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21、地の三番目の巫子
第224話 血の結束
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王子が最近とみに増えた取り巻きを連れ、謁見の間を出てぞろぞろと廊下を過ぎ階段を上って行く。
自室の居間へ一行がなだれ込み、不機嫌そうに椅子へ腰を落とす王子を取り囲んだ。
「巫子がいきなり来るとは思いがけない事で。」
ガーファルド家の長男ケルディムが、そそくさと王子の傍らに寄り添い声を潜める。
彼の父親は足下の揺らいでいる貴族院の長レナパルド家に取って代わろうと、真っ先に長男のケルディムを次の側近候補へと送り込んできた。
長年権勢を振るっていたレナパルド家は、王子の側近であった次男ゼブリスルーンレイアの失踪、そして長男オルセウスの婚約破棄と家の大事が続き、権威を落としつつある。
婚約者からの一方的な破棄は面目丸潰れの様相で、オブライエン家はレナパルド家の逆鱗を買い、取り潰しになるかと噂を呼んだが、ミリテアの祖父は元長であっただけに無下にも出来ず、謹慎の処分がくだっている。
ケルディムは出世欲が強く、次の王子の側近にと自ら声を上げている一人だった。
最近懸命に王子の機嫌を取ろうと近づいてくる。
「巫子など経でも唱えておれば良いのだ。
誰が壊したのか知れぬが、ほこらが壊れたからと言って何も変わらぬ。
すぐ帰るさ。」
他の貴族の子が囁く。
キアナルーサはフンと息を吐き、一同を見回した。
「計画は順調だ。このまま裏で話を進めよ。
血判はどれだけ取れたのか。」
「はっ!はい。」
慌てて横からケルディムの取り巻きのバスリーが、懐から紙の束を取り出す。
ばさばさと王子の前に広げ、二人の機嫌を取るように愛想笑いを振りまいた。
「こちらを。
すでに諸公のご子息や近しい者34人。
さすが誉れ高きガーファルド家、一番数を取ったのはケルディム様です。
次はアッサム家のライナー殿、貴族院の上級貴族の子息はだいたい把握できました。」
「騎士はどうした。
貴族だけでは成り立たん。」
騎士の一人が前に出る。
だが、彼もまだ名のある剣も持たぬ見習いで、腕はない。
「は………騎士は……騎士長の偉功もありなかなか厳しくて……あ、このエミリオ殿はレナント出の田舎騎士ですが、魔物に襲われ叔父を亡くしており、決起の折は王子の盾になると奮起しております。」
騎士がいなくては話にならない。
強い騎士だ。威圧感ですべてを押さえつけるような……
そうだ、あの、ザレルのような……
無理な話はわかっている。
強い騎士たちは皆ザレルと親しく、彼を師と仰いでいるような者ばかりだ。
あまり無理に話を持って行っても、自分の計画が漏れて台無しになるリスクの方が高いだろう。
これも予定の内とも言える。
どうせ国境の諍いもなりを潜め平和にどっぷりと浸かったこの時代、国内の騎士はふぬけばかり、そのために国外からも金を使って自分の兵をそろえたのだ。
王子が舌打ちして黒髪の少年を呼ぶ。
「フェイク、ジレを呼べ。血の結束を固めるのだ。」
「はい」
取り巻きの一同がゴクリとつばを飲む。
ジレとは昔魔導を外れて呪術で人を呪い、魔導師の席を追われた者だと紹介された。
キアナルーサがどこから聞き及んだのかこの人物を探しだし、密かに呼び寄せたと皆は聞いている。
だが、内心皆は気味が悪く、その姿に思わず一歩引いた。
ローブをすっぽりとかぶった老人が、フウフウと息を吐きながらゆっくりと奥からやってくる。
果たしていくつなのか、年も定かでは無い妖怪のような人物だと思う。
「お呼びでございましょうか、我が王子よ。」
「ジレ、血の結束だ。」
「ホホ……これはお仲間が増えましたな、喜ばしい事で。
このジレがお心を一つに束ねて進ぜましょうぞ。」
長い爪のシワだらけの手を伸ばし、ジレが懐から血のように赤い大きなルビーを取り出した。
王子が紙の束を差し出し、それにジレが宝石を掲げる。
怪しげな呪を唱え、ゆっくりと手を伸ばして回す。
するとルビーがゆらゆらと光を放ち、その中心に赤く灯がともった。
「ゼナ ギルド ギラス、
血の誓いを立てし者ども、その血を持ってここに結束する。
血の主はその血ある限り……に従属し、その血を捧げ、僕となる。
ぬるき血よ、ここに楔となるがよい。」
バサ!バサバサッ!
火のように燃えるルビーに向け、血判状が赤く燃え次々と吸い込まれて行く。
ルビーはそのたびに容積を増やし、真紅に燃えて美しさを増して行った。
「うう……」
取り巻きの一人が、胸を押さえて顔をゆがませた。
胸苦しさに、咳を数回して息をつく。
ルビーは血判状を吸い込んだ後、輝きが消えてジレの手に収まる。
ジレは咳をするその青年を見て、ククッと不気味に笑った。
「迷いがあるな、その方。
血の誓いは迷いさえ許さぬ。
心してかからねば、このルビーの呪いを受けよう。」
「そ、そのルビーの??」
「クックック、知りたけば王子を裏切って見せよ。
お主にその勇気があればな」
老魔導師の不気味な笑みにゾッとして立ちすくむ青年に、王子が歩み寄り背に手を回す。
ジレに下がるよう手で払い、王子は心配するなと皆に手を一凪した。
「血の結束は我も同じ。それだけ重い事を我らは成そうとしているのだ。
この決起はその時まで準備を慎重に、密かに行わねばならぬ。
外部に漏れると皆の命が危うい。
良いか、我らはこの国を根本から変える、革命を起こすのだ。
見よ。
隣国に害をなされても報復もせず、緩慢と話し合いで済ませる老人どもの生ぬるいやり方を。
何が精霊王か、精霊などに何が出来る。いまだ姿も見せぬではないか!
そんな者に頼り、剣も持とうとせぬ者たちにこのアトラーナは任せられぬ。
隣国に攻め入られる前に、この国を鍛え上げ、大国へと成長させるのだ。
このアトラーナを守るために、我らがこの国を変えよう。」
キアナルーサの言葉に、青年たちの顔が輝いた。
「おお……、キアナルーサ王子!おお!変えましょうとも、我ら若い力で。
その為にも、あなたこそ王になるべきだ!」
「王子こそ玉座に!是非僕にも微力を尽くさせて下さい!
若いからなど言わせません!あなたには皆を導く力がある!」
一体何が今まで王子を押さえつけていたのか、側近がいなくなったのが良かったのか、新しい魔導師が来てからなのか、まるで生まれ変わったように生き生きしている。
不安を感じていた青年たちは、彼についていけば間違いないという、根拠の無い自信を持ち初めていた。
魔法のような王子の言葉と行動力が、人を引きつけ仲間を増やし……
いや、ルビーに血を吸われた瞬間から、魔術にかかっているのかもしれない。
彼らには王子がひどく希望を持てる対象となり、現王がなぜか色あせて見えている。
怠惰な毎日が、自分たちで変わる。変えるのだ。
窓から見える景色が広がる気分がして、高揚感で満たされる。
その行為が、この国を揺るがしかねないという不安は、一掃されてしまっていた。
自室の居間へ一行がなだれ込み、不機嫌そうに椅子へ腰を落とす王子を取り囲んだ。
「巫子がいきなり来るとは思いがけない事で。」
ガーファルド家の長男ケルディムが、そそくさと王子の傍らに寄り添い声を潜める。
彼の父親は足下の揺らいでいる貴族院の長レナパルド家に取って代わろうと、真っ先に長男のケルディムを次の側近候補へと送り込んできた。
長年権勢を振るっていたレナパルド家は、王子の側近であった次男ゼブリスルーンレイアの失踪、そして長男オルセウスの婚約破棄と家の大事が続き、権威を落としつつある。
婚約者からの一方的な破棄は面目丸潰れの様相で、オブライエン家はレナパルド家の逆鱗を買い、取り潰しになるかと噂を呼んだが、ミリテアの祖父は元長であっただけに無下にも出来ず、謹慎の処分がくだっている。
ケルディムは出世欲が強く、次の王子の側近にと自ら声を上げている一人だった。
最近懸命に王子の機嫌を取ろうと近づいてくる。
「巫子など経でも唱えておれば良いのだ。
誰が壊したのか知れぬが、ほこらが壊れたからと言って何も変わらぬ。
すぐ帰るさ。」
他の貴族の子が囁く。
キアナルーサはフンと息を吐き、一同を見回した。
「計画は順調だ。このまま裏で話を進めよ。
血判はどれだけ取れたのか。」
「はっ!はい。」
慌てて横からケルディムの取り巻きのバスリーが、懐から紙の束を取り出す。
ばさばさと王子の前に広げ、二人の機嫌を取るように愛想笑いを振りまいた。
「こちらを。
すでに諸公のご子息や近しい者34人。
さすが誉れ高きガーファルド家、一番数を取ったのはケルディム様です。
次はアッサム家のライナー殿、貴族院の上級貴族の子息はだいたい把握できました。」
「騎士はどうした。
貴族だけでは成り立たん。」
騎士の一人が前に出る。
だが、彼もまだ名のある剣も持たぬ見習いで、腕はない。
「は………騎士は……騎士長の偉功もありなかなか厳しくて……あ、このエミリオ殿はレナント出の田舎騎士ですが、魔物に襲われ叔父を亡くしており、決起の折は王子の盾になると奮起しております。」
騎士がいなくては話にならない。
強い騎士だ。威圧感ですべてを押さえつけるような……
そうだ、あの、ザレルのような……
無理な話はわかっている。
強い騎士たちは皆ザレルと親しく、彼を師と仰いでいるような者ばかりだ。
あまり無理に話を持って行っても、自分の計画が漏れて台無しになるリスクの方が高いだろう。
これも予定の内とも言える。
どうせ国境の諍いもなりを潜め平和にどっぷりと浸かったこの時代、国内の騎士はふぬけばかり、そのために国外からも金を使って自分の兵をそろえたのだ。
王子が舌打ちして黒髪の少年を呼ぶ。
「フェイク、ジレを呼べ。血の結束を固めるのだ。」
「はい」
取り巻きの一同がゴクリとつばを飲む。
ジレとは昔魔導を外れて呪術で人を呪い、魔導師の席を追われた者だと紹介された。
キアナルーサがどこから聞き及んだのかこの人物を探しだし、密かに呼び寄せたと皆は聞いている。
だが、内心皆は気味が悪く、その姿に思わず一歩引いた。
ローブをすっぽりとかぶった老人が、フウフウと息を吐きながらゆっくりと奥からやってくる。
果たしていくつなのか、年も定かでは無い妖怪のような人物だと思う。
「お呼びでございましょうか、我が王子よ。」
「ジレ、血の結束だ。」
「ホホ……これはお仲間が増えましたな、喜ばしい事で。
このジレがお心を一つに束ねて進ぜましょうぞ。」
長い爪のシワだらけの手を伸ばし、ジレが懐から血のように赤い大きなルビーを取り出した。
王子が紙の束を差し出し、それにジレが宝石を掲げる。
怪しげな呪を唱え、ゆっくりと手を伸ばして回す。
するとルビーがゆらゆらと光を放ち、その中心に赤く灯がともった。
「ゼナ ギルド ギラス、
血の誓いを立てし者ども、その血を持ってここに結束する。
血の主はその血ある限り……に従属し、その血を捧げ、僕となる。
ぬるき血よ、ここに楔となるがよい。」
バサ!バサバサッ!
火のように燃えるルビーに向け、血判状が赤く燃え次々と吸い込まれて行く。
ルビーはそのたびに容積を増やし、真紅に燃えて美しさを増して行った。
「うう……」
取り巻きの一人が、胸を押さえて顔をゆがませた。
胸苦しさに、咳を数回して息をつく。
ルビーは血判状を吸い込んだ後、輝きが消えてジレの手に収まる。
ジレは咳をするその青年を見て、ククッと不気味に笑った。
「迷いがあるな、その方。
血の誓いは迷いさえ許さぬ。
心してかからねば、このルビーの呪いを受けよう。」
「そ、そのルビーの??」
「クックック、知りたけば王子を裏切って見せよ。
お主にその勇気があればな」
老魔導師の不気味な笑みにゾッとして立ちすくむ青年に、王子が歩み寄り背に手を回す。
ジレに下がるよう手で払い、王子は心配するなと皆に手を一凪した。
「血の結束は我も同じ。それだけ重い事を我らは成そうとしているのだ。
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見よ。
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このアトラーナを守るために、我らがこの国を変えよう。」
キアナルーサの言葉に、青年たちの顔が輝いた。
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その為にも、あなたこそ王になるべきだ!」
「王子こそ玉座に!是非僕にも微力を尽くさせて下さい!
若いからなど言わせません!あなたには皆を導く力がある!」
一体何が今まで王子を押さえつけていたのか、側近がいなくなったのが良かったのか、新しい魔導師が来てからなのか、まるで生まれ変わったように生き生きしている。
不安を感じていた青年たちは、彼についていけば間違いないという、根拠の無い自信を持ち初めていた。
魔法のような王子の言葉と行動力が、人を引きつけ仲間を増やし……
いや、ルビーに血を吸われた瞬間から、魔術にかかっているのかもしれない。
彼らには王子がひどく希望を持てる対象となり、現王がなぜか色あせて見えている。
怠惰な毎日が、自分たちで変わる。変えるのだ。
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