赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第259話 火の神官の火打ち石

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駄目だ。針も、火薬玉も効かない!!駄目だ!!

焦るエリンの前で、もやは地面で次第にひとかたまりになって、四つん這いの人のような形を取り始める。
身もだえるようにしながらグッと身を起こすと、這いずるように近づいてきた。

駄目だ……駄目だ……逃げなければ……逃げなければ……

ああ…逃げられない……

『 ク、ク、ク、ワガモノニ、ナレ……ワガ、モ、ノ、ニ…… 』

息をのんだ。
輝いていた神殿の砂のかかった草木は、黒いもやが触れると汚れけがれたのか次々と輝きを失い、周囲に暗黒の世界を作り出そうとしている。
ミスリルの彼は、夜目が利くだけに恐怖が倍増する。
それは、手のように触手を伸ばし、彼の方へと次第に近づいていった。


どうすれば、どうすれば、兄さん、兄さん!助けて!兄さん!


闇に落ちたミスリルは、一体どうなるんだろうか。
はぐれミスリルのように、自分は人を殺し始めるのだろうか。

嫌だ、嫌だ、助けて、ああ、ああ、怖い!


ふと、リリスの微笑む顔が思い浮かぶ。
この自分の手を取り、真っ直ぐに見つめてくれた人間など、初めてだった。

   「 エリン様! 」

記憶の中の明るい声が耳に響き、ハッと我に返って呪縛が解けたような気がした。

あなたの為に……あなたの為なら……


ミスリル1人は、人間100人に相当する。

主の敵に回るな、主を決めたら主の為に命を使え。


それは、ミスリルのおきてだ。


黒いもやは、細く長く、触手を伸ばして、とうとうエリンの足首に巻き付いて行く。
足を引いてもそれは外れず、次第に舐めるように上へ、上へと登ってきた。


こんな奴に呪われて、あの方に危害を加えるくらいなら、俺は……


俺は……! 死を選ぶ!!


黒いもやの塊が、崩れながら人型をなんとか保とうとして、エリンに迫る。
抗うすべを探しても思いつかない。
もやがその手を伸ばし、息をのんで顔を横に振った時、仮面がはらりと落ちた。
エリンが獣の瞳で、近づくもやの塊を見つめ、一つ大きく深呼吸をする。
ひゅうっと吸う息さえ、汚れているようで鳥肌が立つ。

恐怖を忘れるように、ガッと牙を剥いた。
目を見開き、全身の毛を逆立てる。
そして、決意をこめて、火を吐くように叫んだ。


「俺の命はリリス様のもの!!この命、他の誰のものにもならない!!」


腰のナイフを取り、首に突き立てようとした瞬間、懐からグレンにもらった火打ち石が飛び出した。

その二つの小さな石は、エリンの前でくるくると回りながら、そして目の前でカツンと自らぶつかる。


カーーーーーン


その大きさからは、信じられないほどの大きな、澄んだ清々しささえ感じる音を響かせる。
その瞬間、これまで見たことも無いような大きな火の塊、火球が生まれ出でた。


ボンッ!!ボオオオオゴオオオオオオ!!!

『    ヒィッ!ヒイイイイッッ!!   』


「こ………れはっ!!」


『   ウオオオォォ…… オノレ、オノレ!オオオオオオ……  』


大きな火球が、慌てて逃げる黒いもやへと向かって行き、そして声も上げる暇も与えず燃やし尽くす。
その火はなぜか周囲を燃やさず、もやだけを燃やすと次第に小さく消えていった。

キンッ!

近くで鳴った金属音に目をやると、そこには何故か、誰かの剣が落ちていて、そして二つに折れている。

柄を見ると、王家の紋章が黒くススに汚れていた。


「    た…… す… かった……   」


エリンが、脱力してガックリとへたり込み、落ちてくる火打ち石に手を伸ばす。
カチャリと音を立てて、その石はエリンの手の中に収まった。

「これは… 一体、何だろう。」

火打ち石は赤く輝き、宝石のようにも見える。
だが、見ていると次第に輝きは収まり、その色は消えて普通の火打ち石に戻っていった。
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