赤い髪のリリス 戦いの風

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20、風の丘への帰還

第214話 自分の家

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暖炉の火が、心地良く部屋を暖めようやく身体が芯から温まる。
早朝から出発したので空は寒く、着込んでいても冷たい風をともなう厳しさに身体が硬くなっていたので、やっと心身がくつろいだ。

居間の椅子に座り、すうっと大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。
かすかに独特の薬草の香りがして、懐かしい気持ちで一杯になる。
セフィーリアがはしゃいで、リリスの髪をといて耳の横で三つ編みにしてリボンで止め、可愛い可愛いと何度も抱きついてキスをしてくれる。
嬉しいけど、部屋に二人っきりでもちょっぴり恥ずかしくて、2階の自分の部屋に慌てて逃げた。

窓を開け、なんとなく紙を束ねただけのノートを取りパラパラめくってみる。
今更、よく勉強したな感心感心と、人ごとのように心でつぶやいた。

考えてみれば城で噂が立って貴族が訪れるようになり、困り果てた彼をセフィーリアが向こうの世界のヴァシュラムの家に預けてから数ヶ月も経っている。
その間色々な出来事がギュウギュウ詰まっているだけに、まるで数年を過ごした錯覚さえ覚える。
すべてが懐かしいはずだ。

ふと、机に置いていたフィーネを取りポロンと鳴らす。
久しぶりの音色にクスッと笑って抱きしめ、そのまま居間へと戻っていく。

パドルーが掃除してくれたのか、階段はピカピカ光を反射して気持ちがいいほど綺麗だ。
やっぱり家はいいな、気持ちが凄くラクになる。
またすぐに出る事になるのだろうが、一旦家に帰ってきて良かったと思った。

「ふう、さっぱりした。」

騎士2人は顔と足を洗って、さっぱりした様子で庭から軽装で戻って来た。
あの地下から抜けるときのスリル感には、嫌な汗をかいたそうだ。
風呂を用意してもいいが、セフィーリアの家には温泉が無いので、水を汲んで湧かす面倒がある。
ミスリルの村のぬるい水で良く水浴びしてさほど汚れていないので、水で拭いて暖炉で暖まる方を選んだ。

「タオル頂きましょう、今お茶をご用意します。」

「ん?なんだ神官殿はどうした?」

「神官の方々は、台所へお手伝いに。
パドルー様お一人なので、手が足りないそうです。
私がお手伝いしますと言ったんですが、ここで待つようにとお叱り受けまして。」

笑って返すと、横の食堂からエヘンと咳払いの声がした。
聞こえてますよと言うことだろう。
巫子だというなら巫子らしく、雑用は供に任せるのがよろしかろうと軽く説教を受けた。
まあ、彼らは彼らでタイムスリップしたような物なので、今の時代に慣れることも必要だ。
時々誰かの、驚きや感心の声が聞こえる。
きっと勉強していると思う。

「なるほど……
そうだな、茶より酒を貰おうか。」

「わかりました。
でも飲み過ぎは駄目ですよ、恐らくこれからどうするか話し合いをすることになるでしょうから。」

騎士2人は、もちろんわかってると思い切り顔を歪める。
特にブルース。
まあ、酒好きな彼にはもう少しがまんして貰うしか無い。

パドルーとセフィーリアには、話したいこと聞きたいことが沢山ある。
帰ってすぐ語りかけようとするリリスを、セフィーリアはそれは後でととにかく休ませようとした。
彼にだけは桶に熱い湯を準備し、足を洗い服を家にある普段着に替えさせて、とりとめないことしか話をしてくれない。
それだけ心配かけさせてしまったのだと、リリスはセフィーリアの好きにさせていた。

「朝食べたっきりですっ飛ばしてきたから、腹も減ったな。
ああ、グルクはエリンが世話をしてくるそうだ。
馬屋の物は好きに使わせてくれと。」

「ええ、構いません。足りない物があったら村へ買い出しに行きましょう。
お酒はいい物があるか見てこないと……え?なにか?」

顔を上げると、ガーラントがリリスの髪を見て微妙な顔をしている。
そして、自分のこめかみ部分の髪を指すようにつまんで引っ張った。

「ここ、随分可愛い紐だな、また神官殿から小言を言われるぞ。」

「ああ、これは母上のお気持ちです。
フフ、良いではありませんか、風の精霊王のなさることに文句を言ってはバチが当たりますよ?」

笑ってリボンをつまみ、くるくる回す。
ガーラントはヒョイと肩を上げ、やれやれとため息をついて居間へと向かった。




良い香りが漂い、食事の出来た物からテーブルに並べてゆく。
給仕なし、全員食卓について食べることをセフィーリアが提案したからだ。
ゆったりとテーブルに着くことをやめて、みんなできゅうきゅうに座り、好き勝手に食おうではないかとか言い出したので、ダイニングの椅子やテーブルを詰めてセッティングした。

「風殿の弟子はもういないのですか?」

ゴウカが皿を並べながら聞いてくる。
リリスはワインのコルクを開けるのに必死だ。
いい酒というのは、これが一番苦手で困る。

「え?いいえ。お弟子様方は……昔より少ないんですがいらっしゃいますよ。
ほとんどが魔道よりも薬草の勉強で。

今はお里に帰っていらっしゃるんですよ。
あの魔物騒ぎで、皆様実家が心配になっていらっしゃったので、ちょうど良いとお師様がお暇をお出しになられたので。
でも、もうそろそろ帰っておいでだと思います。
そうしないとお困りになられる方々がいらっしゃいますし……

んんーーっ、それにしてもこれ、コルクがなかなか抜けません。もう!」


コンコン、コンコン

耳慣れた、木槌を叩く音に顔を上げる。
ノック代わりに玄関横の板を、誰かが遠慮がちに叩いているのだ。
これは玄関チャイム代わりの、作業場にいても音が聞こえるように置いてある物だ。
あっとリリスが返事をして、手を上げる。

「私がでます。しばらく家に誰もいなかったから、村の方かもしれません。
これ、ご自分でお開けになって下さいな。」

そう言って、ヒマそうなブルースにコルクの空かないワインを押しつけて玄関に急ぐ。
その後ろに、音も無くガーラントがついてきた。

「俺がでる。」

「そんな怖い顔の騎士様がでられたら、村の方はビックリしますよ?」

笑って、玄関のドアを開ける。
そこには初老の男が2人、近くの村の出入りの薬草屋と村長だった。
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