赤い髪のリリス 戦いの風

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21、地の三番目の巫子

第223話 聡明な巫子

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急に訪れた地の巫子に、王は怪訝な表情を隠さず不機嫌な様子だった。

王としても、古来から粛々と守られてきたほこらを壊され、不安を感じなかったと言えばウソになる。
だが、来たのはまだ修行途中と聞くなじみの無い三の巫子。
肩書きを重んじる本城には、酷く不安の残る小さな少年だ。

傍らを見ると王子はなぜか、王から少し離れた所に様子をうかがうように立っている。
なぜ巫子にコソコソしているのか不可解で、ちらりとそちらを見て小さなため息を吐いた。

「三の巫子か……、赤子の時以降は……はて?覚えておらぬな。一度ヴァシュラムと来たのか?」

謁見の間で王の前に片膝を付き頭を下げる少年に、王は突き放したような不粋な言葉を言い放った。
アデルの後ろに控えるオパールが、ピクリと手を震わせる。
が、アデルは臆する事無く微笑み、澄んだ声を響かせた。

「はい、物心つきましてからは4年ほど前に一度。
兄巫子セレスと共に王子の誕生日の祝いに参りました。
再びお会いできて恐悦至極に存じます。

国境の大事に駆けつけた兄巫子二人はまだ戻りませぬゆえ、ほこらが壊され封じられていた物が消えたと聞きまして、未熟者ですが三の巫子アデルがはせ参じました。」

「未熟者か……。ほう、このわしもなめられた物よ。
地の神殿は城の危機に未熟者をよこすのか。」

「恐れながら、賢知果敢で知れわたる王のましますこの城に。
ここに城を揺るがすほどの危機などありましょうや。

もし波紋のごとき危機がありますならば、そこには必ず精霊王が姿を現し力をお貸し下さるでしょう。
我が主のお力にとって、我ら巫子の力の大小など些細な事でございます。
よって、この未熟者でも何ら問題ございません。」

難なく返すアデルに、王が苦笑する。
どこかで聞いたような口ぶりに、思いがけなく気鬱きうつが晴れていった。

「くく、なんと口の達者な子供が増えた物よ。
お前の力を見せよと言うたら見せられるのか。地の巫子よ。」

「もちろん、喜んでお見せしましょうとも。
ですが、巫子の力は見世物ではありませぬ故……。
実は、やたら見世物にしますと、私は恐ろしい大兄様に叱られてしまうのです。」

大兄はセレスの事か、あの美しい巫子が恐ろしいとは面白い事を言う。

「まあ、」
「なんと」

皆がクスリと笑う。

然りしかり!セレスは見かけによらず厳しく恐ろしい。はっはっは!」

にっこりやり過ごすアデルに、王が声を上げて笑った。

「良い、賢い子だ気に入ったぞ。
で、ほこらの調査と聞いたが、何が封じられていたのかわかっているのか。
先に調査に来た神官は些細な物だと言うたが。」

「いえ、実は古いにしえに封じるべき物とヴァシュラム様がご判断なされた、とても悪い気をまとった剣一振りと記録にございます。
これは地の神殿でも悪用を恐れた極秘の事でしたので、城付きの神官も口にするべきか迷ったと申しておりました。
どうか御容赦下さい。

しかしながらとにかく、我が主の封じた物は解放してはならぬ物が定石ゆえに、それは戻さねばなりませぬ。
どうか調査のためにも城内での自由な行動にお許しを頂きたく存じます。」

動じる事無くしっかりした物言いに、王の表情が変わった。
にやりと口角を上げ、大きくうなずく。

「よかろう!許可する。
皆の者、この調査に関しては巫子の言葉は我が言葉と同じと思え、速やかに協力せよ。
忌まわしき剣で犠牲者が出る前に見つけ出すのだ。」

横に控えていた騎士や貴族たちが、一同そろって頭を下げて返す。
ずいぶんとこの小さな巫子は気に入られたらしい。

「ありがとうございます。
ですが申し上げます。封じられていた物の力の大きさがまだ知れません。
封じるというのは、ただそれを箱に入れて出られぬようにしていた物と同等です。
時がたって弱っているか、それとも力をそのまま有しているのか、たまに恨みを重ねて増幅している物もございます。
どうか、常、お気をつけなさいますように。何かありましたらすぐに参じます。」

並ぶ貴族たちが、ヒソヒソと騎士を横目に話し始める。
騎士は自分の剣に思わず手をやり、ちらちら仲間と目配せた。

「わかった。
トランの騒ぎも魔導師か魔物の仕業と聞く、我が国も二の舞はするまい。
アデルよ、今宵夕餉を共にせよ。お前ならきっと后にも気に入られよう。
お主の聡明さに期待する。」

「はい、この三の巫子アデル、地の巫子の名に恥じぬよう全力を尽くします。
我が王よ、お心遣いありがたく存じます。」

アデルが手を胸に一礼する。
その幼い顔は、自信に満ちているとは思えない。
だが不安も見えず、自然体の姿は一回り大きく見えた。
王は、その姿に自然とリリスが重なり物憂げな顔になる。

あれは、五体無事なのだろうか……

さらわれたと聞いてから、その後助かったとだけ連絡を受けた。
平静を保ちながらも無事を見ないと心配で、ひどく会いたい気持ちに押しつぶされそうになる。
もう、すでに我が子である事は、城に近い者には知れ渡っているとも側近から聞いた。

フレアゴートの言葉は重い。

王子として迎える事が出来ないなら、せめて火の巫子を認めてやりたい。
それが、親子を名乗り合えなくても、もっとも近しくなれる事となるだろう。
サラカーンは反対するだろうが、后もそれを望んでいる。

ちらりと横の王子を見る。

最近しっかりしてきたとサラカーンが喜んでいた。
若く次代を担う者たちも良く一緒に動いている。
取り巻きが増えるのは良い事だ、それだけこの子にも人を引きつける力が出てきたというもの。
王位継承者として揺るがぬ安定を見せれば自ずと人もついてくる。
今なら、きっとキアナルーサもわかってくれよう。

ふと、それまでうじうじと考えていた事が、巫子の姿を見ているうちに心の中でまとまった。
静かに王が目を閉じ、天を仰ぐ。
傍らに后の姿は無く、また彼女は部屋に閉じこもりがちになってしまった。
自分がまいた種なら自分が摘み取らねば。

「大義である。」

大きく深呼吸して立ち上がる。
王は小さな巫子に微笑むと、視界が明るく迷いが吹っ切れたような気がした。
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