回させた。
「さあ、前を向いて、私はまた一生懸命頑張ります!」
リリスが大きく深呼吸して、他のグルクを見る。
「こらー!手を離してはならーんっ!」
後ろでガーラントが怒って大声で怒鳴っている。
彼は、リリスが風の魔導師でもある事を忘れているのかもしれない。
「ガーラント様―っ!大丈夫!」
笑って手を振り、またエリンの腰に手を回す。
その無邪気さにエリンは、いとおしささえ感じて、そっと手を添えた。
懐かしい、セフィーリアの館の庭に降りて、館を振り返る。
誰も出てこないところを見ると、誰もいないのだろうか。
「やっぱりまだ城にお泊まりなのでしょうか……」
誰も館から出てこないので、カーテンが開いている窓を見つけてリリスがつま先立ちで中を覗き込んだ。
見ると、薄暗い居間のテーブルには茶器がある。
「あれ?お茶が?……」
「わっ」
窓の向こうに、おどけた顔のセフィーリアが飛びだした。
「きゃあっ!おっ、お師様!もうっ!ビックリした!」
「リーリ!お帰り!」
窓を開け、セフィーリアが飛び出しリリスに飛びついた。
ギュウッと力の限り抱きしめられて、リリスがバタバタもがく。
「ううーっ!お、お師様、母上様、く、苦し……」
「無事で良かったのじゃ!ああ、もう!すっごく心配したのじゃ!
リーリ、リーリ、わらわの大事な息子、無事で良かった!」
「これは風の、……えーと。」
挨拶しようのない皆にガーラントが手を上げ、慌ててセフィーリアに耳打ちした。
「失礼します、今日は火の神官殿が同行されています。」
「火の?」
セフィーリアの顔が険しくなり、リリスを抱きしめる手が緩む。
「ぶはーっ!苦しかった。」
ようやくリリスが解放されて息をついた。
「風様、お久しゅうございまする。」
ゴウカが胸に手を付き頭を下げる横に、グレンがどこからともなく姿を現し膝をついた。
遅れて彼らが乗ってきたグルクが、形を変えてホムラに変わる。
「わっ!ホムラ様凄い!」
リリスが思わず感嘆の声を上げ一歩踏み出すと、セフィーリアが制するようにその肩を引き寄せた。
「その方ら、皆目覚めたのか。そうか、フレアももう待てぬのであろうな……
しかしその様子では、この子を巫子とは認めておらぬようだな。」
「はい、それを見定めるためにもこうして恥を忍び、陽の下に出て参りました。
我ら先代に火の名を頂いたままでございます。
本当にこの方が巫子であるならば、次代の守にこの名を継がねばなりません。」
「つまり、お前達はこの子に仕える気が無いのだな。」
頭を下げる3人に、気にくわない様子でセフィーリアがプイと顔を背ける。
館の玄関からは、メイド姿の女が出て来てドアを開け放し一礼した。
「巫子様、お帰りなさいませ。」
「あれ?あなたはお城で給仕していただいた方ですね?」
「はい、パドルーと申します。お見知りおきを。」
「では、ザレル様もお帰りですか?」
パッと明るい顔のリリスに、セフィーリアが残念そうに首を振る。
「あれは仕事命でのう、まだ城に詰めておる。
だが、リリが帰るのではないかと、先に戻れというたのでな。
まあ、あれのカンも、たまには当たる!ホホホッ!」
またセフィーリアがギュウッとリリスを抱きしめる。
リリスは久しぶりで感じる、その柔かで暖かな彼女の感触にホウッと息をついて、身をあずけた。
「お師様……母上様、お気遣いリリスは嬉しゅうございます。リリスはただ今帰りました。」
「なに、大事な子を迎えるのも母の勤め。
お帰り、リリ。無事で良かった。」
2人の回りを、風の精霊がくるくると舞踊る。
温かく見守る騎士の後ろで、火の神官達は複雑な気持ちでリリスを見つめた。
どこまで続くのか、それは底なしにも見える地のひび割れ。
その狭い隙間をひたすら飛ぶ。
それは聖域の場所を特定されないための掟ではあるが、かなり危険な行為だ。
だが、ミスリル達は慣れているのか難なくこなす。
衝突しないかヒヤヒヤと背中を冷たい物が走り、そのスリルと肌に当たる冷たい風が寒いほどだ。
後ろからは、時折ブルース達の悲鳴が聞こえる。
「上へ出ます!」
エリンの声が風に流れ、彼の操るグルクが地の裂け目をくぐり抜け、青く澄み渡る空へと舞い上がった。
「わあっ!まぶしい!」
朝日に照らされ、リリスが彼の後ろで感嘆の声を上げる。
グルクはすぐに高度を落とし、森の木の上ギリギリを飛び始めた。
「死ぬかと思った!」
「うるさい!俺だって死ぬかと思ったんだ!」
ガーラントが珍しく声を上げ、騎手のブルースが気恥ずかしそうに怒鳴り返す。
その後ろには、ゴウカが姿を変えたグルクが付いてくる。
彼のグルクには、ホムラとグレンが乗っているはずだが姿が見えない。
本当に二人は来てくれているのか少し心配だが、リリスはニッコリ笑ってガーラントより痩身のエリンの背に身体をあずけた。
「怖かったですか?」
エリンの問いかけに、リリスは明るく笑う。
なぜか、久しぶりの青空に思いのほか開放感が大きくて、声が明るくなった。
「いいえ!あなたはまるでグルクの身体の一部のよう、あなたの後ろ以上に安心できるところがありましょうか!」
「ふふっ、褒め言葉がお上手ですね。
でも、あなたにそう言われたことは私の誇りになるでしょう。
さて、今日はいい風が吹いているので昼過ぎには城下には戻れましょう。
本当にセフィーリア様のお屋敷に良いのですか」
「ええ、私は逃げたわけではありませんし、父や母が心配していると思います。
もしかしたら誰もいないかもしれませんが、一旦家に帰ることに支障は無いでしょう。」
「では。
しかし本当に我が兄にも伝えて良かったので?
今のところ、私はあなたに仕えよと命じられています。
それは兄が受けたレスラカーン様の命ですが、兄は事実上はサラカーン様にお仕えする者。
あなたの不利益になる事なら兄に伝える必要はありませんよ。」
「大丈夫、ご心配に及びません。
だって、私はもう一人ではありませんもの。だから大丈夫。
あなたの兄上様に伝えるとことは、レスラカーン様に無事を知らせることです。」
「なるほど、レスラカーン様のことまで考えが及びませんでした。」
「うふふ、ああ……あの城を出てレナントに向かうときは、あんなに心細かったのに。
本当に、僕はなんて幸せ者でしょう。」
胸が一杯になる。
自分の志を聞いて、信じて付いてきてくれる人が増えることの喜び。
神官達も来てくれた。それで十分だ。
「私には、守ってくれる仲間がいるんです。だからもう、何も怖くない。」
そう思うだけで、心がフッと軽くなった。
セフィーリアの家に近づくと、風の精霊がどんどん増えてゆく。
リリスに気がついて戯れに来る精霊達が、喜び一杯で暖かな風で迎えてくれる。
リリスは大空に両手を広げ、精霊達に声を上げた。
「ただいま!仲間を連れて帰ってきたよ!」
グルクが、暖かな上昇気流に乗ってふわりと高度を上げた。
まるで、すべての精霊に歓迎されているような、そんな錯覚を覚える。
エリンは手綱を引いて、大きくグルクを旋回させた。
「さあ、前を向いて、私はまた一生懸命頑張ります!」
リリスが大きく深呼吸して、他のグルクを見る。
「こらー!手を離してはならーんっ!」
後ろでガーラントが怒って大声で怒鳴っている。
彼は、リリスが風の魔導師でもある事を忘れているのかもしれない。
「ガーラント様―っ!大丈夫!」
笑って手を振り、またエリンの腰に手を回す。
その無邪気さにエリンは、いとおしささえ感じて、そっと手を添えた。
懐かしい、セフィーリアの館の庭に降りて、館を振り返る。
誰も出てこないところを見ると、誰もいないのだろうか。
「やっぱりまだ城にお泊まりなのでしょうか……」
誰も館から出てこないので、カーテンが開いている窓を見つけてリリスがつま先立ちで中を覗き込んだ。
見ると、薄暗い居間のテーブルには茶器がある。
「あれ?お茶が?……」
「わっ」
窓の向こうに、おどけた顔のセフィーリアが飛びだした。
「きゃあっ!おっ、お師様!もうっ!ビックリした!」
「リーリ!お帰り!」
窓を開け、セフィーリアが飛び出しリリスに飛びついた。
ギュウッと力の限り抱きしめられて、リリスがバタバタもがく。
「ううーっ!お、お師様、母上様、く、苦し……」
「無事で良かったのじゃ!ああ、もう!すっごく心配したのじゃ!
リーリ、リーリ、わらわの大事な息子、無事で良かった!」
「これは風の、……えーと。」
挨拶しようのない皆にガーラントが手を上げ、慌ててセフィーリアに耳打ちした。
「失礼します、今日は火の神官殿が同行されています。」
「火の?」
セフィーリアの顔が険しくなり、リリスを抱きしめる手が緩む。
「ぶはーっ!苦しかった。」
ようやくリリスが解放されて息をついた。
「風様、お久しゅうございまする。」
ゴウカが胸に手を付き頭を下げる横に、グレンがどこからともなく姿を現し膝をついた。
遅れて彼らが乗ってきたグルクが、形を変えてホムラに変わる。
「わっ!ホムラ様凄い!」
リリスが思わず感嘆の声を上げ一歩踏み出すと、セフィーリアが制するようにその肩を引き寄せた。
「その方ら、皆目覚めたのか。そうか、フレアももう待てぬのであろうな……
しかしその様子では、この子を巫子とは認めておらぬようだな。」
「はい、それを見定めるためにもこうして恥を忍び、陽の下に出て参りました。
我ら先代に火の名を頂いたままでございます。
本当にこの方が巫子であるならば、次代の守にこの名を継がねばなりません。」
「つまり、お前達はこの子に仕える気が無いのだな。」
頭を下げる3人に、気にくわない様子でセフィーリアがプイと顔を背ける。
館の玄関からは、メイド姿の女が出て来てドアを開け放し一礼した。
「巫子様、お帰りなさいませ。」
「あれ?あなたはお城で給仕していただいた方ですね?」
「はい、パドルーと申します。お見知りおきを。」
「では、ザレル様もお帰りですか?」
パッと明るい顔のリリスに、セフィーリアが残念そうに首を振る。
「あれは仕事命でのう、まだ城に詰めておる。
だが、リリが帰るのではないかと、先に戻れというたのでな。
まあ、あれのカンも、たまには当たる!ホホホッ!」
またセフィーリアがギュウッとリリスを抱きしめる。
リリスは久しぶりで感じる、その柔かで暖かな彼女の感触にホウッと息をついて、身をあずけた。
「お師様……母上様、お気遣いリリスは嬉しゅうございます。リリスはただ今帰りました。」
「なに、大事な子を迎えるのも母の勤め。
お帰り、リリ。無事で良かった。」
2人の回りを、風の精霊がくるくると舞踊る。
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