赤い髪のリリス 戦いの風

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20、風の丘への帰還

第216話 夕食の語らい

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「お待たせしました!」

息を切らせて駆けて来るリリスの元気な言葉に、思わず村人が頭を下げる。

「お代はこちらに。お忙しいところを申し訳ない。」

「えっ!いいえ!留守がちでご迷惑ばかりおかけしてこちらが申し訳なく思っております。
さ、メモにある分これで。中の麻袋に小分けして中にメモを入れておきましたのでお間違えなく。
外はもう暗いですね、大丈夫でしょうか?ちょっとお待ちください。」

二人の手に何もないのを確認して、ランプを廊下の棚から一つ持ち出し、中に火を入れ村長に差し出した。

「丘を下るのは真っ暗だと危ないですから、こちらをお持ちください。
お返しいただくのはいつでもかまいませんから。さ、どうぞ。」

にっこりランプを差し出すリリスに、村長が目を丸くして遠慮がちに手を出す。
その手にしっかりとランプを握らせ、リリスがぺこりと頭を下げた。

「どうぞ、お気をつけて。」

「お気遣いありがとうございます。ではこれで。」

玄関を出て、二人を見送る。
遠ざかるランプの光が見えなくなると、ガーラントがフフッと笑った。

「貴殿が巫子と聞いて、慌てておいでになったようで。」

「私が?巫子になると、やっぱり何かマズイんでしょうか?
小さい頃、色々やってしまいましたし。」

まるで名探偵のように、腕を組み、眉を歪めてリリスが声を潜める。
思いがけない言葉に、ブッとガーラントが吹き出した。
笑いを必死にこらえ、背中を向けて体を揺する。
その様子に、ぶうっとむくれてつぶやいた。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。
だって、僕だって自由になるお金はほとんどなかったし、城から派遣されたおばあさんがとっても怖い人だったので、それはそれは姑息な世渡りをやるしかなかったんですよ。
それを一番ご存じなのは、あの丘の下の村や街の方々です。

実は……小さい頃、甘いものがとにかく食べたくて、何度か村長さんの家の庭にあるブドウを、こっそり忍び込んで食べたことがあるのです。
それが珍しい品種なのか、とっても美味しいので、ついつい何度もやってしまいましたが、あれはバレているのかもしれません。
あっ、そうだ。あれもありました。
街の用事の帰りに騎士様のまねして棒を振り回したら、パン屋さんの裏の植木の鉢を一個割っちゃいました。
アレはですね、とても綺麗な花が植えてあったので、とってもマズかったです。
あと、のどが渇いてこっそり村の井戸を使っていたら、滑車から綱が外れて、逃げ帰ったこともありました。
……うーん、これは~~今考えると、私も相当のワルです。」

「なんと……」

「えっ、あっ!」

ハッと慌てて振り向くと、ガーラントが大きく目を見開いて、満面に笑みを浮かべている。
リリスが慌てて彼に飛びついた。

「こっこれは秘密です!私もたいそう反省して、薬草を勉強してお返ししてますしっ!
ガーラント様!絶対父上母上には秘密ですからね!絶対皆さんに秘密ですよ!ね!ねえ!」

「ははっ、なんだ。あははは!そうか、そうでございますな。クックック……」

しかしガーラントはただただ笑うだけで、リリスの頭をポンとたたき部屋へと向かった。


「シーですからね!」 「はいはい」

リリスがガーラントを追ってダイニングへと急ぐ。
廊下にはグレンが立っていて、二人が気づくと静かに頭を下げた。
ガーラントがちらりと見て、リリスの背を前へと押す。
リリスはタッとグレンに駆け寄り、彼の手を引いた。

「グレン様!さあ、ご飯食べましょう、おなかがグーグーです。
ほら、美味しそうな香り!」

指が長く、爪の長いグレンの手は思ったより冷たい。
あれっ?と両手で包みこすりながら、彼の顔を見上げて笑った。

「すっごい冷たいです!ほら、私の手は温かいでしょう?」

グレンが驚いた顔でリリスの顔を見つめ、うつむいて目を閉じフフッと笑う。
そしてそっと彼の手を握り返し、部屋のドアを開けて暖かい部屋の中へと招き入れた。



食事をしながら、リリスたちはレナントであったこと、そこでセレスに告げられたこと、そして城に巫子の許しを得に行ったこと、奇襲を受けてミスリルの村で今まで治療してきたことをセフィーリアに話して聞かせた。

セフィーリアは心配しているような表情を時折浮かべつつも、リリスがレナントへ行った後に起きたこと、死にかけたフェリアを自分の中で休ませていることや、フレアゴートに動くよう説得しに行ったことなど話す。

「その時にな、ベスレムの城で、このパドルーと会ったのじゃ。」

パドルーを紹介すると彼女が立ち上がり、一礼する。
そして腰から水月刀を取り、皆に見せて腰に戻した。

「私は、水月の戦士パドルーでございます。
シールーン様の命により、リリス様のお力になるよう密かに城へ派遣されました。」

「その割にあの騒ぎの中、姿を見なかったな。」

ブルースが皮肉っぽく苦笑いで話す。
パドルーは申し訳なさそうに、頭を下げ椅子にかけた。

「全く申し訳ない。
夕げのあと騎士長殿と話をして、どうも王は指輪などのことをご存じでは無いようだと察しまして、火の巫子に関係する物について何かご存じないか、ベスレムのラグンベルク様の元へ参りました。
有事にいなかったのは、私の落ち度でもあります。」

「いや、俺も敵の術に落ちたんだから人のことは言えん。お互い様だ。」

思い出せば酒が不味くなる。

皆は口には出さないが、けがをしたミランの事がずっと気がかりなはずだ。
しかし口に出せば、俺のことを責めることになると思っているのだろう、誰も話しに出さない。

なぜあの時……何度思ったろう。
それが、どうしようもないことでも、口惜しくて仕方が無い。

急にブルースが黙り、じっとワインの赤い液体を見つめる。
心が重く、沈んでいくような感覚にとらわれた。
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