赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第253話 身を削る封印の術

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リリスが、歯をカチカチ鳴らして小さくなっている。

「息が……少し、寒いのです。」

息をつくのも辛い、身体が震えて動けない。
まだ眷属が解放されていない現状で、この瘴気は巫子として目覚めつつある彼にはこたえるのだ。

「これはいけません、私が抱いて先に戻りましょう。よろしいか?」

エリンが慌てて彼に寄り添うと、リリスの様子を見てホムラに相談する。

「いや、待たれよ、魔物相手に単独は危ない。
こちらはまだ眷族の守がないのだ、今の状態では我らが守らねば巫子は魔物の格好の的となる。」

ホムラはそう告げて腰の袋から美しい刺繍のある布を取り、リリスの口に押し当てた。
布はこの暗闇でも優しくほんのり輝き、当てると息が少しラクになる。

「これはマリナ様……青の巫子に頂いた聖布だ。
破魔の呪を込めて一糸一糸、御手自らおてみずから織られたもの、しっかり口に当てるのだぞ。」

「はい……」

リリスが震える手で押さえるのを確認して、ホムラが彼を片手で抱き上げる。

そして皆を先導して引き返し始めた。

「引くぞ!ここにいては我らも危うい!」

走りかけた時、突然ブルースが立ち止まる。

「ブルース!早く!」

ガーラントが振り向き、彼の腕を取ろうと手を伸ばすと、その手を払われた。

ブルースの手が震える。

「く、くそ、駄目だ。またアレ……アレだ!先に……先に行け!
ああ……駄目だ!ガーラント!

俺を……! 俺を切れ!」

脂汗を流し、勝手に動いて剣の封を解く右手を左手で押さえる。

「諦めるな!右手か!」

ガーラントが彼の右手を一緒に押さえ、それでも強い力で封を解いて剣を抜きかけた。
その時、

カッと左手の手首が、まばゆい光を放った。

「うおっ!なんだ?!あ、熱い!」

右手がはじかれたように剣から離れる。
それでも、諦めない右手がまた剣を握ろうとする。
勝手に動く手を制御出来ない。

ガーラントが、彼の手に黒い何かが手を添えるのを見た。
息を飲んで顔を上げる。
黒い人影が、不気味に笑う口元を見せながら、彼の腕を操ろうとしている。

「貴様は誰だ!」

ガーラントがそう叫んだ時、再度ブルースの左手首が光り、それが色を変えて激しい炎となった。
左手の炎は、ひとかたまりになって黒い人影に燃え移って行く。

「 オオオオオオオオオオオオオオオオ……… 」

黒い人影は火に包まれ、もだえ苦しむように下がり、壁に飲み込まれるように逃げ込んで行った。

「な、なんだ? なんだろう、急に軽くなった。」

ブルースが右手を振り、手の平を広げて裏表を確認する。
火が出た左手を確認すると、リリスが作ったこよりがあと1本残っていた。

「こいつか!さすが巫子殿、助かった!」

「とにかく行こう!ここはマズい!お前が先に行け!」

黒い何かが、壁の石積みの間からどんどん染み出してくる。
それはドロドロと地面を這い、一行を追いかけてきた。

「いけない!汚れが追ってくる!お早く!」

ゴウカが彼らの背後に回り、両手を広げる。

「先に行って下さい!ここは私が時間を稼ぎます!」

戻ると言っても、通路は出口も遠い。
誰かが時間を稼がねばこの瘴気は追いつくだろう。

「私が壁を構成してせき止めます!」

「ゴウカ殿!無理だ!」

ブルースが駆けながら振り返って叫ぶ。
何か、得体の知れない恐ろしい物があの壁の向こうには詰まっている。
ゴウカが意を決して腰の袋から2本の細い竹筒を取り、栓を抜こうとした時、突然、左の壁からあの1本角の犬が現れた。

「お前は!」

犬は恐れを知らず黒い物へと向かって突進し、走る姿が一気に燃え上がる。

「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!」

雄叫びを上げて口から爆炎を吐き出し、黒い何かを焼き尽くして行く。
その炎はあまりの強さに壁を真っ赤に焦がし、かろうじて無傷の黒い物体は慌てて壁の中へと吸い込まれて消えた。
その炎風に、通路の温度が一気に上昇する。

「あっちいっ!!くそっ!ゴウカ殿!!」

ブルースたちが、振り返る余裕も無く必死で駆ける。

「よし、助かった!一本角よ、下がれ!

あとは、私の仕事だ!!」

ゴウカは竹筒の栓を抜いて、手から灰を出しながら白く輝く粉を空中にまき散らす。

パチパチパチ…

パーンパンッ…パーン…バーンッ

その姿を灰に変え、それを巻き込みながら粉が破裂して通路一杯に糸状の物を張り巡らしていった。

あれは外に出してはいけない物だ。
ゴウカの術は、完全封印。
粉はそれを補助する物、常に携帯している。

破裂してクモの糸のようになる特殊な粉を、ゴウカの灰がコントロールしながら通路を糸で埋め尽くして行く。

「もう一本!」

クルリと身を翻して身体から灰をまき、竹筒をポンと宙に放り、ゴウカ自身は走り出す。
すると残った灰の塊が手となり、竹筒を受け取って栓を抜くと、粉をまき散らし破裂させながら千々に散った。

パーンパンッパンッパンッパーンバーンッ

背中に音を聞きながら、先に行った一行の後を追う。
ゴウカの姿がふわりとブレて、人から灰へと変化して飛び始める。
一本角の燃える犬もその後を追い、犬は次第に身体から炎を消して行った。
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