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23、魔導師たちの密かな攻防
第245話 精霊の石
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ジレが地下道を飛んで進み、人の気配を探る。
だが、ランドレールが言った騒がしいほどの人間の姿などどこにも無い。
この地下道、すでに忘れられたと思ったが、一体どこから入ってきたのか。
ジレ自身、この地下道の入り口など知らない。
遙か昔、剣がランドレールの腰にあったとき、ここへ来たのはただの一度。
それはまだ彼と出会ったばかりの頃、探検の一つだった。
迷路のような地下道は、闇雲に進んでも何故かもとの場所に戻りそこがどこかさえわからなくなる。
突然、足下にどさんと重い音がして、身体が軽くなる。
わかっている、身体が急速に腐れ落ち始めている。
城の地下はヴァシュラムの息がかかった静謐な場所。
魔物など受け付けない空気が満ちて、怒りで呪いと怨念をぶちまけそうになる。
何があっても新しい身体を手に入れねば……
まだ、マダ、奴らは生きている、生きてイルデハナイカ!
ジレの目が、赤く不気味に鈍い輝きを放つ。
「……おのれ、オノレ、許さぬ、許サヌ……」
血を吐くような思いが、宝石から吐き出される。
ジレの口から、憎悪の吐息が漏れる。
あの王家を許せぬ、
あの人間が許せぬ、
人間たちが許せぬ、
すべての生きるものが許せぬ、
この身の怒りが収まらぬ。
あの……あの……あの人の血を浴びた時から。
もう…もう…心が張り裂けている。
口惜しさが極まり、名も思い出せぬ。
あまりの怒りに、顔も思い出せぬ。
ああ……光が……
ただ…ただ、あの男との暮らしは穏やかで、優しい輝きに満ちていた。
ワタシノ、大切ナ、………アア、思イ出セヌ!!
ワタシノ、アノ人ヲ!!
コノ、掻キムシルヨウナ、イラツキガ我慢ナラヌ!!
石の中の精霊は、元々は、小さな木の精霊だった。
その木は大きく育ち、人の一生など微々たる物に感じるほどに長く生きていた。
その彼女がいつ、あの透明で美しい石の中へと封印されたのかは知らない。
木の生涯が終わりを告げ、彼女は眠ることが多くなり、やがて木の、枯れたうろの奥に眠っていた。
そして……それが、いつのことなのか………
気がつくと、彼女の石は貧しい子供の可愛らしい小さな手の中にいた。
外の明かりはまぶしくて、空には太陽神が輝き、彼女は恐れて石を黒く染めた。
男との出会いは小さな市で、男はそれはそれは嬉しそうに、普通の黒い石にしか見えないだろう彼女の石を手に取ると、明るい声で子供と話し、子供の頭を撫でて金を渡して、石を買い取った。
男の家は森の中に人知れず立つ家で、彼は石を大切に柔らかい綿毛のような羽毛のクッションに置き、窓辺の美しい森を見渡せる場所に置いた。
爽やかな森の香りを乗せて、窓辺には木立を通る風が吹く。
その懐かしい風に誘われて森を眺めながら、彼女はこれまでと変わらない、静かな時間を過ごした。
男は優しく石に語りかけ、時々美しい花を摘んできては、まだ見ぬ彼女を花の香りで包み込み癒してくれる。
優しい人間で、そして、優しい男だった。
彼女はある日、石を元の透明な色に変え、男の反応を見た。
男は石の中の彼女を見ると、喜んでお祝いだと、彼女に何が欲しい?と聞いてきた。
彼女は驚いて目を見開いた。
何と無欲な人間がいるのだろう。
私に望みを言う人間はいても、望みを聞く人間がいるのだろうか。
彼女は男を愛し始め、そして時に石を出たいと思うようになった。
男は勤勉な魔導師で、彼女を大切にしてくれる。
でも…私が石を出ると、男は心変わりしないだろうか……
私は、石の中にいるからこそ、大切にしてくれるのでは無かろうか……
彼女は不安になって、信じたいのに男に言い出せなかった。
せめて少しでも、この男の力になりたい。
彼女は男に、「常に私を身につけることで、魔力を上げることが出来る」と伝えた。
ところが、彼は首を振る。
彼女を利用することは、考えていないと。
ただ、一緒に暮らしたいのだと、何も見返りなどいらないと告げた。
ああ……
ああ……
人間が…これほど素晴らしい生き物だと…彼が教えてくれる。
彼が温かな手で石に触れると、心が震える。
彼との静かな毎日で……
私も、それで、十分だと。
それで、十分だと、私は彼の手の中で、彼の温かな体温を感じることで……
それがすべてで、それで、それだけで心が満たされた。
満たされていたのに………
森の中の小さな家。
静かな、二人だけの時が過ぎていた。
ああ、あの美しい時間が、
あの、あの、あの人間が、来るまでは!
大きな剣を携えた来訪者に、彼は魔力を使って森に結界を張った。
だが、彼の剣はその結界をあっさり打破してしまった。
何故かその剣は、人間には作り得ない完璧な黄金律を成して、神剣の領域にまで力を持っている。
来訪者と彼は、語り合い、次第に激しく言い争い、私が恐ろしくて震えていると、彼は私を急いで手の中に抱いた。
ああ………暖かな、いつもの手が、赤く……赤く……濡れて行く
赤い赤い、あの人の血が、私を染めて……
私の大切なあの人の胸に、突然大きな刃が生えていた。
息をのんでいると、彼は優しく私に口づけして、血を吐いて動かなくなった。
なぜ?!
なぜ私を何故使わないの?!
私は、私は、……ああ、私は、この命など投げ打ってもあなたの為に力を送るのに!!
ワタシハ、チカラハアルノニ、使ウコトハ出来ナイ
助けて、助けて、我らが主、地の王よ!
彼の手から生気が消えて、私は、悲鳴を上げる。
石が割れるほどに、悲鳴を上げた。
私の胸は石に引き裂かれ、私の血に満たされて石は真紅に変わり、そして………
気がつくと、私は死んで、私の心は死ンデ、私は………ワタシは………ワタシハ
ワタシハ!!
ニンゲン! 罪深キニンゲンヨ!!
滅ボシテヤル、呪ワレヨ!!
ワタシノ大切ナ、アノ人ガ死ンデ、ナゼ、オ前タチガ、何故生キテイル!!
呪ワレヨ! スベテ滅ンデシマエ!!
ワタシノ……ワタシノアナタ………
アアア!!! ナゼ?! ナゼ、……ナゼ、ワタシハ、アノ人ガ思イ出セナイノ………
アノ人ノ名ガ、ナゼ、思イ出セナイノ………
だが、ランドレールが言った騒がしいほどの人間の姿などどこにも無い。
この地下道、すでに忘れられたと思ったが、一体どこから入ってきたのか。
ジレ自身、この地下道の入り口など知らない。
遙か昔、剣がランドレールの腰にあったとき、ここへ来たのはただの一度。
それはまだ彼と出会ったばかりの頃、探検の一つだった。
迷路のような地下道は、闇雲に進んでも何故かもとの場所に戻りそこがどこかさえわからなくなる。
突然、足下にどさんと重い音がして、身体が軽くなる。
わかっている、身体が急速に腐れ落ち始めている。
城の地下はヴァシュラムの息がかかった静謐な場所。
魔物など受け付けない空気が満ちて、怒りで呪いと怨念をぶちまけそうになる。
何があっても新しい身体を手に入れねば……
まだ、マダ、奴らは生きている、生きてイルデハナイカ!
ジレの目が、赤く不気味に鈍い輝きを放つ。
「……おのれ、オノレ、許さぬ、許サヌ……」
血を吐くような思いが、宝石から吐き出される。
ジレの口から、憎悪の吐息が漏れる。
あの王家を許せぬ、
あの人間が許せぬ、
人間たちが許せぬ、
すべての生きるものが許せぬ、
この身の怒りが収まらぬ。
あの……あの……あの人の血を浴びた時から。
もう…もう…心が張り裂けている。
口惜しさが極まり、名も思い出せぬ。
あまりの怒りに、顔も思い出せぬ。
ああ……光が……
ただ…ただ、あの男との暮らしは穏やかで、優しい輝きに満ちていた。
ワタシノ、大切ナ、………アア、思イ出セヌ!!
ワタシノ、アノ人ヲ!!
コノ、掻キムシルヨウナ、イラツキガ我慢ナラヌ!!
石の中の精霊は、元々は、小さな木の精霊だった。
その木は大きく育ち、人の一生など微々たる物に感じるほどに長く生きていた。
その彼女がいつ、あの透明で美しい石の中へと封印されたのかは知らない。
木の生涯が終わりを告げ、彼女は眠ることが多くなり、やがて木の、枯れたうろの奥に眠っていた。
そして……それが、いつのことなのか………
気がつくと、彼女の石は貧しい子供の可愛らしい小さな手の中にいた。
外の明かりはまぶしくて、空には太陽神が輝き、彼女は恐れて石を黒く染めた。
男との出会いは小さな市で、男はそれはそれは嬉しそうに、普通の黒い石にしか見えないだろう彼女の石を手に取ると、明るい声で子供と話し、子供の頭を撫でて金を渡して、石を買い取った。
男の家は森の中に人知れず立つ家で、彼は石を大切に柔らかい綿毛のような羽毛のクッションに置き、窓辺の美しい森を見渡せる場所に置いた。
爽やかな森の香りを乗せて、窓辺には木立を通る風が吹く。
その懐かしい風に誘われて森を眺めながら、彼女はこれまでと変わらない、静かな時間を過ごした。
男は優しく石に語りかけ、時々美しい花を摘んできては、まだ見ぬ彼女を花の香りで包み込み癒してくれる。
優しい人間で、そして、優しい男だった。
彼女はある日、石を元の透明な色に変え、男の反応を見た。
男は石の中の彼女を見ると、喜んでお祝いだと、彼女に何が欲しい?と聞いてきた。
彼女は驚いて目を見開いた。
何と無欲な人間がいるのだろう。
私に望みを言う人間はいても、望みを聞く人間がいるのだろうか。
彼女は男を愛し始め、そして時に石を出たいと思うようになった。
男は勤勉な魔導師で、彼女を大切にしてくれる。
でも…私が石を出ると、男は心変わりしないだろうか……
私は、石の中にいるからこそ、大切にしてくれるのでは無かろうか……
彼女は不安になって、信じたいのに男に言い出せなかった。
せめて少しでも、この男の力になりたい。
彼女は男に、「常に私を身につけることで、魔力を上げることが出来る」と伝えた。
ところが、彼は首を振る。
彼女を利用することは、考えていないと。
ただ、一緒に暮らしたいのだと、何も見返りなどいらないと告げた。
ああ……
ああ……
人間が…これほど素晴らしい生き物だと…彼が教えてくれる。
彼が温かな手で石に触れると、心が震える。
彼との静かな毎日で……
私も、それで、十分だと。
それで、十分だと、私は彼の手の中で、彼の温かな体温を感じることで……
それがすべてで、それで、それだけで心が満たされた。
満たされていたのに………
森の中の小さな家。
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ああ、あの美しい時間が、
あの、あの、あの人間が、来るまでは!
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だが、彼の剣はその結界をあっさり打破してしまった。
何故かその剣は、人間には作り得ない完璧な黄金律を成して、神剣の領域にまで力を持っている。
来訪者と彼は、語り合い、次第に激しく言い争い、私が恐ろしくて震えていると、彼は私を急いで手の中に抱いた。
ああ………暖かな、いつもの手が、赤く……赤く……濡れて行く
赤い赤い、あの人の血が、私を染めて……
私の大切なあの人の胸に、突然大きな刃が生えていた。
息をのんでいると、彼は優しく私に口づけして、血を吐いて動かなくなった。
なぜ?!
なぜ私を何故使わないの?!
私は、私は、……ああ、私は、この命など投げ打ってもあなたの為に力を送るのに!!
ワタシハ、チカラハアルノニ、使ウコトハ出来ナイ
助けて、助けて、我らが主、地の王よ!
彼の手から生気が消えて、私は、悲鳴を上げる。
石が割れるほどに、悲鳴を上げた。
私の胸は石に引き裂かれ、私の血に満たされて石は真紅に変わり、そして………
気がつくと、私は死んで、私の心は死ンデ、私は………ワタシは………ワタシハ
ワタシハ!!
ニンゲン! 罪深キニンゲンヨ!!
滅ボシテヤル、呪ワレヨ!!
ワタシノ大切ナ、アノ人ガ死ンデ、ナゼ、オ前タチガ、何故生キテイル!!
呪ワレヨ! スベテ滅ンデシマエ!!
ワタシノ……ワタシノアナタ………
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